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未来系!魔法少女 ヴィ・ヴィっと!メルちゃん 起

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匿名ユーザー

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――――メルフィー。

……ん?

――――起きたかい、メルフィー。

……また、君? ……そろそろ君が誰か教えてくれない……かな?

――――俺は――――。君の騎士になるべく現れた。

私の……騎士? ねぇ……それってどういう意味……。

――――もし君に危険が迫れば、君の元に白き龍が現われる。そのチャンスを――――逃すなよ。

待……待って! まだ……まだ君の名前を聞いてない!

――――また、会うよ。もうすぐ。


頭に、鈍くジンジンする痛みが走った。目の奥で星が瞬いては消えて行く。

気付けばベットから転げ落ちていたみたいだ……。それもまたあの夢……。顔も名前も分からない、変な男の人が私に話しかけてくる。
これでもう5回くらい、その夢を見ている。けど、私はその男の人の顔も、名前も知らない。分かりそうな時に限って目が覚めてしまう。
普通だったら好きな人の夢とかだろうけど……私にはまだ、そんな事を考える様な人はいない、はず。

階段を下りて洗面台で、寝ててクシャクシャになった髪を整える。うん……これで大丈夫。
冷たい水で顔を洗いながら、寝ぼけている頭をどうにか目覚めさせて再び二階に上がる。早く着替えて学校に行く準備をしなくては。

パジャマから制服に着替える。胸のリボンを結んでっと……これで良し。少しでもズレてると注意されるから、しっかり整えないと。
階段を下りると、リビングからお母さんの作っている朝食の美味しそうな匂いがした。今日はパンと目玉焼きかな。
ダイニングに着いてテーブルの上を見ると、ぴったり的中。少しだけラッキー。早速席に座る。

「おっはようメルフィー。飲み物何飲む?」
キッチンで皿を洗いながら、挨拶間際、母さんが何を飲むかを聞いて来た。勿論朝はアレに決まってる。

「おはよー、母さん。んーと……牛乳入れてくれる? ありがとね」
「良いの良いの。しっかり食べて、授業に備えてね」

母さんが自分の珈琲と、私が飲む牛乳を入れた二人分のマグカップをテーブルに置き、向かい側の席に座った。
喉に牛乳を流し込むと、その冷たさから頭が冴えてきた気がする。焼きたてのパンもカリッとした後、フワッとした甘みがあっておいしい。
そう言えば……何時もは、母さんの隣で新聞を読んでいるお父さんの姿が無い。って事は……。

「お父さん、また研究所?」
「うん。後で朝ごはん届けなきゃ」

やっぱりか。昨日から父さんは研究所で、何時もの実験に励んでいる。何やら、二足歩行ロボットの開発とかいう実験らしいけど、私はそれ以上の事は知らない。
父さんと母さんはお互い科学者で(母さんは一線引いて、今は主婦だけど)母さんの方から父さんにプロポーズしたらしい。
父さんの実験の為なら我が身を省みない荒唐無稽な所に惹かれたと言っていた。
正直私には良く分からない。けど、本人同士で理解しあえる所があるのだろう。っと、のんびりしてる時間はあんまない。

「ごちそうさまー。美味しかったよ、お母さん。レストラン開けると思う」
私は席から立ち上がって、食器を洗う為にキッチンに向かう。

「バレバレのお世辞を言っても、小遣い上がんないわよ」
「ばれたか」

母さんと特に意味の無い会話をしながら食器を洗い終わり、用意してくれたお弁当をカバンに詰める。
ついでに必要な物を忘れていないかチェックする。文房具、教科書etc……。バッチリ。これで特に心配事は無い……かな。
玄関へと向かい、靴を履く。母さんが玄関で見送ってくれる。これが地味に嬉しい。

「それじゃ行ってきます。父さんにも宜しくね」
「はいはい、行ってらっしゃい。ちゃんと定時には帰ってくるのよ。まぁ……遅くなるなら連絡してね」
「はーい。じゃ、改めて行ってきます」

母さんに手を振りながら、私はドアを開けて外に出た。気持ちの良い、突き抜けるような青空と、眩しい太陽が見えて清々しい気分になる。
何だか今日は妙な予感がする。妙といっても悪い意味では無く、何かとんでもない事が置きそうな。
けどそんな予感は常に肩すかしだ。それかとっても小さい事。ま、期待しないで今日も一日頑張ろう。そう思って歩き出す。

