創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

<ep.7 前篇>

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匿名ユーザー

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掌のデッドチップを眺めながら、私はぼんやりと、モリベ氏の言葉を思い出す。アールスティック社……いや、タカダは私達を追いつめると。
それほど、ティマの中のメモリーチップがタカダにとって喉から手が出る程のものなのかもしれない。
一体どんな手で追いつめてくるのかなんて想像もつかないが、穏やかに交渉してくるとは思えないし、してきたとしても必ず裏があるだろう。
最早退路は無い……か。もしかしたらティマと過ごす時間は殆ど残されていないかもしれない……。

それなら出来るだけ多く、ティマとの思い出を作らないとな。限られた時間であろうと、ティマの記憶に残る綺麗な思い出を。
私はデータフォンを起動し、何か思い出になりそうな場所のデータを探る。と、ある旅行会社のデータが目に入った。

隠れた名スポット、夏風島。綺麗な海と豊かな自然の中でゆったりと夏休みを過ごしてみませんか……か。
確か観光名所として前々からTVで特集されてたな。隠れてないがな。
けど、良いかもしれない。ティマに取って旅行は初めての事だし。何より豊かな自然に綺麗な海というのが気に入った。誇張だとは思うが。

まぁまずはティマから了承を貰う方が先だ。ティマに呼びかけてみる。ん? 何か熱心に読んでいるが……何の本だ?
再度呼びかけると、ティマはハッとして読んでいた本を背中に隠した。気になるけど、まぁ良いか。

「ティマ、旅行に行ってみないか?」

私の台詞にティマは小さく首を傾げる。だがその口振りには興味がある事が分かる。
「旅行?」
「あぁ、ちょっとした新婚旅行だ」

<ROST GORL ep.7 前篇>

夏風島……島人口は300人にも満たない、本当に小さな島だ。昔は娯楽施設などで盛況していたが、時代の波を受けてことごとく閉鎖。
今は島の特有である自然と、長い歴史を誇る島唯一のホテル……月影を島の観光名所として売り出している。
その自然の豊かさゆえに、さまざまなドラマ、映画のロケ地としても知られており……。

……と、私は気持ち悪くなり、パンフレットを読むのを止めた。駄目だ、船の揺れにどうしても耐えられない。
今、私達は陸地と夏風島の橋渡しである、個人経営のクルーザーに乗り込み、夏風島に向かっている最中だ。
本来は夏風島に向かう為の大きなフェリーがあるのだが、ティマがクルーザーに乗ってみたいと言った為、こちらを選んだまでだ。
私はゆったりとフェリーで夏風島に行きたかったが……予想より船揺れが凄くて、何か、もう、参る。

ティマはグロッキー状態の私と違い、嬉しそうに甲板に昇り海を眺めている。彼女にとっては初めての経験だからな。
私は力無く、ティマに手を振るう。自分でもこんなに船に弱いとは思わなかった。もう何十年も乗ってないからな……。

そう言えば、旅行に行く前にティマと一緒に水着を買いに行ったのだ。
私は昔とあまり体型が変わってない為持っている海パンで十分だが、ティマ用の水着は無いからな。近くの大型スポーツ店に買いに行った。
私にはそう言う水着とか選ぶセンスは無いので、ティマ自身に決めさせる。どんな水着をティマが選んだのか、私は分からない。下世話だが楽しみである。

「そろそろ着きますので、代金を用意しておいてください」
操縦士が声を掛ける。私はふらつく頭を押さえながらどうにか立ち上がり、データフォンの財布機能を取り出す。
パタパタとティマが下に降りてきた。私の顔を見ると、心配そうな表情を浮かべて、言う。

「マキ、大丈夫? 何か顔色悪い……」
「あぁ、元からだから大丈夫だよ。海は楽しめたかい?」
私がそう聞くと、ティマは嬉しそうにほほ笑んだ。あぁ、もうこれだけでクルーザーにわざわざ乗った甲斐があった。
そろそろ島が見えてた。私はティマにあれが私達が泊る島だよと指を指す。

「大きい島……」
ティマは夏風島をみると小さくそう呟いた。私もすこし驚く。想像よりずっと大きい島だ。
あのどこかノスタルジックな古びたホテルが月影か。中々趣があって結構じゃないか。

ふと、ティマが私を見上げている事に気付く。その目には何か言いたそうな感じがある。
「ティマ、どうした?」

私がそう聞くと、ティマは気恥ずかしそうに俯いて、小さく呟いた。
「……何でも無い」
そう言ってティマは視線を正面に向けた。言いたい事があるなら言って欲しいけど……まぁ、あっちで良いか。

