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四話:【Red Dragon Part1】

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ParaBellum

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 街中で銃弾が飛び交う。その中を平然と歩く男と、背後をついて回る少女。男が歩いた道の後にはスクラップと化したアンドロイドが横たわる。
 次から次へと現れるアンドロイドの襲撃者は、どちらが機械か解らない程の正確な射撃で破壊されていく。
 警官に見つかれば面倒だが、敵が代わりに片付けてくれているようだった。。

「所構わず撃ちやがって。街を戦場にする気か?」

 ハタから見ればそこは既に戦場だが、ヘンヨにはまだそうは思えない。なぜならば、彼は本物の、それも最悪な戦場をよく知っているからだ。
 それに比べれば、今の状況などちょっとしたアクシデントに過ぎない物だった。

「どうやって逃げるの……?」
「今考えてる。安心してついて来ればいい」




 四話:【Red Dragon Part1】




 今、ヘンヨはアイス店の裏口から出て道路へ面した建物の角に居る。
 背後からの攻撃は無かったが、すぐに追っ手が来るはずだ。そして、道路側からも敵が迫って来る。
 何処に居たんだという程の数だった。さっき倒した三体と合わせ、ヘンヨはざっと数を数える。四、五、六、七……。
 合計で十二体。さらに後続も居るだろうとヘンヨは予測する。
 この突撃形式には覚えがある。ターゲットに接近し、一人の合図とともになだれ込み、一瞬で数の力をたたき付ける。逃げようとすれば、さらに追っ手を放つ。
 昔、ヘンヨもよくやっていた事だった。

「面倒だな……。ケガは無いか?」
「こっちのセリフなんだけど……」

 アリサはいぶかしげにヘンヨの顔を覗き込む。機械の裏拳を喰ったはずの顔はかすり傷すら無い。代わりに右前腕のジャケットの裾が少しばかり綻んでいる。
 一瞬で防御したのだろう。それにしても、だが。

「……腕、大丈夫?」
「何の事だ?」
「何の事って……」
「これか? ちょっと痣できただけだ。問題ない」

 いよいよ人間かどうかも怪しくなってきた。そうアリサが考えたと同時に、ヘンヨが逃亡プランを話し出した。

「よし、道路は渡れない。遮蔽物が無いし、広すぎる。あそこを見ろ」

 ヘンヨが指差した先にアリサは目をやる。そこにあったのは、地下鉄へと降りる昇降口だ。

「地下鉄はそのまま外に繋がる通路が幾つかある。そのまま適当な場所まで逃げる」
「でも……車は? 走って逃げるの?」
「途中までな。ちゃんと考えてる。あの車は高いんだ。手放すワケには行かない」

 ヘンヨは横たわるアンドロイドからサブマシンガンを奪い取り、マガジンを交換する。そして、それをアリサに差し出した。
 一瞬だけ自分に渡されているとは思わなかったアリサは、少しの間を置いて驚きと焦りの口調で抗議する。

「ちょ……。銃なんて撃った事ないし、私が撃ったって当たるわけ……」
「分かってる。ただの脅しだ。近づいてきたら適当に撃て」

 ヘンヨは明かに銃の扱いに慣れていた。おかげで感覚が鈍っているのだろうか、ただの女の子にサブマシンガンを手渡して撃てと言うのは無茶な要求だ。
 映画と実銃は違う。その威力を目の当たりにしているアリサには、銃は忌むべき道具にしか映っていない。あくまでそれは、テレビ画面の向こうにある物という感覚だった。

「行くぞ」

 いぶかしむアリサを尻目にヘンヨは手を引っ張って走り出す。
 中腰のままだったが、その速度は普通に走っているようにさえ感じられる程だった。
 そのまま前方へと発砲し、巨大なマグナムオートは強烈な銃声と意外な程に小さい薬莢を吐き出す。
 そしてまた一体、スクラップと化した敵が倒れて行く。

 地下鉄の入口まではほんの数メートル程度の距離であった。そしてそこへ向かう二人を見た襲撃者達もその意図を感知し、速やかに追撃に入る。
 迷う事なく撃ち出される銃弾。アリサは地下への入口に半分まで体を入れた所で叫ぶ。
 頭上には十字砲火された超音速の金属が飛び交い、モルタルの壁に当たり破片をアリサとヘンヨに降らせる。命を狙われているという感覚が改めて沸き起こり、足が震える。

