創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

ヴィルティック・GEARS

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
 八月九日。俺の親父、守屋一刀が死んだ。
 いや、死んだっていうのは正しくない。正確にはMIA、行方不明って奴だ。
 でもあの親父がそう簡単にくたばるはずが無い。
 訓練中の事故で無人島に流された時もどこも怪我することなく帰ってきたし。
 乗っているアームド・ギアが爆発したって時にも肉離れで済んだんだ。
 だから、俺もお袋も何も心配していない。
 いや、現実を認めたくないだけなんだろ? と言われるかもしれないが本当に死んだ
のなら遺体を持ってきて欲しい。遺体が見つからなかったのなら遺品でも良い。
 それくらいしないと親父がひょっこり帰ってきそうだ。しかも親父が好きなすき焼き、
(しかも霜降りの最高級をふんだんに使った)の最中に突然帰って来かねない。そのせ
いで前回、俺は肉を食い損ねた。
 だから、俺は親父が帰ってくるまでお袋をしっかり支えることにした。

 そして、月日は流れた。
 俺こと守屋創土は艱難辛苦の末、無事、近くの天月高校へと無事入学した。
 天月高校にはレベルの高い女の子が数多く入学すると聞いて早速俺は願書を叩きつけ
たのだ。
 別にモテたいというわけではない。いや、モテたいんじゃなくてせめて彼女ぐらい欲
しいというのが本音だ。沢山に好きって言われるよりも一人とくっ付きたい。それが俺
の本心である。
 というわけで朝からバッチリ気合を入れて髪形に力を入れ、制服もアイロン掛けを終え、
清潔感溢れるように軽くスプレーもした。これでモテモテ……じゃなくて女の子が一人く
らい言い寄ってくるだろう。
 そんな期待に胸を膨らませていると――。
「創土君、一緒に学校行こう!」
 外から大声で呼んできたのは隣の幼なじみ、メルフィー・ストレインだ。こいつも俺と
同じように天月高校へと入学した。わざわざ同じ学校を受けなくてもいいのに……。
「一人で行ってくれ! 今日の俺は身支度に時間がかかるんだ!」
 まだ朝飯を食ってもいないし、自慢の愛車の調子も見ていない。ぎりぎりでも間に合
う計算で物事を進めているので一緒に行くのは不可能だ。
「だめ、そんな事言って毎回遅刻しちゃうじゃない!」
 そう言いながら家の中に入ると素早く冷蔵庫を開けてベーコンと卵を取り出すとあっと
いう間にベーコンエッグを作り出した。そのまま流れるかのように食パンをトースターに
放り込み、レタスとトマトとキュウリを刻んで簡単なサラダを作り出す。
「こら、人ん家の冷蔵庫を開けんな!」
「ええ? おば様から冷蔵庫の物で朝ご飯作っておいてねって頼まれてたよ」
 お、お袋……実の息子より隣の娘を選んだのか!?
 軽いショックを受けているとあっという間に朝食の準備が済んでいた。
「はい、ご飯の準備できたよ」
「朝は米と決めていたんだがな……」
「そんな事言って、結局おかわりし過ぎて遅刻したことがあったじゃない」
 うっ、結構細かいところまで見ている……。
 仕方なく盛られた目玉焼きとパンを口の中に放り込み、素早い動作でメルフィーが作
った朝食を胃の中に流し込む。
「うぐ!?」
 つ、つまった……。
「はい、コーヒー」
 メルフィーから白いカップを受け取るとそれを一気に飲み干す。
 こ、これは……!
「ぐはぁ! にがぁぁぁい!」
 俺がブラックコーヒーが苦手だった。あの毒々しい苦味が後まで引くのが嫌だった。
「こら、牛乳を入れておけ! 俺がブラックが苦手なのは知ってるだろう!?」
「え? そんなに苦かった? 創土君でも飲めるようにかなり薄口にしたんだけど……」
 そう言ってメルフィーもカップを手にコーヒーを口に含む。
 顔が引きつり眉間に皺が寄った。当然だな。
「うん、苦いね……」
 どことなく体が震えていた。無理すんなよ……。
 そう思いながらふと時計を見ると――。
「やべぇ! 遅刻だぁ!」
 このまま愛車の点検をして学校へ直行という形だったのに! 遅刻をしたらあの死し神に

820 名前:創る名無しに見る名無し[sage] 投稿日:2011/07/26(火) 22:00:19.01 ID:pcjefRVM [4/15]
タマを取られる! また守屋かと説教される! それだけは何とかしなくては!
 俺は素早く鞄を手に取り、銀色の自転車を引いてくる。少し大きめの前籠に鞄を放り込んだ。
「ちぃ、仕方が無い。乗れ、メルフィー! 自慢の流星号で一気に突っ走る!」
「うん!」
 メルフィーが後ろに乗るのを確認すると俺は思いきり力を入れてペダルをこぎ始めた。
 自慢じゃないが自転車で車道に出ても車にひかれない自信がある。なぜなら……。
「凄いよ、創土君! トラック追い越しちゃったよ!」
「わははははは! 俺の健脚を舐めるなよ!」
 制限速度四十を大幅に超えた自転車が車道を暴走していく。高速道路以外なら車と並ぶく
らい造作でもない。
「もうすぐ校門だね!」
「ああ!」
 だが、愛車の点検をし忘れたのが仇になった。
「……メルフィー……」
「な、なに?」
「遺書は書いてきたか?」
 ブレーキレバーを数回引いて手ごたえが無い事をメルフィーに教えた。スカ、スカッと
軽い感覚が掌から伝わってくる。
「ええええええええええ!」
 暴走する自転車はそのまま校門へと向かっていく。
 運が良いのか悪いのか今日に限って風紀指導の先生が立っていた。奴の名前は学園最強の
男、獅子神虎男。名前の通り荒々しい男性教諭である。学校でのあだ名は死し神。目をつけ
られたら即死ぬ、という意味だ。
 周りの皆が挨拶をしていく中、俺も大声で死し神に挨拶をする。 
「せんせぇ! おはよう&どいてくれぇぇぇ!」
 向こうもこちらを向くと察してくれたのかどうかは分からないが凄まじい咆哮で答えてくれた。
「守屋ぁぁぁ! ちゃんとあいさつをしろぉぉぉ!」
 獅子神虎男の手が猛スピードで向かってくる自転車の上のメルフィーと俺の顔面を
捉えた。これはまさしくアイアンクロー! メキメキと頭蓋骨から嫌な音がし出してる!
 そして自慢の流星号ははそのまま通り過ぎて、校舎の壁にぶつかった。
「シシガミセンセイ オハヨウゴザイマス」
 俺は外人のような片言で目の前のゴリラに挨拶をした……。

