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シンブレイカー 二十一話

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匿名ユーザー

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 日本のとある平凡な地方都市、女木戸市。
 緑豊かな山と大きな川に挟まれたこの小さな街を巻き込んで、
この世の誰もが予想だにしていなかったであろう戦いが行われていた。
 街の上空に羽ばたき、剣を振りかざすのは背中から巨大な翼を生やした大天使。
 それに相対するのはまるで全身が一本の刃のような異形の巨人だ。
 巨人と天使は今、剣をかまえてお互いに睨み合っている。
やがて天使のほうが巨人に向かって急降下し、剣を打ち下ろした。
巨人はその一撃を自身の持つ小剣で受けとめたものの、その重さに膝を折る。



「おまえぇ! 降りてこい! 」
 私は剣の先を突きつけて叫んだ。 
 マイケルは優雅に翼を羽ばたかせながらシンブレイバーの刃の届かない上空に在り、
こちらを見下ろしている。その様は堂々たるもので、彼の心中はその態度に表れていた。
「私はこう見えて臆病な方でね。このまま消耗させてもらう」
 そう言ってマイケルはまた急降下からの一撃を浴びせ、空に戻る。
 私は手の痺れをこらえながら舌打ちした。
 額から汗がたれ、頬をつたい、顎先から床に落ちる。
マイケルの一撃はとても重く、受けるたびに剣か腕があわや折れそうなほどに軋む。
体力は確実に削られていた。
「志野さん」
 高天原が声を落として話しかけてきた。私も小さい声で応える。
「シンブレイバーの重力軽減装置なら、あの高さは充分射程距離内のはずですが」
「わかってる」
 私は唇を舐めた。
 シンブレイバーの肩口からのび、頭の後方をアーチ状に横切り、さらにその途中から数枚の板が
後光のように放射状に広がっているのは、魔学を用いた重力軽減装置だ。
これはシンブレイバーの巨体の重量を支えると同時に素早い動きや高い跳躍力を実現させている。
 たしかに高天原の言うとおり、思いきり地面を蹴ればマイケルとの距離を一気に詰め、
斬りかかることができるだろう。しかしマイケルは確実に避けるか防御するだろうという確信が私にはあった。
もし斬りかかって失敗すれば、彼はもう二度とあの高さより下には降りてこないだろういう確信も。
「高天原さん」
「はい」
「マイケルさんって、やっぱり偉い人なんですよね? 」
 私の質問を意外に感じたらしい高天原はやや間をおいて答える。
「はい、フリーメイソンの監査官ですから」
「どんな権限があるんですか? 」
「志野さん、今は雑談している場合では――」
「重要な質問なんです」
 私が強い口調でそう言うと、高天原はしぶしぶといった調子で返す。
「簡単に言えば、担当する組織や施設の帳簿を閲覧できたり、研究の経過を報告させたり、
部下や関係者への問題解決のための指揮命令ができたり――」
「ありがとう」
 私は高天原の言葉を切って、あらためてマイケルを見上げた。どうやら私の予想は間違っていないようだった。
「こないのか? 」
 マイケルが言った。
「ならば行くぞ! 」
 天使は大きく翼を羽ばたかせ、ツバメが獲物を捕まえるように、四度目の強襲をかけてきた。 
 迫る天使の剣。私は巨人の剣でそれを弾こうとするが、手の痺れが残っていたのか、力負けした。
「ぐぁ! 」
 左の肩に鋭い痛みを感じてうめく。見るとどうやら天使のロングソードは巨人の肩に
