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廻るセカイ-Die andere Zukunft- Episode17

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mawasekadaz

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「なんでここにって言われてもなぁ。どっちかってーと、それってオレの台詞じゃねぇか?」

「っ、……ヴァイス!」

イェーガーの背後。ショッピングセンターの奥に立つビルの屋上で、ヴァイスは既に狙撃銃のスコープを覗き込んでいた。
照準は既にイェーガーの後頭部に。完全なる死角からの狙撃。そして、その引き金が引かれる。
一瞬光が見えたと認識した瞬間には、既に弾丸は開かれた窓の中からイェーガーの後頭部に直撃する。そうなるはずだった。

「ッらぁあっ!」

突如イェーガーが振り返り、拳を思い切り前に突き出した。そして、軽い衝撃音と共に、弾丸は砕け散った。
この男はリーゼサイズの弾丸を、人の状態で拳で撃ち落としたのだ。それも完全なる死角からの狙撃を。

「オレに暗殺と不意打ちは効かねぇ。甘いぜ、俊明」

「どうして、気づいた……」

完璧にイェーガーからは見えない位置からの狙撃だ。あらかじめ気づいていたとも思えない。

「お前の眼球に一瞬光が見えた。ありゃあ"セカイ"の光だからな。余裕だったぜ」

「おい……まさか、オレの眼球に映った景色から狙撃を読んだってのか?」

だとしたらどんな化け物なんだ。いくらリーゼンゲシュレヒトとはいえ、にわかに信じることができない。
だって、理解はできるがそんなことを現実でやってのけることができるだなんて、おかしいだろう……。

「お前が狙撃の方向を見てたってのが失策だったな。詰めが甘ぇよ、詰めが」

そう言いながらイェーガーがこちらにゆっくりと近づいてくる。逃げなければいけないはずなのに、オレの足は動いてはくれない。
わかっているのだ。今、後ろを振り返って逃げたとしても、この狩人から逃れることはできないと。
甘かった。本来だったら狙撃した瞬間に走って逃げ出すべきだったのだ。
死角からの狙撃なら大丈夫だろうという、慢心と油断が生んだ失策。それがこの事態を招いた。

『なにボサっとしてるんですかっ!逃げてくださいっ!』

ヴァイスの声が聞こえるが、オレの体は相変わらず動くことはない。動くことが、できなかった。
そして、オレの頭部に向かって、イェーガーの手がゆっくりと伸ばされた。

「おらっ」

「痛ああああっ!」

額に走る激痛。思わず額を押さえて涙目になってしまう。
それがイェーガーのデコピンによるものだと気づくには、若干時間がかかった。

「なにすんだよっ!」

「さっきの狙撃の礼だ。ったく、闘争本能猛々しいのは嬉しいが、今日のオレは生憎戦いに来たわけじゃねぇんだよ」

イェーガーのその言葉を聞いて、初めて気づく。
今のこいつには、戦ったときのあの"殺気"がないことに。
それどころか、圧倒感すら感じられない。正直、感覚的には普通の一般人と変わらなかった。

「戦いに、来たわけじゃない……?」

「そうだよ。オレは本を買いにここに来ただけだ。お前がいることなんて知らなかったってーの。それに、今のオレにお前と戦う力は回復してねぇよ」

そう言えばシュタムファータァが言っていたことを思い出す。イェーガーのリーゼの核を破壊したから、復活には半年くらいかかるということを。
つまり、今のイェーガーにはリーゼ化するだけの力が復活してないということか。たしかに、あれから一ヶ月とちょっとくらいしか経ってない。

