創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

ヴィルティック:EVOLVE 後

最終更新:

ParaBellum

- view
だれでも歓迎! 編集
≪ただし――――抗えたらの話だけどね≫

スネイルがそう言った次の瞬間、光球が巨大なビームとなって、ヴィルティックへと最高速で飛んでいく。
その速度、大きさからして、ヴィルティックライフルのバーストモードの比ではない。
もし万が一でも当たれば、ヴィルティックを丸ごと消滅させてしまうだろう。

それ程の脅威が迫っているにも拘らず、ヴィルティックはただ、ランサーを前方へと構えているだけだ。
しかし大型スラスタ―から放出される光は、この戦闘の中でもっと大きく、そして出力を増している。
モニター前面が、妖精の光で包まれ―――――。

「シャッフル……コンボ」

「カウンター、コントロールを同時発動」

『トランスインポート カウンターとコントロールを展開します』

『カウンター、及びコントロールを同時に発動します』

妖精によって、ヴィルティックが飲み込まれる寸前――――ヴィルティックを守る様前面に、半透明のフィールドが成形された。
フィールドは姿形に反して非常に強固でであり、妖精がどれだけ迫ろうと、一向に破れる様子は無い。
と、一度妖精はフィールドの固さに敗れたのか拡散し――――フィールド中央へと集まっていき、やがてそれはスネイルが作りだした光球と全く同じ形になる。
隆昭はヴィルティックの腰部を捻りランサーを突きだすと、その光球に向かって、叫んだ。

「当たれ!」

スネイルが行った事と全く同じく、光球がビームと化してルヴァイアルへと放たれた。
しかしルヴァイアル、及びスネイルは隆昭がその戦法を取るのが予想済みだったのか、軽く半身を動かしただけで易々と回避する。
舌打ちに加え、隆昭は無意識に歯軋りした。

残りカードは二枚。武装はヴィルティックランサーのみ。既に装甲は度重なる攻撃のせいで焼け焦げてボロボロであり、尚且つ左腕を失っている。
一方、ルヴァイアルには傷はおろか汚れさえ付いていない。一度は接近を許したものの、殆ど決定打以前に攻撃さえ与えられなかった。
しかし、だ。戦う上で非常に厄介であった遠隔兵器である妖精はもう無い。だがルヴァイアルに武器があるだろうから、油断などもってのほかだが。
退路は無い。ひたすらどうすれば良いかを考え、勝つ。それだけだ。

≪あら~? もう降参かしら?≫

隆昭を嘲笑い、余裕を見せつける様なゆったりとした口調でスネイルがそう、隆昭に言った。

「いえ……」

それに対して隆昭は、しっかりとした口調で返す。

「まだ俺は負けてませんよ、スネイルさん」

まっすぐ、ランサーをルヴァイアルに突き付けると共に、大型スラスタ―から放出される光より零れる粒子が、ヴィルティックを覆う。
何の誤魔化しも、何の小手先もいらない。ただ、この力の全てを、ルヴァイアルにぶつける。

「行……けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

まるでヴィルティックそれ自体が巨大な槍の様に、ルヴァイアルへと突貫する。
凄ましい暴風を味方に付け、槍はおろか機体その物でぶつかってくるヴィルティックに対して、ルヴァイアルは反応を示さない。
いや、ただ静観してる訳ではない。隆昭は気付く由が無いが、その両手には武器が――――。



互いの刃が龍神の如き咆哮を上げながら激突し、暗雲を一瞬だけ、眩い閃光で散らした。



業火の様な火花がランサーと、ルヴァイアルが持っている武器の間で鼓舞し、乱舞する。
認識する事が出来ない程の迅速さで、ルヴァイアルは両手に武器を召喚し、尚且つヴィルティックの攻撃を防いでいた。
その武器は巨大なリング状の輪となっており、大きく円を描いた刃である故に、満月を連想させる。

≪月光≫

ランサーと熾烈な鍔迫り合いしながら、スネイルがその武器の名を隆昭に教える。

「月光……ですか?」
≪そう。満月みたいに美しいでしょ?≫

隆昭は美しいかはともかく、月光の持つ強度にただただ、驚嘆する。
ヴィルティックはフルパワーでランサーを突いているにも関わらず、月光には刃こぼれはおろか、傷が付く様子は見られない。
そして何より、ヴィルティックが全身を使って突進しているのに、ルヴァイアルが今の位置から全く動いていない事が隆昭には何よりも驚嘆である。
これが表す事はつまり、ヴィルティックの全力を込めた攻撃が、全く通じていないという事だ。