交通費を払いクルーザーを降りると、爽やかな風を打ち消してくれる猛暑が私を襲った。あぁ、参る。
夏真っ盛りな事は分かるし、青空が素晴らしいのも分かる。だが暑さは理解できない。額から汗が滲む。

「私、先に行くね」
ティマは嬉しさを抑えきれない様に私にそう言って走り出した。おいおい、あまり焦ると転ぶぞ。

早くホテルに行って部屋で休みたいが、ティマが海で泳ぎたいといった手前、一緒についていかねばなるまい。
正直体は既に暑さのせいでへばっているのだが、ティマが喜ぶなら断る事など出来まい。

そういや、ティマの姿が見えないな。そう思い、周囲に目を移すと、ティマが私に向かって大声を出していた。
「マキ―、大丈夫―?」
……ティマは既に何百メートルも先にいた。あぁ、そう言えば彼女はアンドロイドだから暑さとかそう言うのはまるで感じないんだよな……
私は右手を振って大丈夫だというサインを送った。大丈夫じゃないが、ティマの嬉しそうな姿には代えられん。必死に足腰を動かす。

つ、着いた……既に足腰はガタガタで、今すぐ着替えないとすぐに風邪を引きそうなほどに汗が噴出しまくった。
まさか山道だったとはな……コンクリートの道だった為に尋常じゃないくらいに暑い。
しかし老舗なだけあって中々良い内装じゃないか。ロビーを鮮やかに彩る観葉植物たちが目の保養に良い。

「マキ・シゲル様ですね。少々お待ち下さい。……アンドロイドが一名ですね。クラスカテゴリーをお教え下さい」
あぁ、忘れてた。予約する時にティマの事をファミリーと分類するのを忘れていた。

未来ではアンドロイドをこの様な施設に同行する際に、そのアンドロイドが利用者にとってどんな関係なのかを教える義務がある。
アンドロイドとはいえ、一人の客な為身分を証明しなければならないからだ。
仕事などのビジネスではパートナー、ペットや介護などの場合はファミリー、その他の場合は事細やかに説明しなければならない。

ここはファミリーで良いか……若干怪しまれそうだが、そこまで突っ込む権限はこの人達には無い。
「ええっとごめんなさい。ファミ」
「妻です」

一瞬、場の空気が凍った。ティマはキョトンした表情で、私の顔を見る。そうか、そうだよな……夫婦って言ったもんな。
ロビーの受付の顔は口元が笑ってはいるものの、目は全く笑っていない。周囲の客達もティマの声が大きかった為か、じっと私に視線を向けている。

私はティマを有無を言わさず抱っこして、受付に自分自身出来るだけの笑顔でごまかした
「ごめんなさい、ファミリーです! それで部屋はどちらでしょうか!」
受付は手元から、黄金色のカードキーを差し出した。
「ありがとうございます!」
私はそれを笑顔で受け取り、ティマを抱っこしたまま、急いで止まる部屋に向かった。何だ、この積りにつもる疲労感は……。

カードキーを通して部屋に入る。窓から海が一望できる、結構良い感じの部屋だ。
ベッドにゆっくりとティマを下ろす。ティマは私の反応を察したのか、俯いて静かに言った。
「ごめん、マキ……私、何か言った方が良いのかなって思って……迷惑、だったよね?」

いや、ティマは悪くない。受付に何か聞かれたから、ティマなりに答えようとしただけだ。前もって私がちゃんと説明しておけばよかっただけの話である。
私はティマの頭を撫でて、首を横に振った。
「いや、ティマ。君が落ち込む事はない。さっきのは私のミスなんだよ、色々とね……。さ、海に行こうか」
私がそう聞くと、ティマは小さく頷いた。

早速ティマと共に、この島の名物である海へと向かう。正直山道は歩きたくないのだが、海に行く道がこのルートしかないし仕方あるまい。
しかしさっきから妙にティマの様子が気になる。私に何か言いたそうだが言えない。そんなもどかしさを感じる。
今だってそうだ。ティマは私に呼びかけてくるが、何か言いかけて黙ってしまう。正直言いたい事は何でも言ってほしい。
あの日以来、互いに夫婦と認め合ったのだから……。まぁ、世間体はともかくな。

