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第7話 デストラウ

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sousakurobo

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隆昭とオルトロック――――ヴィルティックとデストラウの激闘を、「魔女」は遥ノ市より幾分離れた、高層ビルの屋上の一角から眺めている。
「魔女」は笑みを浮かべているものの、激闘を映す目には笑みが見られず、戦況を見極めようとする静謐さが伺える。

「感情に任せて戦っているわね……やっぱり無理かも知れない、オルトロックに勝つのは」

そう言って「魔女」はため息を吐くと、赤いカードを大きな拳銃へと変化させる。無機質的なメルフィーとオルトロックの拳銃に比べて、装飾が派手なデザインだ。
銃身に金色のラインが複数入っており、銃口周りに不死鳥を思わせる模様が細かく施されている。「魔女」は拳銃をくるりと回して、トリガーを引く。
すると「魔女」の上空に、巨大な金色の魔方陣が現れた。続けて2発目を放つと、対外からは見えないが、魔方陣の中から何かがゆっくりと下りてくる。

「久しぶりね、ルヴァイアル」

空を見上げて、その何かに向かって「魔女」は微笑みを浮かべた。次第に雲行きが怪しくなっていく。すぐにでも雨が降ってきそうだ。
「魔女」は再び、ヴィルティックとデストラウに目を向ける。同時に拳銃をカードにして内ポケットに戻すと、何かに向かって伝える。

「助太刀する気は無いけど、もしもの時には動くわよ。まぁ……これも想定内だけどね」

『ヴィルティック・シャッフル』

第7話
デストラウ

人間には超えてはならない境界線がある。その境界線を超えられたら、人は我を無くして、感情のブレーキが利かなくなる。激怒ってのはその一例だ。
普通、そんな境界線を超える事なんてめったにない。それこそ目の前で親を殺されたり、大事な人が理不尽な暴力で傷つけられたり、そんなひどい事でもされない限り。
――――今の俺は、その境界線を越えてしまった気がする。オルトロック・ベイスン。目の前で悠然と俺達を待ち構えているこの男は、俺の目の前で大事なモノを喜々として奪っていった。

分かってる。冷静にならなきゃ奴には、オルトロックには勝てないって事は。だが……だがあいつは虫を潰すように……学校を壊し、皆を殺していった。
頭で分かっていても、俺の心はあいつに対して怒りを抑えきれない。戦えば戦う程、俺の中のオルトロックへの怒りは湧きあがってくる。
すまない、アルフレッド、メルフィー。俺は、俺には、大事なモノを奪われても冷静になれる……今の俺には、そんな事が出来る心の余裕は、無い。

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は球体を握りしめ、デストラウに向けてヴィルティックをすっ飛ばす。奴は――――オルトロックはヴィルティックライフルを地上に向けたまま微動だにしない。
それほどに俺達の事を馬鹿にしているのか? 確かに俺達……いや、俺は未熟だ。ヴィルティックの操作にはまごついているし、メルフィーの手を借りないと戦う事も出来ない。
だけどな……。大事なモノを奪われても、それを何もせずに見ていられる程、俺は……俺は!


ヴィルティックを急降下させて、デストラウの足元へと潜り込む。そして――――急上昇して、あいつを叩き斬る。今のスピードなら、恐らくあいつも対応できないだろう。
「メルフィー! 俺が機体を上昇させると同時にヴィルティックソードを振り上げるんだ!」
「分かった!」

デストラウは俺が攻撃を仕掛けようとしているのに何の動きも見せない。クソッ! 構える必要も無いってのかよ! 
肩から乗っかってくる重力に歯ぎしりしながら、俺はヴィルティックをデストラウに向けて急上昇させる。デストラウの目が、俺を見下げるのを見――――えた。
次の瞬間、デストラウを剣で下半身から縦斬りする。疑似デストラウを斬った時の爆発音が遠く聞こえた。機体を斬った時の重い感触もある。
やったのか……? ヴィルティックを一回転させて体勢を立て直す。そしてカメラアイを動かしてデストラウの姿を見極める。

……そこに浮かんでいたのは、デストラウの形をした雲の塊だった。ヴィルティックソードに斬られたその塊が次第に空へと溶けていく。
消えた塊の先には―――――手ぶらになったデストラウが見えた。変わり身……か? 驚嘆する俺を小馬鹿にするように、オルトロックの声がコックピットに響いた。

