創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

KillerMachine

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mawasekadaz

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「走れ!もっと早く!」
「ダメだ間に合わない!もう後ろに……うわっ!」
「グスタフ!……畜生が」

 アメリカ合衆国某所、ダイナミクスアームズ社所有演習場。
 彼らは走っている。目覚めてしまった鉄の魔物から逃れる為に。

「早く来い!川に飛び込め!」
 逃走する男達のリーダーと思われる男は叫ぶ。彼は周囲にある朽木や枝にガソリンを巻き、それに点火する。それとほぼ同じタイミングで、銃を背負った男二人が川へと飛び込んだ。
 リーダー格の男はそれを確認すると、自らも川へと潜る。

 轟音が鳴る。
 機械音とオイルの臭いが辺りに立ち込める。 それは心を持たないが、明確な目的だけは持っていた。

『……熱源複数探知……摂氏800度、ガソリン系燃料による火災……問題無し』
『同体探知……不能。レーダー反応無し。レーザー探知反応無し。ターゲット、ロスト』

 誰も見る事の無い表示がそれの目に映しだされる。
 それはゆっくりと四本の手足を動かし、胴体がちぎれ胸部だけとなった蜘蛛のような巨体を移動し始める。
 諦めるという思考はない。目的を達するか、自身が破壊されるまで、それは止まる事はないのだ。

 男達は川底を流れに任せ移動している。
 事前に得た情報によれば、それは水の中までは探知出来ない。光学レンズにより視認されない限りは見つからない。ダミーの熱源も置いてきた。

「よし、もういいだろう」
 リーダーは二人に合図をだし浮上する。川辺の木の陰に身を隠しながら、ゆっくりと現在の状況を頭の中で整理する。
 結果は、最悪だった。
 部下の一人が言う。
「おい班長、グスタフが……」
「解ってる」
 もう一人も喋り出す。
「事前に情報は聞いてたんじゃ無いのか!?動くなんて聞いてねぇぞ!!」
「俺もだ。クソッ……」
「で、どうするんだ? 鉄のバケモン相手するなんて聞いてねぇからな。こんな装備じゃ歯がたたねぇ」
「そうだぜ!!警備員だけ撃ってさっさと『荷物』運ぶだけの仕事のはずだからな!」
「そうだぜ班長。50口径でも持ってくりゃまだ相手出来ただろうが……。依頼主は知らなかったのか?もう作戦行動が可能だったって事を」
 班長と呼ばれた男はしばし考えた後、静かに語り出す。

「……依頼主はここの元社員とは言え、今はライバル会社の人間だ。少しばかり情報が古かったんだろう。
それに恐らく……。作戦行動は指示されていない。外部からのオペレートが無ければ行動は出来ないはずだ」
「じゃ何で俺達を襲う?カーゴに載せただけで大暴れしやがって、あの化け物め」
「……多分、セキュリティプログラムだろう。盗難されそうになったら、即座に起動して侵入者を廃除するよう設定されている。
前に戦闘機で似たようなプログラムの自爆システムを見た事がある。あれもここの会社のだ。
相手方も今頃大騒ぎだろうな。なんせ大事な海兵隊の『未来型歩兵』が消えたんだ。必死で探してるはずだ。」
「それじゃあ何か?俺達ゃ今、あの化け物に加え海兵隊の連中も相手にしなきゃなんねぇのか!?」
「ならまだいいさ。海軍も絡んでる。この演習場にはシールズも派遣されてる。
さらにはF35に新型の巡航ミサイル……。おまけにまだ処理待ちのクラスター爆弾まで。戦力だけならちょっとした一個艦隊並だ」
「嬉しくて泣けてくるね!俺ら三人でどうしろと!?」
「安心しろ。俺達三人にそこまで戦力を割く訳が無い。問題はあの化け物に顔を覚えられたって事だ」
「どういう事だ班長?」
「もし海兵隊が先に奴を見つければ俺達の顔が連中に割れる。そうなれば次の仕事どころかムショ行きだ。一生な。そうなる前にあの化け物を破壊する」
「どうやるんだ?手榴弾でもびくともしなかったじゃねぇか」
「さっき言ったろ?ここには一個艦隊並の戦力があるってな。俺達がやるんじゃ無い。連中に始末させるんだ」
「ほーう言うじゃねぇかよ!プランはあんだろうな!?」
「……今考えてる」
「……マジかよ」
「X―AMFの動力はあとどのくらい持つ?」
「長くて、十二時間。EMAガンの使用があればもっと短くなります」
「探知は?」
「いいえ出来てません。ステルスモードで潜伏しています。こちらからの通信はすべてシャットアウトしています」
「では接近して至近距離から電磁波攻撃を仕掛けるしかないか」
「それなのですが……。問題がありまして」
「問題?」