ふと、空から何か落ちてくる音が聞こえた。私の耳は普通の人より優れているとは思えないが、その音は確かに聞こえている。
私は立ち止まって空を見上げた。……落ちて、来てる? まだ影が小さいけど、しっかりとこっちに向かって、何かが落ちてくる。
郵便物? いやいや、それは無い。なら鳥? まさか……隕石!? いや、隕石ならあんな小さくない筈……。

『たぁ―すけてぇ――――――!!』

その得体の知れない物体は、悲痛な叫び声を上げながら落ちてくる。どうしよう……警察? 警察とかに電話した方が良いの?
けどどう考えても落ちてくるまで間に合わない……! なら早くこの場から逃げなきゃ。けど逃げていいの? 助けを求めてるのに……。
……決めた。出来るかどうかは分からない、というか無理かもしれないけど、受け止めてみる。
あんな高さから落ちてくる物を受け止めたりしたら、どう考えても無事で済む訳が無いと分かっていても、私の体は自然に落下物を受け止める為に動いていた。
カバンをその場に置いて、受け止める為に落下物が叫んでいる方向へと駆ける。多分この辺に落ちてくる……気がする。
両手を胸の前に伸ばして、落ちてくるのをじっと待つ。空を見上げると、その落下物の形がハッキリと分かるくらい――――次の瞬間。

私はしりもちをつきながら、その落下物を受け止めて、胸で抱いていた。



                                    未来系!
                                    魔法少女

                               ヴィ・ヴィっと!メルちゃん 起


……って、何やってんの私! 私はほぼ反射的に、その落下物を胸から離して両手で掴んでみた。不思議な事に衝撃はおろか、怪我の一つも無い。
受け止めた時の感触も妙だった。かなりおっきい物体なのに、持ってみると結構軽い。けどがらんどうって訳でもなく、ちゃんと中身があるのを感じる。……ホント不思議だ。

これ……何だろう。所々はカクカクしててかつ、触ってみるとツルツルしてて工業製品みたい。それに色が白いし。
くるくる回してみると、手や足が付いている事に気付く。全体像を見る為に、立ち上がってもう一度両手で持ち直してみる。……ロボット?
上手く言えないけど、この落下物はどうやらロボットの様だ。頭と思わしき部分に見える、二つのカメラ? から見える目がバツ印になっててちょっと可愛い。

『う、うーん……』

喋っ……喋った? まぁ、さっき素っ頓狂な声で叫んでたから可笑しくは無いけど……。
状況を把握しているのか、バツ印になっていた目が黒い丸になると、きょろきょろと忙しなく上下左右に動いた。あぁ、やっぱ目なんだ、これ。
そして落下物は背中に何で出来ているのか、半透明な翼を背中から出すと、自分から私の手を離れた。翼を絶え間なく動かしながら……飛んでる?
凄い……自分の力で飛んでるんだ。私は呆然と口が開いている事に気づいて、恥ずかしくなり閉める。落下物は私の正面で浮きながら一言目を発した。

『し、失礼しました! お怪我はありませんか?』
「うん……大丈夫」

落下物はその外見からは想像もして無かった、気弱な女の子の声で慌てながら私の安否を気遣った。
それにしても自分で飛行するわ、言葉は喋るわ……おもちゃだとしたら凄すぎる。というかなんで空から落ちてきたんだろう……。

『良かったぁ……メルフィーさんが怪我でもしたら大変な事になりますからね。あぁ、ホントに……」
「……ちょっと待って。どうして私の名前を知ってるの?」

ホントに何で私の名前を知っているのか。私の記憶にはこの落下物と出会った事はおろか、存在さえ記憶に無い。
もし誰かが私に手を込んだ悪戯をしているにしても、こんな無茶苦茶凄い物を作る意味はあるのだろうか。私がその人の立場なら、今すぐおもちゃ会社に売り込む。
落下物は私の言葉に分かりやすいくらいあたふたすると、切羽詰まった感じで話した。

『え、いや、な、何でも無いです、はい! えっと……僕の名前はヴィル・フェアリスと言います。
 正確には装着型戦闘ドライブユニットTH-147 ヴィル・フェアリスと言います。あ、全部は言わなくて良いですよ。呼ぶ時はヴィルでもフェアリスでも……」
「……ごめん、何が何だかよく分からない」

正直な気持ちだ。いきなり現われたと思ったらヴィルだのドライブだの……というか説明するならどこから来て、又何故私の名前を知っているかが先ではなかろうか。
しかしこのヴィルって子(人では無いけど)、相当ドジっ子というか、私に似た匂いがする。こう……どこか煮え切らないというか。
一先ず私にはヴィルをどう扱って良いか分からない……。ちょっと手間がかかるが、お父さんを呼んで調べて貰おう。そう思いながら携帯を取り出そうと腕を伸ばす。

腕時計が、8時25分を指していた。……遅刻! しまった、ヴィルに夢中になってたせいで学校の事をすっかり忘れてた!
私は悪いなと思いつつ、ヴィルをスル―して学校へと猛ダッシュする。ここから家まで歩いて10分。8時半までに走っていけば間に……合うか!

