創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第9話 スピリッツ 前

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sousakurobo

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未だに止まぬ豪雨の中で、その機体――――ルヴァイアルは自らの姿を隠し、戦況を見つめる。
透明と化している為か、それとも上空で高みの見物をしている為かヴィルティックはともかく、デストラウもルヴァイアルの存在に気付く様子は無い。
コックピット内で妖美な両足を組み、木原町子もとい、「魔女」は戦況を見据える。と、モニターの中でヴィルティックが動きを封じられる様子が映る。

「あら、バインド……どこで手に入れたのかしら。私でさえ持ってないのに」
空中に浮かぶ、巨大な魔方陣に動きを封じられるヴィルティックを見、「魔女」は小さく驚きの声を上げた。
低速で回転する魔方陣は激しい電撃が幾多にも伝っており、ヴィルティックを破壊せんとするほどに各部へと流れている。
デストラウはその場を動く事なく、グランファーを肩に担ぎ悠然と仁王立ちしている。そこには、はっきりと勝者の余裕が見て取れる。

「これは少しばかりまずいかもね。ただでさえ精神的にキツイのに追い打ちなんて、ホント趣味悪いわ、あいつ」
そう言って舌を打ち、「魔女」はルヴァイアルのカメラアイをデストラウの背後に向ける。
数分前には雑居していたマンションやビルなどの人々の居住区は、今や寒々しい程に荒れ果てており、人々が住んでいたという形跡さえ無くしてしまった。
エシュトリームクラッシュの威力は半端では無く、建物だけでなく道路でさえ消滅させた。射程範囲内にあった場所ごと、何処かに消えてしまったかのようだ。

「ま、あんなの撃った後じゃ対して動けないだろうから、そこを突いて〆るわよ、ルヴァイアル」
「魔女」の言葉に呼応する様に、ルヴァイアルが頭部の特徴であるスリットから、ツインアイを鈍く光らせた。

この豪雨が止む気配は――――未だに、見えない。

『ヴィルティック・シャッフル』

第9話

スピリッツ 前

……完全に頭の中身がすっぽ抜けた。突然死ぬような痛みが走って、俺は抵抗も出来ずに気を失っていた。何があったかは分からない。
その痛みってのは今まで感じた事の無い様な、そう……痺れだ。静電気をもろに食らった時のあの痛みが、全身に来た。本気で死ぬかと思ったよ……。
とにかく俺は今何してたんだ? 頭を数回振って、俺は頭の中を整理する。何か色んな事があり過ぎて脳みそがパニック起こしてるみたいだ。
確かそう……俺はオルトロック……オルトロック? 自然に視線が、目の前の大きな亀裂から見える――――デストラウに向いた。

瞬間、寝ぼけていた俺の頭が一気に目覚めて、錯乱していた情報が纏まる。そうだ、俺は……!
球体に手を乗せ、俺はヴィルティックが動くイメージを必死に考える。早くあいつを止めないと……止めないと……。
……何で全く動かないんだ? 状況は最悪だが、ヴィルティックはまだ動ける筈だ! 俺か? 集中できてない俺が悪いのか?



「やぁ、鈴木君。目覚めはどうだい?」
虫唾が走るほどに能天気なオルトロックの声が聞こえ、俺は首を激しく周囲に動かした。って通信だったな。どちらにしろ腸煮えくり返りそうだが。
どう答えるべきだ? ここで頭に血が昇ってる様な感情的な反論は駄目だ。とりま冷静に返答して、奴の出所を伺う。

「……俺達に、いや、ヴィルティックに何をした?」
俺の質問に、オルトロックは気色の悪い笑い声を上げると、何時もの小馬鹿にした口調で返してきた。

「君は少しばかり悪戯が過ぎる。だからちょっと動きを封じてあげたんだ。私の話を聞いて貰う為にね」
「話? 話す事なんて何も……」
「聞いたじゃないか。この四面楚歌な状況で、君は一体どうするべきなのかと」

俺はハッとして思い出す。確か―――――オルトロックは俺に、如何するべきかを聞いたんだ。それで気付けばヴィルティックが身動きを取れなくなっていた。
そうか、精神的に沈んでいた俺は、オルトロックに返事もせずにパ二くっていたんだ。クソッタレ! この状況を招いたのは俺自身だってのかよ!
だけどどう答えるべきかなんて馬鹿馬鹿しい事は考えたくない。如何俺が答えても、オルトロックの好む方向に転がっちまうだけだ。
しかし状況はどう足掻いても絶望としか思えない。左腕が無い上に、頭まで持ってかれた。そのせいでさっきまで見えていたモニターには何も映らない。

