創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

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匿名ユーザー

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―――――フィ、起きろ。

――――――ルフィ、起きろって。

―――――――メルフィー!

「ひゃっ!?」
「おぉ、起きた起きた。てっきりそのままぽっくり逝っちまったのかと思ったぜ」

彼の声が耳に響き、私は驚いて飛び起きた。起してくれるなら、もっと優しく起こしてくれればいいのに……。
私がそう思い脹れっ面をすると、彼は何時もの人懐こい、屈託の無い笑顔を見せた。何時の間にか寝てしまってたみたいだ。
公園のベンチで寝るなんて、お母さんに行儀が悪いって怒られちゃうな。けど、木々から入り込んでくる陽だまりの中で座っていると、どうしても眠くなってしまう。
それもこれも彼が、ちょっと公園で遊びたいなんて言ったからなのだけど。中学生にもなって、子供達とキャッチボールなんて……そこが彼らしいけど。

「もう気が済みました? ブレグレの大会に向けての調整があるから、私はこのまま帰りますけど」

私は少し呆れた素振りで彼に帰る事を伝える。彼は持っているボールを弄りながらあっけらかんとした声で返す。

「おう! けどあんま無理すんなよ、メルフィー。……つっても俺も練習しなきゃいけないんだけど」
「なら一緒に帰りましょうよ。代表選手なんですから少しは自覚を……」

「おにいちゃーん! 早く投げてよ―!」
元気な男の子の声が、私達の会話を遮る。遠方を見ると、手でメガホンを作った男の子が彼に向って早くキャッチボールを再開する様急かしている。
その男の子の後ろにも、彼に遊んで貰いたくて目を輝かしている子供達の姿が見える。……こうなれば彼の決断は一つだ。

「悪いな、メルフィー。チビ共が俺をお呼びだからさ。おじさん達に宜しく言っといてくれ」
そう言って彼――――祐二は私にウインクして、踵を返して子供達の元へと行ってしまった。子供達の歓気が聞こえる。
全くもう……。私はため息を吐いてベンチから立ち上がり……そうだ、言っておかなきゃ。

「祐二――――! 明日はちゃんと練習に来て下さい! 絶対ですよ!」

私の声に、祐二は右手を上げた。ちゃんと聞いて……ないみたい。けどこれも何時もの事だ。そう、何時もの―――――。

サラウンド

アストライル・ギア―――――汎用型巨大防護機体……分かりやすく言えば巨大なロボット。深海や宇宙、惑星等、人知の及ばない所の探査等の用途で創られ、世界中で開発されている。
私の両親はどちらもアストライル・ギアの開発者であり、技術者だ。ある日、父さんが母さんや仲間達と一緒にアストライル・ギアを使ったゲームを考案した。
その名はブレイブグレイブ。世界各国が、各々で改造したアストライル・ギアを使い、母国の尊厳と誇りを掛けて戦う――――そんなゲームだ。

当初はやはりというか、アストライル・ギアを何だと思っているのかと反発の声が凄ましかったらしい。でも父さんはその声に負けずに必死になった末――――遂に踏み込んだ。
ブレイブグレイブは案の定、世界中で大きなブームとなり、今では多くのスポンサーが付いて世界中のメディアが取り上げる程だ。

今でもブレイブグレイブは国家間の代理戦争じゃないかとか、アストライル・ギアをゲームとはいえ、戦闘に使うとは何を考えている等の批判の声は絶えない。
私はそんな人達に対して反論する気は無い。確かに巨大ロボットで戦うなんて、ちゃんとした規定があるとは言え正気の沙汰とは思えないだろう。
でも。だからと言って私は父さんを侮蔑する気もない。むしろ誇りに思う。アストライル・ギアの開発者にして、世界中を夢中にするブレイブグレイブの考案者の二足の草鞋を履いている父を。

一人娘である私は、自然にアストライル・ギアの魅力に取りつかれ、気付けばブレイブグレイブに嵌り込んでいた。
非常に恵まれた環境で育った為か、私にとってブレイブグレイブは一番近くにある遊びであり、また私自身の人格を成型する大事な特技になっていた。
母さんは私が夢中になる事に難色を示していたが、父さんは喜んで私にブレイブグレイブを教えた。まるで自分が楽しんでいるかのように。その反動で凄く母さんのしつけが厳しかったが。

