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グラインドハウス 第5話

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匿名ユーザー

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 “新地上暦65年、地下都市から再び地上に戻った人類を待ち受けていたのは
、戦火だった――地上環境を人類繁栄以前の自然豊かなものにしようと唱える『
ナチュラリスツ』と、地上をかつてのように人間のための都市で埋めつくそうと
いう『ヒューマニスツ』との間に起こった、人型機動兵器『AACV』を用いた
戦いが泥沼化して、既に半世紀以上が経っていた。そんな中、疲弊した人々の間
にある噂が流れる――『グラウンド・ゼロには平和がある』――果たして、『グ
ラウンド・ゼロ』とは?噂は本当なのか?今、君の戦争が始まる……。”
 ――と、これがロボットアクションゲーム『グラウンド・ゼロ』のプロローグ
だ。
 プレイヤーは『ナチュラリスツ』か『ヒューマニスツ』のどちらかを選択し、
『AACV』を操って任務をこなしていく。
 プレイヤーはその戦績によってAからEまでのクラスに分けられ、それが強さ
の目安にもなっていた。
 マコトはかつて現役だったころはBクラス(平均よりは少し上だが、Aクラスに
は及ばない程度のクラス。一番プレイヤーが多い)だったが、今久しぶりに触れて
みると、Cクラス程度まで腕が落ちているな、と感じていた。
 白いカプセル型の筐体から這い出し、手のひらにかいた汗をズボンで拭く。
 マコトのその様子を離れたところで見ていたコラージュは、彼に近づいた。
「勘は取り戻せたかい?」
「一応は」
 マコトは頷いた。
「もう、いつでもいけます。」
 すると、コラージュは満足げにうなずいて「わかった」と言った。
「ところで、ユウスケは?」
 マコトは辺りを見渡した。
 グラウンド・ゼロの大きく白い、カプセル型の筐体がいくつも並んだトレーニ
ングルームには、ユウスケの姿は無かった。
 彼とはマコトが参加を決め、コラージュにこの部屋に案内される時に別れてい
たのだった。
「コバヤシくんは観客席に行くって。アマギくんの戦いを見守りたいみたいだ。

「そうですか。」
「それじゃ、会場に行っても?」
「わかりました。」
 正直腕前に不安はあるが、初めてだし、勝っても負けても5万は保証されてい
るんだ。とりあえずこの『タルタロス』がどんなものか、確かめる感じでいこう
。マコトはそう思いながら、指の曲げ伸ばしをしていた。
 マコトの側に立ったコラージュは、どこから出したのか、金属製のトレイを差
し出した。
「じゃあ、細かい荷物――携帯電話とか、武器になるものを預かるよ。」
 『武器になるもの』という言い回しにどこかひっかかるものを感じつつも、マ
コトは指示に従う。
 トレイに全て出し終わると、コラージュは指を鳴らした。すると部屋に別の人
間が入ってきて、コラージュからそのトレイを受けとる。
「それじゃあ、行こうか。」
 コラージュがマコトに背を向け、部屋の出口に向かう。マコトも上着の襟を正
しながらついていった。
 部屋を出て、廊下をコラージュの後についていく。長い下り階段へさしかかっ
た。
「そういえば」
 無言に耐えかねたマコトが言う。
「どうして『グラウンド・ゼロ』なんです?」
 コラージュが歩きながら横目で一瞬、マコトに視線を送る。
「それは……『他にも人気な対戦ゲームはたくさんあるのに、なぜわざわざそれ
を選んだのか』という意味で?」
「はい」
 コラージュはすると肩をすくめた。
「アマギくんも見たよね、エントランスに居る、ここのお客様たちを。あまりい
い客層じゃない。……まぁ、商売上仕方ないのかもしれないけど。」
 マコトはエレベーターから降りた直後の光景を思い出した。たしかに、あまり
健全な人間が立ち入るような場所ではない。
「アマギくんは去年の『金眼事件』を覚えてるよね?」
 ……正直、あんまり覚えていない。