 彼らは破壊された格納庫に居た。折れ曲がった鉄骨、壁に穿たれた跳弾の跡、切り裂かれたシャッター。
 それらはすべて、鉄の魔物が通った跡だ。

「問題とはなんだ?」
「X―AMFの盗難防止プログラムは目標を捕らえるとそれを始末するまで止まりません。
通常ならば登録された人間以外による干渉を物理的に受けた場合作動するシステムです。
ですが、現段階ではまだ技術者数名しか登録されていません。
「つまり、その技術者以外はすべて?」
「はい。X―AMFのターゲットとなります」「しかもこちらからの通信も出来ないか」
「さらに『ターゲットの始末』以外のプログラムは作動していません。つまりは、行動の予測が不可能です」
「絶望的だな」

 彼は表情を崩さず言った。
「例の侵入者は?」
「不明です。監視カメラもすべて破壊されて居るので。現在、民兵組織と敵対企業を洗っています。個人特定は出来ずとも、兵士を送り込んだ連中はすぐに解るかと」
「破壊は出来るのか?」
「……。火力は十分にあります。ですが……」
「解っている。5億ドルのプロジェクトだ。必ず取り戻せ」
「了解しました。ペイジ将軍」

 木々を月明かりがてらし、枝の隙間からうっすらと光が地面を照らしている。
 その中を進む三人の男達。

「班長、どこへ行く気だ?」
「格納庫へ戻る」
「はぁ?海兵隊の連中や特殊部隊の待ち構える所へ?自殺したいなら勝手にやれよ!」
「落ち着けハリス。いいか、多分連中は出張ってる。あの化け物相手だ。相当出てるだろう。
そして今の俺達にはまともな武器は無い。通信機もグスタフごとツブされた」
「武器を頂くのか?」
「いや、移動手段を頂く。逃げる為のな」
「逃げ足あっても意味ねぇんだよ。あの化け物はどうすんだよ!」
「だから落ち着けよ。その化け物は俺達を追ってるはずだ。だから俺達がエサになって化け物を連中の前にひっぱり出す」
「そんな事すれば連中に奪われるんじゃないのか?至近距離からEM攻撃されたらあの化け物も機能停止してしまう。そうなったら……」
「それだよ。」
「意味わかんねぇな。さっさと言えよ!」
「あの化け物は普通の武器じゃ歯が立たない。だから俺達が化け物と連中を鉢合わせにさせて動きを止めさせる。その後で連中を倒す。」
「大丈夫なのか?」
「さぁな。やるしかない。化け物の動きがとまったらハリス、成形爆薬で化け物のジェネレータを爆破しろ。パケットは移動手段と施設の警戒レーダーを何とかしろ。」
「班長は?」
「連中とデートさ。ハリスが誘われないようにな」
「なるほどなぁ班長さんよ。化け物の動力は金属ヘリウムジェネレータだ。爆破なんてしたら……」
「ああ。ヘリウムが大爆発さ。施設ごとさよならだ」
「タイマー間違えんなよハリス」
「うるせぇよパケット」
「了解か二人共?じゃあ行くぞ」

 三人は歩きだす。5分に満たない作戦会議だった。

 闇夜では鉄の魔物が彼らを探し回っている。 そしてその鉄の魔物を捜す者達もまた、闇夜の森を俳諧していた。
 『Aチーム及びBチーム、現在位置を報告せよ』
「こちらAチームリーダー、現在HQから北に約三キロ、森の中の小川の所だ。Bチームも一緒だ」
『こちらHQ、了解』