突き刺さったのちに切り上げられたらしく、その部分は大きくえぐれていた。
「損傷軽微、再生まで6秒」報告の声があがる。
 天使はまた舞い上がっていた。
「その程度の傷はすぐにふさがるのか……なるほどな」
 思案顔のマイケル。
私はその隙に手に持っていた小剣を腕のホルダーに戻し、道路に突き刺さったままの大剣に手をかざす。
すると大剣はひとりでに地面から抜け、宙を舞って巨人の手に戻った。
「決定的なダメージを与えるためには生半可な攻撃ではいけないわけだ。
 おまけに武装解除もできないときている。」
 すると天使はどういうわけかロングソードの血を払うような仕草をし、それを鞘に納める。
「この『シンブレイバー』を考案したのはお前だったな! 高天原っ! 」
 マイケルが声を張り上げると、シンブレイバーの体のスピーカーから高天原の声が町に響いた。
「はい、そのとおりです」
「素晴らしいシステムだ。もしこれを戦車などに応用すれば、とても効率よく人の命を奪えるだろうな! 」
「そのようなつもりは毛ほどもございません」
「冗談はさておき、おまえの作ったシンブレイバーの再生能力は素晴らしい。だがそれに頼りすぎではないか? 」
「申し訳ありませんが、何を仰りたいのかわかりかねます」
「つまりこういうことだ」
 するとマイケルは左手の指をパチンと鳴らした。それと同時に、天使の体がちぎれ飛ぶ。
 私は危険を直感し、反射的に後ずさった。
 天使はばらばらになった。右腕、右足、左足が胴体からちぎれ飛び、天使の下に落ちる。
それらは地面に落ちたあと、むくむくとその体積を増やし、やがてマイケルよりもやや小さめの人型になった。
最後にそれぞれの背中から一対の翼が生える。
「行け、『ウリエル』『ラファエル』『ガブリエル』」
「なっ!? 」
 今度は驚くよりも戦慄した。新たに街に舞い降りた3体の小さな天使たちもそれぞれに剣を携えていて、
それを一斉に抜き放ち、こちらに飛びかかってきたのだ。
 それをやや上空から悠然と身下ろして、あとに残った左腕だけの天使はほくそ笑む。
「飽和攻撃に対してはいたずらにエネルギーを消費して、性能が落ちる」
 シンブレイバーは右手に大剣、左手に小剣の二刀に切りかえ、3体の天使たちからの剣戟を必死で防御していた。
しかし完全に防ぎきることはできず、巨人の体は少しずつ確実に削られはじめていた。
(体が重い……! )
 私は奥歯を噛み締めた。巨人の体の反応は明らかに遅くなっている。
それは身体の損傷の修復にエネルギーを使っているためだということはマイケルの言葉で理解したが、
それ以上に今までのマイケルの攻撃による消耗も激しかった。
(らちがあかない! )
 私は3体の天使たちの隙を見て地面を蹴り、女木戸市の空高く跳び上がった。
もう今はマイケルへの攻撃について考えるべき場面じゃない。
 跳び上がると同時に左手に握っていた小剣をブーメランモードにして手近な天使に投げつける。
すんなりと避けられた。
 自由になった左手で素早くもう片方の大剣の柄をひっつかみ、足から外して、もう片方の大剣の柄の尻と尻同士を接続する。
「おりゃあ! 」
 気合いの叫びとともにそれを振るうと、3体の天使たちは吹き飛ばされた。
マイケルはその様子を見て「ほぅ」と感心したような声をあげる。
「そんな形態にもなるのか、多彩だな」
 近くのビルの屋上に着地したシンブレイバーの腕に握られていたのは、一本の柄の両端に長大な刃が付いた武器だった。
私はそれを振るい、またマイケルに向きなおる。
 マイケルはそのさまを眺めて言った。
