創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

そんな夜 後編

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匿名ユーザー

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 殺風景な地下室にそびえ立つのは巨大ロボット。
 その名もNITEL GEAR。怒られないのか。
 二本足とはいえ人型と形容するには難があり、どちらかと言えば「装甲車」の説明通りに乗り物といったイメージではあるが。

「なんだこれ凄いな!?」
 地下であることも手伝ってキンキンに冷えた装甲を、触りながらの一言。
 天才となんとかは紙一重とは言うが、自宅の地下にスペース作って
 こんなものを置いているあたり、やはり後者としか。

「あ、そうだ折角なんだしこれの試運転やってもらったらどうです?」
「Do?」
「ああ、いいねそれ。というわけでよろしく」
「唐突すぎるわ! なんだよ試運転って!」
「文字通り街を練り歩くだけの簡単なお仕事です。そうだ、やってくれるなら日当出すよ」

「簡単なら自分達でやればいいだろ、ふざけんな! 俺は強盗なんだぞ!」
「しかし天才な私の三半規管はあまりにも繊細すぎた」
「乗り物酔いにプラスして閉所恐怖症ですからね、なんで作ったんだか」
「ロマン! 私はただ見たいだけだ! 現実の大地を踏みしめて歩く鋼の巨人を!!」

 実際に出来上がっているものを見ると、強盗の彼とて男、ドクターの気持ちもわからなくはないが。
 ただそれはそれ、他人の心配をしている余裕があれば今日の行為に及びはしない。

「じゃあこうしましょう。貴方がこれを運転して、銀行のATMを破壊して持っていく。
 これなら二人の利害は一致します」
「しねえよ、そういう事じゃねえだろ!」
「ええー、そっちは大金がっぽがっぽ、こっちは実働データと下りた保険で
 お互いウハウハじゃないですか」
「何恐ろしい事言ってるのこの人!」

「真弓君保険なんていつの間にかけたんだ……」
「ドクターのボーナス出た時ですけど」
「まさかあれを全部……」
「ええ。なんでむしろさっさとデータ取って壊しちゃったほうがいいんですよ。返って来るアテがありますから
 日当は結構奮発できると思いますけど、どうでしょう?」

「うーん……」


 並ぶメーター、速度にエンジン回転数、燃料・オイルに走行距離。
 入力デバイスはハンドル、レバー、ペダルにスイッチ。
 強盗の男、結局承諾しNITEL GEARの操縦席に乗り込む。
 ちなみに見た目はほとんど乗用車のもの、 無論流用しているからである。

 得体の知れない名を持つ動力炉が起動し、乗り込む人間ごと小刻みに揺らす。
 さて乗用車のそれであるからして、この一軒屋と地下の関係とは逆に、機械巨人の操縦席やたら狭い。
 そこに二人も入ればシートベルトすら必要ないほどの団子状態。

「あんたら乗らないんじゃないのか」
「労災下りないんで私は乗りませんよ。準備してるだけです」
 姿を見せないドクターは背中に引っ付いてモーターの調整。
 黙って作業している所を見るとやはりプロフェッショナルであると認識できる。

「おーい準備できたよー」
 カーステレオに当たる部位全てを覆うまでに拡張されたディスプレイ、
 そこに分割表示されるものの一つには顔に油くっつけたドクター目多桐の姿がある。

「えっと右からカタパルトの遠隔起動、接地電磁フィルムの起動、メーンエンジン起動とロック解除です、どうぞ」
「あれ、さっきと逆じゃないか?」
 もぞり天井から出ようとする真弓が残した言葉に疑問を覚えながらも、まあいいやと手順どおりの操作を行う。

 爆音。機体が揺れ、そして震源と逆方向へと。
「おや、ちょっと間違ったかな」
 移動の最中を襲った衝撃で苦しそうなところだが、真弓何のアピールか舌をちろと出し。
「うぎゃああああああ!!!!!!」
 マイクが拾うドクターの絶叫と共にNITEL GEAR発進。

 固定器具を引きちぎり、緊急用の大出力ロケットが景気よく火を噴く。
 そこに本来発進の最後に使う自走スキー板があわさり超加速。
 慌てる強盗男に対し、逆さ吊りの真弓冷静に操作をやり直す。しかし間に合うか。

「ぶつかる、ぶつかるー!!!」外で実際にそれを目視するドクター、分厚い装甲越しに訴える。
 まだ開かぬ地上へと通じる出口。
 あわててハンドルを切る操縦担当だが、この速度では働きも弱く。

