創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第2話 エンゲージ

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sousakurobo

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だれでも歓迎! 編集
太平洋――――一そこに一隻の旅客船が悠々と運航している。甲板のラウンジには、ドレスに身を包んだ女性達と、優雅なスーツを着こなす男性達が談笑を愉しむ。
船内では煌びやかなシャングリラの下で、絢爛なダンスパーティーが行われている。誰もが皆――――幸福そうな表情で。

その誰もが――――ラウンジにいる人々でさえ気づく様子が無いが、上空に禍々しい紫色の一本線が走っている。
その一本線は、真ん中から楕円型に広がり、やがてその線は、まるで人の目を連想させる形と成った。その目の言うなれば瞳孔の部分から、一人の男が落ちてきた。
落下しているにも拘らず、男はただじっと、目を瞑っているだけだ。すると男は懐から、一枚のカードを取り出す。
男の眼下にラウンジが見えてくる。このまま落ちれば間違いなく男はただでは済まない。と、男が目を開き、静かに呟いた。

「トランス・インポート」

次の瞬間、カードから大きく角ばった拳銃が浮き出る。男が掌を広げると、その拳銃が実体化した。男がその拳銃の銃口を真下に向け、トリガーを引く。
すると銃口から青色に光る銃弾が射出され、音も無く地面に着弾する。着弾した場所には奇妙な魔方陣が広がっている。
男がその魔方陣に向かって着地した。男の姿に気付いた人々の間でざわめきが起こるが、男には一切慌てる様子は無い。むしろ周りを一瞥し、小さく微笑むほどの余裕だ。

男が立ちあがると、魔方陣が瞬間的に収縮し、大きく広がった。男の足元で広がった魔方陣に、人々が一気に慄きパニックに陥る。
騒ぎを聞きつけた黒い服の男達がラウンジに昇ってきて男を囲む。男は黒服達の話している言葉に耳を傾けると、言った。

「……なるほど。そういう船か。せいぜい今の自由を噛みしめておいた方が良い。君達に未来は……無いのだから」

男はそう言ってはっきりと口元を歪ました。黒服達が互いに合図をしながら、男にじりじりと近づいていく。
やがてその内の一人が大きく頷いた。黒服達が男を捕まえる為に、魔方陣へと足を踏み入れた。しかし男は黒服達の事を全く気にする様子も無く、拳銃を天へと向ける。
すると、魔方陣がゆっくりと回りだし、やがて高速で回転しだした。同時に青く透明の壁が浮き出て、黒服の男達は勢い良く弾き出した。
魔方陣が回転しながらその範囲を広げていく。人々がその異変に慌しく船内へと避難する。響く悲鳴と怒号。やがて男は天へと向けていた拳銃を真下の魔方陣に下ろし、再度トリガーを引いた。

「出てこい、デストラウ」

次の瞬間、魔方陣の中から、腕を組んだ巨大な「何か」が這い上がって来た。
男は「何か」の頭頂部に乗って拳銃を回すと、太平洋を悠然と眺めている。「何か」によって旅客船が破壊されていき、人々が阿鼻叫喚の悲鳴を上げる。
「何か」の姿は非常に巨大でかつ、悪魔的ともいえる姿を見せている。だが生物的なフォルムではなく、むしろその姿は無機質な――――。

「ロボ……ット?」
逃げ遅れ、腰を抜かした一人の男性が、驚愕に満ちた表情でその「何か」を見上げてポツリと呟いた。

「ご名答」
男は残虐さに満ちた目で男性を睨むと、「何か」の掌で男性を――――。魔方陣から完全に這い上がって来た「何か」は手当たり次第に旅客船を破壊し出す。
魔方陣と青い壁が、「何か」の登場と共に音も無く消えていく。何の躊躇も無く人々の命を奪い、旅客船を藻屑へと変えていく「何か」の姿はまさに――――悪魔その物に見えた。

