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グラインドハウス 第1話

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匿名ユーザー

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 そこは異様な熱気に満ちていた。
 薄暗く広い地下室には若者たちがひしめき合い、唸り声とも歓声ともつかない
声をあげている。
 地下室の中央には金網で囲まれた『檻』があって、部屋はその檻を中心にやは
り丈夫な金網で二分されている。若者たちの熱狂的な視線は檻と、その上に吊り
下げられたいくつかの大きなモニターに向けられていた。
 モニターには、自在に動く両肩のスラスターを特徴とする巨大な人型ロボット
『AACV』が2体映し出されていて、荒れ果てた街中で戦っている。しかしあ
れはCGだ。本物ではない。
 しかしモニターの真下、檻の中のコックピットを模したコントローラーのシー
トに座る、観客と同様に金網で分けられた2人のプレイヤーの目付きは真剣その
もので、単なるテレビゲームをやっているような雰囲気では微塵もない。
 その額には熱気のためだけではおそらくないであろう汗がいくつも浮かび、荒
い呼吸の口元を垂れて下に落ちる。
 両の目は見開き、いつか画面に映るはずの勝利への足がかりを必死に見逃すま
いとしていた。
 ――しかし、やがて、決着がつく。
 と同時に今までで一番大きな歓声があがり、檻の金網を震わせた。
 勝者の名前と顔がモニターに大きく映される。
 そのプレイヤーは脱力し、シートの背もたれに体を預けて大きく息を吐いた。
 勝者の名が叫ばれる。
 彼は目を閉じ、勝利の余韻を噛みしめているようだった。
 観客のテンションはヒートアップしていく。敗者は筐体に突っ伏し、ガタガタ
と震えていた。
 そして勝者がシートをたつと、敗者の周りを囲っていた金網が引き上げられる

 遮るものが無くなった敗者がわの観客たちは、一斉に彼に群がった。
 悲鳴があがった。


 ……暗い部屋で、一人の男が画面越しにその様子を眺めている。
 黒い礼服を着た彼は細身だった。部屋にはモニター画面の明かり以外に光源が
無いので、顔はわからない。どうやら彼の後方にもさらにひとり人間がいるよう
だったが、そちらは体全体を暗闇が沈んでいて、顔はおろか男女の判別すらでき
ない。
 モニターに近い方の男が言葉を発する。
「終わったみたい」
 その声は老人のようにしわがれていたが、口調は若者のよう。
「遠目から見ても死んでる。処理方法はいつもと同じでいいよね」
 後方の人物は黙って頷く。

 誰も居なくなった地下室にぼろ雑巾のようになったさっきの敗者が転がってい
るさまが、画面には映されていた。
 男が携帯電話で連絡を入れると画面の向こうで数人の男たちがその死体のそば
にやってきて、それを袋に入れた。
「また、補充しなければいけないね。」
 男が言う。
「そっちは任せても?」
「……ああ」
 ようやく後方の人物が発した声は奇妙に歪んでいて、男女を判別する手がかり
にはなりそうもない。
「なら任せるよ、タナトス」
 『タナトス』と呼ばれた人物は、そうして闇のさらに奥へと身を隠した。
 それを見送って、残された男はモニターの電源を切る。
 部屋に光は無くなった。



 『コロニー・ジャパン』――かつて地球に衝突した小惑星のために、人類が逃
げ込んだ地下に築いた都市。その町並みはどこの風景を切り取っても大差のない
均一なもので、人々はそこでかつての地上での営みをなんとか続けている。
 そこに住む人々は知らなかった。自分たちの生活が無数の死者たちによって支
えられていることを。
 わずかな量で莫大なエネルギーを生み出す『P物質』と、地上で長い間行われ
ていた国家間におけるその争奪戦争、その他様々な国家レベルでの犯罪行為――
隠蔽され続けていたこれらの事実が明るみに出たのが去年のこと。その結果国家
への不信感が爆発し、『自殺』したり、辞任した政治家、官僚の数は数えきれな
いほどに上った。
 それに伴い進められていた様々な政策は中止になったり、計画が破棄されたり
した。そうしてコロニー・ジャパンをはじめとする多くの国の経済力は弱まり、
大量の失業者を出し、治安は悪化していったのである。
 ――そんなの、きょーみ無い。
 それがマコト・アマギが日本史教師の授業内容にきまって抱く感想だった

 教室内は今4時限目の授業の真っ最中で、黒板の前では日本史を担当する禿げ
たオッサンが教科書片手に黒板に近代のコロニー・ジャパンの状況を図にしたも
のを描いている。だけど、本人はアレで分かりやすいと思っているのか?
 隣の席の男は机の下で趣味の悪いグロ漫画読んでるし、前の机に突っ伏してる
奴の耳にはイヤホンだ。

 そういう自分はというと、ノートは開いているものの真っ白に近く、隅になん
だかわからない落書きがしてあるだけなのだが。
 窓の外の風景も毎日代わり映えがしない。昨日も明日も、大差無い。
 気だるい昼だった。
 退屈だ。
 こんなの、人生にふさわしくない。
 もっとさ、楽しくあるべきじゃないの?セイシュンって。
 こんなの、家でゴロゴロしてんのと変わらない。ただ時間が過ぎるのを待って
るだけだ。
 じゃあどういうのが正しいセイシュンなのかと訊かれれば明確な答えは出せな
いけど、とりあえず、こんなのツマンネーよ。
 ……ああ、もう何もかも崩れっちまえばいいのに。
 とかいって、実際そうなったら困るんだろーなー。
 なにこの破滅願望。空から死神のノートでも降ってくんの?
 ……何かしたい。とりあえず何かしたい。実感のある何かを――
 その時、待ち望んだチャイムが鳴ったのを聞いて、マコトは窓の外へ向けてい
た視線を教室内へ戻す。
 すでに教師は荷物を脇に抱えて部屋を出ていくところだった。
 とたんにざわざわと生徒たちは動き出す。早い者はもういつもの仲間と学食へ
足を向けていた。
 マコトもノートを閉じて立ち上がり、胸を反らして大きくノビをする。
 そうして脱力しようとした時――
「メシ食いにいこーぜ!」
 ――言いながら勢いよく背中を叩かれた。
「うあっ!?」
 変な声が出た。
 背後から回ってマコトの前にきたソイツは親指で教室の出口を指す。
 どこか憎めない笑顔をした、派手な金に髪を染めている、なんかもう明らかに
ヤンキーな外見をした彼はユウスケ・コバヤシ。
 マコトが自身の背中に手を回して悪態をつくと、ユウスケは笑う。
「ははっわりーわりー。」
 反省している様子はゼロだが、まぁいつものことなので気にしない。
 適当に流して財布をポケットに突っ込み、2人は教室を出た。
 廊下を雑談をしながらダラダラと歩く。
 話題は他愛もないことだ。さっきの授業のこと、音楽のこと、ファッションの
こと……
 ふと、嫌なものが目に入ってマコトは足を止める。
 それは廊下の目立つところに貼られていた、一枚のポスターだった。
 その上部には「国立大学入学試験難易度表」と書かれている。どっかの予備校
が毎年出しているものだった。
「そうか、もう1年も無いのか。」

「え?あー、そうだな」
 マコトの言葉にユウスケが相づちをうつ。
 『大学受験』。
 高校3年に上がると共に、急に現実味を帯びてきた言葉。
 自分はどうすればいいのだろう。推薦とれるほどに成績は良くないし、普通に
受験していい大学に行ける自信も無い。
 真面目に勉強するべきなのだろうか。めんどくさいなあ。
 ユウスケはどうするつもりなのだろう。
「ユウスケ、お前どっか受けんの?大学。」
「俺か?」
 ユウスケは足を止めない。マコトは少し早足になった。
「俺は就職かな。知り合いがゲームセンターやっててさ。そこで働こうかなって
。」
「ゲーセンかよ。」
「給料はいいんだぜ。俺前に、っていうか今もなんだけど、そこでバイトしてん
だけどさ、結構いい。」
「時給いくら?」
「いや、歩合制。」
「ゲーセンなのに?」
「なんなら、お前もやるか?」
「どんな仕事?」
「アクションゲームの上手い奴を連れてくる仕事。1人につき十万以上。スカウ
トされた側にも金が入るから、結構見つかるぜ。」
「なんだそれ。」
 言いながら、マコトは納得していた。ユウスケが最近妙に羽振りが良かったの
は、そういうことか。
 ふと、ユウスケが足を止める。振り向いて、マコトを見た。
「お前、ゲーム得意だっけ?」
 マコトは少し考えて、頷く。
「まぁ、人並みには」
「『グラウンド・ゼロ』ってやったことある?」
「それってたしか……」
 『グラウンド・ゼロ』。それはマコトたちの住む地下都市『コロニー・ジャパ
ン』のゲームセンターで大人気だったアクションゲームで、内容は高速で飛行す
る人型ロボット『AACV』を操ってプレイヤー同士で戦う、といったものだ。
 そのリアリティーを追及した、歩行の振動まで表現する独特の筐体と、シビア
なゲームバランスが大いにウケ、バージョンアップを繰り返しながら20年以上
も人気を博したのだが、それらはもう、どこのゲームセンターにも残っていない
はずだった。
 『グラウンド・ゼロ』はその全てが回収されていたのだった。
 理由は約一年前の『金眼事件』――さっきの授業で禿げた日本史教師が説明し
ていた事件(内容はよく覚えていない)――にあった。

 テロリストたちによって暴露された国家ぐるみの数々の犯罪の中に、『グラウ
ンド・ゼロを利用したAACVパイロットの選出』というものがあったのだ。詳
しいことは忘れたが、たしかそれが原因で……。
「回収されたやつだろ、それ。」
「ああ。マコトはやったことは?」
「Bクラスプレイヤーだった。懐かしいな。」
「ってことはマジで『人並み』なんだな」
「うるせぇよ」
 2人は笑う。
「で、それが?」
 マコトが訊く。ユウスケは思い出したように話を続けた。
「俺が連れてくるべき人間の基準がさ、その『グラウンド・ゼロのプレイヤー経
験者』ってのが条件なんだよ。」
「へぇ?」
 変なの。
「そのゲーセンはさ、元グラゼロプレイヤーを引っ張ってきて、何させてんの?

「さぁ?知らない。」
 即答するユウスケ。
 マコトは何故か彼のその返答に違和感を覚えた。
「ふーん、そうか。」
 しかしマコトは流す。余計なことを訊いて関係を悪化させても何の得も無い。
 マコトはふと思い出した。
「なぁ、それってさ、スカウトされた方はいくらくらい貰えるの?」
「え?」
 ユウスケがこちらを振り向く。
「さっき言ってたじゃん、お前。」
 マコトはポケットに手を入れ、中の革のサイフに触れる。見てくれはそこそこ
立派だが、今のその中身はほぼ無いに等しい。
「ああ……そうか」
 説明する前に、ユウスケが理解する。
「まだ、新しいバイト見つかってないんだっけ。」
「まぁな」
 先月、コンビニエンスストアでアルバイトをしていたマコトは、ある日やって
きた男と口論になり、殴り合いの喧嘩をしてしまったのだ。
 舌で奥歯を撫でる。その時からぐらついたままだ。
 それが原因でマコトはアルバイトをクビになり、懐も寒くなる一方だった。

 なので、手軽にカネが手に入るのなら、ユウスケにスカウトしてもらうのも有
りかもしれない、と考えたのだが。
「……いや、しないよ?」
 そう、ユウスケはマコトに言い放った。
「えーなんでだよ」
「いやいや、マジで友達スカウトするとか気まずいって。お前は真面目にバイト
探せよ。」
「なんで?むしろ気が楽じゃね?」
「とにかく、お前はダメだ。」
「あぁ、そう」
 マコトは諦める。多分、何か俺を誘えないような事情があるんだろう。『知り
合い禁止』とか、 あり得ない話じゃない。
 その時、突然に腹の虫が鳴る。
 マコトはユウスケを見た。彼は腹を押さえている。
「つーかさ、急がね?早くしねーと購買のパン無くなるぜ?」
「ああ、そういやそうだな。」
 マコトは廊下の先を見据え、床を蹴る。
 友人の予想外の行動に一瞬、動きを止めたユウスケの方を走りながら振り向い
て、マコトは叫んだ。
「遅れた方がパン1個おごりな!」
「はぁ!?」
 慌ててユウスケもマコトの後を追う。
 2人の男子高校生の、ありふれた日常の光景だった。


  グラインドハウス~グラウンド・ゼロ2~

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