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『ロボットのロマン』

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sousakurobo

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『ロボットのロマン』

 エメラルドグリーンの長い髪を二つに結って、足元まで伸ばした少女が僕の目の前に座っていた。
 髪の毛よりやや濃い緑の瞳が、無機質とはかけ離れた不思議な魅力を持って僕を捕らえる。
 奇抜な髪と瞳だが、きっと脱色とカラーコンタクトだろう。
 もしかすると両親がよほど裕福で、生まれながらに遺伝子改造を施した二世代人類かもしれない。

「アナタも、私の話を信じてくれないのですね」
「そうじゃないよ。僕はキミの味方だ」

 この少女は、自らをロボットだと言い張って、譲らなかった。
 二世代人類。
 完全記憶。人為的サヴァンによる高速暗算。オリンピック選手並の運動神経と優れた容姿。
 多感な時期に人と違うということを痛感させられ、生物学的にも他人との差がある子供。
 これ以上にイジメの対象になる存在はなく、期待と不安と頼る人間の少なさに追い込まれ、精神が不安定にならないわけがない。

「うーん。キミはロボットなんだね? じゃあ、ロボットのキミはどうしてここに来たんだい?」
「なるほど。信じてませんね? それではお見せいたします」

 彼女は、胸が見えるのも構わずに着ている服をたくし上げると、下腹部から胸部の側面を指で軽くなでた。
 白い、透き通るような白い肌と、大きくはないが綺麗な形の乳房が揺れる。
 その美しさに性的な意味ではなく、まるで一つの完成された身体を見ているような心地で、一瞬呆け眺めてしまう。
 しかし、その心地は一瞬で消し飛んだ。

「これで信じてもらえましたか?」
「まさか……そんなはずはない!」

 思わず、僕は声を荒げて少女に詰め寄った。

 プシュッという空気が抜ける音。そして、同時に開く胸部。
 目の前の光景に、まるで漫画の登場人物になったかのような錯覚を覚える。 
 彼女の中には内臓は詰まっておらず、代わりに精密な動きを繰り返すシリコンかなにかの白い機械が収まっていた。

「嘘だ。なにかの手品だろう? 人間のようなロボットを作るなんて、技術的に不可能だ。ありえない」
「そう。ぐっ……見えますか? どんな風に調べてもらっても構いませんよ」

 苦悶の表情を浮かべて、僕の手を取るとそのシリコンの機械に触れさせる。
 手のひらの神経は現実を主張して、僕は世界を見失いそうになる。

「どうですか? 信じてもらえましたか?」
「待ってくれ。何故キミはそんなにも苦しそうなんだ?」
「あっがっ……私を作ったうぐっ博士が、苦痛も必要だとあっぐっう……おっしゃりました」
「それじゃあ、キミは内部を見せる行為に苦痛を感じるのか? もういい。早く閉めてくれ」

 その言葉を聞いて、彼女は開いた胸部の扉を閉める。
 隙間どころか残滓すら残さずに、彼女はまた人間に違わぬ姿へと戻った。

「何故、キミには苦痛を感じる必要があるんだい?」
「それは、機械から人になるためだと。そして、おいそれと命令なしに内部を見せないようにです」

 なんと非人道的な考えの持ち主だ。
 いや、彼女が本当にロボットだというならば、それは人道と呼べるものではないのかもしれない。
 しかし、それでも人間を目指すというのに、苦痛まで与えるとは、どんな男がこのロボットを作ったというのだろうか。

「いや、キミの言い分には矛盾がある。まず、第一にこんなものを作る道義がない」
「軍事のためですよ。私の動力元には対消滅エンジンを積んでいますから」

 対消滅エンジン。なるほど、そんなものが暴走すれば、都市どころか国さえ滅ぼしかねないだろう。
 だが待て、それを人間にしか見えないロボットに搭載する必要が、全く感じられない。
 なにより、こんなに自然に会話できる高度な演算処理を一体どうして必要とするのだ。

「必要ですか。この容姿があれば、私は疑われることなくどんな地域にも侵入できます」

 いや、それもおかしい。
 まずただ相手と会話するだけなら、ラグがなくノイズのない量子通信を使えばいいのだ。

「そんな。いや、それだけじゃない。こんなロボットを建造するためには莫大な資金が必要だ。どこの国がそんな高い爆弾を買うって言うんだ」
「そうですね。例えば、私の頭脳には擬似ニューロンモデルと量子コンピュータを搭載しています」
「だとすると、その頭脳だけで国家予算が吹き飛ぶことになるな。全く非現実的だ」

 彼女の言い分は、まるで出来の悪いSF小説のように荒唐無稽でしかない。
 理由があるようで、もっと効率的な手段が他に存在するのだ。  
 効率の問題か非人道的な理由から、この兵器を運用する国はどこにもない、本当に意味のない存在に思えた。