「いけないなぁ、感情的になっては。私が本気なら、君はもう死んでいたよ」
「……オルトロック!」

俺の中の怒りがふつふつと積もっていく。オルトロックがあのニヤついた顔で見下ろしてると思うと、怒りが沸騰して溢れてきそうだ。
デストラウは挑発するかのように人差し指を曲げると、旋回して町の方へと飛んでいった。挑発だと……挑発だと分かっていても、俺は乗る。
反射的に球体を滑らしてデストラウの後を追う。今の状態なら奴に追いつける筈だ。もし町に奴が行けば、今以上の惨劇が起こるに違いない。

『隆昭、残り20秒だ。冷静になれ。これでは奴の思う壺だ』
「分かってる……!」
アルフレッドにそう返すものの、俺は感情を抑えるつもりは無い。頭の片隅では冷静になれと言うもう一人の自分がいるが、耳を塞ぐ。
しかし如何すれば良い? ヴァースト状態になった所で、デストラウに傷一つ、いや、早くて触れる事さえままならない。俺の腕が未熟だからだろう。
だけど諦める訳にはいかない。このまま見逃せば、もっと沢山の人が死ぬ羽目になる。それだけは……何があってもさせない!

その時、ブラウザが開いてメルフィーが話しかけてきた。時間が無いんだが……。
「メルフィー?」
「隆昭、私に提案があります。……むしろ、これしかデストラウに勝てる方法は無いと思います」

設置されたパネル型の巨大時計が5時を指す。駅前――――人々が各々の仕事や学業を終え自宅に帰ったり、主婦達が買い物に勤しんだりと夕方だと言うのに賑やかである。
が、その賑やかさが何故だか次第に静かになっていく。一人、また一人がポカンとした表情で空を見上げる。何故見上げているかと言えば――――巨大な白と黒の影が、戦っているのだ。
一重にその白と黒の影は、異様に形がハッキリしており人々にはそれが――――ロボットに見えた。

「何だアレ……」
「映画の撮影……じゃないの? 凄い迫力だけど」
「ってちょっと待て、あの二つ……こっちに来てないか?」

誰かがそう言った途端、黒い影――――デストラウが急降下し、隣接されたビル群を高速で駆け抜ける。その風圧で人々が宙に投げ出され、駐車された自動車が横転する。
デストラウが通った後には道路にひびが割れ、次々とビルのガラスが連鎖する様に割れていく。賑わっていた駅前は一瞬で阿鼻叫喚の坩堝と化した
オルトロックはニッと笑うと、ビルの背後に回り込み、恐るべき事に鉄槌を加えた。崩落していくビルが、追ってくるヴィルティックに降りかかる。

ヴィルティックは雨の様に降りかかってくるビルの破片を紙一重で交わし、デストラウに斬りかかる。だが、デストラウには寸分も当たらない。
攻撃を仕掛けるものの、デストラウはまるでダンスを踊るかのようにヴィルティックソードの攻撃をかわしていく。まるでダンスを踊るかのように。
やがてデストラウは隙を突き、ヴィルティックにミドルキックを浴びせた。とっさの事に反応できず、ヴィルティックは後方のビルに突っ込む。
が、ヴィルティックは怯まず、すぐにデストラウにヴィルティックソードを構えて突貫する。――――が、それも空しくかわされる。

後部コックピット内、メルフィーは戦いながらも、頭の中に浮かんでくる――――ある記憶に苛まれていた。
それはあちら……正確には未来の世界での、凄惨な記憶だった。二度と思いだしたくない、そんな記憶だ。気を引き締めるものの、無意識にその記憶は浮かんでくる。
「勝たないと……勝たないといけない……」
メルフィーは自分に言い聞かせるようにそう呟く。彼女のモニターには、隆昭に情報を収集し提供する為に周辺の状況を映した個別のブラウザが映っている。
そのブラウザに映っているのは――――周辺の被害状況としてガラスやビルの破片で死んでいった人々の姿だ。メルフィーはそれを見、じっと眼を瞑るとパッと開けて意識を集中させる。


何度も攻撃を仕掛けるものの、まったくデストラウに当たる様子が無い。しかも油断していたのか、蹴りをくらってしまった。
何となく状況は分かっている。デストラウ……いや、俺とデストラウの戦いの余波で、周辺に飛んでも無い被害が起こっている事に。
避けれた筈の攻撃を食らってしまったせいで、俺はビルを……。……駄目だ、今はあいつを、オルトロックを倒す事を考えるんだ! 他の事を考えるんじゃない!