「もう良いぞ、デストラウ」
男が「何か」、いや、デストラウに向けて宥める様にそう言うと、デストラウはぴたりと動きを止め、両腕を組み、深く俯いた。
すると、人間で例えるのならば、うなじの部分が機械音を立ててスライドした。男が滑り込む様にその部分へと入りこむ。
男が滑り込んだ先には黒色のコックピットシートがあり、男は飛び乗るようにシートに座った。

シートに座った瞬間、男の目の前で上下左右にモニターが作動し、最早原形を留めず、無残な姿の旅客船と太平洋が映し出された。男の表情には何ら感情が見えない。

「シャッフル」
男がそう言うと、真正面のモニターに円を組んだ10枚のカードが回転しながら浮き出てくる。と、男の目の前で実体化した。カードには様々な絵が描かれている。
それは銃だったり剣だったり、人が鎧を着ていたり、羽が生えていたりと。男はその中で人の姿がパッと消えているカードを掴むと、モニターに向かって乱暴に投げつけた。
投げつけられたカードはモニターの中へと入っていく。すると無機質な男性の声と共に、モニターに見た事の無い言語が映し出された。

『トランスインポート・インビジビブル』

デストラウの姿が次第に半透明になっていき、やがて完全に姿を消した。傍目から見ると、先程まで浮かんでいた「何か」の姿はもう何処にも見えない。
男が両端の操縦桿を握り、前方に倒す。デストラウが前傾姿勢を取り、飛翔する。背面から黒い翼を思わせる光が噴出し、こちらも姿が消えていく。

「行け、デストラウ。目標は――――」

『ヴィルティック・シャッフル』

第二話:エンゲージ

今の状況をどう表現するべきだろう。ボキャブラリーが貧困な俺には上手く説明できない。ただ一つ、分かっている事がある。

それは目の前の狐耳女が、一糸纏わぬ(いや、ボディタオル羽織ってるから纏ってるのか……?)姿だって事だ。そのせいで俺の理性が危ない。、
俺だって高校生とはいえ、まだ思春期……下品だがヤリたい盛りの男子だ。何時も雑誌やらでごにょごにょしてるが、実際に目の前にそんな感じの……ええっと……。

ってそうじゃない! 俺が聞きたいのは、何で狐耳女が、俺の目の前に現れたかという事だ。
それも夢の中に干渉してくるとかどう考えても狐耳女は普通の人間じゃない。しかも俺に未来を救えだなんて、もう何から突っ込めば良いんだか。
……取りあえず、今の格好のままだと、冷静に話を聞く以前に集中力が全く伴わない。俺は気持ちを落ち着ける為に溜息を吐いて、狐耳女に言う。

「取りあえず話は聞くだけ聞くから……服を着てくれないか? 気が散って困る」
俺がそう言うと、狐耳ははっと気付いて慌てて立ち上がった。え、マジでそのまんまの格好で話すつもりだったの? 俺だって男だぞ。……いや、何でもない。

「ごめんなさい! 今着替えてきます!」
狐耳女がそう言って、風呂場の方へと駆けていった。……外見だけだとクールビューティーというか澄ました感じだけど、案外おっちょこちょいなのかもな。
つうか後1時間後くらいにお袋が帰ってきてしまう。そうなれば大惨事は免れねぇ……。俺はその事を考えると心底震えが止まらない。

数分後、狐耳女が戻って来た。どんな奇抜な格好で来るのだろう……っておい。何だその……すげぇ。
狐耳女は体のラインが偉くハッキリしてる服を着てきた。服というか、スーツというか……ロボットアニメのパイロットスーツって奴? エヴ何とかのプラグ何とかみたいな。
無論透けてる訳ではないが、所々がピッチリしてて見てて恥ずかしい気分になる。もしかしてこの狐耳女ってコスプレイヤーなのか? 
スーツと良い、狐耳と良い、ますます普通じゃねえよ、この人……。……いかん、このまま飲まれちゃ駄目だ。俺はあくまで強気な態度で狐耳女に質問する。