数十分歩き、遂に目的地である海に着いた。確かにパンフレット通り、まさに透き通る様な蒼い海だ。
それに砂浜も綺麗だ。白い砂浜に所々散らばっている小石が、キラキラと輝いている様に見える。素晴らしいね、青い空と蒼い海。
一つ欠点があれば、太陽が馬鹿みたいに暑くて私の髪と脳味噌をガンガンに苛めている事だ。帽子を被っていてもいやぁ、暑い。
私は持ってきたシートを引いて、何処で買ったか覚えてないがせっかくなので持っていたビーチパラソルを広げた。

「それじゃあマキ、あっちで着替えてくるね」
そう言って、ティマが向こうの簡易的な更衣室へと向かった。私はいってらっしゃいと右手を振る。
何の水着を買ったんだろうな……正直、ティマがどんな水着を選ぶのかが想像できない。まさかビキニなんて選ぶような子じゃないし。
ふと周囲に目をやる。夏休み真っ盛りだからか、結構人が多い。この中でどれくらいがアンドロイドなんだろうな……なんて無駄な考察をしてみたりする。

数分後、背中からティマの声がした。
「お待たせ」
私はワクワクしながら後ろを振り向いた。さて、ティマが選んだ水着はどういう……。
……スクール水着……だよな? 紺色で野暮ったいフォルムに、ひらがなで打ってあるティマって名前……っておい。おいおいおい。

「似合う……かな?」
ティマが恥ずかしそうに私にそう聞いた、私は反射的に立ち上がり、ティマの手を握ってその場から離れる。
何故だろう、歩く度に妙に視線が痛い気がする。ここらで良いかな……ティマの手を離して、向き合う。
ティマが不思議そうな視線で私を見上げている。まぁそりゃあそうなんだが……私はなるべく冷静を装って、ティマに聞いた。

「すまない、ティマ。似合う、凄く良く似合うんだが……何でスクール水着なんだ?」
私の質問にティマは小さい声で、もじもじとしながら答えた。
「えっと……あのね、マキ。……私って小さくてその……あんまり胸、ないでしょ? だから泳ぎやすい水着の方が良いかなって……」

そうだな、体型を考えたから何も間違ってはいないな。ティマ、賢いぞ。賢いんだが、まさかスクール水着を選んでくるとは想像してなかった。
そうか……考えてみればスポーツ店だからスクール水着があっても何らおかしくないよな……。普通に水着の専門店みたいな方が良かったかな……。
しかしこう、危うい。ティマの姿とスクール水着はこう、のっぴきならない気がする。私の考えすぎである事は重々承知だ。

何だろうな。ティマが目覚めた頃の生まれたままの時より、今の状態の方がずっとインモラルな気がするのは。
白い肌と華奢な体型、それに金髪ってのがクリティカルだ。その手の人には堪らないだろう。私は違う。違うと思う。
というか何故私はティマの姿をまじまじと見ているのだろう……。これじゃあまるで……。

「マキ?」
ティマに呼ばれてはっと我に返る。いかんいかん、夏の暑さだ、夏の暑さで脳がダラけている。
「その……何だ、ティマ。自由に泳いでくれても良いけど、私の目に着く所で頼む。事故にでもあったら大変だからね」
私がそう言うと、ティマは大きく頷いて、再び海へと向かう。と、ティマは振り向いて、私の所に駆けてきた。何だ?

ティマは私の前で止まると、じっと私を見上げる。
さっきみたいに何か言いたくて迷っている素振りをするが、意を決したのかしっかりとした口調でティマが口を開いた。
「ねぇ、マキ……私達、夫婦だよね?」

思いもよらないティマの発言に、私は目を丸くして、素直に答えてしまう。
「あ、あぁ。そうだとも。私達は夫婦だ。あくまで私達の間柄ではな」
「……じゃあ」

ティマの言葉が止まる。……じゃあ?

「じゃあ……ええっと、キ……」
「キ?」
「キ……キ……」

「……ううん、何でもない。ごめんね、マキ」
ティマはさっと後ろを向いて海に駆けていく。
何が言いたかったんだろう……。キ? キ……キ……駄目だ、思い浮かばない。まぁ、良いか。

それにしても思う。インモラルだのなんだの言ったが、海で遊ぶティマを見るのは良い。こう、穏やかな気持ちになる。
何か娘なり息子なり、自分の子供が元気に遊んでいるのを見ている様な、そんな心境だ。生憎家庭など持てる性格じゃないが。
……にしても今にして見れば、妻というのは少々飛躍しすぎだと思う。娘とかパートナーみたいなので良かったんじゃないかと。
だけど考えてみれば、ティマの作り主……むしろ父親はティマを作りだしたモリベ氏だ。私はそのモリベ氏からティマを預かった身、妻でも良いんじゃないかと。