「私の存在に疑問を持ちますか?」
「当然だ」
「そうですか。その質問に対して博士は、ロマンだと解答しました。これを理解できれば、私は人間なのだとも」
「そうだよ。御伽噺のような存在を、私はここに出現させたのだ」

「だが、聞こうか? まず、第一にこんなものを作る道義がない」

 対消滅エンジン。なるほど、そんなものが暴走すれば、都市どころか国さえ滅ぼしかねないだろう。
 だが待て、それを人間にしか見えないロボットに搭載する必要が、全く感じられない。
 なにより、こんなに自然に会話できる高度な演算処理を、一体どんなコンピュータが可能にするというのだ。

「軍事のためですよ。私の動力元には対消滅エンジンを積んでいますから」

 いや、それもおかしい。
 まずただ相手と会話するだけなら、ラグがなくノイズのない量子通信を使えばいいのだ。
 そこまでして人間の真似をする必要性が、見つからないではないか。

「必要ですか。この容姿があれば、私は疑われることなくどんな地域にも侵入できます」
「そんな。いや、おかしい。こんなロボットを建造するためには莫大な資金が必要だ。どこの国がそんな高い爆弾を買うって言うんだ」
「そうですね。例えば、私の頭脳には擬似ニューロンモデルと量子コンピュータを搭載しています」
「だとすると、その頭脳だけで国家予算が吹き飛ぶことになるな。全く非現実的だ」

 彼女の言い分は、まるで出来の悪いSF小説のように荒唐無稽でしかない。
 理由があるようで、もっと効率的な手段が他に存在するのだ。  
 効率の問題か非人道的な理由から、この兵器を運用する国はどこにもない、本当に意味のない存在に思えた。

「私の存在に疑問を持ちますか?」
「当然だ」
「そうですか。その質問に対して博士は、ロマンだと解答しました。これを理解できれば、私は人間なのだとも」
「そうだよ。御伽噺のような存在を、私はここに出現させたのだ」

 ふと気がつくと、いつの間にか患者の父親を名乗った男が、ベッドの隣に立っていた。
 その言葉から、彼が彼女を作った”博士”なのだろう。
 黒いコートに無精ヒゲ、広い額と人生を達観したような視線が、理知的な印象を与える。

「彼女と話してわかっただろう? 彼女はあと一歩で機械から人間になる」
「待ってください。仮にそうだとしても、彼女が兵器として運用される可能性は限りなく0です」

 まるで、機械が人間になれるような口調に疑問を感じながらも、話を進めるために次の問題をぶつける。
 僕の言葉に、博士は二三うなずき、それから肯定を口にした。

「ほう。なるほど、確かにそうかもしれないね」
「だとして、何故あなたは彼女を建造したのですか?」
「ロマンという言葉を知っているかい?」
「まさか、あなたはロマンだけを追って彼女を造ったとでもいうのですか? 並の苦労じゃないはずだ」
「100点だ。それでいて、私を酔狂だと思うかい?」
「ええ、ロマンと非効率は別です」

 それを聞いた博士は、まるでどうしようもないほど上手くいった結果をみて、笑みが押さえ切れないといった表情をした。
 ゆっくりと腕を組み、顔を手で覆うようにしながら、僕を見つめる。

「私から、私自身の言葉を送ろう。”これを理解できれば、人間なのだ”」
「馬鹿げてる」
「キミは、人間かい?」
「あなたに聞きます。例え彼女が人間だとして、自爆テロのような非人道的行為を強いるあなたは、人間ですか?」
「くっくっくっ、はーはははははははははっ」

 ついに彼は大声で笑い始めた。
 着ている黒いコートは、男の痙攣に合わせて揺れ動きゆらゆらと、本当におかしいとでもいうのか。
 いや、きっとこの男がおかしいのだ。

「なるほど、まさかまさか。くくくっこれは面白い。人間ですか? とは」
「まるで、あなたが人間ではないような物言いですね」

 男はさらに大きな声で笑う。
 狂ったように、だけどどこか哀愁を感じさせるような、壊れた笑い声が響く。
 しばらくして落ち着くと、男は僕に尋ねた。

「良いことと悪いことを、一つずつ教えてあげよう。どちらを先に聞きたい?」
「……良いことからお願いします」
「例えどんなに困難で、非効率で、馬鹿げている行為でも、ロマンと可能性があれば、人間はそれをいつか行う」

 なるほど、例えば人間のクローンは法律で禁止されていることだ。
 だが、それが法律や論理で縛られようとも、可能である限り、いつか誰かが成功させてしまうだろう。
 そういった意味で、不可能を可能にする技術があれば、それは絶対にあり得ないことではないはずだ。

「そしてもう一つ。悪いことだ。キミはロマンを理解できなかった。私の実験は失敗だよ」

 男の言葉に酷い衝撃を受ける。
 ああ、そうだ。そうだ! 全てを思い出した。くそっそうなのか!
 緑の髪を持つ少女のことも、僕自身のことも、研究室のことも、目の前に立つ博士のことも。なにもかも!

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