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グラウンド・ゼロ エピローグ

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 ……目を覚ました。
 白い天井と無機質な照明が目に入る。
 ぼんやりとした頭では、思い出すのに時間がかかった。
 呼吸をする。なんだこの音、いつもと違う。
 目玉を動かしてみて、自分が酸素マスクをつけられていることを知る。点滴も
、心電図もだ。
 自分が横たわるベッドの周りのカーテンは開いている。遠くに白衣の人間が見
えた。
 点滴が刺さっていない方の腕を持ち上げ、彼に向けて手を伸ばす。
 医師は気づいて、こちらに歩み寄ってきた。



 シンヤ・クロミネが見知った世界は一変していた。
 世界中の国家が行っていた、「史上最大の非人道的極まりない犯罪」と、ゴー
ルデンアイズの行った「史上最大規模の人間の命を危険にさらしたテロ」、この
2つの特大スキャンダルは世界中の地下都市を混乱に巻き込んでいた。
 ハヤタ・ツカサキを「英雄」と呼ぶ声もある。「狂人」と呼ぶ声もある。
 そんなのどうでもいい、とシンヤはラウンジのテレビに向かって言った。
 タクヤ・タカハシの部屋の前を通る。当然誰も居ない。
 アヤカ・コンドウの部屋の前を通る。彼女は辞めたらしい。いや、辞めさせら
れたのか。
 ユイ・オカモトの部屋の前を通る。扉の名札が外されていた。
 リョウゴ・ナカムラの部屋の前を通る。誰も居ない……。
 結局、アイツは見つからなかったらしい。地上の環境じゃあ、生きている見込
みもほとんど無い。多分、死んだんだろうな。
 自分の部屋の前を通る。何も変わっていない。
 ――みんな、居なくなってしまった。残っているのは、自分だけだ。
 廊下を歩く。誰かとすれ違う。
 幽霊屋敷に拉致されてきた人間には、2つの選択肢が提示されていた。
 1つは、莫大な損害賠償金と共に、家族のもとへ戻るという選択肢。
 もう1つは、既に死亡したことにして、幽霊屋敷に留まるという選択肢。
 ほとんどの人間は後者を選んでいた。シンヤも同じだった。今さら家族のもと
へ戻っても、また彼らを悲しませるだけだし、それに、自分たちはもう、死んだ
も同然なのだ。
 まだ、歩く。
 腕時計を見る。任務の時に壊れたあれは、捨ててしまった。
 まだ、命は残っている。
 何かしようか。
 何もしないでいようか。
 どっちにしても、時計の針は進む。
 俺はまだまだ喪える。
 喪って、喪って、何にも無くなったら、そこからは何が見えるのだろう。
 格納庫へ足を踏み入れる。AACVたちが並んでいる。
 自分の機体も失ってしまった。
 手近な高機動型に乗り込み、起動を要請する。
 動き出したAACVは地上ゲートへ向かって歩き出した。
 幽霊屋敷――正式名称「地上探査ならびに小惑星落下地点特定のためのあらゆ
る法的束縛をうけない、特殊機動兵器の軍事的運用及びそのために必要な人材等
の強制確保のための極秘機関」――は既に解体されている。
 その代わり、「小惑星落下地点防衛ならびにコロニー・ジャパンへ敵対するあ
らゆる勢力を撃退または殲滅するためのあらゆる法的束縛をうけない、特殊機動
兵器の軍事的運用ならびにそのために必要な人材等の強制確保のための極秘機関
」が幽霊屋敷解体と同時に設立され、メンバーや機材はまるごとそこへ移された

 結局、なにも変わっていない。
 俺はまたAACVに乗り、戦争をする。
 どこかで俺が死んでも、何も変わらず、世界は回る。
 そのうち、俺を覚えている人間は誰も居なくなって――
 ……オカモトさん、ツカサキ、リョウゴ。今なら、お前たちの気持ち、わかる
気がする。
 ――でも俺は、生きてみせる。
 生きて、喪って、それでも生きて、他人を踏みつけて、その上に立って、殺し
て、殺されかけて、それでも生きて……
 ……そうして最後に『ゼロ』になっちまうのも、アリじゃね?
 地上に出る。スラスターを点火する。
 これは遠まわしな自殺なのか。
 さぁ、人を殺しにいこう。

 ――ヘドが出るように、生きぬいてやる――




グラウンド・ゼロ


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