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第6話  戦慄! シロガネ四天王再び現る! 後編

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匿名ユーザー

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 ※


 掛け布団を跳ね上げた田所カッコマン、いや田所正男の顔色は真っ青だった。
 シーツに湿気が染み透るほど汗を掻いており、だぶついたTシャツが肌に貼りついて気味が悪い。
「ぐ……うっ!?」
 胸元に痺れるような鈍痛。身動ぎの度に、長らく油を差していない機械人形のようにぎしぎしと体が軋む。
 田所正男はそこで初めて、自分の全身に包帯が巻かれていることに気がついた。ところどころが緩かったりきつかったりで、処置は
お世辞にも上手くない。もっとも、手当てをしてもらっておいて不満に思うほど、田所正男は図々しくもなかったが。
(ここは……どこだ?)
 田所正男が寝かされていたのは、まるで見覚えのない、木目張りの小さな部屋だった。
 見上げるにつれて徐々に狭まっていく天井が、いかにも屋根裏といった風情である。裸電球が蜘蛛のように垂れ下がっていたが、日
中は四角いガラス窓から採光できる設計になっており、今は点灯しないでも充分に隅々までを見渡せる。
 簡素なベッドのほかには家具調度もない、殺風景な空間。
 いや、枕元に緑茶の入った2リットルのペットボトルと、子どもっぽい目覚まし時計が置いてあった。
 目覚まし時計は、ステゴサウルスという恐竜をモチーフにしたと思しき、モスグリーンの一風変わった品だった。山なりの背に並ぶ
大きな骨板のうちの三本が、三針となって時を刻んでいく。機巧の動くカチコチという音が、静寂にやけに大きい。
 現在時刻は午前十一時半。寝坊もここまでくれば笑うしかない。ただしそれも、今が平時であるならばの話ではある。
「俺は、いったい……」
 少し喉につかえたが、ちゃんと声は出せる。
 “昨夜”の記憶は、ひどくあいまいだった。
 シロガネ四天王という恐怖のロボット軍団と戦ったことまでは何となく覚えている。恐らくはその戦いで全身に大小の傷を負い、意
識を失ったと思われるのだが、ここは自宅でも病院でも、ましてセイギベース3でもない。
 腑に落ちないことが多すぎた。
「む?」
 よくよく見れば、ステゴザウルスの時計は、白い紙きれを尻に敷いていた。
 田所正男がずきずきと痛む腕を伸ばして抜きとってみると、きっちりと四分の一に折り畳まれたメモ用紙だった。
 部屋の主の残した置き手紙らしいが署名はない。切れ味のよい丁寧な書体だった。性別は恐らく女だが、あのはぐれ研究員は意外に
まるっこい字を書くので、彼女ではない。
 日付を三度ほど更新した跡があり、これまでの経緯とロボヶ丘市の近況とが綴られていた。
 もろもろの疑問が氷解していく。しかし明らかにされた事実は、田所正男を愕然とさせるに足るものだった。
「馬鹿な……!!」
 手紙を残した謎の人物は言うのだ。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネが、完膚なきまでに敗北し。
 現在のロボヶ丘市は、ロボット犯罪者達が跳梁跋扈する、無法地帯となっていると!



