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グラウンド・ゼロ 第1話

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匿名ユーザー

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蛇口をひねって水を止める。
 手をハンカチで吹きつつ何気なく見た鏡には、見慣れた顔が映っていた。
 黒い短髪に茶色の瞳、少しやせ気味かもしれないが、目立つほどではない。身
長も体重も成績も人並み。
 どこにでもいる高校生がそこに居た。
 ハンカチをしまってトイレから出ると、長い廊下に出た。教室が並ぶ、やはり
どこにでもある高校の風景。生徒たちは皆思い思いに昼の休み時間を過ごしてい
る。
 自分の所属する2―A教室に戻ると、窓際にある自分の席の周りに数人の男子
生徒たちがたむろしているのが見えた。
 一人がこちらに気づいて手をあげる。
 返すと、彼らは自分の座る席を開けてくれた。
「おっすシンヤ。」
 隣のリョウゴと挨拶を交わす。
 自分の机の上には、全員分の弁当が広げられていた。
「なぁ、昨日の試合見た?」
 シンヤの前の席の机の上に、こちらを向いて腰かけていた浅黒い肌の男子生徒
が話題をふる。
「コロニー・ジャパン対コロニー・統一東南アジアの試合か?」
 その隣の生徒が答えた。
「そうそう、惜しかったよなー。ロスタイムでまさかの逆転だぜ?」
「いや、あれはこっちの選手のスタミナ不足が……」
 勝手に盛り上がり始めた二人をよそに、リョウゴが話しかけてくる。
「なあ、来月の定期テストどんな感じ?」
「うっ」
 危うく口に運びかけていたミートボールを落としそうになる。
「あのなー、そういう話題ふるかー?フツー。」
「あーゴメンゴメン悪かった。」
 苦笑いしつつミートボールを飲み込む。
「まぁ、なるようになるっしょ。」
 するとリョウゴはなんだか悪いことを思い付いたような顔をし、指を一本立て
た。
「地球に衝突し、生物を地下に移住させる原因になった小惑星の直径は?」
「……は?」
「直径だよ。」
 リョウゴはニヤニヤしている。
「確か……16キロ?」
「ブー残念ハズレ。正解は約20キロでしたー。つー訳でミートボール一個もら
い。」
「あっ!」
 リョウゴは素早く手を伸ばし、シンヤの弁当箱からミートボールを箸で差して
奪い取る。
 シンヤの抗議の声も虚しく、それはリョウゴの口の中へと消えた。
「ちくしょー。」
「答えられなかったお前が悪い。」
 悪びれる様子も無い。素直に諦めた。
「ま、今のテスト範囲じゃ無いんだけどな。」
「ちょっと待てお前ふざけんなミートボール返せ。」

 悪人はカカカと笑う。
 シンヤも少し笑い、両手を頭の後ろにやって、背もたれに体重をかけた。
 視線を横に流して、窓の外へ。
 四階の高さからは、周囲の建物を見下ろせる。
 計画に沿って作られた統一規格の屋根を辿っていくと、遥か向こうに飛び抜け
て高い巨大な数本の塔が見えた。
 あれは柱だ。
 柱は地下都市を覆う、人工の空を支えている。空には太陽を再現した巨大照明
群が輝き、コロニー・ジャパンのカントウ第一ブロックの穏やかな午後を見守っ
ていた。
「んで、今日もゲーセン行くの?」
 リョウゴが訊いてきた。
 シンヤは少し考え、頷いた。
「お前らは?」
 残りの二人にもリョウゴは訊ねるが、彼らは「部活があるから」と断った。
「そっかー。じゃあまたシンヤと二人かー。」
 残念そうな口調で言う。
「悪うござんしたね。」
「いや別にいいんだけどさー。毎日遊ぶ相手が男だけってどうなのよ?なんか寂
しくない?」
「彼女つくればいいんじゃね。」
「お前が女になればいいんだよ。」
「いやなんでだよ。」
「じゃあ逆に俺が女の子になるわ。シンヤくんっ!」
「裏声気持ちわるっ!」
 彼らは声を出して笑った。


