創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

一話:【1st impression】

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ParaBellum

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銃弾が横を通過していく。それは壁に当たり、破片を撒き散らしながら穴を穿っていく。それが一秒間に何発も、それも四つの銃口から放たれている。

「何!? 何なの!?」
「静かにしろアリサ。動くんじゃない」

 茶色の髪の少女が叫び、それを抱える赤い髪の男はそれを窘める。男は冷静だった。今まさに、銃弾の雨の中に居るとは思えない程に。
 マグナムオートを手に、反撃の機会を伺っている。

「どうするのよヘンヨ!?」
「静かにしろと言ったろ。いつまでも撃ち続けられる物じゃないんだ。すぐに止む」

 ヘンヨという男が言う通り、銃撃は直後に止んだ。次に敵の取る行動は解っている。接近して止めを刺すつもりだ。
 ヘンヨはアリサという少女にここに居ろといい、自分は壁際に移動する。今居る場所は自分が借りているアパートの廊下。三階の階段の陰だ。
 ジャリ、と破片を踏み締める音がする。敵が近付いて来た。ヘンヨは廊下の陰でそれを待つ。
 敵はサブマシンガンを構えながらジワジワ接近し、とうとう三階まで到達してしまう。勢いよく廊下に銃口を向け、目標の姿を確認しようとした時、敵が見たのは天井だった。
 唐突な視界の異変に敵の思考は追い付かず、背中に強い衝撃を感じて始めて、状況を理解する。組み伏せられたのだ。一瞬で。
 視界が安定した時、見えたのは銃口を向けるヘンヨ。敵が恐怖する間もなく、ヘンヨはマグナムオートを撃つ。357マグナムが胸に二発撃ち込まれ、敵の機能は停止する。

「……アンドロイドか。どこの連中だ?」

 ヘンヨは胸部を破壊されスクラップになったアンドロイドを見下ろしながら、なぜこうなったのかと頭を働かせる。


 事の発端は、つい先程出会った奇妙な少女、アリサの祖父の手紙からだった。


 一話【1st impression】



 小汚いビル。転がる空き缶と新聞紙、路上に寝そべる浮浪者。お世辞にもいい所とは言えない環境だった。
 ビルの中は薄暗いベージュ色の壁紙で覆われ、その上から落書きがなされている。そこへはさらに穴が無数に開けられ、修繕もされずに放置されたままだ。それは銃弾の後だった。
 廊下に進もうとすると怒鳴り合う声。壁をガンガン叩く音。勢いよく飛び出して来たのはやせ細った男と、それを追う警官。
 組み伏せられ地面に転がる男に警官が銃口を突き付け、犯人の権利を読み上げる。ドラッグディーラーの逮捕劇だった。

 そこに居た少女、アリサ・グレンパークはとんでもない所に来てしまったと思う。肩で切り揃えられた茶色の髪と、同じ色の目。その目で警官を思わずじっと見ていたが、危ないから向こうへ行けと怒鳴られる。
 思わずびくっとなり、スカートと肩にかけた小さな鞄が揺れる。
 階段を駆け登って目的の階まで逃げるように移動し、最初に見たのは寝そべるジャンキー。アリサを見るなりボロボロの歯を見せながら「何か持っていないか」とニタニタしながら執拗に迫る。
 さっきの警官に助けを求めようかと思った矢先、階下から銃声。警官が発砲したらしい。怒鳴り声は笑い声に変わっている。金を奪う為に警官がディーラーを処刑したのだ。
 アリサは即座に考えを変え、目的の部屋へと急ぐ。一刻も早く、ここから脱出しなければ殺されるかヤク漬けにされる。
 こんな所に住む人間が信用出来るとも思えなかったが、今はそれを紹介した祖父の友人を信じるしかない。もしダメなら……。アリサはその先を考えようとしなかった。

 ビルの三階の廊下を進み、一番奥から一つ手前の部屋。そこが目的の場所。ネームプレートには「ヘンヨ・シュレー」と書かれている。
 アリサはドアをノックし、部屋の主の返答を待つ。「開いている」と聞こえ、ドアノブを回すと確かに開いていた。こんな所でなんて不用心なとも思った。
 部屋に入ると、赤い髪の男性がアリサを出迎える。身長は百八十はあるだろうか。黒いカットソーを着ているが、体格は服の上からでも分かるほどがっしりしている。腰には巨大なピストルを入れたホルスターを装着し、目にかかった髪と同じ赤い目はアリサをまっすぐ見ている。
 第一印象としては「とりあえず強そうだ」。これだけだった。

