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eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.1

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匿名ユーザー

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 誰かが世界は丸いと言った。
 他の誰かが青いとも言っていた。

 丸くて青い、それが世界?

――いや。

 違う?ああ、違うとも。
 少なくとも今の俺が見る世界は違う。

 世界は平面だ。
 世界は灰色だ。

 丸くも無く、青くも無い。
 それが目で見える全てだったから。それが肌で感じる全てだったから。青くて丸い世界なんて嘘っぱちの狂言だと思っていた。

――あの時までは。


eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.1


 街外れのジャンク山。
 うち捨てられた屑鉄がうず高く積み上げられたその頂上で、その山の内で見つけわざわざここまで運んできた
所々バネの飛び出て朽ち果てたソファーに寝転がり、その上に広がる空を見る。

「………………」

 一面に広がるどんよりとした鉛色の雲。そして鉛色の空。
 この街は曇りが多い。多分工場地帯のスモッグなんかが関係しているのだろうが
まったく興味が無いので詳しくは知らない。ただ見てると押しつぶされそうな重圧を感じたりして正直あまり好きではない。

「ッ…………」

嫌気が差し身体を起こし、周りを見渡す。

「……………」

 空が鉛色ならこちらも鉛色。
 果てが見えないほどまで何処までも、何処までも広がるジャンク山……いや、海と形容したほうがいいかしれない。
 一体何をどうすればこうなるのか……噂では大昔の戦争で用いられ、壊れたり必要が無くなった兵器がここにうち捨てられたなんて言われているが、
どう考えてもその類ではないモノが大部分。確かに噂の元になったであろうものも無くはないが、ぶっちゃけあってないような物。
まぁ実際のところ誰もこの起源を知る者はいない。あまりにも身近にある為に深く考える事も無い……そんな所だ。

「……………」

 そして俺の職業はジャンク漁りもといスカベンジャー。
 このジャンク山でまだ使えそうな物を見つけて専門の業者に売り渡して生計を立てている。
 勿論そうそう高く買い取ってくれる物が見つかる訳でもないのでこれのみで生計を立てるとなるとかなり厳しい事になるだろう。
 ただそうやって宝探しをしていると色々面白い物を見つけることもあるので退屈はしない。趣味と実益を兼ねる、というと言いすぎだが大体そんな感じである。

「ディー!」

 山の麓から聞き慣れた声が聞こえる。
 かなり距離はあるのだが、そのよく通った声は痛いほどに耳に響く。

「ディー!聞こえないのー!!」
「頭に響くぐらいには聞こえてる!どうしたんだ!ベル!」

 声の主はベル。ベル・リングダム。
 弟のウェル・リングダム、育ての親であるバール・リングダムと一緒に機械整備工「リングダム・メカニズム」を商っている。
俺のお得意先であり、保護者でもあり、幼馴染でもある。

「どうしたんだ、じゃないでしょー!そんなところでサボってないで仕事しろー!」
「はいはい……」

 まぁ、世話焼きなのはいいが少しは俺の自由も尊重してほしいものである。
 スカベンジャーという仕事は、収入は安定しないもののその分自由な時間を個人で好きに取れる。
 仕事が仕事ゆえ当たり前か。ただサボりすぎると苦労するのは自分なのでほどほどにしないと痛い目を見るのだが。
 勿論俺もそれは重々承知しているのだがあの茶髪お下げはそれを許してはくれない。先月のノルマが目標より少し下だったからって一々そんな騒がなくても。今月はいいもの拾ったんだし……

 そんなこんなで外から聞こえてくる雑音はシャットアウト。
 俺の自由時間を自ら尊重し寝転がり空を見上げていると、視界の一部が突然何かに遮られた。

「……?」

 始めは虫か何かかと思った。
 次に白い点に見え、その次には白くて四角い何かに見えた。

「――――」

 急激に大きくなっていくそれ。
 何かが頭上に落ちてきていると気付いたときには遅かった。

「!?」

 見事顔面にクリーンヒットした何か。視界は文字通り真っ白に染まり、尋常ならざる音が自らの頭部から聞こえ、ベルにもそれが届いたのか慌てて駆け上がってくるのを感じてから俺の意識はぷっつりと途切れた。


「……ぃ……おーい」

 何処からか声が聞こえる。
 目を開けると見覚えのある天井……それがウチの物置のそれだと気付き、さらに声の主が頭の脇にいると気付いた俺はそちらに顔をゆっくりと向けた。