「だっはっはっは! 朝から笑わせてくれるな、お前」
 一人の男が腹を抱えて笑っている。ギザギザな頭を振り乱し、整った顔たちを歪ませなが
らこれでもかと大声をあげていた。
「うるせぇ、黙れ、草川」
 俺の机の近くで大声で笑っているこいつは俺の親友、草川修司だ。
 成績優秀、運動神経抜群、顔だってモデルのスカウトが何遍も来るほど良い。
 しかし、だが、でも! こいつにだって欠点はある!
 それは……下品でスケベなところだ。女子更衣室を覗いたり、身体測定の日に保健室
に忍び込んだり、図書館で草川コーナーというものを作ってエロ本を貸し出したり……と
例をあげれば切りがない。
 そしてついたあだ名がガッカリ王子。例え味が良くても見た目が悪くては値段が下がる
というのをその肉体で表現した事に対し、拍手を送りたい。
「にしてもメルフィーちゃんは真面目だね。いくら幼なじみって言ってもさ、毎朝朝食を作
ってくれるなんて果報者だよ、お前は」
 と、草川は軽い調子で言っているが俺には分かる。こいつは――。
「ほう、それならお前も毎朝起こされたいのか? 草川君、おはよう。ご飯出来てるよって」
「うんうん、その時はぜひとも裸エプロンでお願いしたいね」
「よし、メルフィーに直接言ってくる。草川がメルフィーの裸エプロンを見たいと」
 席を立ちメルフィーのところへ向かおうとすると草川が飛びついてきた。
「待て、守屋! 俺が悪かったって」
「いいや、絶対に言う! 意地でも言う!」
 そんなじゃれあいをしていると担任の先生が入ってきた。俺達は悪ふざけをやめて一斉に
自分の席に着く。
「規律、礼、着席!」
 どこにでもあるごく普通の日常が始まった。


 放課後、俺は流星号の調子をみる。
「あーあ、やっぱブレーキパンチが壊れてたのか……」
 そろそろ買い替え時なのかもしれない。中学の頃から乗り回していた成果あちこちに
ガタが来ているからなぁ。いや、いっそのこと自転車からバイクに変えるか?
 そんな事を考えている時、後ろに何者かが立った。
「すきありぃぃ!」
 声を聴いた瞬間、素早く横へと避けると一人の女子生徒がそのままに自転車に顔をぶつけた。
「ぐはぁ!」
「何やってんだよ、氷室」
 鼻を押さえながらこちらを向いた。
 こいつの名前は氷室かぐや。新聞のお騒がせ要員だ。
 綺麗な金髪、スカイブルーの瞳、スタイル抜群のボディ。
 パッと見なら彼女候補で一位を取れるだろう。
 だがスクープの為なら何でもするという後ろ暗い奴であり、こいつに事実を話すとろ
くでも無いことになりかねない。こいつにとって事実なんてどうでもいいのだろう。
 全く母親のルナさんとは大きく違っているな。どちらが良いかと聞かれると困るが……。
「いたた……ああ! 本記者に対し暴行をする守屋創土氏! 男一人のやもめ暮らしがたたりついに……」
「誰がやもめ暮らしだ! それにあそこはあれは俺の家だ、一人暮らしでもねぇ!」
「でも今は誰もいないのよね?」
「まあな」
 お袋はここ最近帰ってこない。たまにふらりと帰ってきたと思ったら風呂に入ってす
ぐ寝るという生活を何日も繰り返していた。飯の用意ぐらい自分で出来るからいいがそ
う何度もあの姿を見てると不安になってくる。
「じゃあ、ついにメルフィーちゃんと第一線を!?」
「何でそうなる! もしメルフィーに手を出したら俺は学校中の男子から宣戦布告されるぜ」
 正直言って、メルフィーの人気は凄まじい。アイツは欠点の無い草川だからだ。
 成績も優秀、スポーツ万能、スタイルや顔だって氷室には負けてない。
 おまけに誰に対しても優しいし声をかけるからあいつを嫌っている人間を見たことが無い。
 嫌、もしかしたら一部の女子が嫌っているかもしれない、あそこまで人気が出るんだから。
「とにかく、アイツとは何にも無い」
「ええ~ ここまで記事を書いたのに何にもなし?」
「あのな、それは記事じゃなくて妄想の垂れ流しっていうんだぞ!」
「別にいいじゃん、みんなそういうことのほうが好きなんだし」
「お前はジャーナリズムを何だと思っているんだ」
「単なるお金儲け?」
 頭が痛くなってきた……。
「悪いけどそろそろ良いか? これからこいつを自転車屋に持っていかなきゃいけないんだ」
「むぅ……仕方が無い、特別に許可しよう」
「それは助かる……って何でお前の許可が必要なんだよ」
「あはは、じゃあね~!」
 そう言って氷室は糸の切れた凧のように去っていった。
 一体なんだったのやら。