 一日の授業を終え、帰り支度をしたシンヤはリョウゴに声をかけた。
 それから雑談をしながら学校を出て、最寄りの駅へと向かう。
 途中のコンビニエンスストアで買ったガムを噛みながら、二人は駅近くのゲー
ムセンターへと足を踏み入れた。
 耳を苛めるような音の嵐の中、二人はお気に入りの『グラウンド・ゼロ』のカ
プセルへと向かう。
 しかし残念なことに、店内に六つ設置されているカプセルの内五つには既に先
客が居た。空いているのは一つしかない。
 リョウゴに訊いた。
「どうする?」
「お前先にやってていいよ、俺は空くまで待ってるから。」
「そうか?」
「その代わり」
「だろうと思った。」
 悪い笑みと共にリョウゴが取り出したのは、彼のICカードだった。
「これ使ってプレイしてくれよ。一回で良いから。」
「えー、いや無理だよ。お前Aクラスで俺Cクラスだぜ?」
「俺はお前がAクラスであたふたすんのが見たいの。」
「このドSクラスプレイヤー。」
「なーいいだろ?奢るからさぁ。」
「わかったわかった。」
 呆れつつもカードと硬貨を受け取り、パスワードを聞いてカプセルの中へ。
 リョウゴはきっとカプセル情報の出る中央端末の画面を見ながら、シンヤがプ
レイを始めるのを待っているのだろう。
 シンヤはゲームをスタートした。今回はきちんとシートベルトも締める。
 格納庫の画面で機体をシンヤが普段使っている高機動型に色を除いて変更し、
武器を中距離用のライフルに設定する。
 プレイする任務の選択。リョウゴの期待に沿って、Aクラスの任務を選んでや
ろう。
 そう思いながら任務の一覧を眺めていると、突然アナウンスが響いた。
「プレイヤー名『テスター』から通信対戦の要請が来ています。受諾しますか?

 見ると、通信対戦の申し込みが来ている。相手もAクラスだ。
 丁度いい。この人を相手に粘れるだけ粘ってみよう。
 対戦を受け入れる。ステージは障害物の多い廃墟の都市にした。
 もう半分見飽きた輸送機内のムービーが流れ、シンヤの機体が射出される。
 振動と共に着地。『対戦開始』の文字が画面に出た。
「よろしくお願いします。」
 マイクに向かって言う。しかし返事は無かった。
 なんだ、失礼な人だな。
 ムッとしたが、すぐに気を取り直して先ずは周囲の状況を確認する。
 今回のステージは廃墟の都市だ。崩れかけた建物が両側に並ぶ六車線道路と、
その周囲を囲む密集した建物群で構成されている。
 普通、プレイヤー同士が戦う時はまずはその中央を走る六車線道路に出る、と
いうのが暗黙のルールになっているのだが、今回はそのルールを無視することに
した。
 無礼な人間に礼を尽くしてやれるほど俺はできた人間じゃない。
 丁度スタート地点も建物群の端だ。相手に捕捉されないように気をつけて行動
しよう。
 やる気が出てきた。絶対勝ってやる。
 脚部のスラスターを吹かした。
 ひび割れた道路を滑る様にして、建物の間をすり抜けていく。
 とにもかくにも、先ずは先手をとることだ。
 ライフルの敵機追尾機能をオフにする。こうしておけば狙いづらくなるが、セ
ンサーを逆探知されることもない。
 視点を少しだけ上にして、上空からの襲撃も警戒する。
 六車線道路が建物の隙間から見える位置にまで移動し、そこを覗きこんだ。
 中央の道路には視界を遮るものが無い。だから相手がここを通れば確実に捕捉
できる。
 考えは正しかった。
 『テスター』はシンヤから離れた道路の上空を飛行していた。シルエットから
すると、汎用性の高い標準型の機体だろう。グレーの機体色がこのステージにマッ
チしているので、よく狙わないと弾を外してしまうかもしれない。
 『テスター』は予想通り道路には降りず、反対側の、シンヤと同じ建物群の中
に着地したようだ。
 都合がいい。シンヤはライフルをセミオートからフルオートにした。
 高速接近し、ありったけの弾を全て撃ち込んでやる。狭い場所なら逃げ場も無
いはずだ。
 そう思って機体を相手が着地したであろう方向へ滑らせていく。
 建物と建物の間は狭い。もし建物にぶつかりでもしたら、相手に自分の居る位
置を教えてしまうだろう。