「でだ、色々と聞きたい事が多すぎるんだけど、先ずあんたは何者なんだ? それだけははっきりしたい」

狐耳女は正座し、何処からともなく一枚のカードを取り出し床に置いた。俺も正座した方が良いかな……。
まぁ良いや。そっちがそうならこっちもフェアにしないとな。俺はソファーから降りて正座した。


「まず……」
狐耳女がそう言って、俺と狐耳女の間のカードに触れた。するとカードから、ぶわっと何か飛び出して来た。すげぇ! これってホログラムってや……。
いかんいかん、ペースに飲まれちゃいけない。俺は冷静を装ってカードから出てきたホログラムを見つめた。

「まず……私の名前はメルフィー。メルフィー・ストレインと言います。年齢は17。あちらの世界で高校生をしていました。生憎、もうずっと休学状態ですが」

……え? 17って俺とタメじゃん! 何か全然そんな風に見えないぞ。顔はともかくスタイルが良すぎて。多分姉貴より……って思ったらしばかれるな、俺、
にしても何だろう、この感覚。初めて会長……いや、氷室を見た時を思い出す。雰囲気は全然違うけど、なんだか妙に氷室と外見がダブるというか……。
髪が銀色だからか? 違うよなぁ……まぁ良いや。

「それと学業と兼ねて、私の父が創り出した巨大ロボット――――アストライル・ギアを使ったゲーム、ブレイブグレイブのプレイヤーを努めていました」
「ブレイブ……グレイブ? それってアンタが話してた……?」

俺の疑問に狐耳女……じゃ無くてメルフィーか。メルフィーはこくんと頷いて、カードに触れた。
するとカードのホログラムが見る見る間に変化していく。これが未来の技術なのか? 素直に凄いと言いたいけど、今は言わない。
ホログラムには何て言うんだろう……色んな形のロボットが戦っている様が浮かんできた。山里とか広大な海とか廃墟となった街とかで。

何か凄く高画質なロボゲーやってるみたいで正直実感が沸かない。と同時に、そのロボット同士の戦いに沸く人達の姿が浮かんで……すげぇ、まさに熱狂的って感じだ。
続けて世界中のあらゆる場所で、その試合を見ている人達が夢中になっている様が浮かんできた。それほどブレイブグレイブってのは凄いゲームみたいだな。

「父が作ったゲーム……ブレイブグレイブは世界中で評価され、人々の間で熱狂的なブームとなりました。それほどブレイブグレイブは革新的なゲームだったんです。
 しかしその裏で、ブレイブグレイブを維持していく為の費用とアストライル・ギアの整備費が枯渇していく事に、父は強い危機感を抱いていました」

「そんな日、父の元にイルミナスと名乗る集団が現れたのです」

イルミ……ナス? 何かどっかで聞いた様な……あぁ、あれはイルミナリティか。どっちにしろ関係無いわな。
多分そのイルミナスってのが一番悪い奴なんだろうな。こういう話にはその手の悪党が良く絡んでくるからな……あくまで予想だけど。

「イルミナスは父に政府により結成された特別組織と名乗り、父にブレイブグレイブを……いえ、アストライル・ギアを利用した軍事研究をしたいと持ち掛けました。
 父は自分の作ったゲームが軍事利用される事に懐疑心を持ちましたが、イルミナスが研究費用として差し出した費用に……」
「……負けた訳か」

俺の言葉にメルフィーは小さく頷いた。……何だか凄く悪い気分だ。事情を話すメルフィーの表情は暗く沈んでいる。
まるでこれじゃあ、俺がメルフィーの知られたくない過去を抉ってるみたいじゃないか。……だけど仕方ない。事情を教えて貰えないと俺だって動き様がない。

「イルミナスは、ブレイブグレイブの技術を応用し、父と共に従来の……従来のタイプとは全く違う、軍事用のアストライル・ギアを開発しました。
 そして……イルミナスはそのアストライル・ギアの性能を試す為に、自らを主催者とした世界大会を開く事を父に提案しました」