「だが……!」

逆に考えれば、ルヴァイアルはこうして鍔迫り合いしている時には迂闊に動く事が出来ない、という事だ。
時間は掛かったがようやく隙が出来た。本当に時間が掛かったが。

「シャッフル……ユニゾン!」

『トランスインポート ユニゾンを展開します」

両腰のスラスタ―と大型スラスタ―を動かし、ルヴァイアルから一旦距離を取る為、後方へと下がる。
ランサーを構える。一方、ルヴァイアルは両足を揃えて月光を下ろすと、ヴィルティックを見据えており、動きを見せない。
大きく振り被ってランサーを回しながら、隆昭はCASへと命令しつつ、再びルヴァイアルの懐へ突撃する。

「ユニゾン、発動!」

『ユニゾンを発動します』

その時、ルヴァイアルの背後から鏡の様に、全く同じポーズでランサーを振り被るヴィルティックが現われた。

このユニゾンというカードは、ミラージュと同じく偽物を生み出すという効果があるがミラージュとは徹底的に違うカードである。
ミラージュが自らの分身を作りだして戦闘力を増したり、敵の攻撃を分身する事で回避する事が出来るのに比べて、ユニゾンはその様な行為は行う頃が出来ない。
ただし、敵機に攻撃を仕掛ける際に鏡合わせ、または同時に攻撃を繰り出せ、尚且つ戦闘力が二倍になる為、決着を付ける際に推奨される、戦闘特化のカードなのである。
その為、隆昭の選択事態に間違いは無い、が……。

「これで……終わりです! スネイルさん!」

≪……甘いわね。やっぱり貴方は甘過ぎるわ。少しでも期待した、私が愚かだった≫

スネイルが失望した、という含みを込めた口調でそう言った。

≪凍結≫

斬りかかり、全てが終わりとだと思った。矢先、不可思議な事が、ヴィルティックの身に巻き起こる。
ランサーを持っている右手、否、右腕が全く動かないのだ。どれだけ球体に意思を送ろうと、右腕は全く動かない。
何故だ? どうして? 隆昭の頭の中で疑問符が跋扈する。モニターに目をやると、気付く。

右腕の各部が変色している。それも氷漬けにされている様に。思わず隆昭の口から言葉が漏れる。

「これは……?」

≪聞こえなかったの? 凍結って言ったの≫

事態を把握できずに頭がパニックの陥っている隆昭に、スネイルが構わず解説を続ける。

≪自分で見たでしょ? このカードは敵機を疑似的な凍結状態にする事が出来るの。ま、言うなれば有無を言わさず身動きを封じる事が出来るって事ね≫

気付く。右腕だけでなく、脚部にまで信じられないほどのスピードで凍結されている事に。
ユニゾンを見ると偽物なせいか全身氷漬けになっており、ルヴァイアルが後ろを向いて月光で簡単に切り裂いた。
球体にどれだけ念じても願っても、右腕も脚部も、胴体も動かない。見ればランサーまでも変色し、凍結されていた。
ここで初めて、隆昭は恐怖を感じる。確実にこの状況下はまずいと、脳では無く体が先に反応しており、その証拠に軽く手が震えている。

≪それにしても情けないわね。もし少しでも私に一太刀浴びせてくれてたら、ちょっとは褒めてあげられたんだけど≫

ルヴァイアルがこちらに向かってゆっくりと、近づいてくる。
隆昭はひたすらに願う。球体に触れ、撫で、強く押し、一向に動く気配がなくてもひたすら、願う。

動け。

動け、動け動け動け。

動け動け動け動け動け動け動け動け――――頼む、動いてくれ、ヴィルティック!