 俺が自転車やに流星号を持ってくと案の定、解体を進められた。
「そろそろ買い替え時かもしれないねぇ……」
「そうですか……」
 かといって買い換えるのも悔しい。もう少しでバイクに手が届くのだ。
「とりあえず、こいつは廃車で良いです」
「そうかい、分かった」
 自転車屋の亭主は流星号を店の奥へと持っていった。その間に俺は原チャリのコーナ
ーへと足を向ける。ヘルメットは買った、免許も取った。後はマシーンである。
 だが値段が……相変わらず高い……中古に手を出すということも出来るがやはり新車
の方が格好良い。安物なんてもっての他だとメルフィーに言ったら見栄っ張りと返されたがな。
「じゃあ、また来ます」
「ああ、また来なよ」
 俺はとぼとぼと自分の家に向かって歩いていった。
 明日、俺はバイクを買うと胸の奥に秘めながら。

 翌朝、俺は朝の掃除のバイトを終えると早速、給料が入った事をATMで確認をした。
 ひい、ふう、みぃ……。

「うし、これで念願のバイクだ!」
 俺は貯金を全て引き出すと全速力自転車屋に向かった。後ろからクラクションの音がや
かましく響くが一向に気にしない。そして、店につくなりこの一言を放った。
「おじさん! こいつをください!」
「はいよ!」
 自転車屋の親父は店からバイクを押してきた、闇から現れたそいつはどこと無く雄々
しく感じる。苦労に苦労を重ねた成果がこれだというのだから俺の中に誇りという物が
際限なく湧き出してくる。
「それじゃ……こいつで足りますか?」
 俺が何枚ものお札を手渡すと親父は数を数え始めた。そしてレジに向かうと三枚のお
札とジャラジャラとした小銭を俺に手渡した。
「ああ、十分だよ。はいお釣り」
「ありがとうございます」
 俺はバイクに跨ると心の底から緊張感が湧き出してきた。
「頼んだぜ、マッハ号!」
 アクセルを吹かせるとマッハ号はゆっくりと前に進んでいった。
 がすぐさま、降りた。
「やっぱノーへルは不味いな」
 仕方なくマッハ号を手押しで家に向かったが俺の中には何の恥じらいも無かった。

 家に向かう途中、電気屋の大型テレビでニュースをやっていた。
「ニュースです、太平洋沖の沖ノ鳥島方面でイルミナスとの――」
「まだ、やってんのかよ。イルミナスとの戦い」
 イルミナス、謎の秘密結社だ。
 今から数年前、体感ロボットバトルゲーム『ブレイブ・グレイブ』、通称BGが生まれた。
最初はテレビゲームだったがあまりにもリアルすぎたため、数多くのファンの署名によって遊
園地のアトラクションとして作られることになった。それが『アストライル・ギア』。
 スポーツ・ギアとこのBGの違いはルールと派手なエフェクトだ。
 スポーツ・ギアは武装面でかなり制限を受けるがBGはかなりフリーダムだった。
 そして何より特徴的なのがシャッフルシステムだった。
 アストライル・ギアはこのシステムを搭載することにより機体のバランス、装備重量など
を無視出来るのが良いらしい。細かい理屈は分からないがワープというか四次元何とかみた
いな物だと俺は教わった。
 そういえば遠い昔の話になるがメルフィーの父親、隆昭の親父にアストライル・ギアに乗
せられたことがあった。
 隆昭の親父曰く。『一刀の息子に面白いと言わせられればこいつの将来は安泰だ』
 で、親父の方も親父の方で……。
 『メルフィーにスポーツ・ギアの面白さを教えておけば後々良い事がある』
 ……こう言っちゃ悪いがお互いの親は非常に我侭だな。
 だが、そんな平穏な争いも奴ら、イルミナスによって崩されようとしていた。
 アストライル・ギアの軍事転移。
 簡単に言えばこいつをゲームとしてではなく戦争の道具として使おうという馬鹿げた計画だった。
 イルミナスはよりにもよってBGの世界大会の舞台で宣戦布告をやりやがった。
 目の前で破壊される各国のアストライル・ギア。煙と炎を上げて次々とアームド・ギアが
壊されていく。人々は逃げ惑う中、誰もが無力さを噛み締めていた。
 しかし、親父たちの活躍によってイルミナスは日本から撤退した。
 だがイルミナスを受け入れる所は幾つもあった。戦争が終わらない国、力で成り立ってい
る国、解放という名の人殺しをしたい奴ら。煙を立てたい奴らは幾つもいるってことなのが
悲しいね。
 そして世界は技術力のイルミナス陣営と物量が勝る反イルミナス陣営が日夜ぶつかり合う
という簡単な構図が出来てしまった。
「いつになったら終わるのやら」
 俺は小さく呟いた。イルミナスとの戦いが始まって二年、親父がいなくなってほぼ数ヶ月、
そろそろ整理をしなくてはいけない。
 だが、帰ってくることを思うとそう簡単に捨てられなかった。以前、無人島に流された時
親父秘蔵のボトルシップを海に浮かべて追悼の意を称した日、親父が帰ってきた。そして一言、
「人のものを勝手に流すな」
 以降、俺は親父がちゃんと死んだと言われない限り物を捨てるのやめた。
「さてと、帰るか……」
 こんな所でぼやいていてもしかたが無い。

