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スーパーロボスレ大戦SS 第15話~開始時インターミッション~

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 スーパーロボスレ大戦SS  第15話~開始時インターミッション~

 場面
 ・敵性異界存在(The hostile another being)対策機関『イージス』を構成する組織の一つ、日本国守護機関『御劔』関東支部・横須賀基地。

 つるぎ級航空戦闘母艦参番艦『とつか』が納められたドックに隣接する巨大格納庫。
 その中には、小は人間サイズから大は50メートル級まで、様々な形式のロボットが格納され、作業服や白衣、あるいは黒ローブや狩衣姿の作業員達がメンテナンスやオーバーホールを行っている。
 そんな光景の中、二本の角を持つ白い機体を整備する、作業服姿の女性が二人。
 波打つ青黒い長髪をアップに纏めた女性が、肩部分の解放された装甲板の隙間に突っ込んでいた顔を上げ、分解され、台座に固定された機体の前腕部を弄っている女性に声をかける。

 「肩の方はこれで終わり~。……ねぇ、ジュリちゃん、アイリスってこの前修理したばかりだったと思うんだけど、気のせいかしら?」

 声をかけられた方―短く切りそろえられた黒髪に赤い瞳の女性は、作業が難航しているのか、顔をしかめてボルトと格闘しながら気のない返事を返す。

 「ジュリ言うな。気のせいだろ、きっと。毎回パイロットがアクション映画のラスト並に熱い戦いを繰り広げているのも気のせいだ。……手首のサーボモーター、交換終わったよ」

 先に声をかけた、髪にアホ毛を装備している女性はクラウディア=リィナ=イレールア。
 返事をした、作業が終わるなり、ポケットから出した煙草を銜えようとしている女性がジュリア=ブルーストリート。

 「ジュリちゃん、ここ禁煙だってば。またおやっさんに叱られるわよ~?」
 「ぐっ……! あぁもう早く終わらせるぞ!」

 どちらも現在『イージス』の協力者という扱いになっている、『ネオ・アース』という異世界からの『転移者』だ。
 ジュリアの返事を聞いたクラウディアは、手元の情報端末を操作し、作業内容をチェックする。

 「手首もおっけー、と。これで終わりね。次はどの機体だっけ~?」

 自分で調べろよな、と呟きながら、ジュリアは律儀に情報端末を起動し、リアルタイムの情報を反映する機能を持った整備予定表を呼び出す。

 「えーと……、まだ終わってないのは、スラッシュゲイルだな。チェックだけで良さそう」

 さすがに整備の専門家が揃っているだけあって、各作業の進行速度が恐ろしく速い。10以上あった要整備の機体の大半が整備完了後のチェックまで終わっていた。
 クラウディアは端末をいじりながら、ふと真面目な表情でジュリアに声をかける。

 「りょうかーい。……ねぇ、ジュリちゃん」
 「だからジュリ言うなと―……なんだよ?」

 いつも通りのツッコミをしようとしたジュリアだったが、真面目な表情のクラウディアという滅多に見られないレアな状況に、不審の表情を浮かべる。

 「何かすっかりこの状況に馴染んじゃってるわね、私達。『こっち』に飛ばされてから……2ヶ月半くらいだっけ?」
 「……そうだな。もうそれくらいになるか」

 警戒しつつも、『あの現象』が起きてから現在までのドタバタに思いを馳せるジュリア。
 僅かに警戒の気配が薄れたのを察したのか、クラウディアは、

 「こんなに長い間、『彼』に会えなくてジュリちゃんかわいそう……」

 ニヤニヤと笑いながら、からかいのネタを叩き付ける。
 それに対しジュリアは、必死で自分の表情筋と声帯の動きを押さえ、

 「………………」
 (ツッコまない! ツッコまないぞ!!)