とはいえ世間体を考えると妻と公言したら色々と厄介な事になるので、夫婦と呼び合うのはティマとの中だけにしよう。いや、絶対そう言う事にしておこう。
それにしてもティマが何を言いかけたのかが引っ掛かる。キとは何なのか……キーマカレ―か? いや、アンドロイドに食欲なんて無い。
キーワード……、キーチェーン……駄目だ、私の貧困な想像力では、何も具体的なメッセージが浮かばない。今は海で遊ぶティマに心癒されよう。
私ももう少し、むしろ10代くらいにまで若返れば、ティマと遊ぶのにな……と思ってふと思い出す。

こんな私でも、昔は好きな女性が居たのだ、黒い髪のツインテールが美しい、少しだけツリ目の女性だった。
彼女とは学生時代に知り合い、いつの間にか付き合う関係になっていた。どういうきっかけで付き合ったかは覚えていない。けれど私と彼女は互いに理解し、愛し合っていた。
彼女とは実家から少し離れた海で、暇な時は何時も待ち合わせしていた。学生である為に満足に金も無く、暇と時間を潰す為に遊んだり、将来について語り合っていた。
今思うと気恥ずかしい若気の至りだ。彼女は私の様な修理士ではなく、開発者の道を志していた。その為、目指す道が違っていたせいか敬遠になり、気づけば彼女との仲は自然に消滅していた

だが、そんな彼女が言っていたある台詞が、私には忘れられない。今でもたまに思い出す事がある。

「ねぇ、シゲル。何時か、何時か人とアンドロイドが仲良く、本当に仲良く手を繋ぎあえる社会が来たら楽しいと思わない? 
 私は何時か、そういう社会が来るって信じてる。その時にはシゲルが作ったアンドロイドのデータチップを、私が作りたいな」

キラキラとした目で話す彼女を、私は当時心の中で一笑していた。所詮ロボットは人間に使われる代用品に過ぎないよと。
今の私には彼女を笑う気にはなれない。それどころか、もし彼女と再び会えたら、その未来について熱く語るかもしれない。
年を取ったのかもしれないし、考え方が昔に比べて甘くなったのかもしれない。しかし今の私は、彼女の語った言葉の意味に痛く共感を覚える。
私を変えてくれたのは紛れも無くティマだ。それがプラスなのかマイナスなのか分からないが、ティマと出会った事で、私の考え方が大きく変わったのだ。

気づけば少し眠っていた。じりじりと迫ってくる様な暑さで目を覚ます。……あぁ、くそ。せっかく暑さを忘れていたのに。
そう言えばティマは……と思って妙に海が騒がしい事に気付く。何やら皆あたふたしているようだ。
私は立ち上がり、その騒いでる所に走った。奇妙な胸騒ぎがする。近くの人に話しかける。

「どうしたんですか?」
「女の子が海でおぼれているらしい。長髪で金髪の……」

聞くが早く、私の体が勝手に海に向かって走り出していた。嘘だろ……? まさかティマが?
ぶつかる人に謝りながら、私は海へと走る。視線を海に向けると、一人の少女が真ん中でバタバタともがいているのが見えた。
確かに金髪でかつ長髪だ。確かにティマに見える。私の鼓動が一段と速くなった。

そう言えばティマの姿が見えない。私がパ二くっているだけで状況が見えてないかもしれないが……だから何だ?
ティマじゃないにしても、目の前で少女が溺れているんだ。今すぐ助けなければ大変な事になる。
私は急いで服を脱ぐ。海に入る事は全く考えてなかったが、一応の事を考えて海パンを履いてきて正解だったようだ。
適当な運動をして海に入る。海の冷たさが妙に心地が良い。砂浜にずっと居た為だろう。

それにしても、と苦笑する。以前の私なら無関心のままだっただろうな。他人の為に何かしようなんて考えもしなかったと思う。
ティマと出会ってから、私は他人に対して優しくなった気がする。ティマを見ていると自分が如何に傲慢だったのかが分かる。
私は彼女に学んだのだ。人に優しくする事、人を愛する事の美しさって奴を。照れくさいが、ホントにそう思う。

しっかし幾ら泳いでも泳いでも追いつけないな……あれ? 足が……足が言う事を聞かない? 
あれれ、おかしい……な。そんな筈は……。く、足が攣ってきた……。
海水が口の中に入る。視界が真っ逆さまになる。認められるか……こんな……死に様……。