≪ま、しばらく戦闘らしい戦闘もしてなかったからそれなりに楽しめたわ。リハビリには丁度良いくらいにはね≫

ルヴァイアルが纏っていた空気が、変わる。一瞬、殺されたのか、俺? と思うほどの強すぎる殺気に、隆昭は立ち眩みがする。
今までどこか軽く見ていた部分があったかもしれない。だが、今はっきりと隆昭は再認識する。このスネイルと言う人が――――何故、魔女と呼ばれていたかを。
モニターを見ると何かが落下して、海原に水柱が立っていた。何だとぼんやりした頭で確認すると、脚部、膝から下が月光で切断されていた。
左腕と実質脚部を失い、尚且つ身動き不可能。詰み。敗北。撃沈。死亡。隆昭の頭に、様々な二文字が重く圧し掛かる。

≪このまま貴方を殺すのは簡単だけど、オルトロックとの戦いでちゃんと学んだのかどうかを試させて貰おうかな≫


≪灼熱≫

隆昭は球体から反射的に手を離した。両手が焼かれると錯覚する程の熱度を、球体から感じたのだ。いや、球体だけじゃない。
コックピット自体の温度が異常なほどに上がっている。灼かれている――――額から滝の様な汗を流しながら、隆昭はそう認識する。
あまりの熱さに、隆昭は両手で頭を抱えて前屈みになった。まともな思考が浮かんでこない。呼吸が荒くなってきて、喉が痛くなる。
次第に頭の中に湯気がかかった様になり、視界が揺らいできて、汗と共に涙と鼻水が止まらなくなる。

≪これね、ホントは使用を禁止されてる違反カードなんだけど、敢えて入れといたの。こういう状況も想定してね≫

耳だけがやけにハッキリと、スネイルの言葉を聞きとれている。辛い、上手く言えないが凄く辛い。

≪ざっくばらんにいえばコックピット周りの温度を上昇させて、パイロットを蒸し焼きにするカード。機体を残してパイロットだけを殺す、そんなカードね≫

「えげつ……無いっスよ……俺……死ぬっス……」

口からボロボロと本音が出るほど、隆昭は今正に、コックピット内で蒸し焼きにされそうになっている。
狂気的で異常な暑さによって視界が殆ど白くなっており、思考回路は何かを考えるという事が出来ない。ショートしている。
両手がだらりと降りて、隆昭の意識も、命も、数分も経たずに途切れそうだ。だが、しかし。

「け……ど……」

殆ど途切れている意識で、隆昭は両腕を上げて、球体に両手を置く。
最早両手の感覚は死んでいるに等しく、自分が何を触っていて何をしているかも良く分からない。
しかし、このまま何もしないで死にたくは、ない。

「俺は……」

違反カードのカテゴリは伊達でなく、非常に非人道的でかつ、残酷だ。
けれどもし未来にいけば、これ以上の禁止カード、いや――――これ以上に非道で残酷で、無慈悲な戦いを強いられる事は目に見えている。
ここで諦めて折れているんじゃ未来じゃ――――未来なんて、救える訳が無い。

「俺は……まだ……」

――――隆昭の脳裏に、愛しき彼女の面影が映る。

彼女は言った。未来を救ってほしいと。彼女は言った。未来を救ってくださいと。
最初こそ思った。馬鹿馬鹿しい、無理だ、無茶だ、俺にそんな無茶苦茶な責任を負わせないでくれ、と。
けど、オルトロック――――いや、未来からの侵略者との戦いと、アルフレッドとの邂逅、それに――――彼女が見せた涙。

「俺にはまだ」

もう充分、沢山の物を失った。もう良いだろって位、色んな物を、大切な物を失った。
沢山だ。こんな……こんな辛くて、苦しくて、悲しくて、どうしようもない、そんな運命に縛られるのは。
それに俺みたいな運命を――――もう誰にも、背負わせたくない。だから……だから俺は……!

「俺にはまだ、護りたい」

彼女が――――。


「俺にはまだ、護りたい物がある……だから――――」

「だから俺と戦ってくれ、ヴィルティック! お前の力が俺には――――必要なんだ!」

「ヴィル……ティック!」

ヴィルティックの蒼き瞳に、黄金色のもう一つの瞳が見開く。全てを失うという痛みの先で、一人と一機は新たなる覚醒を兆す。
重なる様に、隆昭の瞳孔に蒼と黄金のラインが織り込まれる。熱く、紅く染められていたコックピットが元の蒼色を取り戻す。
深く呼吸を整えて、隆昭はルヴァイアルを真正面から見据える。しかしヴィルティック自体は凍結によって、封じられたまま――――でも無い。
僅かに。本当に僅かに右手が、動く。少なくとも、ランサーを扱えるほどには。