「いやああああああああ!!!!!」
 丁度脇にあるゴミ集積所、つまりは彼らにとって入り口であったダストシュートを無理やりに突き破り、ボロ屋までを貫。
 男が見る娘の笑顔、走馬灯。流石簡単なお仕事。

 斜めに空を突っ走り、超重量級が浮かぶ。それも束の間、地上八メートルほどの所で重力が勝る。
 ロケットが切れた事で聞こえる、機械群が立てる喧しい音。中までもうやられたか?
 否、過負荷には違いないが機械は見事異常に対処している。音はフル稼働の証。

 見事姿勢を制御し――アスファルトの上に二本脚を突き立てる。
 大地をへこませての着陸、後ろでタイミング良く落下四散する屋根まで含め、NITEL GEAR見参の大見得きりである。

「……アロハオエー」
 奇跡的にしがみついていたドクターを背部ハッチから無理やり操縦席へ。
 一人、いいとこ二人乗りの操縦席に大の大人三人ですし詰め。
 派手に揺られたドクターの口からつんとした香りとみかんペーストが。
 計器やられてはたまらんと、真弓そこにこれまた戦闘機のものから流用したマスクを当てる。
「むごごコーシュコー……」

「……退路は立たれた、なれば進むしかありませんね」
「ええー!?」
 驚き見上げる人々を尻目に、電線イルミネーション引きちぎりNITEL GEAR今歩き出す。

「で、具体的にどう進めばいいんだ?」
 セミオートとは言え前代未聞の特殊車両を、ちゃっかり順応、早速操るとは天賦のものがあるのだろうか。
「普通にコース設定してるんで、その通り回ってくるだけですね。
 なんなら街中のアベックどもを恐怖のズンドコに叩き落としに行きますか、きよしこの夜」
「アベックてアンタ一体何歳だよ」
「それは乙女のひ・み・つ」
「だからその180度対極にあるいい声をやめろォ!」「ちなみに今のは江守徹です」
 近い所でのウィスパーは威力四割増しだとか(目多桐研究所比)。


 ガションガションとマーチ奏でる。恐るべき性能NITEL GEAR。
 クリスマスの渋滞などどこ吹く風よ、つま先立ちで車どもをまたぎ快速五十キロメートル毎時をマーク。
 道路から別の道路にショートカットジャンプというレースゲーム染みた業を披露し、繁華街から逆方面へ。

「すげえ! すげえ……揺れだ」
 外と独立したブロック型衝撃吸収システムとやらも、それだけ激しい運動をやれば快適さなど微塵もない。

「ハッここは……! 嫌だ……うっぷ……出してぇ! でないとなんか出る、ダシテ・デナイト・デル!
 らめえ出ちゃうのおおお!!!」
「uruseeeeeeー!!!!!!」
 ただでさえ狭く揺れる中で面倒な人物が意識を取り戻す。
 暴れて揺れて、さらにひどいことに。
「我慢してください、今高速機動中なんですから出たら出た先で内臓ぶちまけちゃいますよ」
「そりゃあわかるがぬぐウェップ。俺の名前はケンジ目多桐、通称KM。DVDレンタルのためなら子どもだった殴ってみせらあ。でも乗り物だけは簡便な」
「最低だ」
 ぶるぶると震える様はまるで某ビデオゲームにて召喚魔法発動中のコントローラーのようである。
 狭い中でそれをやれば、当然いたらぬ事故に繋がるわけで。

「ああっ」
 派手に転倒、道を通る車が減っていたもので大惨事にはいたらなったものの、道路に巨大なしりもちの跡が。
「ドクター9、あなた1ですね」
「元はといえばアンタの責任だろそこは分け合えよ!!」
 なんとか起き上がるNITEL GEAR、そこへ。

 ファンファンファン。
 耳によく届くよう作られた音とともに、外を移すパネルにはパトカーが。
「君たち、その車両を停止させて降りてきなさい」と拡声器からの警告。

「むしろ止めて、助けて、私を抱いてそしてキスしてアッーーーーー!!」
 喚くドクターの首筋にぷすり。
「ぐう……………」
「何をした?」「……」
「…………ナニモサレテナイゼ、カモンファッキンポリス、ヤハー!!」
「何をしたーーー!!?」
 暴れるのは治まったがテンションが悪化した。