 彼らが居る小川は酷い有様だった。
 焦げた木と燃え切らないガソリンの臭いが立ち込める。
 消し炭となった丸太は煙を立て、小川には黒い色が絵の具のように流れて行った。

「おい!死体があるぞ!」
 誰かが叫ぶ。
「こいつは……。例の侵入者だ。ひでぇな。腹がえぐられちまってる。X―AMFの仕業だ」

 その死体――グスタフの死体は無惨に地面に付している。
 一撃で倒されたグスタフの死体はまるで悪魔の爪で引き裂かれたように破壊されていた。心の無い一撃によって。

「すぐにHQに報告しろ」
「了解」

 彼らは手にしたライフルに力を込める。侵入者は警備が厳重なはずの最新兵器を扱う演習場にたった数名で侵入した。
 その戦闘能力、作戦遂行能力は相当な物だろう。おそらく、多数の実戦を切り抜けた元軍人。
 退役した軍人が民兵として雇われるケースは古くからあったが、最近は目立って増えて来ている。100年に一度といわれた不況の影響か、元特殊部隊の連中や、国外の兵士が一つの企業で多国籍軍を作っていた。
 ここへ派遣されたという事は、すなわち少人数での侵入工作の訓練を受けた元特殊部隊。それも経験を積んだ――
 警戒を強めるのは自然だった。
 しかし、彼らに迫っていた危機はそれ以上の脅威だった。

「報告は終ったか?」
「いや、それが通信機がおかしい。他のもだ。通信障害か?」
「そんなはずはない。さっきまで普通に――」
 そう言いかけた時だった。突如鋭い槍のような『脚』が彼の腹部に突き刺さる。
 それはゆっくりと肉の塊に化した彼を持ち上げながら、その姿を表した。
 二メートル近い長方形の胴体から伸びた四本の脚。まるで蜘蛛の目のような工学レンズ、レーダー、胴体探知器を集合させたセンサー類。水色のボディにペイントされたU.S.MCの文字。
  腹部を無くした蜘蛛のような姿のそれは、鉄の魔物と呼ぶに相応しい物だろう。

「X―AMF……!出やがった!」

『未確認部隊発見。登録無し。敵。』
『電波干渉出力維持、攻撃開始』

 誰も見る事の無い表示がX―AMFの目に映される。そして脚に突き刺さる死体を放り出し、兵士達に襲いかかった。

「撃て!」

 彼らはライフルアタッチメントのグレネードを構える。破壊が目的ではない。センサーをくらますチャフを撃つ為だ。
 チャフの爆発で鉄の魔物は一瞬動きを止める。

「怯んだぞ!撃て!」

 次はライフル射撃を行う。一斉にマズルフラッシュが輝き、マッハ二の銃弾がX―AMFを襲う。だが……。

『敵戦力評価。チャフ、危険度A。要警戒。実弾射撃、危険度D。問題無し』

『敵戦力予想……サーモスキャン開始。……敵、EM兵装の可能性有り。危険度AA。最優先目標』

「……なんだ。動かないぞ!?EMシステムはまだか!」
「今チャージしてる!あと15秒!」
「くそ!撃て!とにかくバラ撒け!」
『EMチャージ確認。危険。ライナックキャノン起動』
「まずい……!EMAガンだ!こっちはまだか!」
「あと10秒!」
『ライナックキャノン加速完了。双方向接続準備』
「まだか!?」
「あと6秒!!」
『反動吸収逆噴射システム……設定完了』
「早くしろ!!」
「あと3秒!!」
『工学センサーロックオン。双方向ロックオン』
「チャージ完了!!」
「よし、やれ!!」
『ライナックキャノン発射』

 閃光が走った。
 雷が落ちたような火花が散り、辺りは青白い炎に包まれる。
 EMパルスの電磁波干渉がそうさせたのか、或は……。


『敵部隊全滅確認。残存兵力……残り三名。追跡再開』
そこで投下ですよ。

「報告を了解した。引き続き捜索は続けろ。あまり接近はするなとも伝えろ」

 捜索部隊の内、二つの部隊が一瞬で全滅。その報告はペイジ将軍にもすぐに届いた。
 予想以上だ。
 およそ兵器と言うのは人間には及ばなかった。どれほどの装甲を誇る戦車も、超音速で飛ぶ戦闘機も。それらは人が乗って始めて威力を発揮する。
 だが、「先進型海兵」は自立的に、訓練された兵士達を打ち倒したのだ。
 これは十分な成果と言える。今まで投じた大金も、これが完成し配備されればすぐに取り戻せるだろう。
 その為にはもう一つ必要だ。あらゆる状況、あらゆる敵に対応する為に……。



「ペイジ将軍、シュヴァルツマン博士が到着しました。」
「ようやく来たか。通せ」

 側近の将校に案内され現れたのは、ぼさぼさの頭髪を無理矢理纏め、シミだらけの白衣を来た白人男性。

「将軍がわざわざ来る程、あれはまだ完成していないぞ。今日はライナックガンの搭載テストだけのはずだ」
「そのテストは不用だ博士。先程の報告では一瞬で小隊二つが消滅した。問題なく起動している」

 博士と呼ばれた男は後頭部をかきながら下を向く。明らかに不服そうだった。

「あれの開発には関わっていないが、対人兵器として使う火力ではない事は解る。一撃で消えたと言うなら当然だろう。
あれなら戦車も木っ端みじんだ」
「わざわざたたき起こしてまで呼んだ理由はそこでは無い。あれの戦闘評価をして貰う為だ」
「戦闘評価?」
「そうだ。偶然にも手練の侵入者とX―AMFが戦闘状態になっている。特定のターゲットを始末する能力、兵士としてもっとも必要な能力だ」
「起動しているプログラムは盗難防止用の物だけだ。戦闘行為を行う為のシステムは別だし、そもそも戦闘評価なんて私がやる事ではない」
「解っている。しかし自立戦闘プログラムを完成させる貴重なデータだ。このまま完成が遅れたら同業他社に持っていくぞ。
プロジェクトに参加したい企業はいくらでも居る」
「それは私ではなく社長に言うべきだな」
「だが君は職を失うな」
「脅しか?誰もやらないとは言っていないぞ」
「それならいい。では現状を説明しよう」
「ふん……。どうせステルスモードでどこに潜伏しているのか解らないんだろう。
ところが、ライナックガン発射で生じる電磁波がミサイル警戒レーダーあたりに捕らえられた」
「お察しのとおりだ。おおよその現在位置はここから北に三キロ。森の中だ」
「こちらで遭遇したのは全滅した部隊だけか?」
「そうだ」
「ならまだ侵入者を追っているはずだ。もし既に始末していたら動力を切って向こうから通信が入るはずだ。その侵入者の事は何か解らないか?」
「……不明だ。相当な実力者だとは推測出来るが」
「不明?おかしな物だな。送り込んで来た連中くらい解るだろう」
「それも不明だ。ライバル企業は大勢居る。政府にタテ突いてもいいというような奴もな」
「……まあいい。X―AMFの目標追尾システムは現在では起動していないはずだ。
とにかく動きまくって手当たり次第に攻撃する。味方部隊は撤退させたほうが無難だな」
「それは出来ない。各隊にはEMシステムを装備させている。発見次第、即座に回収する為に」
「そして二つの小隊が消滅した訳だ。まぁいい。俺には関係ない」

 白衣の博士――シュヴァルツマンは踵を帰し、その場から立ち去ろうとする。

「どこへ行く博士?」
「研究室に決まっているだろう。ここじゃ何も出来ない。あと、X―AMFが移動したと予測出来るデータが欲しい。あれだけでかいんだ。
足跡くらい残るはずだ」
「届けさせよう」
「よろしく頼む」

 シュヴァルツマンはシワだらけの白衣を羽織り直し、研究室に向かう。
 背中には既に将軍に対する不信感が滲み出ている。

「俺に何をしろってんだ。だから戦略家って奴は嫌いなんだよ」

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