 クラウディアが望んでいるであろう反応をしないよう、必死で抵抗を試みる。
 ちなみに『彼』とは、ジュリアの幼馴染みであり、現在恋人関係にある青年オルカ=マクダウェルの事である。
 少しして、

 「それにしても……もう随分“潜って”ないのよね。クラドセラケ作ってる時以来じゃないかしら?」

 ジュリアの無反応に飽きたのか、クラウディアは再び話題を変えた。
 まだ警戒の残った表情をしていたジュリアだったが、これ以上先程の話題を続けられても困るので、こちらも話に乗ることにした。

 「そうだな……。海じゃないと私等、戦力にならないから出る意味が無いし」

 このところの敵性異界存在との戦闘は、殆どが内陸部で行われていた為、クラドセラケはずっと母艦の格納庫で待機状態だったのだ。

 「戦場に出たい訳じゃないけど、知り合いが戦ってるのになんにも出来ないって落ち着かないわよねぇ?」

 いつもの緩い笑みにやや憂いを混ぜた表情で、クラウディアは言葉を続ける。

 「だから整備手伝ってんだろ? ……落ち着かないのは同意するけど」

 ジュリアも頷き、言葉の後半部分は溜め息と共に吐き出された。

 ――――――――――――――――――――

 二人の間の空気が少々重くなりかけたその時、

 「おーい、嬢ちゃん達。そろそろ休憩しろよー」

 下方の通路側から、暖かみのある、錆を含んだ低い声がかけられた。
 二人が通路に視線を向けると、そこにいたのは短身で厚みのある体躯を作業着に押し込み、頭に原色のバンダナを巻いた髭面の老人だった。

 「あ、おやっさん」「おやっさ~ん、お疲れさま~」

 二人が返事を返した老人は、ディルク・ズィルバー・丹羽。
 『御劔』の技術部長であり、『とつか』の機関士と整備士を束ねる存在でもある。

 「おやっさんじゃなくて、部長と呼べ。ほれ、コーヒーだ。こっち来て休みな」

 丹羽は苦笑しながら、後ろに従えていたコーヒー用給仕ロボ(外見は一言で言うと高さ1m程の白いドラム缶)が、丹羽の操作によって内部で豆を挽き、ドリップする。
 二人から、ミルクと砂糖の量を聞いた丹羽がそれぞれの分量をいれ、通路に下りてきた二人にコーヒーを手渡す。

 「ありがと、おやっさん」「相変わらずいい豆使ってるのね~」
 「だから部長だと……、まぁいいや。実際、不味いのよりゃ美味いモン飲んだ方が作業効率がいいのよ。んで、作業はどの辺りまで進んだ? ……おー、いいペースじゃねぇの。さすが自分達で機体いじってただけはある」

 携帯端末で作業の進行状況を確認しながら、二人作業を評価する丹羽。

 「他の人達に比べたら」

 と、別な場所で手際よく作業を行っている『御劔』や『イージス』所属の整備士達を親指で指し示すジュリア。

 「全然でしょ。それより、おやっさんの方はどうだったの? あの冗談みたいなロボット見に行ってたんでしょ?」

 そりゃ、こっちは専門家だかんな。嬢ちゃん達に負けたら懲罰モンだわ。と笑った丹羽は、そのまま続けて嬉しそうに、先程見てきたモノの事を口にする。

 「あー、『機械人形』な。『機械で構成された、自意識を持って自律稼働する存在』ってヤツは、俺の世界にも異種族としての『オートマータ』ってのがいるんだがなぁ。あんなのは流石に初見だわ。ちっちぇえ整備士の嬢ちゃんに作業を見せてもらったが、なかなか面白かった」

 つい最近『イージス』に合流した、『機械人形』が野生生物のように存在する世界から来た、『やおよろず』という集団。
 その中の、実年齢よりかなり若い見た目をもつ、金髪の整備士の作業風景を思い出しながら、丹羽は二人の元に来た本来の目的を切り出すことにした。