 俺は一路家に向かって歩いていった。

「ちょっとすみません」
「はい?」
 家の前に来ると一人の男性に声をかけられた。
 一見すると東洋人っぽい男だった。黒い背広とズボンを着て黒いネクタイをつけている。
 顔はどう見ても強面……おまけに死し神より体格も良さそうだ。
「はい、なんでしょうか?」
「メルフィー=ストレインさんという方はいつごろ帰ってきますでしょうか?」
 何で、メルフィーの事を? いや、それよりも――。 
「申し訳ありませんが貴方は?」
「ああ、私、公安委員会のアーノルド・ペイスンと申します」
 ペイスン? ここは日本だ。それにこいつはどう見ても日本人なのに……。
「これはわざわざご丁寧どうも……」
 俺は会えてお辞儀を返した。ここは下手を打つとヤバイ、そう俺の本能が告げていた。
「それじゃ、自分はこれで……」
「あの、メルフィーさんは?」
「さ、さあ。夕方ごろには帰ってくると思いますよ」
 そう言ってバイクを車庫に入れて家の中に入るとすぐさま 窓からそっとあいつ等、公
安のアーノルドとかいう奴の姿を見る。
 やたらとそわそわした様子で家の前に立っていた。公安の人間ならメルフィーに直接電話
を入れてアポを取ればいい。それをやらないという事は……。
 すぐさまメルフィーの携帯に電話をする。
 呼び出し音が何回もするたびに俺の鼓動が早くなる。
「くそ、早く出てくれよ」
 俺の焦燥感が最高潮に達しようとした時、繋がった音が聞こえてきた。
「おい、メルフィー!?」
「こちらお留守番サービス――」
 無慈悲な言葉に携帯を床に叩きつけてしまう。
「くそ、何をやってるんだよ!?」
 苛立ちが抑えきれなくなった俺はヘルメットを片手にバイクに乗り込む。
 そのままメルフィーを探すために街へと繰り出そうとしただった。
「あれ、創土君」
 最悪のタイミングだった。メルフィーが帰ってきやがった。
 携帯に電話した時には全く答えなかったのにどうしてこういうときに限って来てしま
うんだ!
「メルフィー・ストレインさんですね? 我々と一緒に――」
「来い! メルフィー!」
 俺はメルフィーの腕を掴んで無理矢理後ろに乗せると一気にアクセルを噴かせた。
「ま、待て!」
 黒服たちが俺達を追ってくる。がバイクのほうが速いので当然追いつけない。
「ど、どうしたの、創土君」
「わりぃが説明は後だ、とにかく逃げるぞ!」
 メルフィーを乗せて逃げようとした瞬間、俺はあいつらがなんなのか理解した。
 あいつらは……敵だ。
 何の敵かと聞かれたら分からない、と答えるだろう。
 だけどあれはヤバイ。確実にヤバイ。だって、あれは……人殺しの目だ。
「とりあえず学校へ逃げるぞ、あそこならいい武器があるはずだ」
「で、でも……」
 言葉を濁すメルフィー。無理もない、今の状況がどんなものかだなんて誰にも分から
ないからだ。俺は軽くため息を付いて頭を冷やそうとする。が信号が青になってしまっ
たためアクセルを入れる。
 交差点を左に曲がり、坂を上っていくと学校だ。うん? 校門の前がなんかおかしい。
 風景がゆらゆらと揺れている。そう思った矢先――。
「な、なんだありゃあ!」
 突然現れた巨大な人型機械。間違いない、あれは……
「アストライル・ギアだ!」
 しかもあからさまに日本のものじゃない、あれはイルミナス製のアストライル・ギアだ。
 ご丁寧に左肩にイルミナスのエムブレムがマーキングされている。
 俺はバイクをターンさせると再び交差点の方へと走っていった。

 もしあのまま行っていたら捕まっていただろう。
「隊長、光学迷彩のタイムリミットが……」
「かまわん、それよりも目標の確保を優先しろ!」
 隊長ことアーノルドが俺達のバイクに向かってくる。大通りに出ると一気にアクセル
を吹かして距離を置こうとするがあいつらの方が速さでは上だった。
「うわぉぉぉぁぁぁぁぁ!」
 右に左にと蛇行をしながらアストライルギアのを腕をかわしていく。
 その際、道に止めてあった車が吹き飛び道路に亀裂が走った。
「げっ!?」
 あいつ等、ミサイルを飛ばしてきやがった!
 サイドミラー越しの背後から白色の塊が勢い良く跳んできた。
 地面に付くたびに道路に無数の穴が開いてくる。
 このままじゃ捕まるのも時間の問題だ! そう思った矢先――。
「こっちよ!」
「へ!?」
 ふと、横を見ると赤いスポーツカーが並んでいた。
 光の加減のせいで中の様子は見えないが高い声からして女性だろう。
「早く! 新品のバイクをお釈迦にされたくないでしょ!?」
 何でそれを!? と聞きたかったが彼女が味方である事を信じるしかなった。
「分かったよ、あんたの誘導に従う! メルフィー、しっかり捕まってろよ!」
 俺は赤い車の後に付いていった。車は地下駐車場へと向かっていく。
「逃がすか!」
 アストライル・ギアが攻撃を仕掛けようとする。が、横から邪魔が入ったようだ。
「そこのアストライル・ギアに警告する! 諸君等は――」
 丁度自衛隊のアームド・ギアが来た様だ。
 俺達はそのまま地下へと逃げていった。