『ま、待ってメルフィーさん! お話を!』
「また会えたら聞くから! ごめんね!」

ヴィルにそう答えながら、私は必死に学校へと駆ける。あまり運動が得意じゃないせいで息が上がって苦しい。けど……。
けど、諦める訳にはいかない。学校に通って二年、遅刻歴ゼロを絶対に守らなきゃ……あと5分……後5分間全力で走れば間に合わ……。

無かった。私が息をゼェゼェと荒げて学校に着いた頃には、生徒指導の先生がガチャンと校門を閉じていた。目の前で無情にも締まる鉄格子。
やってしまった……今まで真面目さと勤勉さが取り柄だったのに……。これで一回バツが付いてしまった……。
それもこれも……ってヴィルはただ落ちてきただけで、それを救おうとして立ち止まったのは私だ。ヴィルに何ら落ち度もバツも無い。
しょうがないか……私は小さく肩を落とし、先生に話して学校に入れてもらった。何がラッキーなんだろう……。

他の生徒の邪魔にならない様、音を立てない様に廊下を静かに歩いて、私は自分の教室である2‐B組へと向かう。
一応今はホームルーム中でまだ授業には入っていない。とはいえ朝の出欠確認はとっても大事だ。それも……あぁ、もう。
遅刻はどう足掻いても遅刻だ。私は現実をしっかり受け入れる。恐る恐るドアを開けて教室に入る。皆の視線がちょびっと痛い。

「遅いぞ、ストレイン。5分の遅刻だ」
「すみません、先生……」

そう言いながら、私は先生の方を見て、驚いた。教卓に立っている先生の隣に、学校の制服を着た。知らない男の子が立っているからだ。
男の子の印象は正直、失礼だとは思うが地味だ。黒い短髪に、鋭くはないけどタレ目でもない目。薄い唇。上手く言えないが……地味でかつ、普通だ。
けど、不思議な事に私は地味とは思うものの、悪い印象は抱かない。何となく仲良くなれそうな気がする。

「取りあえず自分の席に座りなさい。後で職員室で遅刻の理由を聞くから」
「はい……すみません」

私はそう言いながら、自席である窓際から一番近い、3番目の席に座る。私はこの窓からの景色が見れる席が好きだ。
授業に身が入らない時、ふと外を見ると心が落ち着いて、再び授業に集中する事が出来る。とはいえ外の景色に気を取られて、注意される事もあるけど……。
……そう言えば私の後ろって右左、どっちも空席だった。もしかして……。いや、そんな漫画みたいな……。
先生が男の子の名前を黒板に書きはじめる。もしかしてでなくても転校生、もしくは転入生な事は分かる。
カリカリと黒板に書かれたその名前は、初対面で話した事も無いのに、度々失礼だとは思うがとても、地味で普通だ。
先生がその名前を読みながら、男の子の事を紹介した。

「今日からこのクラスの仲間になる鈴木隆昭君だ。前は都内の学校に通っていたが、ご両親の都合で引越して、この学校に転校してきた。
 まだこの町、もといこの学校に来て間もないから、色々と教えてやって欲しい。それじゃあ、鈴木君」

やっぱり転校生……か。にしても両親の都合で転校してくるって大変だなぁ……とぼんやり思う。
生憎生まれてからずっとこの町に住んでるから、どんな心境かは分からないけど。

なるたけ仲良くとはいかないまでも、顔見知りくらいにはなっておきたいなと思う。色々困った時に、お互い助け合えるかもしれない。
そんな事を思っていると、鈴木君は先生の紹介に軽くクラスに頭を下げて、自己紹介を始めた。


「鈴木隆昭です。前居た学校では、生徒会に所属していました。
 なるべく早く、皆と仲良くなりたいなと思います。宜しくお願いします」


ハッと、する。
この声……私が見てた夢の声と……同じ? いや……違う。限りなく似てるけど、違う。
あの夢で聞いた声はもっとこう、紳士然としてて大人っぽい、かっこいい声だ。悪いけど、鈴木君の声とは全く違う。