 「んで、だ。休憩終わってからでいいから、ちっとばかし相談があるんだわ。嬢ちゃん達の“鮫”の件で」

 丹羽の言葉にそろって首を傾げる二人。

 「鮫って……クラドセラケ?」「改めて話しって?」
 「あぁ、休憩終わったら設計室に……」

 「………………!」「…………!」「……!」

 「……ん? 何だぁ?」「……なんか騒がしいな」「なにかしら~?」

 話の途中で、やけに騒がしくなった格納庫の一角に三人が視線を向けると、そこでは数人の整備士達が、なにやら激しく言い争っている。
 何事かと三人が耳を澄ますと、言い争いの内容がこちらまで聞こえてきた。

 「だからカルマたんのチェックは俺がやるっつってんだろ!?」「俺がやるって」「いやいや俺が」「いい加減にしろよ! カルマたんがお前等みたいな変態を寄せ付けるわけねーだろ!」「たんとか言ってる時点でお前も同類だろ。常識的に考えて」
 「チェックという名目で、恥じらいを含んだ表情で服をはだけてもらえる絶好のチャンスだぞ!? 譲れるかよ!」「所詮我々は、相容れぬ宿命(さだめ)か……」「ならば……是非も無し!」「問答無用!」

 まるで愛と悲しみの果てに拳を交えるかのように、互いに距離を取り、身構える整備士達。

 「………………」
 「………………」
 「……最近別の所の奴らが入ってきたせいか、妙な影響受けてやがんな、ガキ共。……あー、嬢ちゃん達。悪ぃけど、ちっとガキ共黙らせて来るわ。そんじゃあまた後でな」

 やれやれ、と息を吐き出した丹羽は穏やかな声でそう告げると、両袖をまくり、脂肪の上からでも筋肉の盛り上がりが分かる丸太のような腕をむき出しにして、騒ぎの元へ歩き出した。

 ――――――――――――――――――――

 具体的に描写は出来ないが、物騒な生々しい音が格納庫内に響く中、それらの音を極力無視して作業を終えた二人が、格納庫と同じ建物内にある設計室を訪ねると、既に中にいた丹羽がドアを開け、二人を招き入れた。

 「お、悪ぃな嬢ちゃん達。まぁ座ってくれや」

 にこやかな丹羽の表情や声からは、先程までのバイオレンスの嵐の余韻は感じ取れない。

 (……でもなぁ)
 (……あれって多分、ヘモグロビン的な何かよね?)

 作業服に点々と付いた、赤茶色のシミが気になるが、詳しく聞くと犯罪に巻き込まれそうなので流しておく。

 「それでおやっさん、相談って?」
 「クラドセラケについて、だったわよね?」

 丹羽も二人が一瞬固まったことには触れずに、いつも通りの受け答えをしていく。

 「だからおやっさんじゃなくて部長と……まぁいいや、話戻すぞ? 相談てーのは、あの“鮫”にちっと手を入れさせて貰いてぇんだわ」
 「手をいれる? ……改造でもするの?」

 聞き返したジュリアに丹羽は頷き、表情を改める。
 真面目な話だと理解した二人も、同様に姿勢を正した。

 「あぁ。今現在、俺達は少しでも戦力が欲しい状況ってぇのは分かるよな?」
 「勿論。戦闘が終わって消耗して帰ってくる連中見てればね」
 「嬢ちゃん達の“鮫”も、遊ばせとくには勿体ないって話になってな?
 色々分析させて貰って充分前に出せるって判断させてもらったんだが、戦闘力は申し分無ぇけど、行動出来る範囲が水中だけで、ちっと狭いわな?
 それを解消するためのプランを立てさせてもらったんだわ」
 「ん~、どうする? ジュリちゃん」
 「ジュリ言うな。……まずはどういう改造をするのか、全部説明してもらってからだな。その上で考える……これでいい? おやっさん」
 「おう。それじゃあ、でっけぇスクリーン出してくっから、待っててくれや」