誰かが私を呼ぶ声がする。泣き出しそうな、いや、泣いているのか?
というか喉が痛い……。私は何回か咳き込んだ。海水のせいか喉が痛い……それに目に海水が入って痛い……。
ゆっくりと、ぼやけた目を開けると、今にも泣き出しそうな表情を浮かべているティマの姿が見えた。ティ……マ……。

「マキ……マキ! ジュンさん、マキが起きました! 良かった……」
ティマがそう言って私に抱きつく。しかしホントに胸が……じゃなかった。
いかん、状況が呑み込めない。私はティマの体をゆっくりと離す。取りあえずティマに謝らねば。

「……ごめんな、ティマ。心配、掛けさせちゃったな」
私がそう聞くと、ティマはじっと目を瞑って私の肩に寄りかかった。
「ホントに……ホントに心配したよ。マキが死んじゃったら私……私……」
ティマの体を抱きしめる。肩が震えている……本当に私の事を心配してくれてたんだな。
「ごめんな、ティマ。本当に……ごめん」

「後もう少し遅かったら、危ない所でした」
ふと背中から凛とした声が聞こえ、私は振り向いた。……恐らく競技用だろうか、シャープな水着を着た、切れ長の目の女性が立っていた。
ティマは私の体を離すと、その女性について説明した。

「紹介するね。アンドロイドのジュンさん。マキを助けてくれたの」
私は立ち上がり、ジュンという名のアンドロイドに深く頭を下げる。
「本当に有難う。君が助けてくれたんだね。……馬鹿な真似をしてすまなかった」

「感謝ならティマさんに言ってください。私はただ、彼女を救うついでに貴方を助けただけですから」
彼女? 私が疑問符を浮かべると、ジュンは冷静に事の成り行きを話しだした。

どうやら溺れていたのは、ティマと同じ金髪で長髪だが、顔立ちは全く違う子だった。
私はその子を救うために海に飛び込んだが、長年の運動不足が祟って足を攣り、その子にたどり着く以前に溺れて沈んでいた。
その頃、ティマと仲良くなったジュンが、持ち主から女の子が溺れている事を教えられて、海に飛び込みその女の子のついでに溺れている私を助けてくれた……という訳だ。
つまり私はただ単に海に入って勝手に溺れた馬鹿な男という訳だ……。自然に私は四つん這いしていた。あまりのふがいなさと情けなさに海に沈みたくなる。

「ごめんね、マキ……私を心配してくれたんだよね」
ティマが元気なく俯く。遊びに来たのに落ち込まれちゃ連れてきた意味が無い。
私はティマの頭を優しく撫でて、彼女の気を取り直す。

「私が勝手に誤解して馬鹿やっただけだ、ティマは何も悪くないさ。気にすんな」
「でも、私……私、マキの妻なのに、マキを助ける事も出来ずに、何時も困らしてばっかりで……」

ティ、ティマ……だから妻って言うなと……。ジュンをちらりと見ると、ジュンは無表情のままだ。
良かった……いや、良かったのか? まぁ良いや、それよりちょっとジュンに聞きたい事がある。

「たびたび迷惑を掛けてすまなかった。ちょっと聞きたいんだが……君とティマは何処で出会ったんだい?」
「ティマさんが上手く泳げなくて困っていましたから、マスターが遊んでいる間、ティマさんに教えてあげてたんです。飲み込みが早くて驚きました」

ティマの方を向くと、ティマが感動したような口ぶりで、ジュンの事を話した。
「マキ、ジュンさんって凄いんだよ。オリンピックとかに出る水泳選手の模範選手として働いてて、持ち主さんと世界を飛び回ってるんだって」

確かそういうアンドロイドがいるって聞いた事あるな……。色々なスポーツの模範選手として重宝されていると聞いた。
それ故に持ち主には高給取りが多いと聞く。ただ、それ故にメンテナンスが非常にデリケートで、生半可な技術者や開発者では扱えないらしい。

「お―いジュン―!」
その時、私達の方へと大声を上げながら駆けてくる、アロハシャツの青年の姿が見えた。
次第に輪郭が見えてくる。結構若いな……タレ目だ。本人自身が笑っているかは分からないが、ニコニコと笑っている様に見える。
青年はある程度まで走ると、ゆっくりとこちらに歩いてきて声を掛けてきた。

「いやぁ、あの子のお母さんから凄い感謝されちゃってさ。謝礼でもとか言われちゃって参っちゃったよ。
 ……で、そちらさんは?」



続く

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