創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第4話 スパイラル

最終更新:

sousakurobo

- view
だれでも歓迎! 編集
暑い……。暑すぎる。真っ赤な太陽が、俺の額を容赦なく照らしつける。作文用紙と対峙して30分。驚くべき事に1字も書けない。
野球部についてのレポートを書くには野球部と同じ環境下で書くべきだと考えた俺は、ベンチで野球部の練習を眺めながらペンを握っている。
分かってはいる。会長があからさまに俺を生徒会室から遠ざけさせる為に吹っかけてきた無理難題な事は。だがもし俺がこの課題を成功させれば……。
メルフィーの副会長入りが実現するかもしれない。ぶっちゃけ俺の要望が通る可能性は限りなくゼロだと思うし、俺は俺がやるべき事をしなければならない。

それにしても暑い……。野球部員ってタフなんだな。今更ながら実感したよ。

『ヴィルティック・シャッフル』

第4話:スパイラル

「さて……。時間も無い事ですし、早速貴方が副会長に相応しいかを話しあいましょうか」
そう言いながら氷室はメルフィーににこやかな笑みを向けた。氷室本人はにこやかなつもりでも、そこには言いしれる感情が表れている。
凄い威圧感……。メルフィーはその笑みに若干の居心地の悪さを感じながらも、頷き、生徒会室へと足を踏み入れた。

「そこの空いている鈴木君の席に座ってちょうだい。あ、そうそう、木原さん」
メルフィーが鈴木の自席に座ると同時に、氷室は作業中の木原に声を掛けた。木原が顔を上げる。

「貴方もちょっと席を外して貰っていていいかしら? そうね……先生と一緒に最近の部活動の決算状況について話し合いなさい。嫌に出費多いから」
木原は一言、分かりましたと答えると机の上のノートを持ち、生徒会室を退出した。鈴木と木原がいなくなり、実質生徒会室にはメルフィーと氷室のふたりだけだ。
氷室は自席に座り、机の上の書類をどけてメルフィーの方に向き合う。メルフィーも氷室の方に顔を向ける。

「まず……副会長の復活について望んでいるのは貴方? それとも、鈴木君かしら?」
両手を組み、メルフィーに軽く睨みを利かせながら氷室は冷静な声で聞いた。メルフィーは小さく頷き、返答する。

「私自身の意思です。この学校を少しでも良くしたいと思って。副会長が欠員である事を鈴木君から聞いて、今回の考えに及びました」
じっと目を逸らさずに返答するメルフィー。だが氷室は先程から、メルフィーに奇妙な「違和感」を感じていた。
それは今回の副会長復活の件もだが、メルフィーという人間自体にである。氷室は生徒会長としてある程度、メルフィーについての情報を耳に挟んでいるのだが……。

メルフィー・ストレイン。幼少時から海外出張を行う両親と共に世界30ヶ国を周り、5ヶ語をマスター。なおかつ両親はかなりのエリート。
この学校に来る前に在籍していた学校では、全てトップの成績でかつ、驚くべき事にTOEICや漢字検定等の資格検定は全て上段を取得。特技の欄が埋まっているらしい。
顔も言わずもがなで、ここはあまり関係ないが、自分と同じく年相応とは言えない程のプロポーションの持ち主だ。全てに置いて隙が見えない。まるで……。
そう、まるで自分の様に完璧な人間だ。銀髪という事も妙に気に入らない。そんな人間が副会長になりたいと申してきた。

正直、そう正直氷室は危機感を抱いている。認めたくは無いが、これほどの人材を逃すのは愚か者のする事だ。絶対に生徒会に対してこの子は大きなプラスになる。
しかし、もしもメルフィーが生徒会に入れば、自分を凌駕してしまうのではないかと。そう考えると、意地でもメルフィーを副会長にする訳にはいかない。
氷室はしばらくメルフィーに視線をぶつけると、一度目を瞑り、一息吐き、目を開いた。