「さて、こうなると逃げるほかありませんね」
「何故ダ、何故戦ワナイ!? コノマシンナラソレガ出来ル、キルゼムオール!」
「出来るわけないでしょただ歩くだけの機械が。当たり所の次第じゃピストル一丁一発でお陀仏ですよ」
 ダッシュボードに何故か入っていたスリッパで、狭い空間を器用に抜けパコン。
「という訳でお願いしますよ、捕まったらあなた強盗の罪にも問われますからね。私はそれに脅された事にしますけど」
 まさに外道。こうなっては選択肢はない。いや、はなからなかったのか、そうなるように誘導されていたのか。

「なんなんだよコノヤロー!!!」
 走るNITEL GEAR、追うパトカー。踏みしめる度にめくりあがるアスファルト、第三者の視点にたてば迫力満点の
 ムービーだが普通は立場が逆だろうに。
 狭い場所や悪路ならば敵う者なしの二足歩行だが、平地ではそうもいかない。
 何の負荷も計算もなしに、平然とパトカーは距離を縮めてくる。

「むう、これなら行き掛けにドンキに寄るべきでしたね」
「意味が解らん!」
 必死の形相でハンドルを握る一人と、その横で接続した端末を操作し、サポートする一人。
「アハハ、オ花畑ガ見エル。ウフフ、ラフレシアノオ花畑ー」
 あと一人は、ご覧の有様。
「いや、衣装でも着てればサンタクロースとして切り抜けられる可能性も……」
「無理があるよ! だいたい外から見えねえから!」
「ならばペンキで機体を赤く」
「尚の事無理があるよ!! 嫌過ぎるだろ、こんな巨大でファンシーさの欠片もないサンタ!
 子どもの夢ぶち壊しか!」
「デモロボハ男ノ子ノ浪漫!」
「だからって一緒くたにされてたまるか、ぬおおお!」
「私はトンカツもカレーもカツカレーも好きですけどね」

 衝撃緩衝材を撒き散らしながらの急ブレーキ、反動に揺れる。
 進む先の方向から現れたのは追跡者の生き写し、応援に駆けつけたパトカー達。
 こうなれば道を大きく使った複雑怪奇な動きによって、相手を惑わすこともできない。
 サイレンが和音を作り迫り、そしてNITEL GEARを射程圏内に。

「ホーリィィ! コレダカラクリスマス休暇ッテ奴ハァ!!」
「むしろそう思ってるのはあちらさんですよね、年末もご苦労さまですよ」
「くそ、こうなったらぁ!!」

 表示される数値に目も触れず、決死の大ジャンプ。先には橋。届け、届け――

 耳をつんざくような激しい音が立つ。画面越しでも直視できないような、強い火花があがる。
 それから一番身近なドップラー効果。聞こえるのはサイレンが遠のいた証。
 つまり。

「っしゃあどうだ! ザマぁ見やがれ!!」
 警告表示を大量に吐きながらも、NITEL GEARウィニングランとして走行を続行。
 パトカーは追って来ない、来られない。

……まあそれもそのはず。
「あ、前」
「前?」

「また落ちるかあああ!!!!」

 橋は施工中、骨組みまでよ。
「だが!」

「こんな事もあろうかと、ポチっとなあ!!」
 ぐきと嫌な音を立てながらも、プラスチックを突き破りのドクター。

 とっておきのハイパワーロケットエンジンが火を噴き、地なき橋、海の上を走らせる。
 ここ一番の働きに思わず二人して「おお」と声を揃えるが。

 ぷすん。どうにかと海を渡り終えそうな所で、音が途切れる。

 お気づきだろうか、その「とっておき」が「とっておけていない」事を。
 既に発進の際、派手にぶっ放しておりますからに。

"ロケット用燃料、残量0パーセント"

「どーする、どーすりゃ、どーすればっ!!」
「とりあえず補助制御装置と予備燃料変換! 全部フルで回す!」
「リミッターカットもですね。それで瞬間的な推力を確保するんで、どうにか上手いこと着地させてください」
「ずぶの素人捕まえといて上手くも糞もあるか!」
 とは愚痴るものの、再三申す通り他に選択肢はない。
 ましてや命まで懸かった状況だ。すでに男血眼で画面見据えペダルを全力で踏み込んでいる。

「せめてなんか、海以外であまり硬くない所に落ちられれれれば……」
「んな都合の良い場所があるかっ!」
 などとやりとりしている内にも高度はみるみる下がっていく。
 これが犯罪に手を染めた報いなのか。再び男の頭に過る、娘の顔。