「……そう言われりゃ、そうか。いや、でも」

「とりあえずここで立ち話もなんだ、外に出ようぜ」

イェーガーに連れられてショッピングセンターを後にし、すぐ近くにあったファーストフード店の中に入る。
一応ヴァイスにも合流してもらい、3人でボックス席に座り込む。

「シュタムファータァが狙撃なんて……と思ったが、やっぱり別のリーゼだったか。かっ、まぁウサギ風情の弾なんてあの程度だよな」

「……私が全快だったらその手もろとも砕いてた」

ヴァイスが珍しく不満げな表情をイェーガーに見せる。狙撃が効かなかったのもあるだろうが、やはり狩人と兎って人間的に相性が悪いのだろうか。

「しかし俊昭もやるなぁ。女のリーゼばっか引き連れやがってよ。……そういう趣味なのか?」

「違ーよなんでお前もオレをロリコン扱いすんだ。どいつもこいつもオレをそういう風に呼びやがって」

まったくもって心外だ。そもそも、椎名と松尾にしか話したことはないが、オレの好みは年上だ。年下で子供なんて論外も論外だ。性欲や恋愛以前の問題だ。

「……つーか、イェーガー。お前、敵なのにヤケにオレに慣れ慣れしくねぇか?」

いつの間にか俊昭って呼び捨てだし。あまり家族と千春、伊崎以外に名前で呼ばれるのは好きじゃないんだが……でも、何故だかそこまでイェーガーに対しては嫌悪感は感じなかった。
だが、それでも気になるものは気になる。だって敵だし。

「敵だからって別になれ合っちゃいけねぇとかはねぇだろ。それに、オレはお前のことを気に入ってるからな」

「……ホm」

とりあえず妙なことを口走りそうになったヴァイスの口を押さえる。大丈夫だ大丈夫。イェーガーはそんなヤツじゃないってオレは信じてる。

「気に入ってるって……なんでだよ」

「そのまんまだよ。つーか、お前はどうなんだよ。やっぱりオレと飯食うのは嫌か?」

「……やっぱりホmむぐぐ」

ヴァイスの野郎、こいつオレに恨みでもあんのか?それともイェーガーに嫌がらせしたいだけか?だがその先は絶対に言わせない。
オレ自身別にこうしてイェーガーと普通に話す分には特に嫌悪感もない。命さえ狙われなければ、ただの同じ人間なわけだし。

「別に、嫌とかじゃねぇけどよ……。つーか、本題に入ろうぜ。いったいオレに何の用だよ」

「お前らにやられてから病院暮らしなもんで、暇潰しが本くらいしかねぇんだよ。だからオレの暇潰しに付き合え。話くらいいいだろ」

そう言いながらコーヒーを口に運ぶイェーガー。
……ということは、こいつ本当にオレと話したかっただけなのか。しかも動機が暇潰しとは。

「はぁ、いいのかよお前。お前自身の立場とか大丈夫なのか?」

「オレはセカイの意志に雇われた傭兵だ。プライベートに敵と接触しようが、知ったことじゃねぇし口出される筋合いはねぇ」

「そうかよ」

まぁ、イェーガーの立場がどうなろうとオレの知ったことではないか。気にするだけ無駄だろう。

「で、お前はなんでこんなトコにいるんだ?ペネトレイターでも奪還しにきたのか?」

「お前と会ったのは偶然だ。ここには修学旅行で来ただけ……って、あ……?」

待て、今聞き捨てならないことを言わなかったか。
ペネトレイター、ペネトレイター……どこかで聞いたことのある気がする名だ。何か引っかかる。

「ペネト……レイター?」

「あ?何だお前"保守派"のくせして知らねぇのか? お前ん所の組織のリーダーの右腕だぞ?」

そうだ、思い出した。エーヴィヒカイトの右腕にして友人で、揺藍に逃げるときに一人残って時間稼ぎをしたってリーゼンゲシュレヒトだ。
エーヴィヒカイトはペネトレイターは死んでない、どこかで生きているって言っていたが、まさかここにいるとは思いもしなかった。

「ペネトレイターがここにいるって、何でお前知ってるんだよ。敵対してる派閥だろ?」

「そりゃあ、アイツがオレと同じ病院にいるからに決まってんだろ。セカイの意志直下の、革命派の病院にな」

……マジかよ。と言いたい気分になった。
まさか、こんな旅行先でそんな重要人物の行方を知ることになるなんて誰が予想できただろうか?
それも所在地が敵地のど真ん中ときたもんだ。正直どう反応すればいいかわからない。

