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【a kind of Santa Claus】

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 電話が鳴った。今日は全ての仕事をキャンセルして、一切の連絡は断ったはずだった。つまり、よほどの緊急事態か、何も知らない者が電話してきたかの二つに一つ。
 彼は電話を取り、何者だと尋ねた。受話器越しの声は、後者の物。

『元気~?』
「電話を取る前まではな」
『うわ。相変わらず可愛くない奴』
「ご挨拶だな。一体何の用だアリサ?」
『いや、どうせヘンヨ暇だろうなと思って』

 ヘンヨはなぜアリサが自分の電話番号を知っているのかと思い、考えられる可能性を整理したが、前に自分で教えていた事を思い出す。
 緊急連絡用としての番号なので、まさか暇潰しの電話をかけて来るなどとは予想してはいなかった。以前にアリサが関連する一連の事件に関わった時に、万が一の為にとの配慮だったがもう一つ足りなかった。

「もっとキツく言っておけばよかったな。生きるか死ぬかくらいの問題以外じゃ電話するなって」
『なにそれ。せっかくクリスマスに暇してそうだなと心遣いで電話してやったのにさ』
「生憎だが多忙でな。今も懸案一つ抱えてどうしようかと思っていた所だ」
『なんだ仕事かよ。クリスマスくらい休んだらどうなの?』
「大人なんでな。事情があるんだよ」
『どんな仕事なのさ?』
「言えるかバカ。……あ、いや待てよ?」
『うん?』
「よし、ちょっと暇潰しに付き合ってくれ。一般人の参考意見が聞きたかった所なんでな」
『参考意見? どんな?』
「まぁたいした事じゃないんだが、どうにもいつもと勝手が違ってな。どうしようか迷っている。参考までにどうすべきか、ちょっと意見を集めたいだけだ」
『まぁいいけど、どんな仕事なの?』
「簡単だ。人捜しだよ。もっともそいつ自体は捜すまでも無いんだが……その……依頼人に会わせていい物かどうか」
『なんか事情があって会いたくないって言ってるとか?』
「まあな」
『う~ん……。その事情を知らないんじゃなんとも言えないなぁ……』
「そうか。まぁ隠すような事でもない有りがちな事だ。説明しようか?」
『うん』
「よし。依頼が来たのは一週間くらい前の事だった――」





 ―――【a kind of Santa Claus】―――





 夜景が綺麗だった。きらきら光る人工的な明かりは夜空の星など取るに足らない程に輝く。高速道路の車は規則的に移動し、影に隠れたビルにポツポツ輝く窓の光は立体的に、三次元のプラネタリウムのように。
 窓際に肘を付き、その夜景とは裏腹に不満そうな表情を浮かべたその男は、珍しくかっちりとした服装でそこに居た。
 普段着ているようなジャケットではそこには入れない。事前に知らされていなかったら、来た途端に門前払いを食らっただろう。



「聞いてる?」
「……ああ」

 向かい側の席に座る女性がぼやくように言う。彼女もきっちりドレスを着こなしていた。パーティーに出るような派手な物では無いが、シンプルで、かつ上品なドレス。
 その男には苛立だしい店だった。ドレスコードがあるようなレストランなど全く興味が無く、そこに呼び出すような人物は無駄に気取ったいけ好かない奴に決まっていると偏見があった。
 実際に行ってみて、ボーイの決まり切った態度に違和感を覚える。

「機械みたいだな」

 そう言ってボーイを苦笑いをさせた。
 そして男を呼び出した人物を見て、苛立ちは最高潮に達する。

「何年ぶりだったかな……」
「六年ね。あなた目つき悪くなったわね」
「元からだよ」
「初めて見た時は違ったじゃない」
「イカれてたんだ。戦場から帰ったばっかりだったんだからテンション上がってたんだよ」

 その女性とは数年ぶりに会った知り合いだったが、その男は出来る限り会いたくない人物でもある。
 かつての恋人――。

「どうしても会ってくれない?」
「わからん。どうしていい物か」
「そう」
「どこで連絡先を知った?」
「探偵を雇ったの。すぐ見つけてくれたわ。一部じゃ有名人じゃない」
「意外か?」
「ええ。年金でも貰って大人しくしてるんじゃないかなって」
「そうか」