 一方のヘンヨには、まるでその気が無いように見える。
 たしかにピンチではあるが、襲撃者の攻撃は素人の戦闘ごっこにしか見えて居なかった。必要な程度に急げば、特に撃たれる心配も無いと判断してた。
 『荷物』さえ無ければ、反撃して殲滅させてもいい。その程度のお粗末な襲撃に思えたのだ。
 だが、それにアリサはついていくのが精一杯だったようだ。

 階段の一番下の段で、アリサは躓いていた。素人離れしたヘンヨについて行こうとし、あまつさえ震える足で一気に階段を駆け降りたのだ。
 ある意味では十分予測される結果ではあったのだが……。

「大丈夫か!? 早く立て」
「解ってるわよ! ちょっと踏み外しただけ――」
「――立つな!!」

 アリサに向けた言葉と同時に、ヘンヨはその背後を撃つ。そして、膝を破壊されたアンドロイドが階段を転げ落ちてアリサの横で静止した。
 横で転がるアンドロイドはアリサの方へ視線を向け、その腕を伸ばして来る。硬直するアリサに手がかかろうとした次の瞬間、二発の銃声と共にアンドロイドの腕と頭部は破壊された。
 前を向くと、銃口を向けたヘンヨがすぐ目の前まで歩み寄って来ていた。

「大丈夫か? 立てるか?」

 ヘンヨはそう言うが、その返答を待たずにアリサを立たせる。
 銃口は階段の上を向いたままだった。

「すぐに次が来る。脇の通用口に入るぞ」

 アリサは小さく頷き、ヘンヨはそれを確認すると通用口のドアを開ける。
 ギギギと、金属が擦れる嫌な音がこだまする。中は小さな照明があるだけで、どこと無くカビ臭い湿った空気の流れる空間だった。
 道は所々に曲がり角が有り、割と入り組んでいるようにも見える。
 地下鉄の間のみならず、様々の地下施設へと通じている、文字通りの「作業用通路」だった。

 二人はその中を走っている。
 アリサに手渡されたサブマシンガンはシングルハンドで撃てるサイズとはいえ、それでも一キロ超はある。体力そのものへの負担はほぼ無いが、にぎりしめる握力には厳しい物があった。
 ヘンヨにはそれが伝わっているかは定かでは無かった。彼は走りながら携帯でずっとメールやりとりしている。

「ず……ずいぶん余裕なんじゃない……!?」
「ああ。今、増援を呼んだんだ」

 増援? 誰が来るのか?
 とはいえ、この男と同類だとしたらどんな輩が現れるのか。頼もしいが、ついていく身としては多少、イヤな気分になる。
 そう思う程にヘンヨとアリサの危機感には温度差がある。
 背後から疲れを知らないアンドロイドが迫って来ているとは思えない程、ヘンヨは落ち着いている。

「ねぇヘンヨ!」
「なんだ!」
「あなたってホントに……きゃあ!!」

 アリサが叫ぶ。背後から銃撃されたらしい。弾丸は横を通過して行った。通路に響く銃声は外より一段と大きく聞こえる。
 直ぐさま身を伏して後方を向いたヘンヨは銃を構える。先程までより少し時間を使い照準を合わせ、狙ったのは敵のサブマシンガンのマガジン。
 スチール弾芯を仕込んだホローポイント弾がマッハ二でそれにぶつかり、薄暗い通路に青白い閃光が走る。
 後方へ弾けとんだアンドロイドのボディは足止めにも一役買うだろう。そう思っての射撃は、思惑通りの結果になる。

「あと少しだ。行くぞ」
「なんでそんなに余裕なの!?」
「とんでもない。『それなり』に大変だ。」

 事もなげに言い放つ。
 アリサの胸に去来したのは頼もしさよりも疑問。それは、ヘンヨという人間そのものに対する物だ。そう言えば、先程の事もまだ最後まで聞いては居なかった。
 一体、ヘンヨは何者なのか。好奇心をこれでもかと擽るが、今はそれどころではない。逃げるのが優先だ。
 そして、また二人は駆け出した。