「しかし、革命派の連中も敵を治療するなんて思わなかったぜ。てっきり無慈悲に殺すのかと思ってたわ」

オレがそう言うと、イェーガーはこちらの方を"狩人"の眼で見てきた。この表情は、アーシェと戦っていたときと同じだ。

「はっ、なワケねーだろ。アイツは今病院の地下で封印されてんだよ。あのクラスの力を持ったヤツを死なすのは惜しい。
 かといってそのままはい治療した……にするわけねぇだろ」

「だよなぁ。さすがにそう甘くはないよな」

まぁそんな所だとは思った。そんな力を持った存在を軽く扱うわけがないよな。……だが、これは良い情報だった。夜にでもエーヴィヒカイトに連絡しておくか。

「つーか、お前そんなことオレに喋っていいのか」

「あ?別に黙ってろって言われてる情報じゃねぇし。んなら話しても問題ないだろ」

「まぁ、お前がそれでいいならいいけどさ……」

雇われの身だとやはりそこら辺の意識は薄いのだろうか。薄いんだろうなぁ。
それに、そんなことを気にするタイプにも見えない。獲物を狩ることにしか興味がないんだろう。

「ってことは、お前マジで偶然ここに来たのか。なんつーか、運が悪いヤツだなぁ。くくっ」

「良い情報が手に入ったんだから、悪いってことはねぇだろ」

何も被害はなく情報が手に入ったんだから、こっちとしてはメリットしかない。万々歳だ。
だから、運が悪いってのだけはないと思うのだが。

「はっ、まぁそれは次のニュースを聞いてからにするんだな。実はな、この間そこのウサギの後釜が決まったぜ」

「後釜? ……ってことは、やっぱ揺籃に攻めてくるのはまだ終わらねぇってことか」

予想はしてたがやはりそうなのか。いつになれば終わるのかわからない戦いだってのは覚悟してたが、やはりそう甘くはないということか。
さっきと違ってこっちはバッドニュースだ。一度上げて落とすとは、やってくれる。

「……それで、次は誰になったんですか?」

今まで黙っていたヴァイスが口を開く。やはりそこら辺の事情はこちら側の立場になった以上気になるのだろう。
オレも気になるのは同じだ。何せこれから戦うことになる相手。情報を知っておくことに越したことはない。

「"空裂きの射手"、リーゼンゲシュレヒト・ヴィオツィーレン。"総合戦闘能力最強"の異名を持つ、
 オレやそこのウサギとは段違いのヤツだ。セカイの意志も、ようやく本腰入れたってことだな」

「っ!それは本当ですかイェーガーっ!?」

驚くタイミングを逃してしまった。色々とオレも驚いたがそれ以上に、普段は物静かなヴァイスがここまで反応したことに驚いた。
そこまでの相手なんだろうか。こいつが、こんなに顔面蒼白になるほどの。

「くくっ、良い顔するじゃねぇかウサギ。そうだよ。お前の姉貴だっけか?そいつが次の担当だ。お前そっち側に付いたんだろ?良かったなぁ。家族同士で殺し合えるじゃねぇか」

「っ……お姉様が、揺籃に……」

……ヴィオツィーレン、こいつの姉貴だったのか。ってことは色々とまた面倒臭そうな事態になりそうだ。
そりゃあ顔面蒼白にもなるだろう。下手をすれば、家族と本気の殺し合いになるかもしれないのだから。