「そう……それじゃあその熱意を聞かせて貰うわ」

「その副会長を必要とする理由を……教えてくれないかしら? そうね……1時間ほど」
氷室自身、今自分が言っている事が明らかにふざけた事なのかは分かっている。しかしこの子を易々と入れる程、私はお人よしじゃない。
私自身無理なのに、今日転校してきたこの子がそんな事を出来る訳が無い。意地が悪いとつくづく思うが、こんな戯言に付き合っている時間も暇も今の私には無い。
ごめんなさいね、メルフィーさん。貴方ならきっと良い学園生活が送れるわ。生徒会に入らなくてもね。

「あの時計で5分を指したらスタートよ。もし少しでも詰まったり、言葉が出てこなかった時点でこの話は無効よ」
氷室が顎で掛け時計を指した。メルフィーは表情を崩さず、掛け時計に目をやる。後10秒で長い秒針が5分を指す。3……2……1……秒針が、5分を指した。

「まず私が思うに今の遥ノ川高校には、生徒全体の協調性が足りません。私が副会長を望む理由はまずそこからです」
はっきりとした声と、凛とした表情でメルフィーが副会長が必要な理由を述べはじめる。氷室はそれを聞きながら、どうせ後数分経てば言葉に詰まると踏んだ。
その時にゴネても絶対に通さない。そもそもこんなふざけた戯れに付き合ってあげている私に感謝して欲しいくらいだ。まぁ、その時が来たらキツイ一発でも浴びせてやろう。

気付けば氷室はただただ、メルフィーの答弁を聞き続けていた。氷室自身が気づかぬうちに、メルフィーの答弁にのめり込んでいるのだ。
メルフィーの話は実に理知整然としており、なおかつ正論でたまに共感できる部分もあり、なおかつ詰まる事も無い。
ふっと氷室は我に帰り、掛け時計に目を移した。数分どころか、既に30分もメルフィーは喋り続けている。氷室は慌てて、メルフィーの話を止めた。

「分かったわ、メルフィーさん。貴方の熱意は十分。それにしても驚いたわ……。まさか30分間も喋り倒すなんてね」
それに内容もちゃんとしている。頭の回転が速い事は分かったが、ここまで出来るなんて予想だにしなかった。

「それにしても……これはテストじゃなくて純粋な疑問。どうして生徒会に……むしろ副会長になろうとなんて考えたの? 他の役職だったら来年になれば空くわよ?」
氷室の疑問に、メルフィーはにっこりと柔らかい笑顔で答えた。そこには一切の裏が無いように。
「もちろん、この学校の力になりたいからです。生徒の皆さんが、楽しい学校生活を送れま」

「嘘」

メルフィーの言葉を、氷室が鋭く遮った。メルフィーの表情がはっきりと曇るのを、氷室は見逃さない。
氷室はメルフィーに言葉と共に鋭い目線を向けながら、二言目を発した。

「貴方には何か目的がある。生徒会に入りたい理由が。その理由を話して貰わないと、ちょっと許可できないわね。この件は」



駄目だ……暑さのせいか俺の文才が無いか、あるいはこの二つか、全く筆が進まない。時間だけが残酷にもコチコチ進んでいく。
大体レポートって何を書けば良いのだか。選手の調子とか道具の状態とか? 会長なら間違いなく、自分で考えろって言うだろうな。
そうだ、室内のスポーツだったら何か浮かぶんじゃね?と思い、野球部から柔道部に移動した。体育館近くの柔道場に入り、見学間際レポートを書かせて貰おう。
まー飛び散る柔道部員達の汗、汗、汗。すげえなぁ。こっちは暑さと別ベクトルでキツそうだ……。しっかし俺はつくづくインドア派だな……。

「おらぁ! 攻撃しろ攻撃! 攻撃は最大の防御だぞー!」
柔道部の顧問がメガホン片手に、部員達を激励する。熱いな……。熱いし暑い。あぁそうか、この暑さは柔道員達のむせかえった……何言ってんだ俺。
あークソ、全然筆が進まない。でも攻撃は最大の防御ってのは何か良い言葉だな。一応書いておこう。……やっと1字、いや8字書けたぞ、うむ。