 しかし、ここで話を遮ってしまうのも悪い気がしたので、マコトは頷いた。
「テロリストたちに暴露された国家機密の数々……その中には、『グラウンド・
ゼロを利用したAACVパイロットの選出』というものがあった。」
「それが理由?」
「――のひとつだね。『グラウンド・ゼロ』はその後回収されちゃったけど、人
気はそれからさらに高まった。こういうキナ臭いエピソードは、悪ガキたちの心
を惹き付けるんだね。」
 コラージュはどこか楽しげに笑う。
 その声が、マコトには耳障りだった。
 直後、階段を下りきり、コラージュは立ち止まった。
 マコトが彼の背後から先を覗くと、数メートル先に大きな両開きの扉が見える
。そしてその扉の向こうからは大勢の人間のいる気配と、声が聞こえていた。
「あのドアの向こうが会場だよ。出たら目の前にゲーム機があるから」
「……はい。」
 マコトは唾を飲み込んだ。さっき拭いた手汗がまたじわり、しみだしている。
 コラージュはマコトのそんな様子を見てとって、微笑んだ。
「そんな緊張しなくていいよ。……あ、そうだ」
 コラージュは思い出したようにマコトに向き直る。
「緊張しないおまじない。手のひらに3回『人』って書いて、食べるんだ。」
 そう説明したことをマコトの目の前で得意気にやってみせるコラージュ。マコ
トは少し可笑しくなって、頬が緩んだ。
「……知ってますよ。」
「あれ?」
「でも、ありがとうございます。」
 マコトは改めて扉を見据える。
 手汗はどこかに行ってしまった。
「……じゃあ、がんばってね。」
 コラージュはそう言ってひらひらと手を振った。
 マコトは頷いて、歩きだす。
 扉まではすぐ。手をかけると、ドアノブは驚くほど冷たい。
 ひとつ、深く呼吸をして、思い切り扉を開いた。
 マコトを出迎えたのは、むせかえるようなタバコの臭いと、雄叫びにも似た分
厚い歓声だった。
 広い地下室はどうやらすでに満員のようで、聞こえてくるのは口汚い罵声や奇
声、何か金属質の固いものがぶつかる音、リズミカルに踏み鳴らされる足音、下
品な笑い声、そして、「Kill」コール……。
 マコトは威圧されて、踏み出した足を引っ込めかけたが、観客たちと自分とが
金網で遮られているのを知って、すぐに落ち着いた。
 前を見る。向こう――この部屋の中央――に、少し上がった舞台のようなもの
があった。マコトが入ってきた扉からそこまでの道と、その舞台は金網で囲われ
ている。その外観はまるで――
(『檻』みたいだ……)
 そう感じながら、マコトは舞台へと向かう。
 観客が金網に飛び付き、激しく揺らして音を立てる。前を通るときにちらりと
見たその顔は狂気じみていた。クスリでもやっているのかもしれない。
 金網があってよかった。
 心から、そう思った。
 舞台に上がる。そんな高くないはずだが、世界が一変して見えた。
 視線を巡らせる。自分の腰くらいの高さまでしか騒ぐことができない観客たち
がずいぶんと小さく見えた。彼らへの恐怖は薄れ、マコトは胸を張って顔をあげ
る。
 マコトの目の前には『グラウンド・ゼロ』の筐体の、カプセル部分が外された
、機械とシートだけのものがあり、それは2枚の金網を挟んでもう1基、対戦相
手が使う同じものと向かい合って設置されていた。
 その傍らに、少年が居る。
 彼はメガネをした、『いかにもゲーマー』な少年で、緊張しているのか、落ち
着きがない。向こうも初めてなのだろうか、とマコトは思った。
 そしてマコトが筐体に近づいたとき、突然その声は会場内に響いた。
「ウェルカムトゥザ『タルタロス』!!今週もこの日がやってきた!」
 一斉に沸く観客たち。
 マコトは辺りを見渡し、その声が高い位置にあるスピーカーから出ていること
に気づいた。
「今回はルーキー同士の対戦!しょっぱい展開でも勘弁な!この『口だけ男』が
精一杯盛り上げてやるからよ!」
 『口だけ男』らしき人物の姿は見えない。なるほど。
「先ずは制服着たなんかリア充っぽい顔のヤツから紹介するぜ!『マコト・アマ
ギ』!現役時はBクラスだったらしいが、ブランク1年の実力未知数!倍率1.