「『小剣』『大剣』『二刀流』『ダブルセイバー』……多彩すぎるな」
 含みのある言い方に私は訊いた。
「どういう意味? 」
「そのままの意味さ」
 マイケルはやれやれ、とでも言いたげな仕草をする。
「どこで使い方をならった? 」
「……説明書を読んだのよ」
「嘘だな」
 天使は言い切った。それは実際そのとおりだった。
 今彼に問われて気がついたのだ。
(私はこれらの武器を習ったことがないはず……! )
 シンブレイカーに乗っていた頃から今まで、至極当然のように刃物や武器を扱っていたが、よくよく思い返してみると、
誰からも武器の扱いについて説明をされたことも、練習をしたこともなかった。
それなのに今巨人の手に握られている巨大な武器をどのように振るえば相手を斬りつけられ、
また自分が傷つかないかはよく知っているように思える。知識としてではなく、身体が覚えているように自然に動くのだ。
 全身から嫌な汗が吹き出るのが感じられた。不安が足元からじわじわと這い上がり、全身をからめとりはじめる。
(まさか、まだ思い出していないことがあるのか……? )
 自分自身すら信用に値しないという、足下の地面が一気に崩れて奈落に叩き落とされるのにも似た恐怖が足をすくませる。
 私は乾きはじめた口を大きく開けた。
「ああ嘘だよ! 」
 腹から声を出すとともに自分の頬を思いきり平手打ちする。
「だけどそれがなんだって!? 今この場には関係ないね! 」
 すると私の叫びを聞いたマイケルは、どういうわけか嬉しそうに口端を吊り上げた。
「そうこなくては」
「かかってこい! 」
「もちろんだ」
 天使は一本しかない腕を持ち上げ、思いきり振り下ろした。
 その直後、いつの間にかシンブレイバーを取り囲んでいた3体の天使たちがいっせいに襲いかかってくる。
私はダブルセイバーを振るった。
(ビルの上を伝っていけば長物でも存分に振るえる! )
 私は巨人をビルの上から上へとジャンプさせつつ、風車のように剣を振るい続ける。
3体の天使たちの攻撃はダブルセイバーを使えば受け流すのは簡単だった。
 だが――
「このままでは防戦一方です! 」
 高天原が悲痛な声をあげた。スピーカーを切っていないらしく、その声は町中に響く。
「なんとか反撃の糸口を――」
「――できたらやってる! 」
 私は苛立ちを隠さずに怒鳴った。額からはだらだらと汗が流れ、ときどきそれが目に入る。
 天使たちの攻撃を防ぐのは簡単ではあったが、長時間続けることでの消耗は確実に蓄積していた。
呼吸はすっかり荒く、浅い。
 それから数分後のことだった。
「ぐぅ!? 」
 ついに天使の一撃がシンブレイバーの背中を切りつけた。思わずバランスを崩し、道路に叩き落とされる巨人。
 天使たちはその隙を逃さずに巨人に群がり、次々と剣を突き刺す。
「ぎゃあああ! 」
「志野さん! 」
 叫ぶ高天原。
 3体の天使たちは再び空へと戻った。
 そのあとに残されたのは、両腕と片方の足を剣で貫かれ、まるで昆虫の標本のように道路に縫い付けられた巨人の姿だった。
「なんてことだ……! 」
 高天原の苦々しげな声を聞きながら、マイケルは3体の天使たちと合体する。
再び1体に戻った大天使は地面に這いつくばる巨人の前に立って翼をたたんだ。
「勝負あったな」
 私は答えない。気絶していたわけではなかったが、ここでは答えるわけにはいかない。
「言いのこすことがあるならば聞こう」
 遠くにその声を聞いて、私はなんとか口を開く。
「……ひとつだけ」
「なんだ」
「なめんじゃねぇ」
 その直後、天使の胸から刃が飛び出す!