「CAS……いや、メルフィー……」

球体を掌をしっかりと乗せ、隆昭はそう呟いた。もし灼熱の効果がバインドと同じなら、CASは……。

『機体の損傷率が70%を超えています。戦線からの離脱を推奨します』

今まで沈黙していたCASが、隆昭に再び報告を入れる。CASが破壊されていない事に嬉しいのか、隆昭の口元から笑みが零れる。

「良かった……大丈夫だったか」
『状況は非常に不利です。如何なさいますか?』



「……妙ね」

ルヴァイアルのコックピット内、スネイルは両足を組んでヴィルティックの動向を静観している。
凍結と各部が無くなった事によりヴィルティック、隆昭の戦意を完全に削いだつもり、だった。
ヴィルティック自体は動けない、だがヴィルティックのツインアイはまだ戦闘する意欲がある様に、蒼く強く、発光している。
……もしや、とスネイルは思う。オルトロックとの戦い、そして私との戦いで、ヴィルティックが――――。

「……第二覚醒、したみたいね」



「シャッフル! 最後のカードだ! 悪いな、後もう少しだけ俺に付き合ってくれ」

『勿論です。私は貴方をサポートする為の存在ですので。トランスインポート エレキトリックを展開します』

するとランサーの先端に稲妻の様な電流が弾けると、刃全体へと走り出した。
しかしヴィルティックの右腕は凍結されたままであり、尚且つ大型スラスタ―、及び全身のスラスタ―は動かす事が出来ない。
だが、不思議な事に手首だけが動ける様だ。だが手首が動いた程度でどうする事も出来やしないだろうが。

≪何をするつもり?≫

スネイルが不思議がっていると、ヴィルティックは手首を動かしてランサーを逆手に持ち替えた。
そして続けてランサーの柄をするりと滑らせると、驚くべき事に、ランサーの先端を胸部に向かって突き立てた。
次の瞬間、凄ましい電流がヴィルティックを襲う。全身を電流が暴れまわっては、装甲を焦がしていく。

≪やだ……自害する気?≫

とうとう自棄になったか、とスネイルは思う。確かに傍から見ると自らに電流を流すなど自傷行為に見えない。

≪……違う≫

様子がおかしい。装甲を焦がしていきながらも、凍結が次第に駆動部や装甲から引いてゆく。

≪鈴木君、もしかして貴方……≫


コックピット内、電撃が体を伝う。しかしその痛みが今の隆昭には、何よりの刺激となり寝ぼけていた意識を覚醒させる。

心の底から、隆昭は叫ぶ。

「動けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


スネイルは隆昭の考えに気付き、感嘆の息を漏らした。

自らにエレキトリックを撃ちこむ事で隆昭は、ヴィルティック内部の電子部分に刺激を与える事により凍結を解除――――いや、解凍していく。
気付けば、ヴィルティックを支配していた凍結はほぼ解除されていた。その代償であろう、白き装甲は茶色く焦げ付いているが。
刃が黒く変色しボロボロになったランサーを投げ捨てると、ルヴァイアルへと向きあう。

≪ビックリ仰天。まさか凍結を解除するなんて思わなかったわ。それでどうするの?≫

「……決まってます」

息を吹き返した大型スラスタ―が最後の光を放つ。スラスタ―より放出されたその光の翼は、今まで以上に瞬き、輝きながら広がっていく。
光の翼を作りだす粒子がヴィルティックを覆う。アイルニトルと直結しているのか、その粒子は蒼色から黄金色へと変わっている。

「正真正銘――――これで、終わりにします」

≪なら私も――――最後くらい、全力でお相手するわね≫

ルヴァイアルが月光を重ねあわせると、深く腰を捻りながら右足を差し出してヴィルティックを見据える。初めてルヴァイアルが大きな動作を取る。
ルヴァイアルに合わせる様に、ヴィルティックも右腕を後方へと下げながら腰を捻り、ルヴァイアルを見据えた。更に大きくなる、光の翼。
互いに動かず、見据えあうルヴァイアルとヴィルティック。まるで時が止まった様な静寂の中――――先に踏み出したのは、ヴィルティックだった。

何の迷いも怯えも見せず、ヴィルティックはルヴァイアルへと光の翼を羽ばたかせながら飛びこんでいく。
その様にスネイルは、歓喜とも狂喜とも取れる笑い声を上げながら、叫ぶ。