……馬鹿な俺でも理解できる。そんな事をするイルミナスがどんだけ悪い奴らなのかを。
しかし軍事用のアストライル……あぁ、まどろっこしい。軍事用のギアを作る事って他の国とかに知られなかったのだろうか。秘密裏に作られたのか?
まぁ疑問は後で良いか……。今はメルフィーの話を聞く事を優先しよう。

「父はこの大会がどう考えても不穏な物だと分かっていても、資金を提供してくれるイルミナスに協力せざる負えなくなりました。
 世界大会は順調に進み、遂に二国が決勝戦に残りました。残った方が、大会の主催者が創り出した軍事用アストライル・ギアと戦う事になる――――そういう流れでした」

メルフィーが膝元に乗せていた手を強く握った。

「その時……イルミナスは軍事用のアストライル・ギアを作動させ、あろう事か日本を抜いた各国に対し、熾烈な攻撃を加えました。
 その攻撃によって各国のアストライル・ギアは完膚無きまでに……」

俺の喉が無意識にゴクリとなった。何となく事態の筋が見えてきてるが、それでも。

「そして最後に、日本のアストライル・ギアを破壊したイルミナスは、各国にこう告げたのです」

メルフィーがそう言ってカードに触れる。するとロボット同士の……じゃなくてブレイブグレイブから別の映像に変化した。
これは……。そこには無残にバラバラにされたり、焼け焦げたりと目を背けたくなるようなロボットと、呆然とした目で何処かを見つめる人々の姿だ。
またも映像が変か。どこか分からないが、デスクの上で両手を組んだ男が渋い声で何か言っている。俺はその内容に耳を傾ける。

「お前達の力を見せて貰った。ブレイブグレイブを今まで遊びだと思っていたようだが――――それも今日までだ。
 我々日本は、この力を持ってお前達に宣戦布告する。ここからが本当の――――世界大会だ。国を滅ぼされたくなければ戦え」

 その力――――アストライル・ギアでな」

ふっとメルフィーがホログラムを消した。その表情はさらに暗く、沈んでいるように見える。

「その世界大会の後、量産化された軍事用アストライル・ギアが世界中を火の海に変えていきました。
 けれどメディアでは、そのアストライル・ギアを創り出したのがイルミナスでは無く、日本の軍隊であると報道されてました。当然各国の軍隊が動きだしましたが――――」

「……動き出しました、が?」
「……従来の兵器では、イルミナスが創り出した軍事用アストライル・ギアには全く敵わないのです。
 今までの兵器のノウハウでは、アストライル・ギアには対抗する事が……。」

額に汗が滲んできた。次第に俺は自分がどれだけヤバい事に巻き込まれているかが薄々感づいてくる。
しっかし恐ろしいな……遊びの筈の物が、世界を滅ぼすほどの兵器になるなんて……。メルティ―の親父さんは凄くショックだったんだろうな……。

「各国は日本の技術を使い、軍事用のアストライル・ギアの開発を始めました。既ににブレイブグレイブで皆が楽しんでいた時代は……終わったんです。
 イルミナスが語った世界大会――――という名の戦争が本格的に始まり、アストライル・ギアのプレイヤーであった私は……」

メルフィーの手がはっきりと震えているのに気付く。それにメルフィーの声が泣きだしそうな事も。

「……アストライル・ギアが戦争の道具となって何ヶ月か経った日――――日本も各国も、互いに潰し合い、既に国がボロボロな状況に陥っていました。
 しかし日本の軍だけは……イルミナスの手もあり、途切れなくアストライル・ギアが開発されていました。それでも私含め、満足に戦える人員は……」

「そんな日――――この現状に痺れを切らした各国は、日本に対して核ミサイルを使用する事に踏み切りました。もうこれ以上――――自国を蹂躙される訳にはいかないと。
 日本政府は説得しようと必死になりましたが、遂に各国から日本に向けて、核ミサイルが発射されたのです。……私達は最後を迎える。そう思いました」