 仮の了承が取れたことに機嫌を良くした丹羽は、いそいそと説明の準備を始めたのだった。

 ――――――――――――――――――――

 「技術者連中で色々意見出し合った結果、これが良いんじゃねぇかって話になってな。……まぁ、見てくれ」

 そう告げた丹羽がプロジェクターのスイッチを入れると、そこに表示されたのは、
 クラドセラケの透過図に手を入れる部分が記入された図と、
 組み込まれる装置の種類と、それによって発生する効果が記された計算式混じりの説明文だった。

 「えーと……なにこの論文みたいなヤツ……全然分からない」
 「……結構、手をいれるのね? 電池と、装甲板と、ソナーと……あら? 収納スペースにも何か入れる予定になってるけど、これ何なの? おやっさん」
 「それについては後で説明すっけど、簡単に元に戻せる事を前提に、出来るだけ原型を留めた状態で行動範囲を広げるって条件だと、『御劔』中心の技術ではこれだけ手を入れる必要があるんだわ」
 「元に戻すって……何で?」
 「この騒動が終わって、嬢ちゃん達が帰るときに、俺たちが悠長に直していられる暇があるか分かんねぇだろ? だから誰でも戻せるようにしとくのさ」
 「おやっさんて気配りの人なのネ♪」
 「……そんな大層なもんじゃねぇよ。自分が手ぇ入れたもんに責任持つのは当たり前ぇだろうに」

 クラウディアの発言に、僅かに照れながら、返事を返す丹羽。
 二人が会話をしている間にも、難しい表情で画面を凝視していたジュリアだったが、
 降参。と呟き、丹羽に内容の説明を促した。

 「おやっさん、……正直、あの図だけだと良く分からないんだけど。改造するとどんな風に変わるの?」
 「おぅ、それじゃまず電池だが」

 そう言って丹羽は透過図の一部分を別ウィンドウでズームアップし、レーザーポインタでぐるぐると円を描いて動力部分を示す。
 図に示された、動力部分のスペースに納められているのは、半分程の大きさにサイズダウンした電池。

 「小型化が上手くいったんで、新しく魔力炉も組み付けて電池と併用する」

 そう言って別のウィンドウで示された、収納スペースだった場所に組み込まれた、軽甲冑-小型の魔導甲冑-用の魔力炉を示す。

 「所謂ハイブリッドってぇヤツだな。こっちが……出力やらの試算になるが、電池だけの時よりゃあ、多少効率が良くなる予定だ」

 円グラフや数値で、出力や稼働時間などの詳しいデータを示す丹羽。
 動力部のウィンドウが消えると、新たに二つのウィンドウが開き、一つは展開された装甲板が裏返され、その裏側が拡大されて暗赤色の金属光沢を見せており、
 もう一方では、メインフレームの一部が拡大され、その表面に刻印された微細な紋様を映し出す。

「装甲板は『魔術側』の法則に馴染みやすい様に、裏側に人造ヒヒイロカネで皮膜処理を行い、メインフレームの表層には魔術紋様を刻印」

 また新たにウィンドウが開き、発動機と基盤を混ぜ合わせた様な本体の一面に、金属製の円盤状の部品を三つ連続して並べて接続したような奇妙な装置が示される。

 「電池の小型化で半分空いたスペースに入れる魔術機構と合わせて、“鮫”の機体を中心に、直径30メートルの『海』を発生させるシステムになる」

 ――――――――――――――――――――

 『海』を発生させる、そう発言した丹羽を呆気にとられた表情で見つめる二人。

 「「………………え?」」

 その反応を予期していたように、小さく苦笑した丹羽は、スクリーンに恐ろしく簡単な図を出し、レーザーポインタで示す。

 「あー、つまりこういう感じだ」

 その図は、一筆書きのような単純な魚の絵を、水色の円で囲んだだけの物だった。

 「この魚が嬢ちゃん達の“鮫”で、それを囲んでいる円が発生させた魔術的な領域だ。まぁ大雑把に言うと、“鮫”の周囲の空間、それ自体を『海』にするのよ。
 “鮫”は海の中だったら自在に動き回れるよな? つまり、これでどんな場所でも“鮫”は自由に泳ぎ回れるって寸法よ」