※ ※ ※




「大丈夫か?」
「大丈夫……じゃない……」

 地下に潜ってから既に三十分以上経っている。
 所々で襲撃を受け、ヘンヨが撃退する間に足を休めたものの、それでも疲労感は隠しきれない。
 アリサの体力は限界に近い。

「出口はまだ……?」
「あと百メートルちょっとだ。そこからは車だ」

 あと少しと聞いて少しばかり安堵したが、そのあと少しの百メートルがアリサには異様に遠く感じる。
 疲労は感覚さえ奪って行く。その僅かな距離を走る体力が自分に残っているのか、正直なところ自信は無かった。
 壁に手をついて息を荒くし、手にしていたサブマシンガンを落とす。
 カツンと、プラスチックのフレームが地面に落ちる音が通路の中へこだましていく。
 命懸けの逃走などした事など無い。それは予想以上の精神的疲労が伴う。そしてそれは肉体にも顕著に現れている。
 走れない。いや、もう走るな。身体はそう言っていた。

 うなだれていると、不意に身体が宙に浮く。


 胴体には腕が回され、困惑している内にヘンヨの肩に担がれている。

「急ぐぞ。休んでいる暇は無い」

 アリサが何か言う前にヘンヨは走り出す。女の子とは言え人を一人担いでいるとは思えない脚取りだった。

「ちょっと……!!」
「グダグダ言うな。走れないなら走れないでいい。とにかく急ぐんだ」

 胴に回した腕から僅かに体温が伝わってくる。有り得ないとは思っていた「まさかヘンヨはアンドロイドでは?」という疑問は、この時点で消えた。
 アリサが落としたサブマシンガンは、結局は一度も撃たれる事無くその場へと放置される。
 出口のドアの前までは僅かな十数秒だった。その僅かな時間でもアリサの残り少ない体力には有り難い物だ。

 そして、ドアの前まで辿りつく。ヘンヨは静かにドアを開け、外の様子を伺うと、一息漏らして安心した様にドアを勢いよく開く。先程のメールの相手が待っていたようだ。
 外に出る二人を見て、待っていた増援は口を開く。乗っていた車はヘンヨのクーペだった。

『はぁーい。お二人さん。随分楽しそうじゃない』
「車ぶつけてないだろうなKK?」

 増援とは、アンドロイドのKK。いつの間にかヘンヨの車をここまで回していたらしい。
 先程のメールはこれを要請していた物だったようだ。

『早く乗りなさい。まだ追っ手来るかも知れないんでしょ?』
「え? でもこれって2シーターだよね……?」

 ヘンヨはニヤっと笑い、何の躊躇も無くシートの裏にアリサを押し込む。

「ちょっと!! ムチャしないでよ……いたた!!」
「仕方ないだろ。俺らがそこに収まるか?」
『ちょっとガマンしてねアリサちゃん。じゃ、ブッ飛ばすわよ』

 ヘンヨのクーペは待ってましたと言わんばかりに、エンジンの回転を上げけたたましい爆音をたたき出す。
 クラッチを繋ぐと同時に、狂暴性を剥き出しにしたエンジンパワーがシャフトからホイール、そして地面へと伝わる。白煙を上げ、低い車体は一気に加速していく。

「よし。このままスラムを抜けてスレッジの所まで行ってくれ。スラムまで行けば追ってくる奴は居ない」
『追って来たらどうするの?』
「俺のホームだ。そうなりゃ好きにやらせてもらうさ」
『じゃあ、今後ろに居るバイクはどうするの?』
「……何?」


 ヘンヨは後ろを振り向く。
 すると、二人乗りのバイク二台、猛然と接近して来るのが見えた。
 高速道ならまだしも、街中ではそのクーペの加速性能は最大まで引き出せない。それならば、小回りが効き加速に優れる大型バイクならば十分に追い付ける。