「イェーガー、そいつ、総合戦闘能力最強って言ったよな。つまりリーゼンゲシュレヒトの中で一番強いってことか」

「総合的に見て……な。最強って言っても色々分野だったり解釈によってあるだろ。つまり、総合戦闘能力最強ってのはだな」

「……どんな状況でも一定の実力を発揮できる力が、リーゼンゲシュレヒトの中で一番優れてるってことか」

「察しがいいじゃねぇか。そういうことだ。正直、オレが普通に戦ったところで絶対に勝てねぇだろうな。格が違ぇよ、格が」

なるほど。今まで2度も正面切っての実力で勝たず、何かの"策"を持って打倒してきた。
だからどんな策に陥ったとしても実力を発揮できるリーゼンゲシュレヒトを持ってきたってことか。やってくれる……。
しかもイェーガーが勝てない相手だって? どうやら、今回こそ本気で手詰まりかもしれない。

「さらに言うとだな。そいつ、今日から揺籃入りだぜ」

「……だから、運が悪いって言ったのか……。クソ、たしかに最悪だ」

てことは今襲われたら、シュタムファータァ一人で戦わなくちゃいけないということになるのか。
エーヴィヒカイトは戦えないし、シュヴァルツも同じだろう。それに、家族なのはシュヴァルツも同じはずだ。
今まで戦ってきた相手の中で一番強い上に、さらにはオレがいないから策も使えない。……本当に、最悪だ。

「……何で、そんなことオレに教えた」

「決まってんだろ。オレの獲物を、誰かに狩られるのが心底気に食わねぇからだよ」

こちらを真剣な眼で見るイェーガー。それはこちらに対して友好的な眼ではなかったが、この情報を信じるに値する真摯さが込められていた。
狩人に拘るイェーガーがそう言ったのだ。この情報は真実だろうし、この後オレが取るべき行動も示していた。

「安田、俊明……」

ヴァイスが今にも泣きそうな眼でこちらを見る。だが、言われなくてもわかってる。今オレが何をすべきか、何をしたいのか。
優しく頭に手の平を乗せ、イェーガーの眼を真っ正面から見返す。

「イェーガー、悪いな、話はここまでだ。オレは今から……ヴィオツィーレンをなんとかしてくる」

それがオレの成すべきことだ。ここまで首を突っ込んだ責任と、非日常に対する憧れと、そして、住み慣れた街を守るために。
そして、こんな修学旅行の日にまで攻めて来る奴らの空気の読めなさに対するイラつきもある。返さなければ気が済まない。

「今日一日で全部片付けるぞ。とりあえず今から椎名に連絡する。アイツならきっと、今日一日ぐらいならオレがいないことをなんとかしてくれるはずだ」

こういう時のための仲間だ。椎名ならきっと承諾してくれるだろうし、アイツの頭脳ならば学校側の方も任せられる。どうにかごまかしてくれるはずだ。
しかし、今からどうやって向かうかが問題だ。飛行機代なんてないし、タクシーで向かうにはあまりにも遠すぎる。

「くくっ、なら揺籃まで行く足が必要だよなぁ。……任せな、オレに付いてこい」

「いいのか、イェーガー」

「何度も言わせるんじゃねぇ。オレは、オレの獲物を、誰かに狩られるのが心底気に食わねぇってだけだ。お前らは、オレが殺す」

そう言うとイェーガーが席を立ち店を出る。オレたちも何も言わずにイェーガーの後に付いていった。
そして、十分ほど歩いただろうか。着いた場所は何の変哲もないただの駐車場だった。
ただ一つ、目を見張る点があるとすれば、明らかに見た目違う車が駐車されてることだけ。

「乗りな。リーゼンゲシュレヒトで走るよか速いはずだ。運転はちっと乱暴になるが構わねぇな?」

「この車、お前のなのか?」

「おうよ。シェルビー・スーパーカーズの「アルティメット・エアロ」だ。格好良いだろ?」

「いや、知らねぇけど……」

イェーガーが指差した車は、他の止まっている車とは明らかにデザインが違う車だった。一目でそれがスポーツカーだということがわかる。
風の抵抗を少なくするためか、他の車より平坦な外観。そして、こいつらしく色は真紅に赤のラインが入っている。
何より、ドアがバタフライドアだ。普通の車みたいに横開きではなく、縦に開く仕様のドア。こんなの、実際に初めて見た。