そういや……購買部はもう閉まってるから、近くのコンビニ程度への外出は許可されてるんだよな。まぁ飲み物買うだけなら自販機が何個かあるけど、何か涼みたい。
顧問の人に断って作文用紙と作文用紙がたっぷり入った紙袋を置き、俺は学校近くのコンビニへと向かう。いやぁ、なんだか身が軽いわ。むしろ作文用紙ってあんなに重かったのかと思う。
そういや、メルフィーの方は大丈夫なのだろうか……。会長のドSっぷりは半端無いからな……。変な事になってなきゃいいけど。俺に飛び火するし。

「その質問は……どの様な意味でしょうか?」
再び笑顔を作り、メルフィーは氷室に質問を返す。氷室はメルフィーに視線を向け続けながら、表情を変えずに言った。
「質問に質問で返すのは感心しないわね。……俗的な言い方をすれば、貴方には裏があるの。その綺麗な理由の裏にあるそう……本心がね」

「裏だなんてそんな……私は本当に学校の為を思って副会長になりたいんです。」

氷室は立ち上がり、メルフィーの近くまで歩く。そして机に手を乗せると、座っているメルフィーの目を覗きこむように顔を寄せた。
「貴方の事は生徒会長である以上、少しは知ってるわ。大した経歴の持ち主って事を。それで率直に言わせてもらうわ」

「それほどの人が生徒会に入っても、大した功績にはならないわよ。せいぜい生活態度面でプラス評価になる程度でね。まぁ無いより合った方が良いけど
 正直、貴方程の人が生徒会に入らなくても良いんじゃないかしら? 進学面なら十分間に合うわよ。素行が悪くならなきゃね」

氷室とメルフィーの視線がぶつかる。氷室が何を言わんとしているのか、メルフィーは何となく分かる。が、まだ口にしない。

「……ぼかして言っても分かんないだろうからぶっちゃけて言います。貴方が入っても、生徒会に仕事は無いわ。私が全て管理してるから。
 何もしない役員を副会長とは、先生は認めないと思うし……それでも貴方が入るというなら」
「入ります」

その時間、僅か0.5秒。氷室の眉が両方吊りあがった。一瞬メルフィーの言っている事が理解できず、氷室は聞き返した。

「えっと……何?」
「私、それでも副会長として生徒会に入ります。……隆昭の近くに入れるなら」
氷室はしばしポカンと口を開けると、メルフィーがいった最後の言葉の意味を頭の中で繰り返した。隆昭の近くに入れるなら……隆昭の近くに……。
……あぁ、そういう事? そういう事なの? 氷室の肩に強烈な脱力感が圧し掛かる。そこまで副会長になりたがってた訳は……そういう事なのかと。

自然に、氷室の口から乾いた笑い声が漏れてくる。なんだかプライドを保っていた自分が馬鹿みたいだ。
笑いだした氷室に、メルフィーが疑問符を浮かべた。メルフィーはため息を吐くと、苦笑交じりにメルフィーに言った。

「良いわよ。貴方の副会長入りの件、私が先生に報告しといてあげる。ただし、副会長になった限りは私に死ぬほどこき使われて貰うわよ。良いわね?」

氷室の言葉にメルフィーはキョトンとすると、次第に目元が緩んできて――――ぽろぽろと涙を流し始めた。
メルフィーの反応に氷室は戸惑った。まさか泣かれるなんて思わなかったから。

「ちょ、ちょっと! 何で泣いてんのよ、まさか嬉しくないの?」
「いえ……あの……私、ちょっと何かあるとすぐに泣いちゃうんで……」

涙もろい……か。こりゃあ男子からも人気が出るわね。氷室は内心厄介なライバルが出来てしまったと後悔する。
それにしても……。なんでメルフィーさんは私と同じ、銀色の髪をしているんだろう。外国人である事は分かるけど……というかホント、どこか似てるわね、私達。
そう言えば、氷室は今一番、聞いておかなければならない事を、メルフィーに聞いた。

「それでメルフィーさん、鈴木君とはどういう関係なの? そう言えば、今回の件は彼が持ち掛けてきたわね」

数分ほど泣き続け、ハンカチで目元をぬぐったメルフィーは、氷室の質問に頷くと、真剣な口調で言った。

「……他言はしないと約束してくれますか?」
「分かってるわよ。私の口は堅いから安心しなさい」

氷室がそう答えると、メルフィーは目を閉じた。そして頭を二回、ポンポンと叩く。瞬間、メルフィーの頭からピョコッと狐耳が出てきた。
思わず氷室が後ろにのけぞる。何時ものクールな氷室らしかなぬ、はっきりとした驚愕の表情が浮かんでいる、