「あ、気がついた!大丈夫?ディー兄ちゃん!」
「この馬鹿、頭だけは頑丈だからあの程度でどうこうなるワケないじゃないの。」

 純粋に心配してくれて涙目になってるウェルと、そっぽを向いてふんと鼻を鳴らし皮肉たっぷりなベル。ああ、助かったんだなと安堵し、いつも通りの2人を見て更に安堵した。

「こーれ。泣きべそかきながらワシのところまでディーを運んできたのは誰じゃったかな?」
「バ、バール!そんな事言わなくても!」
「ふぉっふぉっふぉっ」

 何やら機械のコンソールを操作しつつ楽しげに笑うバール。妻に先立たれ、子供もいなかったこの人は孤児だったベルとウェルの姉弟を引き取り、
 更に何年も前に行き倒れになっていたらしい俺も拾ってくれて今まで育ててくれた。実の親のように接してくれて、ベルとウェルも俺と同じように彼を慕っている。
 ちなみに2人ともバールの仕事を手伝っているが、残念ながら俺には機械の才は無かったので、せめてもの恩返しにと2年ほど前から始めたのがスカベンジャーだった。

「俺は……」
「頭の骨が何本か折れたような音がしたとベルが言っておったが外傷は無し、脈拍も安定、その他もろもろオールグリーンなのに意識だけ失っていたのじゃ。」

 そう言いつつバールは俺の周りにあった機械をてきぱきと片付けていく。
 それはジャンク山で発見された自動で様々な診察を行ってくれて、更には簡単な傷ならそれも治療してくれる機械。非常に高い技術が用いられており中身は完全にブラックボックスだが
 使用方法のマニュアルがあったり同じ種類の機械が結構見つかったりしているのであのジャンク山にこれを捨てた連中の間では広く普及していたらしい。
 わりと高い値で取引されている保存状態のいい物を俺が少し前に見つけ、家にまで持ち帰り売り払うかどうか考えている矢先の出来事がこれだった。

「しかし頭に空から降って来た本が直撃したなんて、この街でも今の今まで誰もおらなんだじゃろうなぁ……」

 かわいそうにと付け加えつつ手元にあったそれを寄越してくれた。

「これが俺に……?」
「そうじゃ。そこまで分厚くも無いが、顔にぶつけるものでもあるまい。」

 真っ白なノート。ぺらぺらとページをめくってみても何も書かれてはいない。その上最後まであるわけではなく途中で無造作にちぎられているときた。

「……一体何処から降ってきたんだろう。」
「さぁのぉ。世の中には不思議な事もあったものじゃ。」

 空から降って来たノート……どうせなら女の子が、という妄言は置いといて
 ノートもノートで中々夢があっていいじゃないと思わなくも無いがせめて落下地点ぐらい考えてほしいものだ。

「じゃあワシは作業に戻るから、何かまた具合が悪くなったりしたらすぐ呼んでおくれよ?」
「分かった。」

 よっこいしょっと立ち上がり、工場に戻るバールの後姿を眺めつつ、俺は白いノートに目をやる。
 遭遇した出来事が出来事だからかただ単に自分が思っているだけかもしれないが、何やら不思議な雰囲気を放っているように感じる一品。
 まぁ実際はただの何処にでもありそうなノートなのだが……

「気味が悪いしとっとと焼いちゃいなさいよ。」
「いや、記念にとっとくよ。ある意味貴重な体験だし。」
「ディー兄ちゃんがそう言うんだし、いいんじゃないの?姉ちゃん。」
「むー……ま、まぁそう言うならそれでいいわ。あと今日は自室で謹慎!あんなとこでサボってるからこんな目に遭うのよ!」
「それは結果論だろ!大体なんで謹慎なんか……おっとと。」

 そういいかけてふら付く足取り。
 それ見たことかとベル。大丈夫とウェル。

「そんなんじゃ仕事どころかサボる事も出来ないわね。ほら、分かったらさっさと身体を治す!」

背中を押され、自室に繋がる階段のほうまで連れて行かれる。

「あたし達も作業に戻るから、あんたの今日の仕事は身体を休む事。いい?」
「へいへい……」

 これ以上何言っても仕方ないと考え自室に向けて足を運ぶ。
 そこは元々倉庫だった場所を俺が一人部屋がほしいとバールに頼んだところ改築してもらったもの。一人の部屋としては十分過ぎる位の広さがある。
 中にはジャンク山から拾ってきた使えそうで使えなさそうなものや、面白そうなものがいくつか飾ったり机に置いてあったりしているが、
 そこまで散らかっては無く我ながら小奇麗にしていると思う。

「はぁ……」

 ため息一つ吐きつつベッドに横たわる。
 そのすぐ脇にはベランダがあり、暮れ行く空に色とりどりの照明が輝くこの街の工場地帯が一望出来る。

「………………」

 眺めは悪く無いが正直見飽きた光景。ノートをベッドのすぐ傍の机の上に置き、シャッとカーテンを閉め毛布にくるまり大人しくしておく事にする。
 確かに出て行きたいのは山々だがまだ少し頭がふらつくのもまた事実だし、抜け出そうものならベルになんて言われる事か
……なんて考えていると本当に眠たくなっていき、俺は夢の世界へと旅立って行った。




――――机の上に置いたノートの表面に、電子回路の如くほんのりと赤い光が幾重にも走っている事も知らずに

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