「どうした、早く乗れよ」

「おい……こんなの、一般道で走らせていいのか?」

「その点は安心しろ。オレの運転テクニックじゃあ事故ることはねぇし……それに、この車の外装フレームには"認識阻害"がかかってる。バレねぇさ」

「本当何でもありだなリーゼンゲシュレヒトッ!」

そう言いながら助手席に座ろうとしたのだが……見てみれば、席が運転席と助手席の2つしかない。これではオレとヴァイスが乗ることはできない。

「おい、2人座れねぇんだが……」

「ああ?お前の膝に乗っけてりゃいいじゃねぇか」

何を言っているんだこいつは、とでも言いたげな眼でこちらを見るイェーガー。何を言っているだこいつは、こっちのセリフだ。
色々と問題があるだろう。親子でも兄妹でもあるまいし。ロリコンじゃないから意識こそしないが、一応こいつだって女の子のはずだ。
おそるおそる後ろにいるヴァイスを見る。するとヴァイスはこちらを真っ直ぐに見て、口を開いた。

「私は気にしません、それより急ぎましょう。それとも、貴方が私の膝の上にでも乗るつもりですか」

「……悪かった」

覚悟を決める。今はそんなことを意識してる暇も、気にしてる暇なんてなかった。
こいつにとっては、そんなこと気にしてる事態じゃないしオレにとっても勿論そうだ。気を切り替えてとっとと助手席に乗り込む。

「失礼しますね」

そう言いながら躊躇せずにオレの膝の上に乗るヴァイス。いやでも下半身から上半身に伝わってくる体温に、思わず揺らぎそうになる。

「(オレはロリコンじゃねぇオレはロリコンじゃねぇオレはロリコンじゃねぇオレはロリコンじゃねぇ……)」

こういう所で自分自身が普通の一般男児だということが嫌になる。オレの好みじゃないしロリコンではないとはいえ、さすがにこうも密着されるとマズい。
シートベルトをきっちりと締めるヴァイス。無理に2人座って、それにシートベルトを締めるためにオレにもたれ掛かるように全体重を預けてくるヴァイス。
手の中に収まりそうなほどの小さな身体。流れるように綺麗な白い髪の毛。こんな事態じゃなければ、色々と危ない状況だったかもしれない。

「飛ばすぜ、しっかりシートベルト握ってろよ」

「ああ、思いっきり飛ばせ、イェーガー」

「そのセリフ、後悔するんじゃねぇぞ」

けたたましいエンジン音と共に、車が動き出す。手慣れた動作でハンドルを操作するイェーガーに、若干安心を覚えた。……そう、この時は。
この後すぐ、その安心が消し飛び、オレは自分のセリフに非常に後悔することになるのは、この時点では予想することが出来なかった。








「一人ってのも、なんか久し振りな気がしますね……」

一面に広がる青い海、そして潮の香り。海の音と木々の音しか聞こえない。そんな自然を満喫できる場所で、私、シュタムファータァは一人海を見ていた。
ここは揺籃の外れの方にある自然が多く残されている地区のとある一角の岬だ。パトロールをかねた街内の散策中に偶然見つけたのだ。
潮風が気持いい。こうして静かに過ごすというのも、革命派と敵対してからは久し振りのことだった。

「私、なんだかんだで今の状況が……嬉しいのかもしれませんね」

今まで自分は一人だった。皆近付いてくる人間と言えば、エクスツェントリシュの自分を妬むか、ディスやエーヴィヒカイトと仲が良い存在として、立場を狙う者。
友達らしい友達と言う存在は一人もいなかった。エーヴィヒカイトは兄のような存在だし、ディスは保護者のような扱いを受けていた。
そして普通の人間とは今までなるべく関わらないようにしてきた。それが今はどうだろう、普通の人間の人の方が仲が良いのではないだろうか。