「え、な、何それ!? あ、貴方、マジックまで出来るの!?」
ぎょっとして大声を上げた氷室に、メルフィーに口に人差し指を立てた。氷室は慌てて、口を手元で抑える。
メルフィーは氷室に視線を向けたまま、通信機を起動させ、氷室へと呼びかける。

<私の声が聞こえますか? 氷室さん>

「え、何何? 腹話術? ……説明して貰いたいんだけど」

<はい。貴方を信頼できる仲間としてお話しします。私と――――隆昭さんとの関係を>


コンビニって良いねぇ。人類が生み出した最高の文化だよ。さっきまでのW炎天下から逃れて、俺は今コンビニというオアシスに居る。
だがここにずっと居る訳にはいかない。今こうしている間にも、メルフィーは会長に試されているんだ。俺だけが楽をしている訳にいかんだろう。
飲み物も買ったし、結果が出るまで頑張りますか。そういや、木原さんが居たな。後でメルフィーと会長がどんな話をしてたか聞いてみよう。

コンビニから出て学校へ戻ろうと歩きだした矢先、誰かに右肩を叩かれた。何だ? 草川か?
「はい?」
振り向くと、そこには草川の阿呆面は無く、代わりに真っ黒い服が見えた。服というか……コート? てか、誰です?

「ちょっと良いかな。君、遥ノ川高校の人だよね?」
俺は一歩引いて、声を掛けてきた人に対してちゃんと振り向く。日本語だから……ん、でも妙なアクセントがあるな。外国人か?
こんな猛暑なのに真っ黒いコートとか我慢大会でもしてるのだろうか。視線を上に上げ……美、美形だ! そこには凄い美形の外国人が立っていて頬笑みを浮かべていた。
若干白毛交じりの黒髪が片目にかかっていて、もう片方はすげー綺麗な青い目をしている。鼻立ちがすらっとしていて切れ長の口。
体型ががっしりしてるから男なんだろうけど……。マジで女の人かと思った。てか失礼な事を言った。俺は外人さんに頭を下げた。

「ご、ごめんなさい! いきなり声掛けられたからびっくりしちゃって……。ええっと、何のご用件ですか?」
俺の憮然とした質問に、外人さんは優しい頬笑みを浮かべたまま小さく頷いた。あぁ、この人良い人だ……多分。
「この近くに遥ノ川高校ってあるよね。ちょっとそこに用事があって……良ければ道案内して欲しいんだ」


メルフィーは氷室に全てを話した。自分が未来から来た事、未来ではブレイブグレイブが流行り、それが世界を戦禍に巻き込んだ事、そして――――。
鈴木が世界を、未来を救うために必要な事を。そしてメルフィーはカード、パイロットスーツからのトランスインポート、ホログラムなどの技術を氷室に見せる。
自らが未来人である事を証明する為に。全ての話を聞き終わり、氷室は未だに半信半疑といった感じで唸った。とは言え、メルフィーと既に通信機で話し合っているが。