私が彼――――喜侘村祐二に敬語を使うのは、その母の影響だ。昔からにマナー云々を躾けられたお陰で、反射的に他人に対して敬語で喋る癖が出来てしまった。
それ故に私には小さい頃(ブレイブグレイブに夢中である事もあるが)から友達らしい友達が出来なかったが――――そんな私に手を差し伸べてくれたのが、祐二だ。
忘れもしない小学1年生の頃、彼に恥ずかしくなる様なセクハラ……もとい、いたずらをされて、私は初めて敬語を使わず、彼に怒鳴った。その時、彼は私に言った。

「なんだ、普通に喋れるじゃん! それじゃ今日から、お前俺の友達な」

……今思うと厚かましいにも程があるが、それがきっかけで、何時も一人だった私は祐二と友達になった。
祐二は正に男の子って感じで、馬鹿なくらい明るくて、活発で、何時も私の手を引っ張ってくれる。そんな彼の影響か、私も人と気軽に話せ、友達を作れる様になった。
同時に祐二はブレイブグレイブに対しても嵌りこんだ。今では私とタッグやグループを組むほどに。
けど、その性分からか祐二は真面目に練習に付き合ってくれない。それがらしいと言えばらしいし、練習しなくても強いんだけど……。

物思いに耽っていると自宅に着いた。今日も父と母は、地下でブレイブグレイブの研究をしている。
小さい頃から住んでいるから実感が沸かないけど、私の家は日本でも有数のお屋敷らしい。まぁ確かに大きいけど、だから何だろう。
私にとって重要なのはお屋敷では無く、その地下にある専用の研究施設だ。私はそこでブレイブグレイブに嵌り、共に育ってきた。

「お帰りなさいませ、お嬢様」
大きな鉄製の玄関を開けると、執事さんが草刈りしている手を止めて私に声を掛けてきた。私は会釈して、執事さんに聞く。

「お父様とお母様は……」
「隆昭様は地下でブレイブグレイブの研究中です。ルナ様は学会に研究成果の発表の為にお出かけになられました」
「有難うございます。後でお飲み物を用意しますね」

執事さんと別れて自室に荷物を置き、専用のエレベーターを降りて、私はお屋敷の地下にある研究施設に入る。重圧な機械音と共にドアが開き、白衣を来た研究員の人達が映る。
中央には巨木の様なシュミレーション・ジェネレーターが稼働しており、研究員の人達がその周りで忙しなくシュミレーションの調整を行っている。
ここでの研究結果を基本に、ブレイブグレイブは動いていると言っても過言じゃない。私はその中で指示を出しているあの人の元へと駆けよる。

「マチコさん!」
私の声に気付いて、その女性――――マチコ・スネイルさんが振りむいた。この人は父と母と一緒にブレイブグレイブを研究している人だ。
ずっと昔から顔馴染みの人で、いつも面白い話やブレイブグレイブで戦い方を教えてくれる、先生みたいな人でもある。

「あら、お帰り、メルフィー。今日はフランスから挑戦者よ。勿論勝てるわよね?」
「勿論です!」
私は二つ返事で、ジェネレーターと直結している大型のシュミレーションマシンに入る。白くて流線型のそのマシンに入ると、私はほっと落ち着く。
前面に広がるコンソールパネルに半分埋まった球体に手を乗せると、周囲を覆うラインが蒼く光って、起動音が鳴る。この起動音の涼しげな音がとっても気持ちが良い。
目の前のモニターが暗闇からその光景を映した。遠くに目を向けると、フランスの国旗がマーキングされた、相手のアストライル・ギアが見えた。

今、私がやっているのは、ヴァーチャルと呼ばれる仮想戦闘システムで、限りなく実践に近い感じでブレイブグレイブを仮想体感できる機械だ。
このヴァーチャルは全国、いや、全世界で設置されており、何時でもだれでも相手を探して戦う事が出来る。性別は勿論年齢も関係無く。
父が語るにヴァ―チャルこそがブレイブグレイブをブームに導いた立役者で、それ故に母に頭が上がらないとか。

「相手はユーロ杯でランク30位に入ってるわよ。主に遠距離戦に気をつけなさい」
「分かりました! 接近戦で攻めます!」
マチコさんからのアナウンスを聞き、私は目の前の相手に集中して―――――唱える。

「シャッフル」


「お見事。盾を囮にして上からとは容赦ないわね、何時もだけど」
ヴァーチャルから出てくると開口一番、マチコさんがそう言った。確かに上から斬るのは少しやりすぎたのかもしれない。けど。

「常に相手に容赦なくあれ。それが最大の礼儀――――って教えたのはマチコさんですよ」
「あら、確かにそうだったわね。私ったら年取ったわねぇ……」
私とマチコさんは笑いあった。多分私達しか分からないと思う空気だ、これは。
と、髪を掻きながら、手元の資料を入念にチェックする―――――父さんと、父さんの助手を務めるあの人の姿が見えた。父さんが私に気付いて手を上げながらこっちに来る。

