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クリスマス短編 人稲ちゃん奮闘記 きっと誰も来ない?

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 『クリスマス短編 人稲ちゃん奮闘記 きっと誰も来ない?』


 今日はクリスマスだねと、街を行く男女二人組のどちらかがそう言った。
 家族と過ごすべきだと、女の子は口に出したくて仕方が無かったが、言うに言えなかった。
 繁華街の真っただ中、頭のてっぺんのクセっ毛をふよんふよん揺らしながら歩いていた女の子が、立ち止まる。
 近頃では余りない左右三つ編みお下げの彼女の名を人稲。名前は人稲。以上。苗字だけなのはお察し下さい。一人で歩いているのも、お察し下さい。
 街の灯りが目に反射している。
 それはあたかもカンラン石。メノウ。サファイア。金銀。遠目に見れば、オパールの遊色を固めてしまったようだ。
 息は白くて、体の末端から熱が逃げていく。ダウンの上着を羽織っているというのに。なんて寒いんだろうと心の底から気温が憎々しい。
 一年という区切りは息をつかせないほど早く早く流れていって、あと一週間かそこらで一年が手を振って永遠にさようならベイベーするんだというから驚きだ。
 目を瞬かせてみたところ、上瞼と下瞼が接触するときすらひやりと感覚が走るような気がした。

 「…………“計算”通り」

 とその人物は言えば、ほうと息を吸う。
 強気もたいがいにした方がいいと誰かが言っていたが、そんなこと知った事かと言わんばかりの尊大な口ぶり。計算ではない。予想に近い。それも、悲観に。
 肺に招いた空気を吐く。生温かい吐息が漏れ、たちまち白く色を変える。
 手の中で凍える携帯電話が、街の輝きに負けない煌々とした光を発している。
 瞳に映る文字列は不鮮明でも、本体にはこれでもかと鮮明に文字が浮かんでいる。
 着信履歴 無し(ゼロ)――。
 身内を除く人間からかかってきたのが数カ月も前のこと。
 寂しい目つきで携帯電話を見つめ、溜息をつきながらぱたむと閉じてポケットに滑り込ませると、手も一緒に突っ込んでしまう。

 「別に寂しくなんかないし」

 嘘だ、とても寂しいのだ。
 でも、寂しいと口にしたら実感してしまう。寂しいと平素口にしないだけに言葉の重みは鉛のように重い存在となる。
 今日はとても寒かった。
 ああ、なんて寒いんだろう。ポケットに入れたはずの手が凍えてきた気がして、背中を丸めて歩を進める。
 街路樹にはイルミネーション。
 青と白が基調。発光ダイオードの人工幻想が樹を包み込み、街灯とは異色の輝きを放っている。一部は規則的に点滅を繰り返し暗明の満ち引きを描いていた。

 「………」

 周囲を見渡してみれば恋人恋人恋人家族家族友人とふざけ合う連中などなど。
 いずれにしても複数で、単独で歩いている人といえば忙しそうに携帯電話を使いながら歩いていくサラリーマンや、いつもとなにも変わらぬ様子で自動販売機に飲み物を補充する人などだ。
 では彼女は?
 独りだ。
 歩いても歩いても一人だった。
 一体ぜんたい、何のために街にくりだしたのか自分でも良く分からないのが現状だった。きっと冬がいけないのだと彼女は思う。
 冬は嫌いだ。夏も暑いから嫌いだ。春はそこまで好きじゃない。秋がいい。秋は実りを感じさせてくれるから。

 「右も左も……ばっかみたい」

 手を絡め合って甘い言葉を囁き合っている男女の横を足早に通過する。
 俯き加減にイルミネーションの光帳をくぐっていく。気だるい歩道だ。人にぶつからぬようにゆったりと歩幅を取って、時折斜めに避けて進んで行く。
 もう、帰ろう。
 彼女がそう思い、ふと足を止めて空を見上げた時だった。

 「……粋な計らい、ね」

 ―――とつぜんに、雪が降り始めたのだった。
 もし神様とやらがいるのなら、ほくそ笑んでいるのだろうかと彼女は手をポケットの中で握りながら考えた。
 あたりの人達が、最初誰かが雪だといい空を見上げれば、次々に天候の変化に気がついていく。まるで水にインクを落としたかのように。
 寒さをぬくもりに変える水の結晶物が、漆黒に染まった天空より舞い降りてくるや地面にふわりふわりと着地しては消えていく。
 息を吐く。
 白が立ち昇る。雪が通り抜ける。歩きだす。クセっ毛が気分良く上下に揺れ出す。

 「~~♪」

 人稲は、何年もの間考えることすら忘れていた軽い調子の小唄を口ずさみつつ、街の中に消えていった。


        【終】



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