が、シンヤは“気をつけてさえいれば”建物にぶつからずに走ることができる。
 それがまずかった。
 シンヤは建物にぶつからないことに気をとられすぎて、いつの間にか上空への
警戒を怠っていたのだった。
 敵に捕捉されたことを示す警告が表示され、反射的に機体を急速後退させる。
目の前のアスファルトが砕かれて破片が飛び散った。
 視界の上端に相手が見え、シンヤは舌打ちする。スラスターを吹かしさらに後
方へジャンプ。
 『テスター』は武器の追尾機能をオンにしているようだった。捕捉しにくい角
度へ飛んでいるはずなのに、そのハンドガンの銃口はしっかりとこちらを向いて
いる。
 シンヤはたまらず肩のスラスターを吹かして横に飛び、建物を飛び越えて中央
の道路へと着地した。下からの振動で尻が少し痛い。
 相手もバーニアを吹かして飛び続け、シンヤの頭上を狙う。
 後退しながら間合いをとろうとすると、『テスター』は背の高い建物の上へと
着地した。
 チャンス!素早くセンサーをオンにし、一瞬だけトリガーを引いてライフルを
撃つが、弾丸は全て建物の壁に阻まれてしまった。この角度じゃ当たらないのか

 『テスター』は再び跳び、大きく弧を描く軌道で高速接近。敵は同時にハンド
ガンも乱射しつつ、装甲を貫く高熱ナイフもすでに腰から抜いていた。
 シンヤも動こうとするが、ライフルを撃った時のカプセルの振動で指先の感覚
が僅かにぼやけている。正確な操作が出来ない。
 『テスター』はもう目の前。ハンドガンの弾丸を撃ち込まれ、ナイフを胸部に
突き立てられる予感が全身を駆け抜けた。
 その恐怖のせいか、シンヤは指が勝手に動いたように感じた。
 指令を受けてシンヤの機体は素早くライフルを持つ腕を突き出して、相手に向
けて高速で振る。
 握られたライフルの腹が敵機の、既にナイフを突き出していた腕に直撃して軌
道をシンヤから反らす。そればかりか、元の位置に戻る際の動きで今度は相手の頭部
をも殴りつけ、破壊した!
 何が起こったのかわからないまますれ違うように距離をとったシンヤは振り向
いて仰天した。
 ついさっきまで圧勝しそうだった相手が、頭部を破壊されて機能不全に陥って
いる。
 今の相手は一時的にあらゆる機能が停止し、画面にも砂荒らしが起こっている
『脳震盪』の状態だ。
 今が、本当にチャンス――
 シンヤはライフルを構え、乱射する。


 『テスター』は何も出来ないまま、連続する炸裂音と共に無数の弾丸によって
穴を開けられ、やがて爆発、炎上した。


「では、又の出撃をお待ちしております。」
 アナウンスで我にかえる。画面は既にリザルトを終え、ゲームオーバーの表示
が出ていた。
 自分の手を見る。さっきのは夢だったのだろうか?
 いや、あれは確かに自分がやったプレイだ。その証拠に、まだ少し手がしびれ
ている。
 むくむくと、何かが胸の中で膨らんできた。
「……いよっしゃあ!」
 拳を作り、勢い良くガッツポーズをする。肘をぶつけた。
 肘をさすりながらシートベルトを外し、カプセルから出る。早くリョウゴの感
想を聞きたい。あんなスーパープレイ、そうそう見れるものじゃないんだ。思い
切り自慢してやる。
 リョウゴは直ぐに見つかった。
「よう!」
「おお、終わった?」
 彼は中央端末を見ていたらしく、こちらから声をかけてやっと気づいたようだ
った。
「なぁ、見た?俺のプレイ!」
 リョウゴに駆け寄る。
 彼は何故か困ったような表情をした。
「いやー、それがさ……」
「なんだよ、見てなかったのか?」
「それがさ、変なんだよ。」
「変?」
「あれさ」
 彼が親指で指したのは中央端末だった。
「普通ならさ、あれにプレイ画面とか、誰と対戦してるかとか表示されるだろ?

「違ったのか?」
 リョウゴは頷く。
「お前がゲームスタートしたら急に画面が消えてさ、お前が出てきたら復活した
んだよ。」
「……は?」
「多分ただの故障だろうけど、タイミングがドンピシャでさ。」
「へぇ、そんなことがあるんだ。」
 シンヤは端末を眺めた。いつもと変わらず、現在のプレイ画面が第三者視点で
出ている。
「そうか、残念だなー。神プレイだったのに。」
 そう言って端末に背を向けた時だった。
 どこかから視線を感じた。
 その方向を見る。
 スーツの男が逃げるように去っていくのが見えた。
 ……何故だろう、嫌な予感がした。

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