皆が拍手する音で我に返る。いけない……頭を切り替えなきゃ。


「それじゃあ鈴木君は……ストレインの後ろの席に座ってくれ」
「分かりました」

あぁ、やっぱり……。けど悪い気はしないや。休み時間、気軽に喋りかける事が出来るかもしれない。
鈴木君は席に座って身支度を済ますと、私に声を掛けてきた。

「宜しく頼むよ。えっと……」
「メルフィー、メルフィー・ストレイン。どっちの名前で呼んでも良いよ」
「それじゃあ宜しく、ストレインさん」

そう言って鈴木君は人の良さそうな笑顔を見せた。良い人……なのかな。一先ず気軽に話せそうタイプでほっとした。
……それと、やっぱりあの人の声とは違う。アレは気のせいだったみたいだ。疲れてるのかなぁ、私……。

ホームルームが終わると、クラスの皆、鈴木君の席に集まって、鈴木君に対して遠慮なく質問攻めにする。
転校生だし都内に住んでたという事で、皆興味深々なんだろうな。
私も鈴木君に話したかったけど、今の状態じゃとてもじゃないけど無理だし、何より遅刻の理由を先生に話さなきゃいけない。億劫だけど職員室に向かう。

「今度は気を付けろよ。授業に戻って良い」
「以後気を付けます」

「失礼しました」
遅刻の理由(朝寝坊という事にしておく)を先生に話し、一礼してからドアを開けて職員室を出る。まだ始まったばかりなのに疲れがドッと……。
それにしても朝の爽やかな時間は何だったのかと……。にしてもあの後ヴィルはどうしてんだろう。
まさか迷子とかになってないよね……。あの様子だとそうなっててもおかしくない。誰か親切な人にでも……って何で私ヴィルの事を犬猫みたいな感じで見てんだろう。


「おっはよー、メルフィー。珍しいじゃない、遅刻するなんて」
聡明かつ活発な声がして振り向くと、私の友達にしてクラスメイトのルナが、肩を叩いて挨拶してきた。何時見てもアイドルみたいな笑顔だ。

氷室ルナ――――端正な顔立ちと十代とは思えないナイスプロポーション、それにツインテールで、男子生徒のみならず女生徒からもとても人気が高い。
それに生徒会の会長だけあって成績優秀でかつ運動神経も抜群。おまけに柔道・空手・剣道の段位を持っていて、他にもいろんな資格を取得してると聞く。
運動神経が悪く、要領も悪い、真面目さ位しか取り柄が無い私からしたら、ルナは友達以上に羨望の対象だ。私の友達で良いのだろうかとさえ、たまに思う。
ルナと話しながら教室へと向かう。

「何かあったの? ホント、何時も時間に正確で無遅刻無欠席なアンタがねー」
「うん……ちょっと寝過ごしちゃって」

そう言って私はちろっと舌を出した。ルナとは気心が知れてるけど、あの空から落ちてきた……というかヴィルの事は説明できない。

「まぁ、真面目なアンタもたまにはサボりたい日があるって事ね。分かってる分かってる」
「別にサボりたかった訳じゃないよ……」
「じょーだんよ、冗談。ホントに珍しいからさ」

私の返答にルナはちょっと首を捻ったけど、軽く弄ってくれただけで深くは聞いてこなかった。有難う、ルナ。

「てか、ルナはどうして職員室に?」
「私? 私はちょっと生徒会の事で、ね。それよりメルフィー、今日体育だけどジャージ持ってきた? 今日は冷えるけど」
「……ジャージ?」
「そう、ジャージ。あ、その顔……やったわね」

ルナがニヤリとした。ジャージ……ジャージ……あぁ! そうだ、ジャージ忘れてた!
そうだった……今日は体育がある日だった。それも外での。体操服でも授業は受けられるけど、真冬の今にそれはとってもキツイ。
いやキツイってもんじゃない。男子でさえ寒くてジャージ着用が基本なのに……。厄日だ、今日は。私の口から自然に深いため息が出る。

「全くドジっ子なんだから……今日は見学してれば?」
「ううん、ちゃんと出るよ。ジャージ忘れたくらいで休めないし」
「まぁ……そんな真面目な所が、あんたらしいけどね」
「おはよーメルメル―」
「ひゃあ!?」
そんな声がした途端、誰かが背後から私の胸を鷲掴みにした。こんな事をする人は学校の中では一人しかいない。