ヘンヨはアリサを目の前のテーブルの席に座らせ、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出してコップに注いでいる。

「あ……あの、こんな所、危なくないんですか?」
「住んでいる訳じゃない。仕事の話をする時だけ使ってるんだ。ここじゃ怪しまれようもないからな。木を隠すならなんとやらだ」

 ヘンヨはグラスのオレンジジュースをアリサに差し出して、自分も席にすわる。アリサは一口それを飲み、普通のオレンジジュースだと安心する。ここじゃすべてが怪しく見えてしまっていた。
 冷たいグラスが汗をかき、テーブルの上を濡らしていく。ヘンヨはアリサが話し出すのを待っている。自分からいろいろ聞き出すのは彼のスタイルに反するのだ。放っておけば、依頼人は必要な事を喋り出す。
 案の定、沈黙に耐えられなくなったアリサは喋り出した。

「えっ……と。シュレーさん。でしたよね?」
「ヘンヨでいい。依頼内容の詳しい説明をしてくれないか? スレッジの電話だけじゃよく解らなかったんだ」

 スレッジという名前を聞いて、アリサは誰の事かと思う。
 思い当たるのは祖父の友人の一人である薄汚い中年のオヤジ。いろいろと危ない仕事を、それぞれの専門家に紹介する裏の営業マン。いわゆる「仲介屋」だ。
 なぜそんな人物が祖父の友人なのかは理解に苦しむが、彼がアリサとヘンヨを引き合わせた張本人だ。

「えっと……。とりあえずこれをあなたに渡せって」

 アリサは鞄から封筒を取り出す。ヘンヨはそれを受け取り、手触りから中身はメモリーカードだと推測する。アリサに承諾を得て中身を確認すると、確かに中には一枚の大容量メモリーカードと、一通の手紙。
 アリサの祖父、キース・グレンパークから、ヘンヨへ当てたメッセージだった。

「……なんだこれは?」
「どうしたんですか?」
「依頼内容だ。お前を半年間、預かってくれだそうだ」
「ああ、やっぱり。失踪しちゃったんだおじいちゃん……」
「失踪? どういう事だ?」

 アリサが言うには、先日のアリサの十六歳の誕生日を境に祖父は姿をくらましたという。
 両親がおらず、肉親は祖父だけだったアリサは困り果てていた所、スレッジから祖父の手紙とヘンヨへの封筒が届き、祖父の手紙で、この日にここでヘンヨに助けを求めるよう指示されたという。
 セッティングしたのはもちろんスレッジだ。

「失踪するような心当たりはないのか?」
「あるわけないですよ……」
「やれやれ……」

 手紙には報酬についても書かれている。全財産の半分を支払うとの事だ。仲介料は別にスレッジに支払うとも。
 奇っ怪な内容である。失踪した人物がどうやって代金を支払うのか。もし孫のアリサがそれを了承しなかったらどうするつもりなのか。

「スレッジには会った事は?」
「最後に会ったのは去年です」
「そうか。では祖父とスレッジの関係については何か知っているか?」
「あんまり知りません」
「面倒だな……」

 ヘンヨはこの奇っ怪な依頼を受けるべきか考えた。報酬は十分。内容は少女を半年だけ保護する事。
 たいがいにしてこういう時は危険が付き纏うが、依頼人のキースは善良な一般市民である。身辺調査では確かにアリサという孫も確認出来ている。間違いなく目の前に居る少女だ。
 仮に危険が迫っても、自分ならある程度は処理できると思っている。
 考えたあげく、出した結論は「依頼を受けるかは保留」だった。

「えぇぇええ~」
「何を驚いている? やらないとは言っていないぞ」
「だって、一縷の望みをかけてここまで来たのに……」
「キースの事か? 俺も直接会っていろいろと聞きたいね。まずはスレッジに会って事情を聞く。話はそれからだ。それで君と俺が納得したら、正式に契約だ。キースも捜す。それでいいな?」
「一つ、聞いていい?」
「なんだ?」
「あなたは信用出来る人?」
「それは難しいかもな」