<正直信じがたいわ……。何というか、突拍子が無さすぎるもの。多分鈴木君もそう言ったと思うんだけど。けど、一つだけ分かるのは、貴方が生徒会に入りたい理由は一つ>

<はい。隆昭さんに何時危険が迫っても対応できるようにです>

<それならもっと効率の良い方法がありそうだけど、まぁこんな話を周囲の人間に話したら大変な事になるわね。貴方の考えてる事は大体分かったわ>

<とは言え、本当にあの鈴木君が未来を救えると思うの? はっきり言って取り柄も何も無い、何処にでもいる平凡な男よ? 私にはどうしても救世主には見えないわ>

<……私は信じています。彼が未来を救ってくれると>

<……実は貴方、鈴木君の事が好きなんじゃないの?>

氷室の疑問にボっとメルフィーの頬が赤くなった。

<い、いえ、違います! 私は別にそういう不純異性行為的な考えはありません!>

<何よその造語は……。てゆーか意外ね。そういう顔だし、結構経験豊富かと思ってたわ>

メルフィーの反応に苦笑しながら、氷室はどこかメルフィーの話に奇妙な感覚を抱いていた。それは何故に鈴木隆昭が、そんな途方もない役目を負わせられたという事。
馬鹿にしている訳でも何でもなく、鈴木隆昭は本当に何処にでもいる普通の男子学生だ。そんな彼に、メルフィーの父親は未来を託したのだ。
鈴木隆昭でないと絶対に出来ない事なのだろうか。全人類の未来を――――救うという事が。まぁ良い。今度鈴木本人に聞いてみれば良い話だ。

「それじゃあ鈴木君と木原さんを生徒会室に来るように放送入れてきて貰うから、ちょっと待っててくれる?」

氷室の言葉に、メルフィーは今度は作り物では無く、素の笑顔でこたえようとした矢先――――。
あの男の感覚が、頭をよぎった。まさか――――まさか本当に、この時代に来たの? もしも本当に来たとすれば、隆昭が――――。

「メルフィーさん?」

突然イスから立ち上がったメルフィーに、氷室が目を丸くする。
「要望を聞いていただき、本当に有難うございました。……明日から宜しくお願いします」
そう言ってメルフィーは氷室に深くおじきすると、静かに生徒会室から退出した。氷室は感づく。何かあると。


それにしてもホントに背高いな、この外人さん……。なんつうか俺とは体の構造が違うなー。俺が5等身だとすれば、この外人さんは8、いや、9等身くらいある。
目鼻立ちがホントに違うもんなー。俺もこんな顔なら喪盟……いや、何でもない。
けど、そんな外人さんがうちの学校に何の用事があるんだろう。ELTの先生はいるし……。外部からの講師とか? それだったら何かしら連絡があるよなー。

聞いてみるか……? 失礼にあたるかな。でも聞きたいな……ええい、ままよ!
「あの……良ければ教えてほしいんですけど……遥ノ川高校にはどんな用事があるんですか?」

外人さんは微笑みながら、優しい声で答えた。そういや顔立ちやスタイルだけでなく、声もイケメンさんだなー、この外人さん。
「ちょっと昔の教え子がいてね。日本に来た手前、顔を見たくなったんだよ。」
「教え子さんがいるんですか! どんな人なんですか?」

「そうだなぁ……」
ふっと外人さんが足を止めた。あり、どうしたんだろう。もうすぐ学校に入れるのに……あぁ、そうか。部外者は一応許可取んなきゃいけないんだった、

「あ、ちょっと待ってて下さい。今ちょっと先生に説明して来ますんで」
俺はそう言って外人さんに頭を下げ、学校へと走り出す。てか俺なんか大事な事忘れてる気がするけど……まぁ後で思い出すだろう。
あ、そうそう、肝心な事を忘れてた。外人さんの名前だ。俺は振り向いて、外人さんに名前を聞いた。

「あ、そう言えば名前……」

何で……銃なんて構えてるんですか? それも偉くデッカイ……。え、え? どういう……。

「私の名前かい? 私の名は、オルトロック――――」

「隆昭! しゃがんで!」

パリーンと、ガラスが割れるような音がして真正面を向くと、メルフィーがそう大声を上げた。俺はその場に反射的にしゃがみこんだ。
目線を正面に向けると……何故かメルフィーは、外人さんが持っている銃に似た物を構えていた。色は白いが……。そして銃のトリガーを……な……何してんの……?
数秒後、バタンと後ろで倒れる音がした。振り向くと、外人さんが仰向けになって倒れて……。……何だ? 何なんだよ、これ! 訳分かんねえよ!