 薄暗い地下道路を走行する。先ほどの、追う追われるから解放されたせいか気持ちが軽くなった。
 先頭を走る車はそのまま地下の駐車場へを止まった。俺もそれに習い隣に止める。
「おい、メルフィー。大丈夫か?」
「う、うん……」
 完全に顔が蒼ざめていた。無理もない、あんな怖い目に会ったんだから。
 濡れたハンカチでもあればいいが今の状況ではムリそうだ。
 そんな事を考えているうちに一人の女性が車から出てきたた。
 一見すると二十代か? 赤いルージュとスーツがとても魅力的な女性だった。
 もし先生だったら個別の課外授業を……。 いかん、草川病に発祥してしまったかもしれない。
 こんな状況だというのに……。
「さて、お話でもしましょうか?」
「悪いんだけどまず、あんたの名前教えてくれないか?」
 無礼なのは十も承知だった。だが、今の状況では誰が味方で誰が敵なのか皆目見当がつかなかった。
「いいわよ、私の名前はマチコ・スネイル。よろしくね」
「マッチさんで良いか?」
 俺の言葉にキョトンとした顔をしたがすぐに笑みを浮かべた。
「あら、意外とフランクなのね」
「そりゃあどうも」
 俺はすぐ後ろにいるメルフィーに視線を移す。顔は青いままだが怪我らしい怪我は見えない。
 でも、あいつらがまた襲い掛かってくるかもしれない。油断は出来ない。
「じゃあ、何で俺達を助けた? いや、もしかしたら誘い込まれた、って言った方が正
しいのかもしれないな。こんな所じゃ、助けを呼びたくても呼べないしな」
「ふふ、そうね」
 嫌な笑みだ。余裕か? それとも本当に誘い込まれたのか?
 そんな不安が胸の中に集い、今にも爆発しそうだった。
 そんな時、後ろから誰かが声をかけてきた。
「二人とも、大丈夫か?」
 この声は……。
「霧坂の伯父貴!」
「久しぶりだな、創土。それにメルフィー」
 ヨレヨレの白衣、やや寝ぼけた顔。そこには霧坂の伯父貴こと霧坂涼夜がいた。
「何で伯父貴がこんな所にいるんだよ」
「ちょっとな……」

 そう言って苦笑いを浮かべる。どうやら何か隠された物があるようだ。
「おば様、大丈夫かな?」
 弱弱しいがメルフィーが口を開いた。この状況でお袋の心配をしてくれるのは嬉しいが……。
「大丈夫、俺が知っている茜華はこの程度の修羅場はどうにかするさ」
 そう言って壁についている非常ベルのボタンを押すと壁が横にスライドした。
「とりあえず、奥で話をしないか?」
 少なくとも俺は一息つきたいので頷くしかなかった。

「で、あいつらは一体なんなんだ?」
 薄暗い廊下を四人で進む中、俺は霧坂の伯父貴に問い質した。
「何だ、知らずに逃げていたのか?」
 呆れたような呆気に取られたかのような、そんな口調で視線を送って来た。
「やべぇのは分かってた、でも目的がはっきりしないのが気になったんだ」
「さすが、守屋一刀の息子、だね」
「茶化さないでくれ、今、状況が全く読めなさ過ぎて混乱してるんだ」
 目的も分からずただメルフィーを疲れさせただけなのかもしれない。
 嫌、もしかしたら火の海に自分から飛び込んだ。と言った方が正しいのかもしれない。
「そうだな」
 一方の霧坂の伯父貴は軽い調子で呟いた。
 休憩室のような広い場所に来ると伯父貴は備え付けの椅子に座った。
「いきなり言われるのと順を追って説明するの、どっちがいい?」
「んなもん……順を追ってだな」
「じゃあまず、軽い昔話から始めようか」

 今から昔、親父達が高校生だった頃、突如次元の歪みというものが現れたそうだ。
 そこで親父達はまるで冒険ファンタジーよろしく魔物だ何だと戦ったそうな。
 そして色々あって無事帰還。その時、次元の歪みのデータを持って帰ってきたようだ。
 月日は流れ、親父達は卒業してあの異次元の話は無かったかのように忘れ去られた。
 そんなある日、親父の同級生である隆昭の親父が新しいアームド・ギアの研究者としてやってきた。
 意外なようだが隆昭の親父は天才だった。
 親父達の要望にきちんと答えて、新しい物をバンバン世に送り出した。
 そして親父達は隆昭に次元の歪みのデータを話半分、面白半分に手渡した。
 最も、高校生が持ったデータだ。かなり歪みやおかしな部分があった。
 だが伯父貴と親父が持ち帰ったデータを元にトランスポートシステム、物質転送システム
を作り上げたのだ。これを元に隆昭の親父は『ブレイブ・グレイブ』のアトラクション化を計画し
たらしい。だが肝心の物質転送システムの理論を発表せずにメルフィーの中に隠した。
何故そんな事をしたのか、それが一体なんなのかは分からない、だがメルフィーに関する何かで
あることはイルミナス、反イルミナスは掴んでいた。

「それでメルフィーに襲い掛かってきたって訳か」
 俺は腕を組みながら軽く唸った。だが腑に落ちない点がいくつかあった。
 なぜ、理論を発表せずに封印したのか。
 どうやってメルフィーの中にあることを知ったのか。
 そして作った本人はどこへ行ったのか。
「それなら隆昭の親父を連れてくればいいじゃねぇか。メルフィーを狙うなんてその後でも……」
「そこからは私が説明しましょう」
 いかにもな軍服を着たおっさんが現れた。
「誰だよ、こいつ」
「高倉光一准将。この基地の司令官さ」
「ふーん、で? 詳しい話をしてくれるんだろ?」
「ええ、勿論ですよ」
 おっさんは三つの疑問に対して丁寧に説明してくれた。

 お偉いさんの話をかなり簡素に纏めるとこうなった。
 BGが開発の最中、隆昭の親父はよりにもよってイルミナスから資金提供を受けたようだ。
 その額は下手したら国家予算に匹敵するぐらいの額だ。そして、アストライル・ギアの基本
システムを完成させた。
 完成を聞きつけたイルミナスはさも当然とばかりに隆昭の親父に理論の提供を呼びかけた。
 隆昭の親父はゴネにゴネ捲くったが結局折れてイルミナスに理論を渡した。
 そしてあの事件が勃発した。イルミナスの宣戦布告だ。