≪貴方の全てを――――私にぶつけなさい≫

ルヴァイアルが重ねていた月光を分離させて両手に握ると、真っ向から突撃し――――ながら左手に握った月光を放った。
放たれた月光はヴィルティックを素通りした、と思わせて回転しながらブーメランの様に戻ってくると背後からヴィルティックの頭部を、斬り落とした。
戻ってきた月光を受け取り、上空をしなやかに体を捻りながら飛び、ヴィルティックの鉄拳を回避する。月光を再び重ねあわせて、ヴィルティックの後ろに佇む。

≪良くやったわ。けど、さようなら≫

二枚の刃が一つとなった月光が、背を向けるヴィルティックに振り下ろされる――――。

頭部を斬り落とされた事で、全てのモニターが途切れ、コックピットが暗闇と静寂に包まれる。
光も何も無い、無の中で隆昭は目を瞑る。目を瞑る事でグレイルシステムに自らの感覚を全て委ねる。
見える。向かってくる。動きを止めたヴィルティックに斬りかかってくる、ルヴァイアルの輪郭が紅く、浮かぶ。

目を、開く。球体に――――否、ヴィルティックに全身全霊の、そして全てを終わらせる為の意思を送る。

『アイルニトル直接接続開始』

「エクステッド――――」


月光がヴィルティックに届く。寸前。

『強化装甲パージ 出力完全安定』
『エクステッドシステム発動承認待機』

「ヴァースト!」
『承認確認 全出力解放』

隆昭が腹の底から、心の奥底からその言葉を叫んだ、その瞬間。
ヴィルティックの切り札を封印していた右腕の追加装甲が斬りかかったルヴァイアルに向かって射出された。
構わずそれごと切り裂いて、ルヴァイアルが月光を交差させてヴィルティックを機体ごと撃沈させた、筈だった。

≪……残像、か≫

月光が斬った筈のヴィルティックの姿が、黄金色の粒子の集合体となって宙で弾けて四散した。
そこにヴィルティック本体は居ない。スネイルはルヴァイアルの頭部を動かして姿を消したヴィルティックを――――見つける。
光の翼で逆さまになりながらも体勢をルヴァイアルへと向けて、光の右腕の掌を、広げた。

「――――斬る」

途端、掌から柄から刃まで全て、光に生成された剣が瞬時に伸縮し、ヴィルティックはそれを掴み取った。
無論ルヴァイアルは月光を振ろうとした、が。その瞬間、コックピット内のモニター前面がプツリと暗くなった。前面が消えたという事は……頭を斬られた?
スネイルは予備モニターを作動させる。ヴィルティックは何処にも見えない。――――居た。
光の剣を唐竹割りでもする気か、上空に振り上げている。月光を重ねて一つにし、迎え撃つ。

「その存在を――――断ち切る!」
≪おいでなさい――――全てを掛けて≫

月光と光の剣がぶつかりあう。ランサーと月光の時の様に鍔迫り合うかと思えた
が、光の剣は月光を音を出さず、一文字に切り開いた。あれほど強固だった月光が、いとも簡単に斬られる。
下に重ねた方の月光が海原へと落ちる。もう片方が落ちる寸前に、ルヴァイアルは咄嗟に掴み、ヴィルティックのコックピットに――――。

ルヴァイアルの動きが、止まる。

ルヴァイアルが割れた月光の刃を向けるよりも早く、ヴィルティックの光の拳が正拳突きで、ルヴァイアルのコックピットへと接触していた。
ヴィルティックが、いや、隆昭がスネイルの反応速度を超えてルヴァイアルに肉薄し、急所であるコックピットにトドメを刺す、寸前で攻撃を止めた。
言うなれば非常にシビアなタイミングで、隆昭はスネイルに勝利した訳だ。しかし何故かトドメを刺さずに、寸止めしている。

≪……何故、トドメを刺さないの?≫

スネイルが隆昭にそう聞いた。すると隆昭はスネイルに、予想だにしない答えを返す。

「……俺、負けてましたよ。スネイルさんに凍結を使われた時点で」

隆昭のその言葉にスネイルは、敢えて何も言わず、隆昭の独白を静かに聞く。

「本当なら俺は……俺はこの力を使わずに、スネイルさんに勝てなきゃいけなかったんです。けど、俺はこの力を使ってしまいました」

そう語る隆昭の口調は一語一句しっかりと聞こえており、それでいて自分自身の意思という物をはっきりと感じさせてくれる。

「だからこの勝負は、俺の負けです。俺は……まだまだ、未熟者です」

≪確かにその通りね≫

グサリと、スネイルの言葉が隆昭の心に突き刺さる。スネイルは遠慮なく、隆昭の心に言葉の棘を突き刺し続ける。

≪マリオネット程度にバーストモードを使い過ぎ、接近戦は何も考えずに仕掛けて来るだけ、吸収に動きを縛られる。
 遠隔兵器の動かし方は無茶苦茶。おまけに不利だと分かっていながら取り回しの悪いランサーを使用する。100点中30点って所ね。大目に見て≫