「お帰り、メルフィー。学校はどうだった?」
「ただいま、お父さん。んー特に何も」
「そうかそうか。そいつは結構。で、勝ったのかい? 今回の相手には」

私はVサインを作り、満面の笑顔で父に誇る。父は嬉しそうに、眼鏡の奥の目を細めた。
父の嬉しそうな姿は嬉しい……それに何というか……恥ずかしいな、何か。助手の……。

「オルトロック君、君も褒めてやってくれ」
「先程の戦い、実に鮮やかでした。流石鈴木博士のお嬢様と言いますか」

オルトロックさんに褒められて、私の頬が自然に紅くなる。……人の外見にとやかく言える程私は人が出来てないが、この人は別だ。
何というか美形と言うか。じっと見ていられない。オルトロックさんはブレイブグレイブで世界ランク上に入る、最強のプレイヤーとして知られている。けどそれだけじゃない。
オルトロックさんはブレイブグレイブについての知識だけでなく、アストライル・ギアについての知識も非常に豊富で、研究員として父さんやマチコさんに見出されて以降、父さんの助手として働いてる。
ヴァーチャルでプレイヤーとして何度か手合わせしたけど、私は全く勝てなかった。それほどの人なのだ。

「ですが、反応が0.03秒遅れている様な気がします。後方時に少しスラスターを吹かし過ぎているんです」
言われてみれば……確かに回避行動を取る時、私は若干距離を置きすぎている気がする。そんな所まで見ているなんて……。オルトロックさんって凄い。

「ずっと画面見てたけど、全然気付かなかったわ。そこまで見てるとかちょっと怖いわね」
マチコさんがそう言って苦笑いするけど、私はやっぱりオルトロックさんは凄いと思う。
何時かブレイブグレイブについて色々教えて貰いたいけど、どうしても顔を見ると恥ずかしくなってしまう。祐二と居る時は何ともないのに……。

「そう言えば……後3年したら、本当のブレイブグレイブで戦える様になるわね、メルフィー」
マチコさんの言葉に私はハッとする。そうだ……私は18歳になれば、ヴァーチャルではなく本当のブレイブグレイブに出場する事が出来るんだ。
私の夢は、ヴァーチャルではなく、本当のブレイブグレイブで頂点を取る事だ。小さい頃からずっと、私はその夢を追いかけて生きてきた。

「でも実践は怖いぞ。本当に大丈夫かい? メルフィー」
父さんが私の頭を撫でながら、心配そうにそう言った。私は大きく頷いて、父さんに答える。

「うん! その為に今日まで頑張ってきたし……ねぇ、お父さん?」
「ん?」
「私……ブレイブグレイブに出れるよね? ヴァーチャルじゃなくて、本当にアストライル・ギアに乗って……」

私の質問に、何故か父さんはオルトロックさんとマチコさんと顔を見合せた。オルトロックさんは特に反応せず、マチコさんはニヤニヤするだけだ。
不安になって、私は父さんに再度聞く。ここで否定されたら、私は何のために頑張ってきたのか分からなくなってしまう。

「ねぇ、お父さん……」
「あぁ、絶対に出れるさ。それまでに、メルフィーの為にカッコいいアストライル・ギアを作ろう。約束しよう」
そう言って父さんは、私の頬に手を当てた。……暖かい。私は目を瞑って、じっとお父さんの手のぬくもりを感じる。ずっとこのまま……。

―――――ルフィー。

――――――メルフィー。

「メルフィー?」

……いつの間にか、眠っていたようだ。目を開けると、心配そうに私を見る祐二の顔が見えた。そう言えば少し疲れて眠っていたんだ。
遠くから観客達の歓声が聞こえる。そうだった……もうすぐ決勝戦なんだ。ブレイブグレイブの出場権を掛けた、ヴァーチャルによる全国大会の。
何で子供の頃の夢なんて見たんだろう。……そうか。この大会で勝てば、私はようやく夢への切符を掴めるんだ。ブレイブグレイブの――――日本代表の一員として。

「大丈夫か? 良かったら飲み物でも……」
「いえ、大丈夫です。それより祐二こそ」
「俺は大丈夫さ。メルフィーが何ともないなら、それで良いんだけどさ」

私がそう聞くと、祐二は心配ないという風に手を煽いだ。思えばここまで来るのに、祐二も変わったんだ。色々と。
かつてのやんちゃな成りは潜め、今の祐二はとても落ち着いている。それも全て――――あの日からだ。私が祐二とパートナーとなった、あの日から。