 さも当たり前のように隆昭の親父も首謀者として名を連ねていた。
 後はニュースとかで言っているように親父達のイルミナス電撃作戦を決行。事件は収束し
たかに見えた。
 だがその際、隆昭の親父は行方不明になってしまった。遺体も何も見つかっていない。
 そして、イルミナス側はさらに痛手を負う結果になった。
 隆昭の親父が渡した理論が半分ダミーだったのだ。
 全部じゃない、半分だ。そのおかげでイルミナス側はアストライル・ギアを使っている。
 しかし、この半分がおかしな事をもたらした。それは時空間に亀裂が走り、次元の穴が開
いてしまった。
 この次元の穴、通称『門』は過去から未来まで色々繋がっており、何が飛び出してくるか
分からない状況だった。
 これを好機と見たイルミナス側は『門』にアクセスをし始めた。
 無論、反イルミナス側も黙っては無い。同じようにアクセスを開始する。
 だが、これはあまりにも博打過ぎた。イルミナス側も反イルミナス側もこの次元の穴で
失われた人命はかなりの数に及ぶらしい。
 だが、ここで事態が大きく変わろうとしてきた。
 何者かが『門』に対して情報を流したのだ。イルミナス、反イルミナス問わず。
 そのせいでイルミナスは過去に移動することが出来、反イルミナス側はそれの阻止に努
めるようになった。
 さらに”そいつ”によると『門』を開き、過去へ行く為にはメルフィーが持つ『鍵』が
重要になるらしい。『鍵』を手に入れられれば過去そのものを変革できるという話だ。
 しかし……そいつの正体は一体なんなのか、その目的は一切分からないらしい。

 隆昭の親父があれ以来、行方不明だったとは……。
 てっきり俺はメルフィーのお袋さんに三行半を突きつけられたのかと思っていたが……。
 おまけに時空間が歪んで過去へ侵略しているだって?
 あまりにも突然すぎて俺の数少ない考える脳はオーバーヒート寸前だった。
「そこで我々も、過去の人物を保護するために大昔へと飛んでいこうというわけです」
 司令官のギョロっとした目がメルフィーを見つめる。
「そして我々はこの情報を流した人物を鈴木隆昭と断定しました」
「なんだって!?」
 とんでもない事を言いやがる、よりにもよって隆昭の親父が娘を売るだなんて俺には信じられなかった。
「頼みを聞いてくれるますか? メルフィー・ストレインさん」
 メルフィーがビクンと震える。そして傲慢ちきそうな物言いに俺の理性は吹き飛んだ。
「そんな危ない事をメルフィーにやらせるのかよ!」
「それが一番だと思いませんか?」
 まるでそういうものだといわんばかりの冷たい目で俺を見ている。
「ふざけんな! なんで――」
「やめて!」
 食って掛かる俺をメルフィーが悲痛そうな声をあげて止めた。
「メルフィー……」
「私、行きます。お父さんの罪……ううん、それが私の使命なら!」
 決意を秘めた瞳で俺を見つめている。あんな顔をしたのはあの時以来だ。
 あのバカヤロウが……居なくなった日と……。
「良く言ってくれたね」
 ニコニコしながら軍のお偉いさんはメルフィーの肩に手を回す。
 俺は、そんなメルフィーをただ見つめるしかなかった。

「転移開始まで後五分」
 やることも減ったくれも無かった。俺が気を抜けている間に転送の準備が整ってしまったのだ。
 気がついたときにはメルフィーはダイバースーツ?とかナントカを着ており、既に行く気満々だった。
 こうなったら見送るしかない。メルフィーの頑固さは俺が一番良く知っていた。
 買ってきたケーキにクリームが無いと怒るし、パンツはピンクじゃないと気合が入らない
って言ってるし、ジャムは無農薬の新鮮じゃないと手をつけない。
「メルフィー」
「なに?」
「……これ、やるよ」
 俺はメルフィーの胸ポケットに一輪花を差し込む。
 親父がお守りとして俺にくれた物だ。簡素なドライフラワーだがここぞというときに役に立っていた。
 別にこれ自体が何かをしてくれるわけではないがこいつはいつも幸運を運んできた。

 メルフィーはじっと花を見つめる。
 この花には色んな思い出があった。親父、メルフィー、そして隆昭の親父。
「知ってるか? アイリスの花言葉は――」
「良き便りを……でしょ?」
「そうそう、ってなんで知ってるんだ?」
「一刀のおじ様から聞いたから」
「ちぇ、親父の奴」
 二人だけの秘密じゃなかったのかよ。
「開始十秒前」
 ややふてくされ気味の俺をせかすかのようにアナウンスが響いた。
 メルフィーからゆっくりと離れていく。
「それじゃ……行って来ます」
「ああ、またな」
 メルフィーは少し寂しげな笑みを浮かべて俺の目の前から消えた。
 俺は……俺には一体何が出来るんだろうか?
 親父もいない、助けてくれる奴もいない。
 道を教えてくれる奴もいなければ立ちはだかる敵も見えない。
 いなくなった転移室で唇を噛み締める。俺は……無力なのか?
「自分に出来る事を探してるのか?」
 振り向くとそこには霧坂の伯父貴がいた。
 本人としては優しい笑みなんだろうけど俺には皮肉めいた物に見えた。
「……ああ、そうだよ!」
 やけくそ気味に叫ぶ。 メルフィーの罪や事態の重さを再認識すると何かが沸き起こってきた。
「でもお前には何もないな、戦う理由、動機、使命、その他諸々」
 何にも無い、そうかもしれない。だけど――。
「知ったことかよ! 訳なんざ二の次だ! 俺は俺に出来ることをしたいだけだ!」
 俺が俺である為に。他の誰でも無い自分の為に。
 バカの罵られようと向こう見ずと言われようともこれだけは譲れない。
「なら、来な。良い物やるから」
 そう言って霧坂の伯父貴は俺に背を向けて歩いていった。俺もその後を追いかけた。
 