「こら、町子! いきなりメルフィーの胸を掴んじゃダメって言ったでしょ!」
「ルナルナもおはよー」

いきなり背後から私の胸を揉みしだいたこの子の名前は町子・スネイル。この子も私の友達にして、クラスメイトだ。
縁の赤い特徴的な眼鏡を掛けていて、眠たそうな目と八重歯がキュートな、小柄で可愛らしい女の子。
でもちょっと性格が変わっていて、低いテンションでシュールなボケと突っ込みをかましてくる。それもかなり対応に困る奴。
ルナはしっかり突っ込んであげるけど、正直私は町子のそういう所に押されてしまう……。気が弱いなぁ、私。

「おはよう、町子……胸揉むの止めてくれる?」
「朝の日課ですんで……」
「どんな日課よ!」

パチ―ンとルナのツインテールが町子の頬を叩いた。くるくると町子が駒の様に回りながら、私から離れてくれた。
毎朝こんな感じで私達は朝の挨拶をかわす。……胸を町子に揉まれるのも含めて。一応私の了承を得てからだけど。最近は守ってくれないけど。
そんなこんなで教室に着いた。ドアを開けると、これまた何時もの朝の光景。

「おっはよ―! メルフィーちゃ」
「不用意に近づくな馬鹿もん!」

ルナの天高く舞い上がったハイキックが、スッパーンと気持ちの良い音を立てて草川君の頭部へと綺麗に入った。
今蹴られた彼は草川大輔と言って、このクラスのムードメーカー、もといトラブルメーカーで有名な男子生徒だ。
特にトラブルメーカーとしては、学校で知らない人はあんまり居ない。
何かモテたいけどモテナイ男子生徒で、一大徒党を組んでるらしいけど、私はそれ以上知らないし、知る由もない。

「マスター! お気を確かに!」
「けど氷室さんに蹴られて羨ましい!」
「さぁ今日は何色でしたか、マスター!」
常に草川君と一緒の、それぞれ痩せ・中・太とバランスの良い三人組が、草川君を気遣った。いや、馬鹿にしてるのかもしれないが。

「今日のルナルナは黒だよー」
「ちょ、ちょっと町子何言ってるのよ! ってか何処見てんのよ!」
「ふふふ……町子アイは0,01秒のパンチラも見逃さない……」

町子の謎の観察力に、仰向けに倒れたままの草川君が、親指を立ててグッドジョブしながら言った。
「その通り、麗しきブラックだった……。これで……何の悔いも無く……逝ける……」
「マスタァァァァァァ!!」

「馬鹿馬鹿しい……さ、勉強するわよ、メルフィー、町子」
「うん。また昼休みね」
こんな感じで毎朝、私の学校生活は始まる。たまに草川君と三人組の寸劇が無い日があるけど、だいたいこんな感じだ。
自席に戻ると、鈴木君が頬杖をつきながら外を眺めていた。……鈴木君もこの席好きなのかな。

「ここの席って良いね。景色が良くて。好きになりそうだよ」
鈴木君が嬉しそうな声で、私に話しかけてきた。

「う、うん」
予想もしなかった言葉に、思わずどもる。何だろう……そう言う事を言ってほしかったけど、ホントに言われると……照れる。
会話を続けようとしたけど、上手く言葉が出てこないから口を紡ぐ。次はちゃんと話せると良いな……。

チャイムが鳴って1時限目が始まる。私は気を引き締めて、ノートを開こうとした。

「先生すんません、家に忘れ物したんで取りにいってきていいですか?」
鈴木君が立ちあがって、担当の先生にそう言った。

「鈴木君……だっけ? 転校初日から困るな……ちゃんと担任に断ってきてから、取りに行ってくれ」
「はい。すぐ戻ります」

鈴木君の行動に皆ヒソヒソと話す。なんとなく気になるんだろう。
まぁ、鈴木君は鈴木君なりに何か事情があるんだと思い、私は再び意識を授業に集中させた。


風が吹き荒ぶ屋上、忘れ物と嘘を付き、鈴木はフェンスに寄り掛かって町を眺めている。その目は何かを待っているかのようだ。
と、どこからか、メルフィーの前に現れたあの物体――――ヴィル・フェアリスが、鈴木の前へと降りてきた。

「お帰り、フェアリス。メルフィーに会ったみたいだが……ちょっと失敗しただろ?」
『す、すみません! 上手くメルフィーさんの所に行こうとしたんですけど、姿勢制御が上手く出来なくて……』

鈴木はふぅ、と軽く息を吐くと、再びフェアリスに話しかける。
「お前はもう少し特訓するべきだな。まぁ、そんな事よりメルフィー、どう思う?」
『メルフィーさんには失礼ですが……普通の女子高生にしか見えないです。本当に大丈夫なんですか? 彼女……』
「心配無いよ。何たって彼女は」


「俺の――――婚約者だからな」


to be continued...



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