「ヤスっちさん、千尋さん、椎名さんに松尾さん。それに伊崎さん……」

まぁ、友人って友人は千尋さんだけかもしれないが。椎名さんや松尾さんは協力してくれただけだし、伊崎さんは一度助けてもらっただけだ。
ヤスっちさんは……戦友? ともちょっと違う気がする。友達ってわけでもないし。……言葉に表すのは難しい関係。
どの人も普通の人。私たちリーゼンゲシュレヒトとは、似て非なる存在。生きるセカイが違うのに、今はこうして一緒に戦っている。

「もし、この戦いが終わったら……私は……」


そんなことを考えた瞬間、後ろから高速で迫り来る"セカイ"を感じる。リーゼ化して防ぐ暇はなかった。
咄嗟の私の防衛本能で、岬から躊躇わずに飛び降りる。下は岩々が連なっている。普通の人間ならば、このまま落ちれば命はない。
だが生憎、私は普通の人間じゃあない。人間とは、違う存在だ……!

『現界せよ、我が身体。我は"罪深き始祖"シュタムファータァッ!』

白銀の光が私を包みこみ、瞬時に私自身の身体は、光と同じ白銀の装甲を纏った数メートルの巨人となる。手には固有兵装の刀、"白鳳"に"銀凰"。
刀身で岩を弾きそのまま落ちるのを避け、海の中に落ちていく。数メートルもあるこの身体だが、海の深さは10メートルくらいだ。そのまま全身が軽々と入ってしまう。
凄まじい水しぶきと音と共に白銀の装甲が海に沈む。今日まで生きてきて。リーゼンゲシュレヒトのまま海の中に入ったのは初めてだ。
どの道リーゼンゲシュレヒトに呼吸機能はないから空気は無くても活動可能だ。故に海の中だろうが宇宙空間だろうが何日でも平気である。

「っ、一体なんだって言うんですかっ!」

地面を蹴り、海面から勢い良く飛び出す。再び凄まじい水しぶきが散る。上を見上げると、私が先程までいた場所に佇む数メートルの巨人が一体。
全体は茶色の装甲で包まれ、特徴的な頭部に長い膝まで届く腰の装甲。手に握られるは、巨大な戦槌。そして、それが勢い良く岬の地面に振り下ろされた。
轟音と共に岬の先端が崩壊し、下にいる私に降り注ぐ砕けた岩の雨。空中にいるため回避することは不可能だった。

「そんな程度のものっ!」

背部に展開されているバインダーを、盾のように前方に展開する。簡易的な盾だが、"セカイ"を纏っていない岩程度では充分に弾くことが可能だ。
降り注ぐ岩の中を突っ込んでいく。こんな目眩まし程度で、私は止まることはない。そう、あくまで岩程度ならば。
岩とバインダーの僅かな隙間から一瞬見えた、こちらに落ちてくる戦槌を構えた数メートルの巨人。気付いたときには、既に戦槌は私に直撃していた。

「あああああああっ!」

落下の威力を込められた戦槌によって、まるでガラスが砕かれるような音と共に軽々とバインダーが砕かれ、戦槌が胸部に直撃する。
私に襲い来る鈍痛と共に再び海に勢い良く落下する。海の中で僅かに衝撃が緩和され、私は死に物狂いでその場から退避する。
地面を蹴り勢い良く飛び上がり続け、浅瀬目掛けて避難する。腰まで海上から出たところで、ようやく落ち着いて冷静さを取り戻す。

「あの、あのリーゼンゲシュレヒトはっ……!」

「この私相手に、よくボーっとしているなんて出来るわね」

すぐ背後から聞こえた声。その声と存在を私が認識したときには、背部から思い切り吹き飛ばされていた。
そのまま為す術も無く海面に叩きつけられる。そうだ、このリーゼンゲシュレヒト相手に何を私はしていたというのか。
あの特徴的な外見と茶色の装甲、そしてこの感じる凄まじい"セカイ"。これを知らないリーゼンゲシュレヒトはほとんどいない。
数多くのリーゼンゲシュレヒトから恐れられ、その活躍はセカイの意志を越えて、リーゼンゲシュレヒト全体の中でもトップクラスの知名度を誇るリーゼンゲシュレヒト。