「なんだこれ!?」
 俺は知っている、こいつはヴィルティックだ。昔、隆昭の親父が乗せてくれた例のアレだ。
 だがカラーリングが違う、俺の記憶にある奴は白を基調としたヤツだがこいつは赤と黒の
コントラストを際立たせている。
 だが、悪者の雰囲気は無い。どっちかって言うと影で正義を行うロボ。それがこいつだ。
 誰かが決めたんじゃない、俺が決めた。今決めた。ここで決めた。
「こいつの名前はヴィルティック・ジョーカー」
「ジョーカー?」
「またの名をアドヴァンスド・ギア。アストライル・ギアともアームド・ギアとも違う第三の”歯車”だ」
「アドヴァンスド・ギアねえ?」
 俺は梯子を上って早速コックピットの中に飛び込んだ。
 シートに付いているビニールは剥がされていない。油というか出来立ての臭いが充満
していた。そのまま操縦桿を握ってエンジンに火を入れると少しぎこちない振動が揺れ始めた。
「うほぉ! すげぇ! スポーツ・ギアともアームド・ギアともアストライル・ギアとも違う!」
 振動だけだがこいつの凄さが良く理解できた。
 こいつは……強い! 力とか、強弱とか、そういうのじゃない。目の前に崖があろう
と滝があろうと登って進む。そんな底の強さがどことかしら感じられた。
「アームド・ギア小隊苦戦!」
 基地のスピーカーから焦りを含んだ声が聞こえてきた。
 シチュエーションはおあつらえ向き。こいつのデビューには丁度良いじゃないか。
 追いかけっこの落とし前、つけないとな。
 遠くでは霧坂の伯父貴がおたおたとパネルをいじくっている。
「ええと、まずは……」
 悪いけど――。
「霧坂の伯父貴! 行って来る!」
「あっ、待て! 創土!!」
 俺が操縦桿を手前に引くと勢い良く地上へを向かっていった。
「あーあ、武器も持たずに行っちまうだなんて……本当、誰に似たんだか……」

「そんな機体で俺のアストライル・ギアと戦えると思っていたのか?」
 戦闘を開始してから既に数時間経過していた。アームド・ギアの小隊は徐々にだが押されていた。
 部下のアストライル・ギアは既に破壊されているが隊長機、アーノルドの機体は傷一つ無かった。
 瓦礫に埋もれた建物が幾つも見える。その中にはアームド・ギアかアストライル・ギアか分からない
破片が幾つも散らばっていた。
「中尉、これ以上の戦闘は……」
「くっ!」
 部下の忠言に舌打ちをする。銃弾は既に尽きた。槍や剣といった攻撃も可能だが……。
 目の前にいる悪魔にどれだけダメージが与えられるのだろうか?
「こないのか? それならこちらから行くぞ!」
「来るぞ!」
 アーノルドのアストライル・ギアが前に進むと全員近接戦闘用の武器に切り替える。
 だが、その前に腕が、頭が、足が切り裂かれてしまった。
 アストライル・ギアの手には小さなダガーが握られていた。
「馬鹿な!」
「そ、そんな!」
「ふん、私のベルゼリオンを普通のアストライル・ギアと同じしてもらっては困る」
 勝ち誇った笑みを浮かべた瞬間――。
「敵は一人じゃないよ!」
 隊長機と思われる一機のアームド・ギアが真横に回り込み、槍を衝きたてようとする。だが――。
「あまい」
 素早く盾のカードを読み込ませ、攻撃を防いだ。その衝撃で槍が折れた。
「くぅ!」
 素早く体勢を立て直し、状況を軽く整理する。
 味方はほとんど戦闘続行不可能。せめて弾の補給が出来れば、と思うが流石にそれをする暇が無い。
「くそ!」
 もはや破れかぶれで突撃をしようとした瞬間、突然、下から何かがやってきた。
 床のハッチが開くとそこには――。
「黒い、アストライル・ギア?」
 夕焼けの日を浴びた黒くて赤いギアがそこに立っていた。
「また敵なのか?」
 日の当る場所に出てきた俺は襲い掛かってきたイルミナスを睨みつけると同時に一気にペダルを押し込む。
「なっ!」
「だぁぁぁぁ!」
 俺はそのままイルミナスのギアを思いっきり殴りつけた。
 激しい金属のぶつかり合う音と赤い火花が大きく飛び散るとギアは大きく仰け反り、地面に倒れこんだ。
「うっしゃぁ!」
 そのまま馬乗りになり拳振り上げ、思い切り殴りつけた。
「おいおい、これは一体どういうことだ?」
「大丈夫かい? 九条中尉」
「霧坂博士……ジョーカーは動かなかったんじゃないのかい?」
「ああ、そうだな、でも動いた、それだけさ」
「はぁぁぁぁ……」
 俺は伯父貴とおばさんの声を片隅で効きながらも攻撃を続けた。が、こいつを怒らせるだけだったらしい。
「なめるなぁぁぁぁぁ!」
 そいつは立ち上がるとジョーカーの頭を掴み、思い切り振り回した。
「うわぁぁぁ!」
 コックピットの中が右に左にと大きく揺れる。ジェットコースターやバイキングなんて目じゃ
ない位上下にもシェイクされた。
「どりゃぁぁ!」 
 かけ声とともに手を放されると大きく宙を舞った。が俺だって負けてなんていられない。
「うおおおおお!」
 素早く空中で体勢を立て直すと一気に接近する。そして必殺の、
「ナントカァァァァァァ! キィィィィィィック!」
 奴の顔面目掛けて叩き込むが道路に黒い跡が付いただけだった。
 強すぎるだろ、こいつ。でもワクワクしている。
 再び距離を取ってどう攻撃を仕掛けようか考えていると通信が入ってきた。
「創土、今からジョーカーの武器を送る。しっかりと使えよ」
「武器?」