見えるのは、真正面の亀裂から見える所だけだ。オルトロックのクソ野郎が思いっきり大剣を振ってくれたお陰で、亀裂の隙間はデストラウの全身が見えるほど大きい。
だがあくまで見えるのは正面だけだ。もしも背後、いや、右や左から攻撃されたら全く対応できない。やっぱり状況は最悪だ。
無理だろうが、戦うとすれば常に真正面で向き合うしかない。けれど真正面に立ち向かった時点で勝機なんて無い……よな。
どうする? どうするなんて言葉が浮かぶ時点で駄目だと思うが、俺の頭には正直、奴に抗う方法が思いつかない。カードだってどう使うべきかが浮かばない。

「……お前は何て答えて欲しいんだ?」
「ふむ、そう返してくるか。なら単刀直入に言おう。――――死んでくれ。自分自身の手で」

やっぱり……そういう事かよ……! 分かっちゃいるけど理解は出来ない。いや、したくない。
確かに俺自身の手で死ねば、あいつにとっちゃ万々歳だろうな。ヴィルティックも手に入るだろうし。けどそれは嫌だ。上手く言葉は出ないが、絶対に。
けど――――完全にヴィルティックは奴の掌の上だ。デストラウが本気になれば、一瞬で死ぬ事になる。八方塞でかつ、万事休す……か。
呼吸がまた荒くなってきた……。暑くない、むしろ凍える程に寒いのに、額から汗が止まらない。俺って汗かきだったか……?

「鈴木君、君の返答は?」

――――息が、詰まる。俺、本気で怖い。頭の中が空っぽみたいだ。本気で何にも浮かばない。ヴィルティックは動かないし、俺の頭も動かない。
ホントに詰んでるんじゃないか、これ。浮かんでくる。俺の目の前で、全てが消えたさっきの光景が。あいつは、オルトロックは全てを消し去りやがった。
俺はそれを、見てるだけしか無かった。俺は……俺は……。俺は一体……何なんだ?



「俺は……俺は……」
「ん? 聞こえないな? もっと大きな声で言ってくれ」

もう奴に対する怒りとか憎しみとかさえ、俺の中で萎えていくのが分かる。何もかも無くなっちまった。俺を成型する全てが。
俺と馬鹿騒ぎしてくれる友達も、何時もキツイけど充実してた生徒会も、帰るとホッとする家も、何時もうっとおしいけど――――安心できる家族も。
今の俺に何が残ってるんだ? 何も……何も無いじゃないか。守るモノが何もない。何にも……何にもねえよ! 支えにしてたモノが全部消えちゃったんだよ!

だけど……死にたくない。何も無くなっても、心の奥底じゃそう思っている。どこまで情けなくてヘタレなんだと思うけど、俺は死にたくない……。
何か返そうにも声が出ない。声を出せば、オルトロックに飲み込まれて殺される。けど何もしなきゃ、このまま……。
誰か助けてくれ……。こんな自分に対して腹を立てる気さえ、もう起きない。死にたくない。でも、今のままでは何も変わらない。
そんな事は分かってる。けどなんて言えばいいんだ? 矮小なプライドさえ、俺は捨てられない……。俺には死ぬ価値さえ無いんだ……。

「鈴木君、無回答なのはどういう意味かな? 君は自分の生き死にさえ、自分で決められないのかい?」

「ふむ……それじゃあもう一度体に聞こう。さっきは少し強すぎて失神させてしまったみたいだから、じわりじわりと効かせてあげよう。それじゃあいくよ」

オルトロックがそう言った途端、体に何かピリピリとした感覚が走ってくる。あれ、この感覚、さっき――――く! 俺は瞬時に歯を食いしばった。
痛い……体中に電撃でも当てらてるみたいだ。いや……当てられてるのか。腕がしびれてガタガタ震えてやがる。
体に聞くとか何キモイ事言ってんだと思ってたけどこういう事かよ……。どこまで……あぁ、くそ、いてぇ!

「君が答えを出せないなら、これからどんどん痛みは激しくなっていくよ。そうそう……

 君と同じ痛みを、メルフィーも感じている事を忘れないでくれ。私の言っている意味が分かるね」

……何、だって? メルフィーもこの攻撃を食らってるのか!? 何で……何でメルフィーまでこんな目に合わなきゃいけないんだよ!
お前の目的はあくまで俺だけの筈だろ! やめろ、止めろよ!

「止めろ! お前が殺したいのは俺だけだろ! メルフィーは関係」
「無い訳無いだろう。全く、君の甘さと頭の悪さにはあっちの世界でもイライラさせられたよ。ぶっ殺したくなるほどにね」

次の瞬間、気を失いそうになるほど、電撃が強くなった。どうにか……どうにかこうやってギリギリ自我を保ってるけど、もう、駄目だ……。
薄れていく意識の中で、俺はメルフィーの事を思い出す。そういや、事の発端はメルフィーだったな……突然俺の目の前に現れてさ。
未来を救ってくれなんて訳の分かんない事言いだして、ホントに何言ってんだこいつとか思ってたけどマジで未来人で……。
それで編に涙もろくて、敬語の使い方がおかしくて、会長が嫉妬するほどスペック高くて……。ホント、変な奴だった。