22倍!」
 倍率って、『賭け』の倍率のことか、とマコトはすぐに理解した。
「反対側のオタクくせーヤツは『タケシ・ナカジマ』!こっちも現役時はBクラ
ス!倍率1.10倍!こっちの方がやや有利か!?」
 マジか。なんか腹立つ。
 ちらりと『ナカジマ』を見ると、どうやら向こうもこっちを見ていたらしく、
視線を外すのが見えた。
 その態度が勘に障り、マコトは胸の奥に何か激しいものがこみ上げるのを感じ
た。
「そんじゃあ2人とも!さっさと準備しな!」
 『口だけ男』のその言葉に従い、マコトはシートに座った。シートベルトをし
て、画面を見る。すでに画面は使用機体を選択する画面になっていた。
 『グラウンド・ゼロ』は『AACV』という人型ロボット兵器を操って戦うア
クションゲームだが、その『AACV』にはいくつかのタイプがある。
 それらは大きく、スピードに特化した『高機動型』、汎用性を重視した『中量
型』、一瞬の攻撃力を追求した『重装型』の3タイプに分けられ、プレイヤーは
まずこれらの中から自分の使用する機体を選ぶことになる。
 それぞれに一長一短があり、勝負はこの時から始まっていると言っても過言で
はないのだが、大抵のプレイヤーは、毎回自分の得意なタイプを選ぶ。マコトも
そうだった。
 カーソルを動かす。選ぶのは、『重装型』だ。
 重装型AACVが画面に大きく表示される。
 他の2タイプよりも大きい、まるっこいシルエットの体は、いかにも分厚そう
な装甲を身に纏っている。中でも右腕は特徴的で、腕と近接戦闘用の大剣が一体
化している。その威力は驚異的で、まともに食らえばヒットポイントが半分以上
ぶっ飛ぶ、という代物だ。マコトはその豪快さが好きだった。
「アマギは重装型!オイオイごり押し戦法だけは勘弁だぜ!?対するナカジマは
ぁ、……中量型!こいつは上級者くせー!期待できるかもな!」
 相手は中量型か。中量型はオールラウンダータイプで、それ故か愛用するのは
上級者が多い。特化した性能は無いが、そのためにプレイヤーのテクニックがモ
ロに出て、一度有利に立たれたらなかなか逆転できないことが多い。逆も然りだ
が。
 やり易くは無いが、やりにくいこともあまりない、久しぶりの対人戦にはベス
トかな、とマコトは思った。
 機体選択の次は、武器選択画面になる。武器の種類は山ほどあるので、いちい
ち挙げられないが、これで大体の戦法が決まる。
 マコトは基本中の基本の武器であるアサルトライフルを選んだ。ただし、重装
型のみが使える大型で強力なものだが。
 相手が何を装備しているのか、まではマコトの画面には表示されない。実際バ
トルの段になってから判るのが、また緊張感を煽るのだ。
 すべての設定を終え、『準備完了』のボタンを押す。
「待ちくたびれたぜこの野郎!両者準備完了!まもなくバトルスタートだ!」
 口だけ男が叫び、観客たちが雄叫びをあげる。
 マコトは胸に手を当て、息を吐いた。
 このヒリヒリするような感覚、悪くない。
 マコトの口端はつり上がっていた。

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