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Overture.

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 「Overture.」


 世界は末期症状を示しつつあった。
 そして大昔に考えられた一つの巨大な概念、国家、政府、は徐々に力を失いつつあった。
 人口爆発に伴う食糧不足、暴動、テロ、環境汚染、多発する紛争。それらを鎮圧すべく、国家群は自分達が所詮は砂上の楼閣に住んでいることに過ぎないこと自覚することもなく、軍事力を強めていった。
 軍事産業とそれに繋がる、所謂軍産複合体は国家の需要に応え、瞬く間に膨れ上がり世界を席巻するまでになった。
 国家は、その上層部は、気がつくことすら忘れていたのだ。
 気がついたとき、六つの企業群は新たな秩序を構築すべく国家に戦争を仕掛けていた。脆弱なものは喰われるのが歴史の常である。
 これが後の歴史書に記されることになる国家解体戦争であったことを、世界はまだ知らない。

 ―――神話の御世にあって、神とは即ち力の象徴である。

 その戦闘はあっさりと終了するはずであった。
 政府に反旗を翻した企業軍が作り上げた一機の新型AC。対するは、政府が作り上げた堅実な兵器と、AC複数。
 普通に考えた場合、数と質の揃った政府軍が勝てて当然。軍産複合体の勢力は国家に匹敵すると言っても所詮は一機。戦場の誰もがそう高を括ってはばからなかった。
 彼らは、そのたった一機がとんでもない一機だったことを見抜けなかったのだ。
 企業が投入したのは、従来のACを超える兵器、アーマードコア・ネクストだったのだ。



 夜の帳降り、黒と黄銅色を湛えた空は星の一つすら見せようとしない。
 政府所属の基地は警戒態勢を強め、逆関節型MTや武装ヘリが出動していた。輸送機をやられまいと、出発準備が整うまでの時間稼ぎをしなくてはならないのだ。
 幸いなことに敵はたった一機。
 その現実は儚く散る。
 “わざと姿を見せて敵をおびき出した”その機体の搭乗主は、自らの体を通じて命じた。一言も発さず、目を開かず、しかも指を動かさず、しかし機体は主の命令を忠実に実行する。
 ジェネレーターが地響きに似た咆哮を上げ、その機体に光の粒子を纏わせる。大気と衝突したそれは緑にも黄金にも見える摩訶不思議な膜を創り、表面を小規模な稲妻が漆黒を貪欲に照らし。
 時に戦車の装甲すら射抜く威力の二丁銃の照準器が甲高い音を鳴らす。
 戦闘ヘリ二機が接近したことを、搭乗者は“脳に直接”送り込まれる電子情報で認識。脳に張り巡らせた回路が疼く。自らと融合したに等しい鉄の巨人が“瞳”を開く。
 いくつものカメラアイが集まった、猛禽を思わせる形状の頭部に朱色の光が宿った。

 政府所属の基地はたった数分で壊滅した。
 あわてた政府はそれを受け、部隊を派遣したが、全ては手遅れとなっていた。戦闘の余波であちらこちらが燃え、建物は倒壊し、戦闘ヘリが頭から突っ込み煙を上げているその場所に、MTとACの部隊が接近した。
 そして彼らは見た。
 従来の兵器を圧倒する性能を持つ、戦略兵器を。
 戦闘機のような機能美より、威嚇的な形状目立つ機体。通常のACより一回り大きく、地味な色に塗装されている。
 左手に握られるは剣のように先端鋭利な部位のある銃。右に平べったい銃。大きく突き出た胸元と、接続された肩は何かを放出するための機構が見られる。右肩には、戦車砲を超える威力を持つであろう長大な砲がぶら下がっていた。
 その砲がすいと水平を向き、機動兵器が搭載するにしてはやたらめったら大口径の砲弾を発射。反動で機体両足が地面にめり込み、砂煙を上げた。
 遠距離からの砲撃がMTのすぐ前に落ちて火柱を作り上げた。破片が飛び散り付近の歩兵数人を即死させた。
 黒煙が開戦を告げるように空に昇って。
 増援の逆関節型MTが、コンクリート製の地面に両足を代わり代わりに乗せて歩く真下で、敵の攻撃から辛くも生き残った歩兵数人が、恐怖で震え、よろめきながら逃げ出した。
 機動で発生した風圧に、屋根のパネルがいとも簡単に飛ぶ。
 MT、敵を捕捉。射撃開始。いくつもの火線が戦場上空に延び、それを地に叩き落とさんとする。
 アーマードコア・ネクスト“シュープリス”、クイックブースト作動。
 機体に閃光が走るや、たちまちシュープリスを瞬間的に時速数百kmという未知の領域へと到達させる。
 唖然として見上げる歩兵を余所に、空を舞ったそれはMTの射撃をあっさり回避して、優雅に地上へと降り立った。