「"空裂きの射手"、『ヴィオツィーレン』っ……!!」

「そう正解。私が襲う理由はわかるわよね? お仕事と、そして」

手に握られるのは先ほどの戦槌とは違う、両手で構えられた長い槍。先ほどはこれで薙ぎ払われたのか。
そして、その切っ先が、凄まじい殺気とセカイを込めて私の方を向く。

「あの子たちの苦痛を味わせるのと、仇と、私の憎しみだッ!!」

「っ、一体何を言ってるっていうんですかっ!」

槍が凄まじい速度で向かってくる。その速さはまさに銃から放たれる弾丸と同じ。回避することなど、出来るわけもなかった。
刀で弾くのもままならない。なんとか身体を捻って、急所を避けるのが精一杯だった。
容赦なく肩に突き刺さる槍の先端。肌が燃えるような激痛が肩に襲い掛かるが、今はそれどころではない。
槍を突き刺した硬直の隙を狙い、刺された肩とは逆の方の刀を振り下ろす。槍の間合いなら、私の刀の間合いでもあるのだから。
だが、その刃はヴィオツィーレンの装甲を切り裂くことはなかった。ヴィオツィーレンの左手に新たに握られた、短刀で防がれていた。

「っ、この力はっ……!」

「遅いッ!」

槍から手を放し身を屈ませ、こちらに突進してくる茶色の装甲。右手には、刺突用の西洋剣、俗にエストックと呼ばれる武器が新たに握られている。
瞬時に後方に下がろうとするが、刀を振り下ろした隙を即座にキャンセル出来る反応速度は私にはなかった。
白銀の装甲が鈍い音を立てて、腹部に刃が貫通する。肩に突き刺さっている槍は、いつの間にか消滅していた。
まだ地獄は終わらない。先ほど受け止めた左手の短刀が、胸部の、戦槌によって陥没した装甲を狙って突き刺さる。

「あああああああああああああっっ!!」

激痛が私を襲う。傷口に刃を突っ込まれたのだ。気絶しそうなほどの痛みが私の中を暴れ回る。
思わず悶絶して倒れそうになるが、ここで私が痛みに負け、倒れるわけにはいかないのだ。歯を食いしばり、懸命に意識を繋ぐ。
反撃しようと、刀を再び振りかぶるが、身体を捻ったヴィオツィーレンから放たれる蹴りが直撃し、吹き飛ばされ海面に直撃する。

「まだだ、シュタムファータァ。あの子たちが受けた痛みは、まだ終わらないんだ」

そう言ったヴィオツィーレンの両腕には日本刀が一本ずつ。私も即座に起き上がり、刀を構えて真っ正面から対峙する。

「聞いてくださいヴィオツィーレンっ!あの子たちってのはヴァイスとシュヴァルツのことですよね?あの二人なら、今」

「お前が、よりによってお前があの子たちの名前を口にするなッ!」

日本刀を構えこちらに突進してくるヴィオツィーレン。互いの日本刀が舞い、火花を散らす。
さすがに同種の武器同士なら私の方に分がある。先ほどのように見えない、ということはない。
自分が使っている武器なら、弱点も知っている。日本刀を使っている今の内に、勝負をつける―――!

「お前は、徹底的に殺す。身体だけじゃなく、心でさえも」

私がヴィオツィーレンを両断しようと刀を構えた、その瞬間、私の二本の刀は宙を舞っていた。
何が起こったのか、理解が出来なかった。一秒前までは、刀同士の斬り合いでは、私の方が優っていた。
それが何故、今こうして私の刀は宙を舞っているのか。

「同種の武器なら勝てるとでも、思ったの?」

迫り来るヴィオツィーレンの二本の刀が、私を切り裂いた。
刀を弾かれ、武器を持たなくなった無防備な私に、無慈悲にそれは襲いかかった。


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