「なっ……!? 」
 天使は剣を取り落とし、大きくよろけて胸の刃を見た。
それは背後から突き刺さり貫通したもので、位置は人間でいえば心臓の位置をみごとに貫いている。
 そして天使の集中力が切れたためか、巨人を磔にしていた3本の剣はそれと同時にかき消えた。
 天使はビルに片手を突き、吐血のように黒い粘液を吐き出した。
「いったい……なにが……?」
 マイケルは後ろに手をやって、突き刺さったものを引き抜く。
 シンブレイバーの小剣だった。その剣は刃と柄の根本で折れ曲がり、ブーメラン形態になっている。
「これかぁ……! 」
 それは最初に3体の天使たちに襲われたときにシンブレイバーが投げて避けられたブーメランだった。
「なぜ今ごろ……? 」
「忘れた? 」
 巨人は膝に手をつきつつも立ち上がって、道路に転がるダブルセイバーに片手をかざした。
剣はひとりでに飛び上がり、その手に収まる。
「そうだったな……」
 言うがはやいか、天使は空に戻ろうと再び翼をひろげる。
「遅い! 」
 だがその場所は私の間合いだった。
 私はダブルセイバーを再び二本の大剣に分解し、片方を投げつける。
翼の片方を貫かれ、ビルに磔にされたのはこんどは天使の方だった。
 天使はうめき声をあげる。胸の傷は断面が燃え始めていた。
「よし! 」
 そう言ったのは高天原だった。
 私は大剣の切っ先をマイケルに突きつけ、その前に立つ。
 マイケルはこちらを見上げ、にやりと笑った。
「やるじゃないか」
「どうも」
「あの時に投げた剣はこのためか」
 私はうなずく。
「トドメはアンタ自身ですると思ったから」
「いい読みだ」
 マイケルはクツクツ笑った。胸の傷の炎の勢いはだんだん弱まりはじめている。再生しているのだ。
 私はマイケルがはじめて私の部屋に襲撃
してきたときのことを思い出していた。マイケルはその立場上、自分の部下や天照研究所の職員を使うこともできたはずだ。
だが彼はひとりで私を襲った。
「あなたは優しい」
 それはきっと汚れ仕事を他人にさせたくないからだったのだろう。
そういう人が自らの手で決着をつけたがらないわけがない。
 胸がちくりと痛んで目を伏せると、高天原のわめく声がする。
「志野さん、はやくトドメを――」
「――もう『×』とは分離できないんですか」
 無視してそう訊ねるとマイケルはなぜか肩をすくめた。
「もう勝った気でいるのか? 」
 直後だった。
 マイケルはいまだ自由な方の翼をいきなり広げ、シンブレイバーの剣を打ちつけた!
「なっ!? 」
 私は声をあげ、つい後ろに跳びのいてしまった。その隙に天使は自らを磔にしている剣を抜く。
「しまった……! 」
 私は舌打ちした。高天原が叫ぶ。
「何してるんですか! さっさと斬らないからです! 」
 彼の声には異様な熱があった。
「でも斬らずに済むならそっちのほうが――」
「何を甘ったれてるんですか! 」
 高天原の声はシンブレイバーの体から街に響きわたっている。
「彼は敵です! 」
 その言葉に言い返そうとして一瞬マイケルから目を離したときだった。
 剣を抜いたマイケルが目の前にせまる!
 私は全身をかけ抜ける恐怖に毛を逆立てながらも素早く手にした剣を振り上げ、天使の剣を空中へと弾き飛ばす。
「クソッ! 」
 マイケルが毒づいた。剣を弾かれた彼は両腕をあげたまま無防備な腹をこちらに晒している。
そしてシンブレイバーの剣の刃は横に寝かされ、振り抜けば確実にその体を両断できる位置にあった。
(今だ――)
 脳細胞が弾ける。勝利の確信が私の腕を振るわせた――

「――殺せ! 」

 ――剣を止めた。
 シンブレイバーの体から街に響いたその単語は空気を凍りつかせていた。
 巨人は剣を中途半端な位置で止め、天使はその前に腕を下げて立つ。研究所内の指令室の中でも身じろぎする者はいなかった。
 ただその言葉を発した人物を除いて。
 時間が止まったような沈黙を破ったのはマイケルだった。
「やはりお前か……高天原ぁ!! 」


 女木戸市に巻き起こっていた異変は『×』と巨人の戦いだけではなかった。
 この戦いが始まってから、ゆっくりと、全身に毒がまわるように進行していたもうひとつの異変は、
市内の若者たちを中心に始まっていた。
 『魔学』の流出。
 あまりにも危険なために封印されていた技術の流出は、研究所か病院の関係者によって為されていることはわかっていた。
