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白銀の騎士

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sousakurobo

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白銀の騎士

それにしてしてもキレイな朝焼けだ。ふっと力を抜き、旅客機AF-J77のパイロットである田所は目の前の成層圏を見、そう思った
これまで幾度の旅を続けてきたが、いつもこの瞬間――専属の空港へと帰航する時の空は心地よい
朝焼けに広がるオレンジ色の空は、無事に帰ってきた事を祝ってくれているようだ
グッと操縦桿を握りなおしもう一度気を引き締める。ここからが執念場だ。――ふと、田所の目に妙な物が映った
空中に大きな輪の様な物がぼんやりと、口を開ける様に広がっているのだ。一見雲かと思ったがそれも違う
管制塔に連絡を入れてみるか――そう考え田所が通信機を手に取ろうとした瞬間
「な、何だアレは!?」
サブパイロットが驚嘆した様に叫び声を挙げた。田所が慌てて目の前の輪に目を向けた
すると広がった輪が、オレンジ色の線を五本、空中に描き始めた
その五本はまるで生物のようにグネグネと動き出すと、次第に形を成してきた。その様子はまるで――
「魔方陣・・・」
目の前の非現実的な光景に、田所は無意識にそう呟いた。瞬間、形容できぬその輪が、瞬く間に閃光を放った
――このままじゃぶつかる! 閃光の眩しさに目を奪われぬよう細めになりながら、マニュアルに則り田所は緊急処置を行おうとした

だが――事態は思わぬ方向へと向かった。あの眩い閃光が突如として消滅したのだ。それだけではない
不気味な魔方陣を描いていた輪も、閃光と共に姿を消していた。空は先ほど前の静寂さを取り戻していた
何が起こったのだ? 田所の頭は若干呆けていた。まさか疲れから幻覚を見たのか? いや、そんな筈はない
自分はこの道で何十年もの経験を積んできたのだ。今更疲れなどと、新人でもあるまいし。ふと、田所に口元に笑みが浮かんだ
「・・・年かも知れんな。俺も」
帰ったらまずぐっすり寝よう。しかし精神は若いのに肉体が老いるとは残酷な物だな。そう考え心機一転しようとした矢先
「・・・・・・」
田所の笑みが静かに消えていくと同時に、恐々とした感情からか青ざめてきた。さっきまでの魔方陣とは訳が違う
旅客機から数千メートル先に、人の様な形をした何かが、呆然と浮かんでいる
田所の視点からは巨大な「案山子」のように見えるが、旅客機から数1千メートル離れて対峙する「案山子」はこの世の物とは思えない雰囲気をかもし出していた
巨大な黒い球体と灰色の棒によって不気味に露出する両腕と、ピッタリと合わさった両足らしき部位
そしてそれ以外の部位――頭部さえも覆い隠す藁のような何か。すべてのパーツからして異質なのだ。だが田所らに「案山子」を観察している余裕は無い
「案山子」は右腕を何のモーションも無く振り上げると、旅客機の方へと向けた。その動きが何を意味するか――田所は期せずとも理解した

「くっ! このままでは・・・!」
旋回しようにもこれは旅客機だ。素早い動きを行えるよう開発されていない。最悪、空中で身動きが取れずに堕ちる危険性もある
だが目の前の「案山子」は既に攻撃を構えている。つまり万事休すというわけだ。田所は無意識に歯を食いしばる
ここで死ぬのか――訳も分からないまま、何の罪もない乗客を巻き込んで。畜生――
自然に両手に必要以上の力が入る。先ほどから冷汗が止まらない。何もかも無常か。すまない、皆

田所は悔しさと無念さから目を閉じ――その瞬間、「案山子」は吹き飛ばされるようにその場から姿を消した
想定外の事に田所は閉じかけた目を見開いた。頭の方が状況を理解する事に追いつかないが、危機はひとまず去ったという事だ
隣でサブパイロットが激しくなった呼吸を静かに押さえ、張っていた肩を撫で下ろす。慎重に進めるが、「案山子」が襲ってくる様子は無い
しかし・・・田所の中でまだ鬱屈とした物が広がっていた。あの「案山子」が吹き飛ばされる一瞬、別の「何か」が「案山子」に向かって襲い掛かったのだ
いや・・・田所は自分の表現に首をかしげた。アレは襲い掛かるというよりも、身を挺して我々を守ってくれたように見えた
それに、その「何か」は「案山子」のようなおぞましい姿ではなかった。本当に一瞬だったが、まるでその姿は――

「白銀の…・・・騎士・・・・・・」

end

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