 丹羽は分かり易く説明している積もりだが、

 「……え? 『海』? 泳ぐ?」
 「つまり、だ。『潜水機は海の中にいる』モンだよな? 逆に言えば、『潜水機がいる場所は海の中である』訳だ。
 この理屈を使った魔術で擬似的に鮫の周囲を『海』だと定義するのよ」
 「ん~? 直径30メートル? そんな狭い範囲じゃすぐに『海』を飛び出しちゃわない?」
 「いんや、『海』の基点はあくまでも鮫だからよ? 鮫が移動すれば『海』の範囲も一緒に移動するぞ?」

 物理的な物以外の『世界を形作る法則』とは全く無縁だった二人からしてみれば、

 「「………………ぅ~ん?」」

 揃って首を傾げてしまう様な、『言っていることは分かるが、理解出来ない』という状態である。
 腕を組み、同じような角度で傾いている二人に苦笑した丹羽は、手にしているパイプを玩びながら、

 「……まぁ、とりあえず。この改造案だと餓鬼共を他の業務に支障が出ない程度に酷使して、フルスピードで大体1週間くれぇだと見積もってる。
 その後は嬢ちゃん達にも手伝ってもらって、試運転しながら問題が出ないかチェックする形になるな。
 ―説明は大体こんな所だ。質問はあるかい?」

 実務的な話だけを告げて、二人からの反応を待つ。

 しかし二人は、

 「……ん~、“作業に関しては”特に無いかな~。……ジュリちゃんは?」
 「あたしも“作業に関しては”特にない……」

 頭上に疑問符を浮かべたような表情で、先程とは逆に傾いている。
 そんな二人に丹羽の苦笑が大きくなる。

 「あー、いきなり言われてもピンと来ねぇわなぁ……」

 まるで、難しい宿題に直面した孫を見るような目で自分達を見ている丹羽の表情に気付かずに、画面を凝視していたジュリアがあることに気付いた。

 「あ、ちょっと待って」
 「ん? どうした?」
 「武器には手を入れないみたいだけど、このままでいいの? 水中以外で使うなら魚雷をミサイルに変えたりとかは……」
 「あぁ、それなら必要無ぇよ。……ここに書いてあるが、まず……」

 丹羽の操作で、画面内の魚と円の近くに、白い丸が表示される。

 「攻撃対象が近くにいれば、『海』を伸ばして……こんな感じに相手を取り込む」

 さらに丹羽がキーを叩くと、魚の周囲の円がその形を楕円状に変え、白丸をその内部に納める。

 「……伸ばす」
 画像の動きを目で追いながら、呟くジュリア。

 「これで魚雷を撃てば、魚雷は『海』を通って相手に命中する。
 んで、遠距離の場合はまた違う。『海』を伸ばすにも限界があるからな」

 『海』の領域が変形していた画像が変わり、魚と円と白丸という先程の画像に戻る。
 そしてまた別ウィンドウが表示され、そこにはクラドセラケに装備されていたソナーが、いや