メルフィーの話をじっと聞いていたが、ふっと頭の片隅に時間の事が過る。まだ1時間経ってない……よな?
一番早く帰ってくるのは、町内会のおば様方と付き合いがあるお袋だ。世間話やらかんたらで何時もお茶してるらしい。
帰りにスーパーで何か買うから、少しはタイムラグが出ると思うけど……。つうかすげえ聞いてるのがつらい……。何だ、この真っ暗闇な未来は……。

「その時、イルミナスは開発中だった新型のアストライル・ギアを起動させたのです。
 今までのアストライル・ギアとは全く別の、異常に巨大なサイズのアストライル・ギアでした」

メルフィーが三度カードに触れる。すると、巨大なダルマに手足が生えたような奇妙な物が浮かんできた。これがそのアストライル・ギアなのか……。

「そのアストライル・ギアは恐るべき事に、各国から放たれた核ミサイルを自らの方へと集中させると一斉に爆発させました。
 その瞬間――――空に大きな歪みが出来たのです」

ホログラムが切り替わる。メルフィーが言う通り、世界の色んな所で、空に紫色の歪みみたいなのが浮かんでいる。何か人間の目に見えて気味悪いな……。

「全世界に出来たその歪みには――――色々な時代の景色が映し出されていました。原始時代や第二次世界大戦……そして……今の時代も」

何だって? その歪みってのはもしや、時間というか時空を超えるのか? 何か壮大すぎて頭が混乱して来た。

「世界中にその歪みが出来た影響なのかは分かりませんが……その時期を境に、世界に異常気象が起こりはじめたのです
 台風に津波、地震に……戦争と異常気象により、私の世界はもう……」

メルフィーの握り拳に、涙がポツポツと落ちてくる。メルフィーは――――泣いていた。
今まで抑えていた感情が溢れてきたみたいに。メルフィーは俺にごめんなさいというと、声を上げて泣きはじめた。凄く辛い事がいっぱいあったんだろうな……。
こういう時って如何すりゃいいんだろう。今の俺にはただ、メルフィーが泣き終わる事を待つしか出来ない。……何分くらい経っただろう。

「……大丈夫か?」
タイミングを見計らい、俺はそう声を掛けた。メルフィーは息を整えながら、頷いて話を続けた。

「ごめんなさい、辛い事、思い出しちゃって……。ある日……私は父からイルミナスから知られぬ様、造られた新型のアストライル・ギアを手渡されたのです。
 そして父は言いました。このアストライル・ギアなら歪みを通る事が出来る。この機体を使って60年前にタイムスリップし――――貴方を、未来に連れてきてほしいと
 私は父に教えられた方法で歪みを巡り、イルミナスの手を掻い潜りながらようやく、60年前の日本に来る事が出来たのです。そして――――」

「……俺に接触してきたと。なぁ、ちょっと待ってくれ。……どうして俺なんだ? 俺なんて……何の取り柄も無い、ただの書記だぞ? 書記というか学生というか」
「父は……父はその理由を私には話していません。ですが……ですが、父は貴方なら未来を変える事が出来ると、そう言っていたんです。だから……」

メルフィーはそう言って、俺の目を見据えた。俺もメルフィーの目を見据える。

「お願いします。私と一緒に、未来を――――私の世界を、救ってください。もう――――大切な人を、失いたくないんです」

正直突拍子が無さすぎると言うか、荒唐無稽というか正直信じろっていう方が無理だ。
だがメルフィーの姿を見ていると、今までの話を否定する気にはなれない。
それに、良く分からんビックリカードやらホログラムやらを見せられた後じゃ、真っ向から未来から来た事を否定する事が出来ないしな。

にしてもそのイルミナスってのは想像以上の悪党だったみたいだ。世界を戦争状態にするだけじゃなく、異常気象を巻き起こすだなんてどんだけ人類嫌いなんだよ。
何だか全く勝てる敵とは思えない。だが……だが、メルフィーの親父さん曰く、これは俺しか出来ない事なんだろう。本音は凄く怖い。
どれだけ酷い目に合うのかを考えると、もう今日眠れないと思う。けれど……。俺はぐっと目を閉じて、目を開けた。

「……ぶっちゃけあんたの話は無茶苦茶だし、訳が分からない。多分誰に話しても、ホラ話って思われると思う」

俺の言葉に、メルフィーは俯いた。自分でも、話してる内容が如何にぶっ飛んでるかを自覚してるんだろう。

「だが……」

「だが……俺は今の話を信じる。アンタの父親が俺にしか出来ないって言ったなら、俺がやるしか無いもんな。協力するよ」

メルフィーの顔が顔を上げた。そしてほろほろと、涙を流し始めた。ただ今度の涙は哀しそうな涙じゃない。その……。
凄く……嬉しそうな顔で、メルフィーは泣いている。不謹慎だが、その泣き顔を俺は可愛いと感じる。

「……ありがとう、ございます。……本当に、本当に良かった」

そう言って、メルフィーは涙を手で拭う。こう見えて涙もろいというか、感情豊かなのかもしれない。このメルフィーって女の子は。
しかし俺は一番疑問にするべき事はまだ口に出していない。それは……メルフィーの父親ってのは誰かって事だ。
メルフィーが夢の中で言っていた事が反芻する。メルフィーは確かにはっきりと、こう言っていた。

――――お父さ……じゃなかった、未来の貴方からメッセージがあります。

つまりメルフィーを送りこんだのも、その巨大ロボット……何だっけ、ヴィルティックか。それを送りこんだのも全部、未来の俺がしたって事だよな。
どういう事なんだ? 未来の俺が過去の俺に助けを求めるなんて……。その歪みと俺が何か関係あるのか?
というか俺、そんな巨大ロボットとか作れるほど頭良くねえよ。もうマジで訳が分からない。だがもうそんな事も言ってられないな。突っ込んじまった時点で。

あえてお父さんの部分には触れないようにする。何か知りたくない。色んな意味で。

……てか、緊張が解けるとあ、足が……。
「い、いてててて!」
「どうしたんですか!?」

ここ数年正座なんてしなかったせいか、すげえ足が痛いというか痺れた。この鈍い痛みは結構本気できつい。
俺は手を振ってメルフィ―に大丈夫だと言った。俺ののたうち回る様子がおかしかったのか、メルフィ―はぷっと吹き出した。あ……笑った顔、良いな。

「あ……ごめんなさい」
「いや、良いよ。俺が普段怠けすぎだから……」
その時、玄関を開ける音がした。一瞬で肌という肌に鳥肌が立った。
うわっやべぇ! もう1時間も経ってたのか! もしメルフィーをお袋に見つかったら最悪……勘当されるぞ、俺!

「ただいまー。隆昭ー先に帰って来てるなら迎えに来てほしいんだけど―」

お袋がそう言いながら、玄関にあがって来る。どうしよう、どうしよう。一先ずメルフィ―を俺の部屋に……。

考えてみれば、俺の部屋って……リビングを出てすぐの廊下近くにあるんだよ……。お袋はリビングに来るから、どう考えてもメルティ―が見つかっちまう。
とは言え、今は頭が混乱してて今すぐメルティ―の事を説明する様な余裕は、無い。どう説明しても、明らかに墓穴掘ります本当に有難うございました状態。
お袋が近づいてくる音が聞こえてくる。真面目にどうしよう……。いっそメルフィ―を今まで隠してた恋人って事に……いや一番ダメだろそれ。
そういやメルフィ―……アレ、メルフィ―? 何処に行ったんだ?

「あら! 隆昭のお友達なの! ごめんなさいねぇ、何の用意もしてなくて」
「いえいえ、私の方こそ、突然お邪魔してしまい、すみませんでした」

何故かメルフィ―が、お袋と仲良く談笑しながらリビングに戻って来た。メルフィ―の手には、お袋が買って来たであろうスーパーの買い物が握られている。
てかメルフィ―……何時の間にうちの学校の制服なんて用意したんだ? てか何時の間にあの恥ずかしいスーツから着替えた!? 
しかもさっきまで頭の上に生えてた狐耳もさっぱり無くなってるし。