「ですよねー……」

相当キツク言われるとは思っていたがここまで言われるとは思わなかった。少しどころか深く落ち込む隆昭。

≪だけど≫

スネイルの口調と雰囲気が普段の調子に戻る。普段の調子よりも穏やかに、それでいて、隆昭には優しく聞こえる。

≪だけど、昔の何も出来なかった頃と違って、今の貴方はどんな窮地に陥ろうと絶対に諦めず、勝機を見いだそうとした≫

「いえ……俺は只……」

≪自分自身成長したって、そう思わない? 私には貴方が昔よりもずっと、進歩した様に見えるわ。少なくとも、戦うという心構えに関してはね≫

スネイルにそう言われるが、隆昭は首を横に振り、否定する。

「俺は……オルトロックと戦った時と変わってません。やっぱり危ない時になると直ぐに慌てて、取り乱して。それでここまでボロボロになって……」

≪だけど貴方は私に勝った。寸止めされなきゃ私は確実に撃墜されてた≫

そこでスネイルは一度言葉を途切った。そして隆昭に、長かった戦いを労う様な口調で語る。

≪今日戦って、確信したわ。貴方とヴィルティックは一蓮托生、どちらが欠けてもいけない、一機と一人で一つの存在である事をね≫

≪この先、私が知ってる全ての事を少しづつ教えてあげる。だから鈴木君、私とメルフィー……ううん。
 貴方を支えてくれる人達が居る事を忘れないで。貴方は一人じゃない。だから切り開いて、私達の――――そして貴方自身の、未来を≫

「スネイルさん……」

そこで隆昭は、スネイルへと、自らの決意を、話す。

「俺……必ず、イルミナスを倒します。奴らを倒して、未来を、世界を取り戻します。それで……」

「メルフィーが……笑っていられる……世界、を」

ヴィルティックの大型スラスタ―と右腕から放出されていた光がゆっくりと収束していき、やがて消失していった。
頭部のツインアイの蒼い光がうっすらと黒くなっていくと数秒後、完全に黒くなる。

≪隆昭君?≫

激闘の果てに気絶したのか、それとも疲労が溜まりに溜まって眠りに落ちたのか。
どちらにしろ、隆昭はそのままヴィルティックと共に力尽きた様だ。ヴィルティックが海面へと落ちそうになるのを、ルヴァイアルが抱き抱える。
ヴィルティックを抱き抱えているルヴァイアルはまるで、スネイルが隆昭を、勝利を称えて抱きしめている様に見える。

『まだ復活が残っているが?』

ルヴァイアルのCASであるスチュアートが、両手を組んで枕にし、シートに背を預けているスネイルにそう聞いた。
スネイルが所持する9枚のカードの内、後1枚だけカードが残っている。そのカード名は復活と良い、消費したカードを一度だけその名の通り復活させて使用できるカードだ。

「良いの良いの。もう鈴木君もダウンしちゃったし、あいつみたいに追い打ち掛ける程私は性格悪くないわよ」
『そうか、すまない』
「ま、幻想を復活させて回避して、蹴り落としながら海に叩き落とす、みたいな事は考えたけどね」

ヴィルティックと共にルヴァイアルは、静かに海原へと降下すると、水面に爪先をついて着地した。
空を覆っていた暗雲が晴れていくと、太陽が顔を出した。波が穏やかになり、静かに寄せては返す海原に反射する様な、清々しく気持ちの良い青空が広がっている。
コックピットを開いて、外に出る。掌で太陽を遮りながら、スネイルは空を見上げた。
願わくば隆昭とこの空を一緒に見上げたかったが、流石にやりすぎたというか、少しばかり大人げなかった。次はもう少し、ソフトに戦う事にしよう。

「それにしても……」

掌に太陽を透かしながら、スネイルは一人、呟いた。


「メルフィーが笑っていられる世界か……私も見てみたいわ」





                              ヴィルティック・シャッフル



                                  EVOLVE




「ヴァーチャルミッション終了」


 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
+ ...

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー