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グラウンド・ゼロ もう一つの最終話

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匿名ユーザー

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 脳天に鈍い痛みを感じて、黒峰真也は目を覚ました。
 頭がぼんやりする。どうやらかなり深く眠っていたようだ。
 痛いところをさすりながら、顔を上げる。
 どこだっけ、ここ――
「ずいぶんと大きないびきをかいていたわね」
 頭上で声がしたので、丸めていた背中を伸ばしてそっちを見る。見慣れた女性
がそこに居た。
 鋭い目と黒い髪をした、どちらかといえば美人の部類に入るであろう彼女は、
組んだ片腕に教科書を持って、真也の机のそばに立っていた。カッチリとしたス
ーツに身を包んだその様は教師そのものだ。
「え、あ、アヤカさん!?」
 思わず変な声を出してしまう。そんな真也を近藤綾香は呆れたように見下して
、「顔を洗ってきたら?」と言って歩き出した。
 周りからクスクスと笑い声が聞こえる。見回すと、そこは学校の教室だった。
 窓の外には雲ひとつ無い青空が広がっていて、その真下のグラウンドでは、ど
こかのクラスが体育をやっているようで、元気の良い掛け声が聞こえる。
 狐につままれたような気分のまま制服の袖でよだれを拭いていると、隣の席か
ら小さく声をかけられた。
「近藤さんの授業で居眠りなんて、勇気ありますね」
 そう微笑みながら言ってきた人物の顔を見て、驚く。
 その少女には見覚えがあった。
「オカモトさん……!?」
 彼女は真也の反応に、軽く首を傾げる。
「黒峰さん、寝ぼけてますね?」
 岡本由依は眼鏡の位置を直しつつ、大きめの茶色い瞳を細めて笑った。
 続けて彼女が何か言おうとしたとき、大きな「ハイ」という声が少し離れた席
からする。
 見ると、少年がまっすぐに手を挙げていた。
 綾香が横目で彼を見て言う。
「はい、じゃあ山本くん、答えて。」
「『1911年』です。」
 山本剛ははっきりとした声で答えた。
 綾香は満足げに頷く。
 「さすが生徒会長、といったところかしら。そう、世界中がこぞって地下都市
建設を唱えたのは1911年。これは地球に小惑星が衝突する可能性が強かった
からですが、結局、そんなことは起こりませんでした。」
 彼女はそう説明した。
 真也は耳を疑って、目の前の世界史の教科書を開く。
 しかし内容に目を通す前に、廊下から飛び込んだ怒声に驚く。
「塚崎ィ!ピアスは禁止だと言っただろう!」
「うるせぇファッキン糞ジジイ!昨日言われたとおり学校来てやったんだからあ
りがたく思えや!」
「毎日来るのが普通だ!」
「るせぇ!だいたい授業出なくても成績マックスなんだから良いだろ別に!」
「良いわけないだろう!また卒業取り消されたいのか!」
「どーぞどーぞ!また来年も東大受かればいいだけだし!」
 そうして始まった口論に、綾香はため息をついて廊下に出る。
「北澤先生、塚崎くん。授業中ですので静かにお願いします。」
「だいたいお前タバコも吸っているだろう!ちゃんと分かっているんだ!」
「いいだろ成人してんだから!」
「そこは問題ではない!それ以前にお前いつまで高校生でいるつもりだ!」
「2人とも落ち着いて!」
 ぎゃあぎゃあという口論は綾香も参加してますますヒートアップしはじめたよ
うだった。
 教師が消えたせいで、教室内も少しずつ騒がしくなりはじめる。
 真也は周りを見渡して、ふと、何かが足りないことに気づいた。
 あれ――
「リョウゴは、居ないのか?」
 隣の席の岡本に訊く。
「『リョウゴ』――中村さん、ですか?」
 彼女はさらに隣の男子の肩を叩く。
「喜多さん、中村さん知ってます?」
 喜多は首を振る。
「いや――嶋田、知ってるか?」
 喜多の前の席に座っていた嶋田がこっちを振り向いた。
「ああ、アイツ?アイツは確か……」
 そのとき、真也たちの後方で、教室の扉が開く音がした。
 真也はそっちを見る。息をのんだ。
 いかにも面倒くさそうに赤みがかった頭を掻きながら、まだイヤホンを外して
いない、背の高い少年が入り口には立っていた。
 彼が入る間際に言った言葉は真也には聞こえなかったが、喜多が応えた。
「3限まで遅刻してくるとかツワモノだなー」
 言われた彼はイヤホンを外し、岡本とは反対側の、真也の隣の席の椅子を引く

「いやーゲーセン行ってたら遅くなったわ」
「また、あのゲームか?」
「ああ」
 欠伸まじりにそう言いながら、席に座る。
「……『グラウンド・ゼロ』?」
 真也が訊く。
 彼は眉をひそめた。
「なにそれ、そんなの出たの?」
「え、じゃあ、何やってたんだよ」
「『スプーキーハウス』に決まってるだろ?ホラあの、幽霊を銃で倒してくやつ
。」
「……ああ、そうか。」
 真也は適当に頷く。
 そうだ、そもそも『グラウンド・ゼロ』なんてゲーム、自分も聞いたことがな
い。
 なんでそんな名前が口から出たのか、不思議だった。
「……真也、お前、何かおかしくね?」
「寝ぼけてるんですよ」
 先に岡本が答えた。
「そう」
 真也は頷く。
「ただ、夢を見てただけだ。」
 真也は微笑んだ。
「――と、いうわけで」
 目にかかった前髪をかきあげる。けっこう伸びたなぁ。
「おはよう、了悟。」
「おう。」
 中村了悟は手をあげて応えた。




 ……これが、現実なのか、夢なのか、俺にはわからない。
 だけどもし許されるのなら、もう少しだけ、このままで――


 ↓お時間ありましたら、感想をおねがいします。
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