 ※


 田所正男はロボヶ丘市街を歩く。感覚のない左足を引きずり、引きずり。
 虫の這うような移動で、傍から見ていて焦れったいほどに遅かった。
 そこは、彼が毎日通ってきた道だ。迷いなく進む者は間もなく、正義の味方を標榜する組織・E自警団が極東
に構えた拠点のひとつ、セイギベース3へと至るだろう。
『ヘイそこのキミ! 巨大ロボットのパイロット、やるよね?』
 はぐれ研究員・龍聖寺院光に街角でスカウトされてから、操縦訓練は倦まず弛まず行ってきた。
 まとまった時間がとれる度に、田所正男はセイギベース3地下の訓練所へと足を運んでは、操縦桿に手垢を擦
り込んできたのだ。
 巨大ロボットを支えなしで直立させるのに丸四日、歩行に三ヶ月と三週間、走行に二ヶ月と少し、それと併行
しての基礎的戦闘動作習得にもう一ヶ月を要した。それら途方もない積み重ねこそが、最強無敵ロボ・ネクソン
クロガネ専属の天才高校生パイロット・田所カッコマンである。
(そう。ずっと眺めた道だ……。それが今や、どうだ)
 通りに面するさまざまの店舗の並び、街路樹一本一本の間隔すら、瞼の裏に焼きついている。
 もっとも今のロボヶ丘市の景観は、田所正男の記憶するところとは違っていた。
 叩き割られたショーウインドウ。捻じ切られた木。罅割れた舗装道路。そして、姿を消した人びと。
(まるでゴーストタウンじゃないか)
 戦いに倒れた自分を匿ってくれていた謎の人物の書置きを思い出す。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは、田所カッコマンは、つまり正義なるものは、このロボヶ丘において敗北
したのだ。……誰に? 決まっている。
「……真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネ……!」
 敵意を丸めて口にした。
 突如として日本を強襲した巨悪の刺客。
 悪の総本山・ワルサシンジケートが送り込んだ、シロガネ四天王。そのそれぞれが駆る超級巨大ロボット四機
が合体した姿こそが、真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネだ。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを蹴落とし、真なる最強無敵ロボの座に君臨した、白銀の大巨人。
(そうだ。俺は。何も、何も出来なかった)
 田所正男は弱々しく唇を噛んだ。
 今なら、はっきりと思い出せる。その圧倒的な威容を。強大さを。
 そして、未だ心に染みついた恐怖と絶望を。



 ※ 


『真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネ、だとっ!?』
「これもネクソンタイプなのか……!!」
 龍聖寺院光と田所カッコマンから、相次いで発せられる驚愕の声。
『はぐれネットワークで噂を聞いたことがある! インテツ、スチール、オリハルコン、アダマンタイト、ダマ
スカス、ミスリル、ソードメタル、ガンメタル、コガネ、アカガネ、クロガネ、サビドウに続く、十三番目のネ
クソンと、それに付き纏う恐怖の噂!』
「それが、真最強無敵ロボ!」
「『ネクソンシロガネッ!!」』
 忌むべき名を、示し合わせたかのように同時に叫ぶ。それだけで、その凄まじい力までをも認めさせられてし
まったような感覚に陥る。ちらちらと視界が攪拌される。
「その通り」
「こうなったが最後」
「誰も生き延びることはできないわ」
「とくと味わうがいい、我らが超・筋肉を」
 若干一名が浮きながらも、シロガネ四天王は確かにひとつになっていた。
 これまでのような出来の悪い波状攻撃のような雑な連携はもはや期待できないということ!
(しかし、これはむしろ、チャンスだッ! 四体もいたのが、すっきり一体になったんだから)
 少年は、ズタズタになった体に鞭打った。黒の鋼が、それに付き合って軋む。彼らもまたひとつ。掛け替えの
ない絆で結ばれた、最強無敵の巨大ロボットだった。
 田所カッコマン、これが最後と決めて息を吸った。深く、長く。しかし腹いっぱいはいけない。芯に渡るだけ
あればそれでいい。
 この正念場に、エネルギーはおよそ一発分。
 ――行くぞ、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネが、“灰”色の光を帯びる。
 終ぞ未完のままに必殺技が発動する。隕石に立ち返って、巨人が駆ける。想いのすべてをぶつけなくては、誰
をも止められはしない。
「迸る勇気! ネクソンクロガネアニヒレイターッ!!」
 迎え撃つは――
「ネクソンシロガネ――クラッシャー」
 ――白に輝く牙。怪物の顎門。
「馬鹿な、男だ」
 カッコマンエビルが、いつもの物々しい調子で呟いた。いや、わずかに得意気であっただろうか。
「せめて“annihilator”を、“アナイアレイター”と発音していれば勝負は分からなかった……」
 真最強無敵ロボ・ネクソンシロガネが、袈裟・逆袈裟・右斬上・左斬上の四方向からネクソンクロガネを挟撃
し、その両腕両脚を引き裂いていた。いとも容易く。何かの冗談のような光景。
 黒の四肢が、黒の胴体が、地に堕ちる。超ネクソン黒鋼製の四肢がだ、最強無敵の胴体がだ。
 ここに、正義は敗北した。
 ヒーローモノの導入で街を襲った謎の敵機に、通常戦力が力及ばず蹴散らされるように。
 想いなど届きはしなかった。田所カッコマンの記憶はそれきり途絶えている。脱出装置が作動したような音だ
けを、しこりのように耳の奥に残して。
 そうして、悪の時代がやって来る。



