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毛むくじゃらのジャラケム

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ParaBellum

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全身に備え付けられた紅い瞳を光らせながら、闇夜の街を駆ける。
複雑に絡み合うように伸びるハイウェイ。せめぎ合うように伸びる高層ビル。
縦と横。そこに重力など存在しないかのように無尽に、駆ける。
地を壁を、蹴り進む様はあまりにも野生的。
しかしそれがどこか美しくさえも見えるのは、その足先に白銀に輝く刃を持ちながらもその痕など一切残さない技によるものなのか。
爪が地に接すると、全身の筋肉が震え、内部機構を伝い、「毛」を介し、大気へ流れていく。
彼はその衝撃を音すらも殺し、跳ぶ。
屈折するレーザーのように、飛ぶ。
その風貌と仕草には述べたとおりの獣のもの。
だがどうだ。この静寂と計算し尽くされた軌道は。
まさしく自然のものではない。
では彼は一体なにか。
静寂を轟音が切り裂く。軌道を読むようにウネウネと、曲がりながら煙を吐き、接近するミサイル。
そう、これに同じ。兵器だ。
接近を察したか、瞬間刃も壁を切り裂く。
敵を目前にして獣の兵器は衝撃を殺すのをやめた。
一点に立てられた爪痕が、まるでダムを決壊させるかのようにビルの一つに亀裂を作っていく。
しばし重力に身を任せ、崩壊が始まったところで獣は再び跳躍した。
ミサイルを回避。
この地で使用されるだけあって、爆発は小さい。
が、生み出される炎はまるで小さな太陽のように圧縮された強大なものである。
闇が晴れ、獣の姿が曝される。
そこを見つけたと言わんばかりに迫るミサイルの兄弟達。
獣は背後を見せたまま、だが全身のカメラが、個々にそれらを見つめると―

跳躍。壁を蹴り重力よりも速く地へ。二発目回避。
跳躍。立体交差道路を割り、真上へと飛翔。三発目回避。
跳躍。崩れ落下するビルの残骸を使い、腕も足として。四発目回避。
跳躍。そこから隣のビルへ。体を丸め回転させ、壁に対し直角を取る。五発目回避。
跳躍。切るように壁面を斜め下に走り、着弾を見計らって。六発目回避。
跳躍。とどめとばかりに、爆発を受けたビルを蹴り倒壊。それを盾に。七発目回避。

しかしここに来て。まるでこの機会を待っていたぞと、兄弟全てを犠牲にし獣を直線に捉えた八発目が姿を見せる。
では獣はまんまと、誘導されてしまったのか。
否。
確かに六、七発目の衝撃とビルの倒壊によって、獣は背中から地を迎える。
ミサイルとの直線上、それをどれだけ延長しても回避角度を得るための物質は存在しない。
だが。
地に触れることを引き金に、装甲を纏っていてもわかるほどに全身の筋肉が大きく震える。
流れるように外骨格がスライド。獣の猫背がさらに曲がる。
我々の常識で考えるなら、今頃地面に叩きつけられ敵の一撃を待つだけだろう。
だが。
この獣は常識を超える。背で衝撃を受けながらも、曲面によってそれを流し倒立の形で回転をすると、直立。斜めに曲がった大地を踏みしめる。
移行した衝撃が足を伝い、傷を大地に刻む。獣がさらに衝撃を逃がそうと体を捻れば、大地抉れんばかりに傷は弧を描く。
数万分の一秒の世界。
そして迫り来る敵に向かい獣―

超躍。

その動きは完全な想定外のものとは言えない。たとえ獣がこれ程までに衝撃を殺していなかったとしても、激突すれば反対方向にある程度の力は働く。
想定外なのはその速さ。それはまさに韋駄天の如く。天を仰ぐように突き出した腕が、ミサイルに触れる。
反対方向の運動エネルギー、その衝突。

空気が揺れた。

獣の腕がミサイルを掴み、そこから全身の筋肉を再び衝撃が伝う。
いびつに盛り上がったそれらがぶつりぶつりと断末魔を上げ、装甲を剥がしていく。
それでも衝撃は確実に移動を果たす。そして最後。
全身の毛が広がり、逆立つ。獣の中を駆け巡った衝撃が、花が開花するように、放出される。
それでもなお動きを失わぬミサイルだが、獣これで十分と腕を後ろに向けると撫でるように爪を動かし軌道を修正。
先ほど捲った地面より5メートルばかし反れた距離で、炎が上がった。
受け流し。八発目、回避。
代償として支払った損傷は決して軽いものではない。それでも、問題はない。牙を失った者を狩るには。
摩天楼を駆け上がり再び跳躍。
八つもの手がかりから既に割れていた位置目掛けて、一閃。
空に浮かぶ機動兵器は、二つの鉄塊となって墜ちた。

―――

炎に照らされ夕方時のように輝くコンクリートの密林の上で、声ともいえぬ奇妙な雄叫びが上がる。
敵を討ち取った凱歌。しかしその度に鉄の獣―ジャラケムは、かつて自身の意識が人であった事を思い出していた。


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