「ここで良いですか?」
「そこで良いよ。それにしても悪いねぇ、荷物を持ってもらって」
「いえ、良いんです。何時も隆昭君にはお世話になっているので」

そう言ってメルフィ―はスーパーの袋を置くと、にっこりとお袋に笑顔を見せた。まるでさっきまで泣いていた人とは別人みたいだ。
こええ……。あらゆる意味で俺、今のメルフィーが怖い。てか意外と制服似合うのな、メルフィー。まぁ学生だし当り前か。胸は凄いけど。
それにしても勝手に風呂に入ったり、何事も無かったように笑顔になれたり……この女、油断ならねェ!

「それにしても一人で日本で留学なんて、凄い行動力だねぇ。ホントに家の馬鹿息子がご迷惑をおかけしてないかと心配だわ」

な、何言ってんだよ、母さん……。つうかほぼ初対面だぞ、おい! なんて本当の事が言える訳無いよな……
というかメルフィ―、それならそうと、最初から学生服でいてくれよ……。あのスーツは色々とキツイし、対応に困る。
というか日本で留学って……ま さ か。

「いえ、ホントに何時も隆昭君のお陰で助かってますよ。凄く良い人で……あ、いけない、もうこんな時間!」

メルフィ―がそう言って、お袋に頭を下げた。かなりの好印象だったのか、お袋はメルフィーに対して笑顔だ。まぁ元々愛想のいい人だけど。

「それでは失礼します。また隆昭君にお勉強を教えて貰いに来ても良いですか?」

「えぇ、何時でもいらっしゃい! 今度は何かお菓子でも用意しとかないとね……。隆昭、メルフィ―ちゃんを送っていきなさい。女の子一人じゃ危ないから」
「え? ……あ、あぁ」


既に6時を回っている為だろう、外は薄暗い。しかしお袋め……あの調子だと、メルフィーの事が気に行ったみたいだ。
多分その内、メルフィーに色々と健康に聞く何たらかんたらを差し入れする様になるんだろうな。無論俺経由で。てか……。

「……制服があるなら最初から着ろよ! あのスーツは色んな意味できついんだよ……」

俺がそう聞くと、メルフィーは申し訳無さそうに頭を下げた。あの笑顔を見た後だと微妙に信じられん。

「ごめんなさい、そこまで気が回らなくて……」
「まぁ……良いよ。そういやウチの学校の制服に何時着替えたんだ? てか何処で手に入れたんだ?」

俺がそう聞くと、メルフィ―は制服の左肩を二回叩いた。その瞬間、制服が次第に薄れると、あの気恥しいパイロットスーツになった。って!

「ここでそんな姿になんないでくれ……周りの目が、な。運良く誰も通ってないけど」
「ごめんなさい。制服に戻します」

今度は右肩の部分を二回叩くと、パイロットスーツから、制服に戻った。……何か今まで見てきた中で一番凄い技術な気がする。

「それってあれか? あの……カメラみたいなのが出てきたカードとか、ホログラムと同じ原理なのか?」

俺がそう聞くと、メルフィ―は頷いた。

「はい。トランスインポートと言って、一つの物体に別の物体を圧縮して、必要な時に転送する技術です。
 このスーツは場面に応じて服装を変える事が出来るんですよ。原理から説明すると、時間が……」
「良いよ、暇な時に聞かせて貰うから。てか一つ聞いていいか?」

「もしかして……この町に、住むのか?」

メルフィーは俺に質問にキョトンとすると、さも当たり前のように答えた。
「はい。常に隆昭さんの身を守る様、父に言われておりますので」
「いや、ちょっと待て! 住むってつったって何処で!? それに身分とかどうなっ……」

困惑する俺に、メルフィ―は何かを差し出した。透明なクリアファイルに何か諸々が入っている。
ちょっと見えないな……携帯を取り出して、その中身を見る。何何……転入許可書……留学生証明書……つかウチの学校の学生証とか、おまっ……!