ブラウザで点滅するヴァーストの制限時間を見る。残り10秒しかない。どうにかしてデストラウに近づくんだ……ヴァーストが終わる前に。
ヴァーストを発動する前、アルフレッドは俺に絶対に留意しておく事として、こう言った。

『ヴァーストは強力なカードだがその分デメリットがある。1分間シャッフルシステムが使えなくなり、機体性能が通常時より格段に落ちるんだ。
 シャッフルシステムの使用規制も入れて5分間経たねば、通常時の状態まで戻る事が出来なくなる。

 良いか? もう一度言う。絶対にヴァースト状態でオルトロックを倒すんだ」

体感時間じゃ既に30分以上も戦っている気がする。だが実際には3分程度しか戦ってないんだ。そして俺は偽デストラウとの戦いで2分30秒も消費してしまった。
制限時間が7秒を切る。窮地中の窮地だからか、やけに時間の流れが遅く感じるみたいだ。メルフィーが必死に剣を振るが、全く当たらない。
残り5秒。俺はヴィルティックを上昇させながら、デストラウの真上で静止して――――メルフィーに叫ぶ。

「投げろ! メルフィー!」
俺の言葉に反応し、メルフィーがデストラウに向けて剣を思いっきりぶん投げる。戦術もクソも無い力押しだが、何も出来ないよりマシだ。
剣は吸い込まれる様にデストラウに向かっていくが――――俺は次の瞬間、自分の目を疑った。

デストラウの右手にいつの間にか、巨大で黒々と光る剣が握られていた、それも、両方が刃だ。その大剣が投げた剣を、易々と斬り裂いた。

「良い準備体操だったよ。さて、次は私の番だな」
オルトロックの声が聞こえた瞬間――――鈍く、鋭い音が聞こえた。カメラアイを動かすと――――左腕が、大剣に貫かれていた。
ウソだろ……。動け、動けよ! 俺は左腕を動かそうとするが、どれだけ深く刺されたのだろう、全く動かない。
モニターには、赤くカメラアイを光らせたデストラウが俺を睨んでいた。その迫力に、俺の両手がガタガタと震えて体が動かなく――――。

「隆昭! シャッフルして!」
メルフィーの言葉で我に帰る。そうだ、まだ……負けた訳じゃない! 俺は瞬時にメルフィーから教えられた事を思い出す。

「シャッフル!」
シャッフルシステムを作動させ、俺はそのカードを引く。残り3秒、まだだ、まだ間に合う!
モニターに向かって直接カードを突っ込む。間に合ったのだろう、モニターはカードを吸収した。アルフレッドが、カード名を告げた。

『トランス・インポート ヴィルティックランサー』

「当たれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」


それは、ほぼ一瞬の出来事だった。デストラウが専用武器であるバスターソード、グランファーを召喚し、ヴィルティックソードを真っ向から斬り裂いたのだ。
その光景に畏怖したのか、呆然と眺めるヴィルティックに向かって飛翔したデストラウは、ヴィルティックの左肩をグランファーで突き刺した。

グランファーの威力は伊達では無く、軽々とヴィルティックの左肩部の可動部分を破壊し、機能を停止させた。既にパーツは小爆発を起こしてショートを起した為か焦げ付いている。
続いてデストラウはヴィルティックの動きを止める為、零距離まで近づいた。気圧されたのか、ヴィルティックはデストラウに抵抗さえ出来ない。
一見完全にヴィルティックが劣勢の様に思えるが――――それは違う。デストラウにも、動きは見えない。

ヴィルティックの右手には――――刃の部分を青く光らせた巨大な槍が握られており、その槍は上向きに、零距離まで近づいたデストラウの胸を深々と突き刺している。
デストラウはグランファーを突き刺したまま動く様子が無い。頭部のカメラアイの色が赤から灰に変わり、やがて黒くなった。機能が停止したのだ。
ヴァーストの効果が切れ、赤い閃光を放っていたヴィルティックのラインが、次第に元の機体色である青色へと変わり開いた装甲板が次々と閉じていく。
機体性能がダウンする事により、ウイングの効用も消失する。背部スラスターから粒子を出しながら、ヴィルティックはゆっくりと地上へと降下していく。