「いや、待て――」
 待つ時間はない。ディスプレイに映る景色の一点。
 この暗闇で完全に視認できるわけではない、だがこの先には確かにある。

 奇しくもこの場所は男の知ったる所であった。
 それは、彼の娘が入院している病院の周辺。
 娘が窓の外から眺め、思い浮かべていたクリスマス。

「曲がれええ!!!」
 機体の全てが解放され、男の意志に力を貸す。大旋回、その先にあるのは、巨大な一本杉。
 激突。
「ぬおお!?」「むう!」「いやんばかん」
 今日一番の衝撃が前方から押し寄せる。
 コックピットでエアバッグが展開、狭苦しさも絶頂に。
 巨木ぼっきりへし折ってなおNITEL GEAR突き進もうという力が残っていたが、それも長くは続かない。
 どんがらがっしゃん。

 もう1クッション、今度は廃材置き場を派手に散らし接地。
 機械が悲鳴を上げながらそのまま大地を滑走し、最後――


「なんだろう、凄く騒がしいな」
 とある病院の一室、そこで目を覚ましたのは一人の少女。
 遠くで聞こえるサイレン、それからなんだかよく分からない、ただただ激しい音。
「え?」
 窓が震えた。なんとその激しい音、近づいてきているではないか。
 そして。
 突如として炸裂する音に舞う砂埃。
 壁を突き破り、眼前に現れたのは巨大な鉄塊。
 煙上げながら開くハッチから這い出る、というより押し出される人物……と目が合う。

「……」
「……」

……なんとも形容しがたい間。
「ん……ここはまさか!?」
 強盗の男、先を塞ぐドクターの脇から、覗ける場所には既視感があるが。

「……」
「……」
「……」
「メ……メリー、クリスマス」
「なんでだよ!」「え、お父さん!?」

 十二月二十六日午前一時三十三分、NITEL GEAR停止。


 後日その父親はというと、約束どおりの報酬を受け取り、それを元になんとか娘の手術をやってもらう事になったと。
 本当に結構な額だがどこから出てきたのだろう。
 「保険」とは言っていたが半意図的な破壊によって下りる保険というのも可笑しな話である。一体どのような錬金術を行ったというのだ。
 あれだ壊して回ったというのに、周囲はまるで何事もなかったかのよう、夢のようにすら思えてくる。
 もちろん修繕作業は行われているからして、そんな事はないのだが、男の体験はそれだけ現実離れしたもので――

「初めまして、このたび娘さんの手じゅち……手術を執り行う事になりました心臓外科医の目多桐です」
「ええはじめま……ってぇ!! 何であんたがここに居るんだ!!」

――目の前に立つのは、その離れた世界の人物。
「何でって、だから執刀医」
「あんた科学者じゃなかったのか!?」
「科学者ですけど、生業はご覧の通りですよ」

 壁にもたれているのはいつの間にか部屋に居たその助手。
 因みに彼は冷やかしに来ただけとの事。
「どういうことなの……」
「ドクターはそれで食っていけるような技術も人脈もないですからね」
「しどい!」

「それでも諦めないもんだから、稼ぎが良い医師免取ったんですよ」
「違うよ、ドクターとか先生って呼んでもらえるからだよ」
「ああ、博士も教授も無理ですからねえ」
「やっぱしどい」

 アホだ。凄いけどアホだ。いや、むしろ凄いアホだ。

「なんかすっごい不安になってきた……」
「安心しろ、私は医大にて『キング・オブ・ブラック・ジャック』と呼ばれていた男だ」
「ポーカーは激弱ですけどね」
「なんか変な言い回しだと思ったらそっちかよ!」

「それにしても君後藤って……プププ、後藤だけに強盗か……プププ」
「くそう……どういう因果だまったく」
 あまり強く返せないのは結果的に罪を見逃してもらった事によるもの。

「ドクターも大概酷い苗字ですけどね」
「ハチノスとかよりマシだい!」
「……とことん目の仇にしてますね」
「奴め今度のNITEL GEAR 鱏(エイ)で一泡吹かせてくれる」

「……やっぱ凄い不安」

 でもと言うか、その後手術はちゃんと成功し、娘さんも元気になったそうな。
 めでたしめでたし。





「ふう疲れた。あれ、先に帰ってるかと思ったけど真弓くんがいない」
「目多桐ケンジさんですね? あなたに器物損壊その他の罪で逮捕状が出ています」
「へ?」

 めでたしめでたし。





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