「隆昭さんが見つかった事を父に連絡したら、色々と手配してくれたみたいで。明日から遥ノ川高校で隆昭さんのクラスに留学生として転入します。
 あ、住む所ならちゃんとありますので、心配しないでください」

……オワタ。色んな意味で、俺の青春が色々オワタ。これからどんな波乱が待ち受けるのだろう……。
まず確実に他の男子生徒から変な目で見られるだろうな。「転校生」「留学生」「美人」もうこれだけで俺には恨まれる理由がありまくりだ。
それに会長……てか氷室……。多分というか、確実にこの事で酷い目に会わせてくれるんだろうな。あぁもうやだ。俺の平穏な学園生活オワタ。

「……そうか。それじゃあ明日から、宜しく頼むわ」

俺はそう言い残し、踵を返して家に帰る。てか絶対風邪引くよ。もう汗でシャツベッタベタだし。
しかし今日はすげえ疲れた……。なんつうか精神的に疲れるって凄くキツ

「あ、隆昭さん、ちょっと待って下さい」

呼びとめられて、俺は振り向いた。何故かメルフィ―は恥ずかしそうに頬を染めながら、頭を二回叩く。
するとメルフィーの頭から、あの狐耳がピョコっと出てきた。……どういう事?

<聞こえますか?>

メルフィ―の声が、頭の中に聞こえてきた。この声……あの夢の中の声か!
だがメルフィーの口は全く動いてない。えっ、マジでどういう事なの?

<これは言うなれば通信機みたいなものです。隆昭さんの脳波を感知して、私に対するメッセージだけを取り出します。疑似的なテレパシーと思っていただければ>

疑似的なテレパシーって……あぁ、もう未来参った。でもそれって……。

「……俺、君みたいな狐耳、持ってないんだけど」

<あぁ、それなら心配いりません。私のこれが通信する人を認知すれば、その人と通信できるようになりますので>

「……良く分からないんだけど、どうやって会話するんだ? 一応君の声は聞こえてるんだけど」

<私に対して喋りたい事を念じてください>

<……こうか? 聞こえてるか?>

<はい、聞こえてます。あの、ちょっと聞きたかったんですけど……私のこの耳って可愛いですか?>

<……普通>

俺の返事にメルフィーがショックを受けた様な顔になった。その顔が可笑しくて、俺は笑う。

<嘘だよ。似合ってる似合ってる>
<……良かった。父が作ってくれた物なので>

そう言って、メルフィーが嬉しそうにほほ笑む。こうして見ると、年相応の普通の女の子だ。……そうだ。

<君の事、メルフィーって呼んでいいかな? それに俺の事は隆昭で良いよ。同年代だし、タメ口で構わない>
<そんな……でも、私には隆昭さんを守る義務があって……>

<だから、そういう堅苦しいのは無し。明日からクラスメイトなんだし、フランクに話そうぜ? ……駄目かな?>

<……私はこのままでいいです。母からこの様なしゃべり方をするように教育されたので。でも……>

<隆昭、と呼んでいいでしょうか?>

<もちろん。改めて宜しくな、メルフィー>


遥市で最も高いビルの屋上で――――その男は日が落ち、夜に染まった遥市を見つめる。男の目尻は若干笑っているが、そこに優しさなど無く、暗い闇が宿っている。
男の姿は闇に溶け込む様な黒づくめであり、一切の隙が見えない。男の頬を、夜風がくすぐる。
人差し指と中指にカードを挟み、男はカードに向かって呟いた。

「さて、例の彼は何処にいるのかな。教えてくれ、デストラウ」



                                            予 告

                  転入してきたメルフィーの行動に振り回され、なおかつ男子学生からの嫉妬で精神的にダウン状態な隆昭。
                 そんな彼に対し、氷室はとんでもない無理難題を押し付ける。果たして隆昭は、その難題をクリアできるのか。
                    その頃、平和な学園に黒づくめの不気味な男が現れる。男の名は――――オルトロック・ベイスン。

                                  次回、『ヴィルティックシャッフル』

                                           クライシス       

                                  その「カード」を引く時、「未来」は訪れる

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