 それは研究所とフリーメイソンの長い歴史に対する重大な裏切りであり、決してあってはならないことだった。
 病院の窓口で配っていた機械には『×』による被害を抑えるためとの大義名分があったが、
それを指示したのは所長代理である高天原だ。
 シンブレイカーを兵器として改造し、シンブレイバーとしたのも高天原だ。
 『×』と巨人との戦いを終わらせないために志野真実の保護に一番注力していたのも高天原だし、
彼女を『真実』へ到達させないように禁書棚を見張ったりしていたのも高天原だ。
 この状況を長引かせるために邪魔者であるマイケルを排除しようとしたのも高天原だ。
 そして今、本当に人命の保護を最重要の目的としていたならば絶対に口にしないであろう言葉を彼は口にした。
(裏切りものは高天原――)
 それは瞬時に全員が理解した。


 指令室内の映像が私の目の前に浮かんでいる。
 今、その部屋のすべての人間は手を止め、高天原を注視していた。
誰も何かを言うことはなかったが、言いたいことは誰もが同じだった。
 高天原はあたりを見渡してたじろぐ。両手をあげて、困ったような表情をした。
「い、いやだなぁ、皆さんどうしたんですか」
 誰も応えない。
「ただの言葉のあやですよ、興奮してしまって――」
「――それでも、誰かを助けようとする人間のせりふとは思えないな」
 マイケルが言った。高天原の声はシンブレイバーのスピーカーから彼にも届いていた。
「そんな、少し言葉を間違ってしまっただけじゃないですか」
 彼はそう言ったが、その表情はひきつっていて、自分が取り返しのつかないあやまちを犯したことに明らかに動揺していた。
「ほ、ほら、今はそんなことよりも――」
「――たしか『火あぶり』のときに」
 いきなり高天原の背後のドアが開いた。そこには因幡命が腕を組んで立っていた。
「天照所長にシンブレイカーに乗るよう言ったのもお前だったよね」
 因幡はつかつかと高天原に歩み寄る。彼は後退り、コンソールにぶつかった。
「天照所長のような人がとても戦えるはずがないとわかっていてそう言ったんじゃない?
 彼女を排除して、権限を奪うために」
「そんな、言いがかりですよ! 」
 高天原は大きく腕を振った。
「それに、あのとき貴女は研究所にはいなかったじゃないですか! 何を根拠にそんなデマを――」
「本人から聞いた」
 そう言い放った因幡の背後からドアをくぐって現れたひとつの人影があった。
 すべての人間はその姿を見て驚愕し、そして歓喜した。
「お久しぶりです、みなさん」
 天照恵がそこにいた。
 職員らのあいだから歓声が沸く!
 天照恵は微笑み、深々とお辞儀をした。
その温かい笑顔はまるで太陽のようで、とても生死の境をさまよっていた人間とは思えない。
肌はシミひとつなく、雪原のように輝いていた。美しい黒髪は見るからになめらかで見とれるほど。
黒曜石のような瞳と赤い唇は生命力にあふれていた。
 誰もが彼女の突然の再来に驚喜していた。ただひとり、高天原を除いて。
「その姿が証拠だ」
 因幡が言った。高天原は脇を締め、軽く背を曲げ、警戒するような姿勢であったのだ。
言われて彼はその態度を隠したが、遅かった。
「所長……」
「高天原」
 天照が静かに言った。その目は細められ、潤んでいる。
「話は全て聞きました。多大な迷惑をかけてしまったようですね、申し訳ありません。そしてありがとうございました」
 頭を下げる天照。
「聞いてください、私は――」
「高天原、ひとつだけ質問させてください」
 天照は高天原をまっすぐに見すえた。
 そして静かに訊いた。
「あなたは『罪』を犯しましたか? 」
 その質問を最後に高天原は沈黙した。顔を伏せ、肩をわずかに震わせている。
 天照は目をとじ、ゆっくりと開く。
「……あなたが答えを出せるまで、拘束いたします」
 天照が泣きそうな声でそう言った直後だった。
「いいえ、その必要はございません」
 高天原が顔をあげた。その表情には先程までのような動揺はなく、迷いがなかった。
「『我に罪なし、汝に罪あり』! 」
 すると高天原の周囲に静電気の嵐が巻き起こる――
「逃がすなぁ! 」
 マイケルが叫んだときには遅かった。
 高天原の体はまばゆい光に包まれ、またたく間に消失していた。
天照や因幡たちは突然の光に目がくらみ、何もできなかった。


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