だけど、だけど未来を救いたいっていう気持ちは本気だって事は分かる。未来の話をしてた時のあの涙を、俺は忘れない。
俺はあの時ぼんやりと約束したんだ。未来を救うって。良く分からないけど、俺にしか出来ない事ならって。

――――分かった。俺には、まだ守んなきゃなんないモノがあった。未来ってのは……。
俺は痛みに負けないように唇を噛む。生暖かい痛みを感じる。クソッタレな痛みの中で、その痛みだけは鮮明に感じる。
疲れているせいか、声を出そうとしても喉がヒューヒューなる。俺は唾をぐっと飲み込んで、叫んだ。

「アルフ……アルフレッド! メルフィーを……メルフィーを脱出させてくれ!」

どうした? アルフレッド、どうして何も答えないんだ!? さっきみたいに、俺に何か言ってくれよ!
何も……何も守れなかったけど、メルフィーだけは……メルフィーだけは救いたいんだよ! 目の前の命を失いたく……無い!
アルフレッド! 返事してくれよ! おい!

「そうそう、すまないが言い忘れてた。バインド……いや、君を拘束しているそれにはもう一つ効果があってね。
 使用対象に余計な情報が入ったり、援軍の要請を頼めない様にCASを破壊するんだ。つまりもう……」

「て……てめぇぇぇぇぇぇぇ! どこまで腐ってやがんだ! どこまで腐ってんだよ、テメェ!」

電撃による痛みさえ緩む程、俺の頭の中がオルトロックへの怒りで満ちた。コイツだけは本気で殺す。絶対に許さない。
ヤバい……怒りのせいか、体が凄く暑くなってきた。いや、違う。多分血が沸騰してんだ。何時血管が切れてもおかしくないくらい。
畜生、このまま反撃すら出来ずに、目の前の命も助けられずに死ぬってのか……。畜生……畜生……!



「……して……ださい」

ふと、メルフィーの声が聞こえて俺は聞き返した。

「メルフィー!? 聞こえてるのか!? なら早くここから脱出するんだ! もう持たない!」

「いいえ……脱出するのは……隆昭さん……です」

「え?」

「隆昭さんさえ……生きて、くれれば……大……丈夫」

「何……何言ってんだよ! 俺なんてどうでもいいんだ! 君が生きてくれさえすれば、それで良いんだ! だから!」

「そうじゃ……そうじゃないんです。私の……私のお父さんは……貴方の存在が……世界を、未来を変えるからって……」

「でも……でもこのままじゃ、君は死ぬんだぞ! 俺はそれが一番嫌だ! 脱出してくれ、メルフィー!」

「今まで……短い……時間でした……が、学生に……戻れて……楽し、かったです……。あり……がとう……隆……」

メルフィー? メルフィー、返事を……メルフィー……。う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
救えなかった……また救えなかった! 何で、何でこうなるんだ! 何で俺は誰も救えない! どうして俺は……俺は……。

――――何も、感じない。痛みも、苦しみも、怒りも。世界が、白くなっていく……。遠く、オルトロックの高笑いが聞こえる。
終わりなんだな。これで、何もかも。何だろう、目から何か出てる……。守れなかった。見守る事さえ、出来なかった。
意識が、切れていく。両手の感覚が失せていく。ごめん、ごめんなさい、すみませんでした。俺は球体に手を置く。せめて、ここで―――――。



―――――どこだ、ここ。上下左右全てが真っ白な世界だ。天国かな。いや、案外地獄かもしれない。
何か感覚はある。一応地面に足がついてるし、掌も握れる。というか意識はしっかりあるから、夢ではないようだ。

「すまない。これだけ君を苦しませて」

聞き覚えのある声がして、俺は振り向いた。途端に視界がぼやける。というか、誰か立っているけどぼんやりしてて良く分からない。
声は誰かに似ているけど、何か思い出せない。どっかで……そう、聞き覚えがある声だ。

「だが、もう時間が無いんだ。君でしか、未来を救う事も、世界を変える事も出来ない。例えそれが、非常に痛みを伴うとしても」

未来を救うとか、世界を変えるとか無理だよ。だって俺は……。俺は、誰も救えなかった。同級生も、家族も、メルフィーも。

「それは違う。君の心が死なない限り、皆の死は無駄じゃない。君が生きるんだ。皆の死を背負い、未来を変える為に」

俺には、俺にはそんな資格も……権利も無い。俺にはそんな力が……無いんだ。皆を守れるような、そんな力が。

「――――君は、この力をどうする?」

……アンタ、まさか……。……俺は、守りたい。未来も、世界も。例え、あいつが言っていた様に人類にとって死神になろうと、俺は――――。


「分かった。君に全ての力を授ける。守ってくれ、未来を。そして――――メルフィーを頼んだぞ。

 過去の――――私よ」


後篇に続く

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