 「んん? なにこの変なガラスみたいなの。これって改造した後の完成図?」

 よく似てはいるが、水に青インクを一滴垂らしたような色合いの透明な結晶体が組み込まれた、別な機械が映っている。

 「これは嬢ちゃん達の“鮫”に元々乗っかってたヤツじゃなくて、組み替える予定のエーテル式ソナーだ」

 まぁ、これが原理なんだが。と再度論文のような数式混じりの説明が画面の大半を満たす。
 げんなりとした表情を見せる二人に苦笑しながら、

 「簡単に言うと、だ。
 空間に偏在する魔力の波形を拾って感知するのがエーテル式ソナーなんだが、これで相手を補足したら、相手の周囲の空間を『海』として定義する」

 画面を操作し、白丸が魚と同じ様な円に囲まれた図を出し、

 「そんで鮫の周囲の『海』と敵の周囲の『海』は概念的に『同じ』だから、これで発射した魚雷は相手の所に飛んでくってぇ訳だ」

 レーザーポインタで二つの『海』を交互に示しながら、かいつまんだ説明を続ける丹羽と、

 「「………………」」

 再び斜めになりながら大人しくそれを聞く二人。

 「敵を『海』で捕まえるのも、“鮫”の周りに『海』を作る時と似たような条件付けだ。『潜水機の獲物は海中にいる』。
 つまり『潜水機が獲物として補足すれば、その相手がいるのは海中』だってーことだ」

 説明が終わると、画面を眺めていたクラウディアが首を捻りながら丹羽に質問を投げかけるが、

 「……えーっと? この図だと『海』同士って離れてるんでしょ? だったらどんな理屈で届くの? おやっさん」

 それに対して、そりゃ簡単だ。と返した丹羽が、事も無げに一言で説明する

 「人工物なんかで完全に隔てられてなきゃ、海ってーのは繋がってるモンだろ?」
 「「………………」」

 ――――――――――――――――――――

 沈黙したまま斜めになっている二人に苦笑した丹羽は、姿勢と表情を改める。そして

 「無理も無ぇよ。魔術の理屈は慣れてないと全く分からねぇからなぁ。
 言葉遊びの延長みたいな話に乗っかるのは不安だろうが、出来る範囲で最大限、安全には注意を払う」

 だから頼むわ、と頭を下げた。
 それを見た二人は、顔を見合わせ、

 「……私はおっけー、かな。ジュリちゃんはどう?」
 「あー、『魔術』ってヤツの理屈が理解できた訳じゃないけど、技術者としてのおやっさんを信じて任せることにする」

 承諾の返事をする。二人の言葉を聞いた丹羽は、

 「……そっか、ありがとな」

 表情を緩め、手の中で玩んでいた火の点いていないパイプを銜え直した。

 「でも良いの、おやっさん? クラドセラケにばっかりこんなに手間をかけて……」

 申し訳なさそうなジュリアからの問いかけに、

 「まぁ、その分は後でしっかり働いて貰うさ。他の機体は得手不得手はあっても複数の地形に対応できる訳だし、……それに俺たちの手が一番必要な機体は、今は別の場所だろうしなぁ」

 返答の途中で、丹羽の表情が眉をひそめた物に変わる。
 それを聞いたクラウディアは、赤黒い装甲を持つ巨人の姿を思い出す。

 「あーあー、フツヌシね。分断された時、ヨーツンヘイム側にいたんだっけ?」
 「あの時出てた連中が言うには、黒い羽根持ちを長距離砲撃から庇って、そっち側に吹き飛ばされた時に転移現象が起きた、ってぇ話だ。
 ……ぼーずが手ぇ出さなくても、羽根持ちだったら余裕で回避出来ただろうに……全く。
 アイツは手前ぇを平気で危険に晒すから……ん、あー、まぁ、それはともかく。
 色々確認もあるから、明日からの改造作業には参加して貰いてぇんだわ」

 途中からフツヌシの搭乗者に対しての愚痴になりかけたのを誤魔化すように、強引に話を纏める丹羽に対し、二人はニヤニヤと意地の悪い笑顔を向ける。

 「了解。まぁ、元からその積もりだったしな」
 「完全に人任せっていうのは落ち着かないもんね♪」

 二人の表情を見た丹羽はばつが悪そうに、

 「……おぅ、それじゃあ明日からよろしく頼むわ」

 と再び頭を下げた。




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