「本当に俺で良いのか?」
「貴方でないと駄目なんです。全国に行く為には」
あの日――――高校に上がってすぐ、私は祐二にブレイブグレイブ――――ひいてはヴァーチャルの全国大会のパートナーになって欲しいと志願した。
幼い頃からの付き合いって訳でもあるし、私にとって祐二との相性は最高だった。今までの戦いから考えて。それに――――。

「オルトロックさんとヴァーチャルじゃなくて、ガチで戦えるからな」
祐二に本心を突かれる。そう、もし出場権を掴んで日本代表となれば、私達はオルトロックさんとヴァーチャルではなく、正式に戦う事が出来るのだ。
あの人と……オルトロックさんと実際に戦ってみたい。そして私の成長を――――見て貰いたい。それが私の第二の夢。
一番はブレイブグレイブの頂点に立つ事だ。それこそが私の―――――。

「この戦い、絶対に勝つぞ、メルフィー。勝って世界への切符を掴むんだ」
「はい! それと……」

私は祐二に向き合い、決勝に向かう前に伝えるべき事を伝える。

「貴方とパートナーを組めて、良かったと思います。ありがとう、祐二」
「それは俺も同じさ。ガキの頃からお前と組めて、ここまで来れたと思う。……あのさ、メルフィー」

「もし、決勝にまで行って、ブレイブグレイブの出場権を勝ち取れたら、俺と……付き合ってくれないか?」

息が、詰まる。全く予想していなかった祐二の言葉に、私の頭が理解できずに数秒間、止まる。
パートナーとしてではなく、異性として見た事が無かったから尚更。けど、どこかで分かっていたのかもしれない。
祐二の私に対する――――視線が変わっている事に。でも、今は―――――。

「……今はまだ答えは出せません。でも……」

「受け取って、おきます。もしも出場権を掴めたら―――――」

私は目を瞑って、胸に手を当てる。ドキドキはしない。むしろ不思議なくらい落ち着いている。

「パートナーを超えて――――恋人として貴方と付き合います」


――――ィ。


――――――フィー。


―――――――めんな、メルフィー……。


……え? 目を開けると、そこには―――――血まみれで横たわった……祐二が、いた。
状況が……状況が、理解できない。今さっきまで……今さっきまで私は……。いや、今は、今はとにかく……。

「祐二……しっかりして、祐二!」

怪我の状態は、怪我の状態はどうなって……。私はそう思いながら祐二の上着を取り――――強烈な吐き気に見舞われれる。
形容出来ない程、祐二の体は酷い状態になっている。沸き上がってくる吐き気を押えながら、私は……。

「すまねぇ、メルフィー……俺が……悪いんだ」
「祐二……お願いだから喋らないで……」
「いや……言わせて、くれ……」

「オルト……ロックに……騙され……てたんだ……」

「イル……ミナスに……入れば……世界が……変えられるって……」

そう言って祐二は目を……閉じた。……やだ……目を……目を覚まして……。

「お前……も……騙され、たんだな……」

目を……目を開けてよ祐二……やだ……やだよ、こんなの……。

「泣くなよ……メルフィー……。お前は何も……悪くねぇ……よ」

違う! 私が……私が戦争って自覚してなかったから……。私は……。

「しょうが……ねえって……。俺達は……大人には……逆らえない……から」

……祐二? しっかりして……しっかりして、祐二!

「次……は……平和な、世界で……お前……と」

「好き……だ……」

祐二……祐二! 起きてよ……祐二! いや……いやぁぁぁぁぁぁぁ!




「祐二!」

……夢、か。額を掌で拭うと凄い汗を掻いていた。……もう見ない、見たくないって思ったのに、あの夢を見てしまった。
何でだろう……。オルトロックにあの事を責められたからかな。忘れよう、忘れようってずっと思ってたのに……。
そう言えば、私……。そうだ、ヴィルティックが動きを封じられて、それで……。死んで、ないんだ。私。
それじゃあ、隆昭さんは……。私……隆昭さんを守れなかった……。未来を……。

「落ちついたかしら?」

その時、ここにいる筈の無い人の声が聞こえて、私は思わずその方向に振り向いた。何で……。

「……どうしてマチコさんがここに?」


「おっと、ちょっとごめんね。連絡入ったから」

「私よ。どうなった? そう……勝ったのね。えぇ、ヴィルティックは後で回収するから良いわ。それより彼は無事?」


「なら、今すぐ彼を乗せて戻ってきなさい」



「メルフィーが、待ってるから」

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