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マクロスF ランカ

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sousakurobo

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マクロスF ランカ

私はグリフィスパークに向かって、坂道を駆け上る。約束の場所へ――。
(しょうがないですねえ。二時間だけですよ) 
 なんとか、社長を説得して、時間をもらうことが出来た。
……それが出来なかったら、こっそり抜け出すつもりだったんだけどね。
 お仕事が増えたことは素直に嬉しいけど、アイドルは大変だ。
友達にプレゼントを渡すだけで、こんなにいろんな手間がかかるなんて。
ナナセちゃんに教えてもらったクッキーも、味見すらしていない。
見てくれは、上手に出来たと思うんだけどな。アルト君、喜んでくれるかな?

 ううん、それ以前に、待っていてくれてるのかな。
 昨日、勇気を出して連絡した。でも繋がらなくて、メッセージを残したんだけど……。
それから、アルト君からの返事は無かった。だから本当は、私からの一方的な約束なんだ。
 そう考えると、不安になってくる。足が重くなったような感じがする。
こんなんじゃ駄目だ、こんな事でくよくよしてたら私の仕事は勤まらない。
私は髪を弾ませて、ラストスパートをかける。
 アルト君なら、きっと来てくれてる。今まで、何度もアルト君に助けられてきた。
「鳥の人」でも、アルト君が力になってくれた。唇が、唇を、思い出す。
そして、シェリルさんの顔が脳裏によぎる。
銀河の歌姫、私の憧れの人、シェリル・ノーム――、やっぱり、アルト君と付き合ってるのかな?
ああもう、何考えてるんだろう、私。とにかく、今日はこれまでの分を、きちんと「ありがとう」って伝えたい。

長い坂道を登り切ると、眼前には夕焼けに染まるグリフィスパークが広がっていた。

 広大な面積のグリフィスパークはフロンティアの外れに位置しているから、滅多に人が訪れない場所だ。
だから、デビュー前の私は、この場所でだけ歌うことが出来た。
そして、ここでアルト君に背中を押されて、この世界に挑戦する決心がついたんだ。

 待っていてくれてるのだろうか。

 中央のオブジェの影に、誰かが居るのに気がついた。「アルトくん!」
思わず、大きな声が出てしまう。その人影が、前に出る。あれは、美星学園の制服だ。
ちょうどオブジェの影に隠れてしまっていて、その人の顔までは見えない。でも、間違いない、あれはきっと――
「ああ、ごめん、ランカちゃん。……アルトじゃなくて」
 ミシェル君? アルト君はどうしたの? 
 混乱し、うなだれる私に、ミシェル君は事情を説明し始めた。

 私は一人で、広場のベンチに腰掛けている。アルト君はお仕事に行ってしまったらしい。
軍の任務に、誕生日なんて関係ないってことぐらい、私にもわかるけど、
シェリルさんの護衛ということが、どうしても引っかかる。今、どこかの遠い星へ向かっているらしい。

 本当に、残念だった。せっかく、プレゼントも手作りなのに。アルト君は、私の手の届かないところへ行ってしまったのだろうか。
 がさがさと、草が擦れ合う音が近くから聞こえてきた。すぐ側の茂みに目をやると、薄い緑の体毛に覆われた小動物が、そこから現れる。
「あなた、この前の……」
 前にも、この子とはここで会ったことがある。見慣れないこだけれど、人懐っこい、可愛い子だ。
「おいで」 私が手を差しのばすと、手足の無い身体を這わせて、その上にのっかる。
よく見えるように、顔の高さまで持ち上げると、急にその子が首を伸ばした。ちっちゃな口が、私の鼻に触れる。
「ありがとう、慰めてくれるの?」 ちょっと驚いちゃったけど、この子のことが好きになってしまった。
可愛い鳴き声で、この子は答える。ふさふさして、柔らかい。ケータイ君もいいけど、本物の生き物もやっぱり素敵だと思う。

 アルト君へのプレゼントを開けて、中から取り出したクッキーをその子にあげてみた。
意外にも、ちゃんと食べてくれた。なんだか元気が出てきた。

 プレゼントを作ってみた。アルト君に、待ち合わせの約束をすることが出来た。
結局、無駄になってしまったのかもしれないけれど、やらないで後悔するよりは、ずっと良いと思う。
 私はもう一つ、クッキーを取り出す。飛行機の形をしたクッキーだ。それを、空にかざしてみる。
きっと、アルト君なら食べる前にこうするんだろうな。
「こんなに分厚い主翼じゃ、空は飛べないぞ」 これぐらいの意地悪は、言ってくるかもかもしれない。
こんなことを考える自分が、少しだけ可笑しかった。
「ハッピーバースデイ、アルト君」
 飛行機型のクッキーを、食べてみる。期待していたのとは、別の味がする。
クッキーにしては、苦すぎたみたい。アルト君の無事を祈りながら、スクリーンに映る夕日を眺めていた。


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