地上に着き、ヴィルティックは恐る恐る、右手を離してグランファーから左肩を抜く。突き刺された左肩部はブランと下がっており、既に使い物にならないだろう。
改めてデストラウに目を向けると、槍が完全に貫いており、デストラウに動きそうな様子は全く見えない。何故なら、カメラアイが停止しているからだ。
そしてコックピット内、槍の尖端が、オルトロックの腹部に突き刺さっている。オルトロックは頭を垂れており、動く様子は無い――――。

終わった、のか……。モニターに目を向けると、槍……ヴィルティックランサーに貫かれて、動かなくなってデストラウが見えた。
これで……これで、オルトロックは死んだのか。いや、死んだだろう……。あんなのに貫かれて生きてるなんてありえない。奴が人間でもない限り。
もしあの時、メルフィーがあいつにギリギリまで近づいて、槍で攻撃するって提案を出してくれなかったら俺達は確実に死んでいたと思う。
本当に頭に血が昇りまくってたんだな、俺……。シャッフルシステムの事も何もかもが頭からすっぽ抜けていた。ただ怒りのままに、デストラウを追っていたんだ。

しかし……こんなにもあっけないもんなのか。アレほど最悪で強かったデストラウ……いや、オルトロックはもう、居ない。
これで……これで良かったんだな。俺は皆の無念を……皆の無念を晴らしたんだ。だから俺は……。

急に冷静になって俺はモニターに視線を向けた。闘いの中で崩壊した二体のビルが見える。一つはデストラウ、もう一つは……。
瞬間、学校でのあの光景が浮かんで、俺の中で強烈な吐き気を催した。どうにか吐かない様に耐えるが、俺の頭をあの光景がフラッシュバックする様にチラつく。
倒れたビルを見ると、何故かあの光景が浮かんでくる。俺は……違う、俺は皆を、街を守る為に戦ったんだ。だから……考えるのはよそう。

「隆昭?」
ブラウザが開いて、メルフィーが凄く心配そうな顔で俺に声を掛けてきた。俺は頭を振って、ビルから目を離す。
そして自分が出来る限りの笑顔で、メルフィーに返事を返した。

「あぁ、大丈夫だよ。……倒せたんだな、オルトロックを」
「えぇ……」
何故だかメルフィーの顔色が冴えない事に気付く。メルフィーなりに何か思う事があるんだろう。
こういう時は何て言えばいいんだろう。取りあえず礼を言っておこう。

「メルフィー、君の提案のお陰で勝つ事が出来たよ。本当に有難う」
俺はそう言ってメルフィーに頭を下げる。本当に有難うとしか言えない。

「いえ、私はあくまで提案を出しただけです。タイミングを見計らって行動した隆昭の功績ですよ。あと少しでも遅れていたら、危ない所でした」
「いや、君が提案してくれなかったら今頃……君の功績だよ、改めて有難う」

俺がそう言うと、メルフィーは顔を伏せて失礼しますと言ってブラウザを閉じた。……無神経だったかな。俺。

『良くやった。感情に任せて動いた事は感心しないが……何にせよ、デストラウを倒した。これで脅威は去った筈だ』

アルフレッド! 何も言ってくれなかったからどうしたんだろうって思ったよ。そう、デストウラは倒したんだよな……。
確かに感情に任せて動いたせいで、色々迷惑を掛けた。申し訳無い。今度から……って今度があるか分かんないし、正直あって欲しくないけどな。

「すまない、アルフレッド。……感謝するよ、色々」
『うむ。……一つ、確認させてくれ。君はこの力を……ヴィルティックをどうする?』
「え?」

全く予期してなかったアルフレッドの質問に、俺は思わず聞き返した。どうする? どうするってどういう意味だ?
どう答えるべきなんだろう……。俺は迷った挙句、頭に浮かんだ事を正直に話した。