 ※


『ワルキューレは、既に前期比600パーセント以上と売上快調です。武器弾薬やアタッチメントなど関連商品
なども飛ぶように売れています。これは、春先の中東での損失を補って余りある成果と、悪鬼山悪鬼子(あきや
ま あきこ)最上級エージェントも絶賛しておられました」
「ふむ」
 ワルサシンジケートの最上級エージェントであるイッツァ・ミラクルは、魔窟Mk-Ⅱの最奥にて秘書からの
定期報告を受けていた。
 “ワルキューレ”とは、ワルサじるしの犯罪用ロボット兵器の総称である。
 ネーミングから優美で女性的に思われるかもしれないが、その実態は武骨なものから変態的なものまで多岐に
渡っている。
「ロボヶ丘市は、念願のオモチャを手に入れて箍の外れた犯罪者達の天国となっています。犯罪者同士の抗争も
頻発しており、更なる収益が期待できるかと」
「そうですか」
 イッツァ・ミラクルは面白くもなさそうに相槌を打つ。
 ここまでは、概ね計画通りである。
 今回のE自警団強襲作戦には、幾つもの目的があった。
 内外には“敵対するE自警団への牽制”ばかりを強調しているが、イッツァ・ミラクルにとってそれは心底ど
うでもいいことだった。
(これまで、ロボット犯罪はハイコスト・ローリターンだといわれてきましたが)
 ワルキューレそれじたいが極めて高価であり、操縦にもあるていどの習熟が必要となる上、整備・修理・補給
や保管場所の確保など維持費も馬鹿にならない。
 警察のごときは力押しでねじ伏せて、田舎で裸の王様になるくらいは楽にできる強大な兵器なのだが、それも
E自警団が出張ってくれば一巻の終わりではあった。
(そんな有様でまともに商売が成立すると思うほうがミラクルですよ。しかし、抑止力となっていたE自警団の
勢力を弱体化させることで、犯罪者達が安心してワルキューレで暴れられる環境を整えれば……。あとは神の見
えざるミラクルによってうへへお金ガッポガッポ!!とまあ、こういう寸法です)
 ほかに、ワルサシンジケート保有技術のイメージ戦略を含む、シロガネ四天王のコマーシャル。真最強無敵ロ
ボ・ネクソンシロガネの実戦テストなどもそこそこ重要な部類に入る。
 そしてもうひとつ。ワルサシンジケート大首魁、ドン・ヨコシマにすら秘匿している目的が存在する。
(くれぐれも、よろしくお願いしますよ――)
 イッツァ・ミラクルは、ある大火山の山麓へと赴いた狂博士に思いを馳せた。
 それは巨大頭脳。
 何者のかと問われれば、“悪”の。
 すなわち“悪の巨大頭脳”!
 あらゆる生物あらゆる機械を死に至らしめる情報の猛毒を、一夜にして精製するという男だ。
 全世界の古代言語を独学で修めてみせた偽ヘルマヌスや、暗号解読の専門家サイファーABC(アビス)らと
共に、伝説のワルヤマ理論の謎を解き明かし、ワルキューレの量産において多大な貢献をした狂博士。世界で十
六番目の狂える叡智か。
(――悪の巨大頭脳・ドクトルポイズン!)
 ああ、何を企むイッツァ・ミラクル! ワルサシンジケートを動かす最上級エージェントよ!
 全世界を戦慄させるその計画の全貌が明らかになるのは、まだもう少し先のようだった。
「ところでレディ」
「はっ」
「悪山悪男博士に動きはないのですか? 果たしてあの方が“縄張り”を有象無象に食い荒らされるままにして
おくものか、気になっていましてね」
 かつて、ロボヶ丘市を恐怖のズンドコに陥れた悪のマッドサイエンティスト・悪山悪男。
 彼自ら手掛けたワンオフの巨大恐竜メカは、量産型のワルキューレなど爪先ひとつで鉄屑に変えてしまうほど
のパワーを誇る。
 大儲けのチャンスが到来するかもしれないが、正義の味方に代わる抑止力となってしまっては元の木阿弥だ。
匙加減の難しい問題は情報の確度と鮮度が命。
 有能なる秘書レディ・ビジョンは淀みなく答える。
「“ドローン”を十機ばかり飛ばして、情報収集やお孫さんの護衛に当たらせてはいるようですが、スタンスと
しては静観といったところでしょうか」
 四天王いちのスナイパー・スナイパーガマンがいなければ、ワルサシンジケートがその“空からの眼”に気づ
くことはなかっただろう。イッツァ・ミラクルも喉から手が出るほど欲しがる隠密飛行能力。
 “プテラノドローン”という名を、製造者悪山悪男と彼の愛孫だけが知る。悪の天才の生み出した傑作のひと
つ、超高性能小型メカ翼竜。
 迷彩をほどけば、斧のような頭部が特徴的なステルンベルギ属をモチーフとした、機械仕掛けの羽歯竜(プテ
ラノドン)であることが分かろう。
「特定できた抜け道には監視を置いていますが、本人が研究所を出た事実はありません。……お孫さんは相変わ
らず通っているようですが」
「ふむ」
「工作機械の音がしていることから、既存のメカ恐竜を改造中、あるいは新たなメカ恐竜を製造中ではないかと
報告が上がっています」
「……“第四のワルレックス”ですか」
「いえ、必ずしもワルレックス系列とは……」
 確かにワルレックス系列とは限らないが、イッツァ・ミラクルの見たところ、恐竜特にティーレックスに関す
る悪山悪男のこだわりは偏執狂じみている。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネにリベンジするならば尚更、ワルレックス以外の選択肢など有り得ない。
「それがオトコのコの意地というものです」
 理解者ぶった顔で断じるイッツァ・ミラクルだった。
 もっとも、その最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは、既にネクソニウムを抽出された鉄屑となっていた。E自
警団の技術レベルじたいは低かったこともあり、既にワルキューレの鋼材として処分された後だった。
「さておき、レディ。何かと忙しい時期でしょうが、そろそろ、かねてより頼んでいた悪山博士ハンティングの
件に、本気で取り掛かっていただきたいものです」
 予定よりずいぶん遅れてしまっているが、そのことについて咎める響きはなかった。
 イッツァ・ミラクルは部下に甘い。多少の失敗には寛大になることができる。
 ただし、それは、この最上級エージェントがもともと“手駒を厳選している”ことを前提にしたものだった。
「……はっ。必ずや」
 レディ・ビジョンは姿勢を正した。
 尊敬するイッツァ・ミラクルのためならば、命を捨てても惜しくないと思っている女だ。その機会を与えられ
る限り、彼女は全力をもってその期待に応えようとするだろう。