メルフィーがしゃがんでいる俺の手を引っ張っる。俺は事情を飲みこめないものの、その手に引っ張られる様に立った。
何だろう、全く状況が把握できない。学校に道に迷ってる外人さんを連れてきたと思ったら、その外人さんに狙われて、その外人さんを、メルフィーが……。

<ごめんなさい、来るのが遅れて……>

<メルフィー、まさか……まさかあの外人さんを……う、撃ったのか?>

メルフィーは答えない。そんな……そんな事って! と、メルフィーが俺の手を引きながら走りだした。

<……何で、何でそんな事をしたんだよ! 人……人殺しだぞ!>

<今は事情を説明している暇はありません。一緒に逃げて下さい>

<……くそっ!>


メルフィーが生徒会室を出てから全く戻ってこない。それ所か放送を入れたにもかかわらず、木原も鈴木も戻ってこない。
全く何をしているんだか……。メルフィーは多分鈴木を探しにいき、その鈴木は恐らく……油を売っているのだろう。木原は分からない。
「全く……どいつもこいつも」
溜息をついて氷室は椅子から立ち、三人を探す為に生徒会室から出た。何故だか自棄に廊下が騒がしい……。何か揉め事でもあったのだろうか。

校門前――――オルトロックは微動だにせず、目を閉じている。その姿はまるで死んでいるようだ。実際、オルトロックのコートにはメルフィーが売った銃の弾丸がめり込んでいる。
だがその弾丸は、彼の体内へとずぶずぶと吸収されるように消えていく。オルトロックはゆっくりと目を開けると、仰向けになったまま、懐から取り出したカードを握り潰した。
その瞬間、オルトロックの周辺を覆っていた透明な円形のフィールドが消えていく。オルトロックはコートをはたきながら、静かな口調で言った。

「その甘さが君自身を殺すんだ、メルフィー」

そう言いながら首筋をほぐし、オルトロックは愛銃――――デストラウのトリガーを地面に向けて引いた。



どれだけ走ったんだろう。俺とメルフィーは気付けば、学校の裏山まで来ていた。色んな部活動がロードワークで使ってるが、今は誰も走っていない。
メルフィーも疲れたのか、息を荒げている。俺はそれ以上に息を……いや、息とかどうでも良い。

「……殺したのか?」

メルフィーは何も答えない。

「あの……あの外国人を、殺したのかって聞いてるんだ」

自分自身何を言ってるかは分からない。だけどそれだけは聞きたい。でないと――――俺はメルフィーの事が信じられなくなりそうだからだ。

「……彼は、あの男は、私達の敵です。もし私が撃たなければ……隆昭、貴方は確実に死んでいました」
「だからって! だからってあんな……くっ」

何と言えば良いか浮かばず、俺は近くの木を殴りつけた。俺のひ弱なパンチじゃ揺れるどころか落ち葉も落ちてこないけど。
頭の中で薄々気付き始めている自分に怖い。多分これが……これが、メルフィーが言っていた……危険、何だろうな。
俺の日常ってのは本気で……本気で壊れ始めてるのか? もう……前みたいな日常には戻れないって事か?

「……落ち着きましたか?」

「……説明してくれ」

メルフィーはどこからかカードを取り出した。するとぼんやりとホログラムが浮かんできて、次第に形がはっきりとして来た。
……その形に、俺は息を飲んでいた。そこに浮かんでいるのは――――俺に道を聞いてきた、あの外人さんだった。

「彼の名はオルトロック・ベイスン。イルミナスの幹部であり……私が所属していたグループのリーダーでした」

「リーダーって……」
「……私が、師と仰いだ人です。今では……」
「……分かったよ。それ以上は良い」

よりによってメルフィーの教師みたいな人が敵に回るなんて……。なんつうか最悪だ。色んな意味で。
と言うより、俺は何も知らずにその外……いや、オルトロックを学校に連れてきてたってのが……。

その時、地面が大きく揺れ、俺もメルフィーもその場に膝をついた。その揺れはしばらく続くと、ピタリと収まった。
俺とメルフィーの目が合う。多分思っている事は同じ――――。

直後、今まで聞いた事の無い様な破壊音が聞こえた。例えるならビルが……。ま……まさか……。
俺の膝が力無く地面に落ちる。嘘、だろ……、そんな、そんな事って……。

「俺の……俺のせいだ。俺、が何も知らないで……」

頭の中であの夢が蘇る。何も出来ず、俺の目の前で、大事な人達が死んでいく……。だけど俺には何も出来ない。
というより……俺が、俺が招いたのか、それを。何やってんだよ……俺。
どうすればいいんだ。俺が出来る事、俺が出来る事は何だ? そうだ、救うんだ。皆を、皆を救わなきゃ!
俺はガチガチ震えている足を立たせて、学校に向かう為に走ろうと――――何だよ、何で邪魔すんだよ!