 QB(クイックブースト)。
 従来のACを発展させるにあたって取り入れられた新機構。
 瞬間的な動きを生み出すために付けられたブースター。一瞬にして数百km以上の速度を与える代償として、搭乗者が内臓破裂で死亡してしまう。それを防ぐため、搭乗者は元の人間には戻れない“改造”を受けており、耐G機構も最高性能のを積んである。
 政府軍部隊が、相手の急激な動きに戸惑いつつも照準をつけんとする、その目の前で、シュープリスのカメラアイ一つ一つが開閉して、自らの左を睨みつけた。
 MT一機、射撃。
 だが命中せず。氷上のスケーターのように地面を滑り、両腕の銃器を乱射する。
 右と左、両方の敵を狙い撃ち、カメラアイでそれぞれと戦場全体をねめつけ。刺々しさ目立つネクストに、政府軍は不気味さと畏怖を抱きつつあった。
 政府軍のAC数機がマシンガンを撃ちまくる。用済みになった薬莢が宙に放棄され、次次に地面に落ちて熱気を生み出すだけの存在となる。
 それも、射線を完全に見抜いていたネクスト搭乗者には甘すぎる攻撃でしかなかった。粘つく銃弾の群れを、地を駆けいなすかのように両腕の銃を撃ち、地の利を得んと移動。
 ACを凌駕する機動性を見せつけ、ブースターに火を灯したまま、兵器倉庫の裏に滑り込む。倉庫の表面に次々無駄な弾痕が穿たれる。レーダーで向こう側を確認するのは不可能。有視界に頼るしかないため、無駄弾が量産されるばかり。
 倉庫の裏を滑って行く。シュープリスが接地したままのため足が火花が光を編み。さっ、と倉庫の裏から姿をみせると銃を撃ち、敵を次々葬っていく。
 一機、また一機と、たった一機の機動兵器の射撃に打ち崩されていった。
 政府軍側のAC達が、ネクストをロックオンした。ここぞとばかりにミサイルを連射し、一気に片をつけてしまおうと。ミサイルがポッドから打ち出されロケットモーターに点火、情報を元に敵に殺到した。
 フレア放出。ネクストの肩部側面にとりつけられたそれが花開き、いくつもの欺瞞熱源を放出。騙されたミサイル数発が蛇行に蛇行を繰り返し、軍用ジープに突っ込み爆発した。
 跳躍、クイックブーストで方向転換、前進。
 巨躯が大山猫のようにしなやかな戦いを繰り広げれば、颶風が吹き荒れる。
 ビルの頂上に一瞬にて位置したシュープリス、左腕の銃を下方に投げ捨て、左腕をビルに突き刺し、ブーストを休めながら硬化。ミサイルはビルの屋上に突っ込み火炎を上げた。
 着地、十m超の重量が地面を深く叩き砕き、二つのクレーターと成す。金属製の腕に体削られたビルの破片がシュープリスに降り注ぐ。
 それから銃身を握って上に投げ、空中で手に握った。火器管制機構が銃を再読み取りした。
 その隙を利用して政府側のACがミサイルを連射。
 いくらネクストとて、“今”命中したら致命的な損傷を負ってしまう。だから避けることにした。
 MTの攻撃をからくもかわし、クイックブーストと通常ブーストの併用により地面を冗談のような速度で移動。機体が行動を動かすだけで、轟音が響き渡る。
 ミサイルの機動限界の内側に潜りこみ、追尾しきれない状況を演出し、全て命中させない。
 ブースト全開、クイックブーストの連続噴射、一回転。機体脚部の爪が地面を抉る勢いで噛みしめ、敵と敵の間に強引に滑り込み停止。両腕の銃を掲げ、ぴたりと止める。計測装置が赤の瞳孔を絞る。地がめきりとひび割れた。
 シュープリス両腕が銃火を噴いた。小型カメラが集合した“瞳”で左右を順番に睨みつけつつも、装甲の薄い点を針の穴に通すような正確な射撃を展開。
 油臭い装甲表面に、強力な銃弾が叩きこまれていき。

 それに耐えたMTは反撃のために機体中央の銃を撃ちまくるも、機械とは思えぬ動きで横に滑って行く機体に当てられず。
 また、シュープリスの射撃に咄嗟に盾を構えたACは、援護も反撃も出来ずに耐え抜くのみ。
 敵残り、二。
 ゆらりゆらりと移動していたシュープリスがMTの真正面で止まると、右の砲を構えた。発射。大型弾が中央を貫通、薄汚い装甲が破れ操縦者と内部機構をミンチにした。MTが卒倒して炎上する。
 敵残り、一。
 戦力が自分だけになったことにようやく気がついたAC搭乗者が、狂ったように銃を撃ちまくる。
 シュープリスが掻き消えた。
 残像しか残らない、超高速機動。
 焦燥感丸出しでACがなんとか動きについていこうとするが、手遅れであった。いくら銃を撃とうとも、真横、背後に廻られては何の意味もなく。
 AC背後で閃光が走った刹那、シュープリスが左腕の銃を突き出し、コアを貫通していた。その場所は丁度操縦席がある個所であると同時に、基幹となる部位であった。
 シュープリスの瞳が嗤う。コアに突き刺した銃からオイルが伝い、四方に飛び散り、その数滴がコアに降りかかり、赤黒い痕跡を塗った。
 その中にヒトの体液があったかもしれぬ。
 巨人が、完全に沈黙したACから銃を引き抜くと、ケーブルや鉄の欠片がヒトの腹を掻き切った時に内臓が飛び出るように、落ちて。
 敵の撃破を、朱色の瞳が光を強めて見詰めた。
 敵残り、零。
 敵勢力の完全撃破を確認。作戦終了。



            【終】

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