 会話は途切れた。出された温かいオードブルはすっかり冷めた。ウエイターはそれを見越してそれを下げ、続いてスープを持ってくる。だが、それも手を付けられる事は無く置かれたまま。そもそも食事をする気分でも無かったし、その料理も気に入らなかった。

「いい暮らしじゃないか」
「ええ。不自由はしてない」
「ならなぜ今更?」
「話しちゃったのよ。本当は黙ってようかとも思ったけど……。やっぱり隠せない」
「今は俺の代わりも居るんだろう? ならいいじゃ無いか」
「そうだけど。でもそうじゃない」
「なんだ?」
「単純に会いたくないの? あの子は会いたいはずよ。本当の父親に」
「……。俺はその子を見た事も無い。それに今は『真っ当な』親父が居るんだろう? ならそいつが父親でいいだろう」
「あなたはね。でもあの子は別よ?」
「旦那には懐いてるのか?」
「ええ……」



「なら尚更だ。俺の事は忘れたほうがいいさ」
「あなたにはそう。でもあの子がそう思ってるとは限らない」
「かもな。だが俺には関係ない」
「なんで?」
「俺は……。その子に会った事も無い。見た事も無いし名前も知らない。男か女かもさっき知った。俺が親父と言われても実感がないんだ。
 ……俺はその子の事を何も思わない。愛していない。例え俺の子でも」
「そう」
「ちゃんとした父親がいるなら、俺なんざ不用のはずだ」
「私の事はどう?」
「何?」
「昔はどうだった? 私の事はどう思ってた?」
「……。気の迷いさ。お互い若かった」
「意気地無しね」
「解ってる」

 ドレスの女性は一枚のメモを差し出す。電話番号が書かれたメモ。

「もし会ってくれるならこの番号に連絡して。自分の子供に会うだけだけど……。私達はクリスマス休暇に入ったら旅行にいっちゃうから、出来ればその前までに決めて」

 それを受け取り、男はその場を立ち去った。料理は結局、手付かずのまま。



※ ※ ※





「と、言う面倒な依頼だ」
『うわ重てぇ』
「全くだ。どうすりゃいいんだか」
『依頼って子供に会わせるまで?』
「ああ」
『その人はどう思ってるの?』
「会いたいかどうか?」
『うん』
「解らんとさ。だからとりあえず他の人間の意見が欲しいって所だ」
『ああ……。うん。じゃあ……』
「なんでもいい。どう思う?」
『わかんない』
「……見事に役立たずで安心したよ」
『だってさぁ。結局はその人決める事じゃん。周りがとやかく言ってそれにほいほい従う訳?』
「なるほど。じゃ、お前がその立場だったらどう思う? 会いに行くか? それとも会いに来てほしいか……?」
『えぇ~? うーん……。どっちでもいいかなぁ。その状況になんないとわかんない。
 でも、待つ立場だったら……。会いに来て欲しいかな。私なら』
「そうか」
『役に立った?』
「さぁな。参考程度だし」
『相変わらず可愛くない奴』
「お互い様だ。クリスマスにおっさんに電話するような暇人に言われたくはない。パーティーにでも行ってろよ」
『行ったよ。で、帰って来たとこ』
「ずいぶんとお早いお帰りで」
『……察しなさいよ』
「ああそうか。なるほど。まぁまだ若いんだ。これからだ」
『慰めてるつもり?』
「まさか。ほくそ笑んでるよ」
『死ね!』





 ――ブツッ!

「……ガキだな」

 電話からは通話終了のツーツーという電子音。ヘンヨも電話を置き、タバコを一本蒸す。
 ポケットに手を突っ込んで、一枚のくしゃくしゃになった紙の切れ端を取り出した。
 それをぼーっと眺めて、先程言われた事を思い出す。

「結局は、自分で決める事……か」

 タバコがちりちり燃えている。
 灰皿に灰を落として、しばらく考えて。ヘンヨはそのメモを灰皿へと置いた。
 マッチを擦って、火のついたそれをメモの上に置く。燃えて行く。ちりちりと。
 電話番号が書かれた。一枚のメモ。

「……。意気地無しね。まったくだ。とんでもないビビりだな俺は」

 メモはあらかた燃えた。その上にタバコを押し付ける。焦げたニコチンの香り。

「俺はサンタクロースにはなれない。忘れたほうがいい。きっと……」


 燃えたメモ。その電話番号は、おそらく二度とヘンヨが目にする事はないはず――。









【なんかもうよう解らんけど終わり】



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