 ロボヶ丘の正義と悪を取り巻く状況が加速していく。何もかもが順調だ。
 そう遠くない未来に起こる“奇跡”の予感に、イッツァ・ミラクルはひとり、含み笑いを漏らした。



『イッツァミラクル!-ギラつく野望と甘いマスク-』

 作詞・作曲/ドクトルポイズン
 編曲/偽ヘルマヌス&サイファーABC
 歌/イッツァ・ミラクル&レディ・ビジョン


 ああ なんて素敵なディスティニ―
 魔法の時間 それは奇跡のように…

 月夜に散歩を していたら(フー)
 きらきらキラめく 人工衛星-ナガレボシ-(オー)
 気づいていたけど 唱えるさ(カネ・カネ・カネ)
 もひとつ おまけに(アイ・アイ・アイ)

 確率じゃない 神様はいない それは夢さ
 噛み締めるさ 刻みこむさ 心の中に

 ギラつく野望! 甘いマスク! 奇跡を呼ぶその男、イッツァ・ミラクル!


 ああ どうしてあなたとエンカウント
 幻想世界 それは奇跡のように…

 困った時だけ 神頼み(ヤー)
 そゆのよくない 虫よすぎ(ノー)
 分かっちゃいるけど 呟くさ(マネ・マネ・マネ)
 英語じゃ ダメかな(ラブ・ラブ・ラブ)

 幸運じゃない 偶然じゃあない それは嘘さ
 噛み締めろよ 刻みこめよ 心の奥に

 射てつく視線! 氷の微笑! 奇跡を知るその男、イッツァ・ミラクル!


 ――忘れないで
 ――空がこんなに青いってこと
 ――そしてきみがいることそれが大宇宙の奇跡だということ!


 確率じゃない 神様はいない それは夢さ
 噛み締めるさ 刻みこむさ 心の中に

 ギラつく野望! 甘いマスク! 奇跡を呼ぶその男、イッツァ・ミラクル!
 ギラつく野望! 甘いマスク! 奇跡を呼ぶその男、イッツァ・ミラクル!



 イッツァミラクル!(つづく!)


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