 そう言って地下から出て来たのは白くてでかいカードだった。
「こいつがジョーカーの武器なのか?」
「そうだよ」
「ありがとうよ! でぇぇぇぇぇやぁぁ!」
 俺はカードを手に取ると思いっきりあいつに向かって投げつけた。
 カードは見事にあいつの横を通り過ぎて言った。
「ちぃ、外れちまったぜ!」
「……ここまで馬鹿だとは思わなかった……」
 通信機の向こう側から伯父貴が頭を抱えるのが見えた。
「ち、ちがうのか?」
「いいかい、あのカードはね……」
「こう使うのだ!」
 敵のアストライル・ギアがカードを掴むがカードは光るだけで何にも起きなかった。
「なんだ?」
 敵が慌てふためいている。予想とは違ったらしい。
「あれはヴィルティック・ジョーカー専用だ。創土、もう一度カードを掴め」
「分かった!」
 もう一度、俺はアイツに向かっていく。
「甘いわ!」
 だが今度はジョーカーの腕を掴まれた。が、それは想定内。
「だしゃあ!」
 回し蹴りで大きく吹き飛ばすとカードを掴んだ。それを跳んでキャッチする。
「ディスプレイにトランプのカードが出ているな、好きなものを押せ!」
「分かった」
 五枚あるカードの中からクラブのカードを押してみる。するとカードから小型のリボルバ
ーがでてきた。
「うおおお!? なんかでてきた!?」
「そう、これがジョーカーの武器だ。スペードは接近戦の武器、クラブは砲撃、ダイヤが
防御で、ハートは機体システムだ」
「なるほどね」
 すかさず操縦桿のボタンを押すとリボルバーから数発の弾が飛び出した。
「ふん!」
 しかし、かわされるか防がれるかされてしまいダメージには通らなかったようだ。
「強い武器を使うにはどうしたら良いんだ?」
「強いカードを押せばいい、キングとかクィーンとかならダメージが通るはずだ」
「わかった!」
 今度はクラブの10を押すと馬鹿でかい大砲が出てきた。
「200mmキャノンだ! 派手にぶちかませ!」
「了解!」
 俺がトリガーを引くとキャノンがド派手な音を響かせて煙を吹いた。
「ぬぅ!?」
 奴は、ベルゼリオンは防御をするしかなかった。だが、止めには程遠い。
 これじゃ奴は倒せない。何か、何か言い手はないか?
 俺はカードを睨みつけながら考える。ハートのカードに手を伸ばす。
「ブーストか!」
 ベルゼリオンの両肩からミサイルが跳んでくるがそれよ右に左にとかわしていく。
 そして懐に飛び込むとスペードの8、トンファーで思いっきり殴りつける。
「そんな攻撃は通用しない!」
 しかし、それを身を翻してかわされてしまった。
「くそ、どうしたらいい?」
「カードが悪いならシャッフルするしかないんじゃないか?」
「シャッフル?」
「左のレバーを引きながら右のトリガーを押せ」
 俺は伯父貴の言った通りにしてみる。すると表示されていた五枚のカードが一斉に変わった。
「どうだい? これがシャッフルだ。覚えて置けよ」
「わかった!」
 再び奴に対し攻撃を仕掛けようとする。今度はクラブの2とハート3だ。
「イリュージョンか!」
 ダミーに踊らされているベルゼリオンに対し一気に接近する。
「どうだ!」

 持っていた小銃が火を吹く。だが……。
「舐めるな!」
 小賢しいと言わんばかりに凄まじい蹴りがジョーカーの腹部に直撃した。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
 振動で内臓がやられる。操縦桿を握っている手からブチブチと音がした。
 そしてベルゼリオンが一気に接近してくる。
「しねぇぇ!」
 死ぬ? 負ける? 何も出来ずに!?
 頭に少し寂しそうなメルフィーの笑顔が思い浮ぶ。
 何も言わずにさよならをしたあの”馬鹿祐二”が思い浮かぶ。
「ふざけんなよ……。ふざけんな!」
 俺は、まだ何も出来ちゃいない! 何にも為してない! 
「だから、俺に力を貸せ! ヴィルティック!」
 俺は左のレバーを引きながら右のトリガーを押す。
「くらえええええ!」
 スペードのK・Q・J・A・10が一斉に並ぶとカードから馬鹿でかい剣が飛び出してきた。
「なっ!?」
「インペリアラァァァァァァ! ブレイカァァァァァァァアアアアアアアアア!」
 俺の叫びとともに剣が眩く光る。そしてそれを思いっきり縦に振り下ろすとベルゼリオンが真っ二つにされた。
「オ、オルトロック様! も、申し訳ありませぇん!」
 爆発とともにパイロットは空の彼方へと消えていった。 

 夕焼けの赤が空全体広がっていく。煙がいたる所から噴出し瓦礫の山が幾つもあった。
「隊長、襲い掛かってきた部隊は一体何者なんでしょうか?」
 部下の一人が九条に聞いてきた。
「アレは恐らく”ペイスン”の手のものだね」
「ぺいすん?」
「イルミナスの裏側を仕切る特殊部隊さ、隊長のオルトロックを筆頭に一癖も二癖もあ
る奴らがそろっているっていう噂だよ。そして部隊の奴らはみんな名字が”ペイスン”
で統一されてるからその名前が出てきたって訳」
「そうですか……ところでアレはどうします?」
「いいんじゃない、放っておけばさ」

「待ってろよ、隆昭の親父! メルフィーの、親父の、みんなの代わりに俺があんたを殴ってやらぁ!」
 俺は夕焼けに向かって力の限り叫んだ。
 こうしてイルミナスとの戦いに出向くことになった。
 戦いの先に何があるか分からないけど今をどうにかしないと過去も未来も何にも無く
なるかもしれない。だから俺は俺の出来る事をやろうと、そう思った。
 そう、全てベストエンドという機械を動かす歯車になろうと。

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