 ヘンヨはニタっと笑って言う。悪役面でのその表情は思わず引いてしまうほどの不気味さがあったが、同時に絶対的な自信も感じさせる。
 とりあえず、頼りにはなりそうだとアリサは思った。

「とりあえずコイツを見てみよう」

 ヘンヨはノートパソコンを取り出し、キースの手紙と一緒にあったメモリーカードを取り出す。
 それをパソコンに差し込み、フォルダを開こうとすると、そのとんでもない容量にパソコンの方が根を上げそうになる。それはとても一般に出回る事のない、ナノメモリーの集合体。

「こいつは凄いな。キースはどこでこれを手に入れたんだ?」
「何が記録されてるの……?」
「まだ解らない。このメモリー自体が凄い物だ」

 パソコンを挟んで、ヘンヨとアリサはしばらく沈黙していた。パソコンを起動してから、時間にして僅か数分だろう。異変は突然に訪れる。
 ガシャン! と音がする。窓が割れた音だ。そして、部屋の中には煙を噴き出しながら転がる長さ十センチほどの黒い物体。

「――これはこれは」

 ヘンヨはパソコンのケーブルを引っこ抜き、メモリーカードを無理矢理に取り出す。それをポケットに突っ込む。
 すべてアリサが叫ぶ前に行い、今度はアリサをしゃがませて、自分はアパートの部屋の入口を蹴破る。手には既に357マグナムを発射するマグナムオートが握られている。

「え!? え!? キャアアアア!」

 ようやくアリサが叫んだ時、部屋の中は煙が充満しつつあった。ヘンヨはアリサの襟首を掴んで廊下に出るよう無言で誘導する。
 ヘンヨが自ら先頭になり廊下に出ると、そこにはまだ異変は起きていなかった。住人達も馴れた物だと思っていたのだろう。前にも警察の特殊部隊が催涙ガスを撃ち込んでギャングを根こそぎ逮捕した事がある。
 この程度では騒ぎにならない。ヘンヨにとっては非常にやりやすい環境だ。
 アリサの手を取って中腰で廊下を進み、階段へたどり着くと階下へ続く踊場にはロングコートを着込んだ人影が四人。住人ではない。
 手にしたサブマシンガンの銃口を向け、一斉に射撃を浴びせてくる。ヘンヨはアリサを抱えて床にしゃがみ込んで、壁の陰に隠れ逃れようとする。

「お前の爺さんは何をした? メモリーを開いた瞬間に表れたぞ。あれは何だ」
「ししし、知らないわよ!?」
「よし、ここに居ろよ」

 ヘンヨはそういって立ち上がり、階段を登ってきた襲撃者の一人を一瞬で倒してしまう。素人の動きでは無い。普通の格闘技でも無かった。
 アリサにはその正体は解らなかったが、それは明らかに軍隊格闘術である。
 倒された襲撃者のバイオマテリアルの表皮がめくれ上がり、内部の機械的なパーツが飛び散って行く。アンドロイドだ。

「……メモリーの起動を感知したのか? 随分と来るのが早い」

 倒したアンドロイドの身体をまさぐり、予備のマガジンを取り出す。今度はそれを階下へと投げ付け、素早くそれを撃つ。踊場に居たアンドロイドは爆発に巻き込まれ、倒れるか機能の一部が停止するかのダメージを負う。

よろめくアンドロイド。次の瞬間にはその頭部がマグナム弾の射撃で吹き飛ばされていく。

「大したことないな」

 ヘンヨがそう言った頃には、襲撃者達はすべて機能を停止していた。

「よし、車で逃げる。まずはスレッジに会ってお前の爺さんの事を聞く。何か知っているかもしれん」
「あの人に? 会いたくないなぁ……」
「俺もだよ。だが依頼主が行方不明のまま仲介したのはルール違反だ。ちゃんと筋を通してもらう」
「大丈夫なの?」
「もちろんだ」

 ヘンヨは転がるアンドロイドの身体を蹴っ飛ばし、堂々と階段を降りて行く。アリサもそれに付いて行く。
 アリサは、先程の見事な立ち回りを見た率直な疑問をヘンヨにぶつけてみた。

「ねぇ?」
「なんだ?」
「あなた何者なの?」
「ただの探偵業だよ。何でもやるけどな」

 ヘンヨの解答はそれだけだった。


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