「それにしても速いな。本当にどこから沸いて出てるんだ?」
『そこら中に居るんじゃ無い? 紛れ混んじゃったら解らないもの』

 バイクの後席の射手は、器用に立ち上がりサブマシンガンを撃つ。時速百五十キロ以上に達して居た為か命中精度は著しく悪い。ほとんどが遠くへ逸れて行く。

「節操の無い連中だ。アリサ、お前の下にカービンがある。取ってくれ」
「え? 何を取れって? ……いたた!」
『アリサちゃんに言ってもわかんないわよ。そこの下にある銃の事よアリサちゃん』

 KKの言う通り、シートの影にライフルが見える。無理矢理引き抜いて、隙間からヘンヨへと手渡す。それを受け取ったヘンヨは、高速で走る車の窓から身を乗り出し、箱乗りで銃を構える。
 そして、じっくりと狙いを定める。次の瞬間。

 ガチン!

 金属音。
 後部のボンネットが一発被弾したようだった。

「……。マジかよ」
『あらら。直すのお金かかるわね』
「いくらすると思ってやがんだ……」

 ヘンヨは落ち込んだような声で一言漏らすと、セミオートでライフルを撃つ。追っ手のバイクは前輪に被弾し、瞬時に体勢を崩してオモチャの様に道路の上を跳びはねて行く。続くもう一台も同様に、今度は後輪を狙撃される。
 時速百五十キロで横転したバイクは火の粉で道路に軌跡を描きながら、摩擦によって減速し、投げ出されたアンドロイドは粉々に砕けて路上に散らばって行く。

「あとは……居ないな」

 ボソッとヘンヨは言う。車内へ身体を戻し、今度はアリサの方を覗き込む。いや、実際はアリサでは無く、リアガラス越しに見える被弾したボンネットを見ていた。

「ねぇヘンヨ……」
「……後にしてくれないか?」
『昔は気にしなくてもよかったんだけどねぇ。今は全部自分で用意するから……。ていうかこんな高級車使わなきゃいいのに』


 始めて見せるヘンヨの苛立った表情は、言いようのない淋しさが滲み出ている。
 ヘンヨの前職や、そのタフさの正体。それはあとでじっくり聞こう。隠すつもりもないようだし。
 そう思い、アリサは今は口を閉じている事にした。





※ ※ ※





「もう一度言ってくれないかベリアル?」
『もう一度ですか?』

 アンダースの発言に少し戸惑いを見せるチタンの塊。アンダースは前屈みになり、ふたたびベリアルの発言を待っている。

『長くなりますが……』
「解ってる。とにかくもう一度、その探偵の経歴を聞かせてくれ」
『分かりました………。
 ヘンヨ・シュレー。三十歳。
 両親は幼少の頃に殺人事件により死亡。祖母へ引き取られスラムで少年期を過ごす。
 十五歳で陸軍少年兵学校へ入学。十七歳で卒業し、高校修了資格を得ると同時に陸軍へ正式に入隊。
 十九歳でアフリカの紛争地域の治安維持部隊に従軍。三年間戦闘を行い、帰国と同時に陸軍士官学校へ。
 一年間教育を受け、卒業後に統合軍に転属し、陸軍傘下の特殊部隊隊員として主に国外で任務を行う。
 二十五歳でその部隊を離れ、その二年後に退役。最後の二年の経歴は不明ですが、最終的な階級は中佐。
 主な資格は、コンバットシューティング教官。市街地戦闘特殊技能教官。野営指導教官。CQC技術指導員。格闘指導員。爆発物取扱特殊技能員。
 ヘリコプター操縦者及び兵装オペレーター資格。対空兵装取扱者資格。大型特殊車両運転者資格……』
「解った……。もういい」

 ベリアルの説明はまだ途中だったが、アンダースはそれを遮る。
 自ら求めた物とは言え、これからまだまだ続くヘンヨの技能を表す事柄を延々と再び聞く事に嫌気が刺した。

「つまりは……その探偵野郎は?」
『兵士です。一流の』
「なぜそんな奴が探偵なんか? 高級将校じゃないか。ある意味で安定している」
『解りかねますが……。最後の二年間に何かあったのでは?』
「調べられないのか?」
『前半の経歴は軍の資料に残っています。最後の二年間は在籍している事しか公開されていません。まだ未知の技能を有している可能性も』
「もしそんな奴が本気になったら……」
『キース様はすぐに見つかるでしょう。安心出来ます』
「だといいがな……」


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