『どう思う? 何でも良い、答えてくれ』
「俺は……俺はこの力を、正義の為に使いたい。これからどうなるかわからないけど……それだけは、一貫したい。未来を守るた」

「ふむ、良い答えだ。それじゃあ聞こう。正義の為に人を殺した感触はどうだい?」

瞬間、全身に鳥肌が立った。俺は自分の耳がおかしくなったのかと思い、両耳を塞ぐ。だが――――。

「言っておくが幻では無い。メルフィー、君はやはり甘いよ。何時になったらその甘さが捨てられるのかな?」


数分前――――デストラウのコックピットを、ヴィルティックランサーは貫いており、オルトロックの腹部を突き刺している。オルトロックはピクリとも動かない。
そしてオルトロックの両手は操縦桿から離れてだらりと項垂れては……いなかった。

少しずつ指を動かし、やがてオルトロックは操縦桿を力強く握る。そして口元をニヤリと歪ませて、顔を上げる。
オルトロックの体には、人間にあるべき筈の心臓や胃の様な内臓が、無い。代わりに、複雑に組まれた機械部分が露出している。
そして爆発時の火傷により焼けただれた顔には――――。人工的に作られた目が、赤い閃光を覗かせている。

オルトロックはズボンのポケットから、真っ黒に一本の赤いラインが入ったカードを取り出すと破壊されたモニターに突っ込んだ。

俺の目は、目の前の信じられない光景に釘づけになっていた。倒した筈のデストラウが、右腕を上げてヴィルティックランサーを引き抜いたのだ。
そして、ヴィルティックランサーを両手で勢い良く折って、ヴィルティックの方に向き直った。真正面に立つデストラウの姿を見て、俺は強烈なめまいに襲われる。

貫かれた穴が……凄いスピードで塞がっていく。何分もしないうちに、デストラウは元の姿に……完全に、戻った。
再生……再生したのか? 両手が尋常じゃないくらい震えている事に気付く。気付けば俺は、思った事を叫んでいた。
「どうして……どうして生きてるんだ、お前!」

「愚問だな。人間じゃないからだよ、鈴木隆昭君」

「人間じゃない……だと?」

「そのままの意味だよ。君のお陰で、私は人ならざる者になってしまったんだ。そう、君のお陰でね」

汗が滲んで、視界が曇る。声が出ない。両手が震えすぎて、まともに球体に触れられない。
どういう事なのか全く理解できない。訳が分からない。足元が浮ついて、何処にいるのか平衡感覚が危うくなる程、俺は混乱している。
だが――――オルトロックの声は容赦なく、俺の耳へと入りこんでくる。

「君は自分を正義の味方だと思っているようだが――――それは違う」

「君は私と同じ存在だよ。強大な力を好きな様に振り回し、喜々として殺戮行為を行う――――君も私も死神なんだ。人々の未来を狩る為のね」

「違う! 俺は……俺は……」

『……リペアか。落ちる所まで落ちたな、オルトロック』

「そうさせたのは貴方ですよ、アルフレッド……いや――――鈴木博士」

『私を恨むか……。欲望に目が眩み、技術をイルミナスに横流ししたお前に、それを言う権利は無い』

「それもこれも貴方が諸悪の根源でしょう? 貴方があの時決断していれば、こんな事にならなかったのです」

一転、アルフレッドの言葉に小馬鹿にした様な口調のオルトロックははっきりとした怒気を浮かべて反論した。
一瞬アルフレッドもオルトロックも重要なある言葉を言ったが、デストラウの再生を目の当たりにして、心底震えている隆昭に、その会話は入ってこない。


そうだ、メルフィー……メルフィーはどうしたんだ。俺はメルフィーに呼びかける。君の言葉を聞かないと、頭がおかしくなりそうだ。
「メルフィー、返事をしてくれ……メルフィー!」
何で……何で何で何も言わないんだ。メルフィー……返事をしてくれ、頼む……頼むよ……。

モニターに目をやると、デストラウが大剣を構えてこっちに歩いて来るのが見えた。
……全て、無意味だったのか。俺達の戦いは……全部……。呆然としている俺に、オルトロックの声が聞こえた。

「さて、殺し合おう。どちらが人類にとって、死神に相応しいかをかけてね」

「鈴木、隆昭君」


ヴィルティック・シャッフル
次回

ブレイカ―

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