「離せ! 早く行かないと、皆死んじゃうだろ!」
「落ちついて下さい!」
「落ちつけるかよ! 今まさにあの……あのオルトロックって奴に皆……皆殺されちまうよ!」

「隆昭!」

瞬間、メルフィーが俺の手を思いっきり引いて正面に向かせると、――――思いっきりビンタした。

「話を聞きなさい!」

まさかのビンタに俺の目は嫌でも覚めた。メルフィーの顔がしっかり見える。

「貴方は……貴方は絶対に死んじゃいけないんです。貴方が死ぬ事は、未来が消える事と同じ事なんです。だから……だから私の話を聞いて下さい
 貴方が大切な人を守りたいと思うように、私も――――貴方に死んでほしくありません」

そう言ったメルフィーの目には、涙が零れていた。何で……何で、お前が泣くんだよ……。
むしろ泣きたいのはこっちだ! 訳の分からないまま未来人を受け入れて、変な外人に学校壊されて……。
俺の方が泣きてえよ……。だから……あぁ、もう! 分かった、分かったよ!

「メルフィー、どうすればいいか教えてくれ! あいつを……オルトロックを止める!」

「この銃を地面に向かって撃てばいいのか?」
俺がそう聞くと、メルフィーは大きく頷いた。正直もう色んな意味でぶっ倒れそうだが、どうにか精神を保っている。

メルフィーによると、ヴィルティックはこの白い銃を二回撃つ事で召喚される……らしい。正直すっげぇ怖い。
「はい。その後に足元に召喚コードが出てきますが、臆せずトリガーを引いて下さい」
「……その召喚コードってのは危なくないよな?」
「……外には出ないでください」

あぁ、手が震えてきた……。だけど……だけど、これでしか皆を救う方法が無いんだ。
俺は覚悟を決め銃を下に向けた。手がガタガタ震える……。俺は歯を食いしばり、グッと銃を持つ手に力を込め――――トリガーを引いた。

次の瞬間、俺とメルフィーのいる位置に、ぶわ―と変な模様……というか、魔方陣みたいなのが広がる。

「……これは?」
「召喚コードの第一段階です。もう一度、トリガーを地面に向けて撃って下さい」

思っていたより魔方陣に怖さは感じない。真っ白い魔方陣は俺達を照らす様に青白く輝いた。
何か周囲にぼんやりと、同じく青白く光る壁みたいなのが、円となってグルグル回ってるのに気付く。

……もしもこのトリガーを引いたら、俺はもう二度と、平和な日常って奴に戻れないと思う。
本当に……良いのか? 俺の人生をこんな所で決めて……まだ何も残せちゃいないのに。もし……もしも死んじまったら……。

<隆昭>

気付くと、メルフィーが震えていた俺の手を握ってくれている。その時のメルフィーの目は偉く澄んでいて――――俺の事を信じている様に見える。

周りの壁が高速で回転しだす。俺はグッと目を閉じ、銃を上に向けてゆっくりと魔方陣にむけ、トリガーを引きながら――――目を開けて、叫んだ。

「力を……力を貸しやがれ! ヴィルティック!」



                                         予 告

              無慈悲な破壊行為を繰り返し、人々を恐怖の渦に巻き込むデストラウに、遂に覚醒したヴィルティックが立ち向かう。


         メルフィーと戦闘補助システム、アルフレッドから戦い方を教わる隆昭に、デストラウ――――オルトロックの熾烈な攻撃が容赦無く襲いかかる。             

                    明らかに不利な状況の中、隆昭が引くカードは? そして、デストラウの恐るべき実力とは――――。

                                次回、『ヴィルティックシャッフル』

                                        シャッフル       

                               その「カード」を引く時、「未来」は訪れる
 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
+ ...

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー