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Episode 13-B:Si Vis Pacem, Para Bellum――汝、平和を欲さば、戦への備えをせよ。 後篇」(2010/02/27 (土) 00:20:08) の最新版変更点

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ひとしきり適当に暴れ回り、耳障りな警報が鳴り始めたのを確認して、レオン――――フォルツァ・レオーネは心中でほくそ笑んだ。これでようやく、戦える。  パワーレベルを徐々に上昇させていく。全身に力が漲ってきた。  足音が近付いてくる。数は二、オートマタと人間が一人ずつだ。 <来たか、リヒター・ペ……>  だが、そこにいたのは、赤毛の男と青いオートマタだった。どちらも手にはポールウェポンを保持している。 「誰だお前……誰だぁお前!?」 <今のは大事な事なので二回言いました> <あの……リヒト様もヴァイス様も真面目にやってください>  どうやら男の持っているそれはオートマタのようだ。しかしながらこのお笑い劇団っぷりは、アンサラーの連中にも勝るとも劣らない。 <ほ、ほら、レオーネタイプの人が哀れみの目でこっち見てますよ! あの、すみません、ここで暴れるのはやめていただけますか?>  いらいら。 「おいおい腰低いなぁ」 <私達の時はやたら強気だったのに、なんでしょうねこの落差>  いらいら、いらいら。 <もう、黙っててください! ここは穏便にいくべきなんです! 穏便に!>  いらいらいらいらいらいら。 「えー、せっかくかっこよく決めて出てきたのになー!」 <それとこれとは別です! 戦わないに越した事は>  ぷちんっ。 <いつの間にここは動物園になったんだァァァァ――――ッ!!>  獅子の咆哮が、周辺の大気をビリビリと震わせた。――――いや、あまりに五月蝿いせいでキレただけなのだが。 「ちょっとー、声デカいよー」 <まったく近所迷惑ですね>  これは空気読めてないのか、はたまたわざとか。 <黙れ。それより、リヒター・ペネトレイターはどうした> 「ああ、リヒターなら、いるような、いないような……」 <どういう意味だ> <本体はありますが、身体がないんですよ> 「賢者の石を宿した神子がいるはずだろう」  神子がいるなら、それに転送してもらえばいいだけだ。それをしないという事は、戦いたくない理由でもあるのか、それとも自分よりも前に誰かにやられたのか……。どちらにせよ、誠に遺憾である。 「いや、あの子まだ神子になってねーんだ、これが」 <何……!?>  レオン、驚愕。 「――――というかお前さん、なんで賢者の石について知ってんのかなー。ちょっとその辺お兄さんに詳しく教えてもらいたいんだけど」  そう言って、赤い髪の神子が純白の混を構える。同時に隣のオートマタも戦闘体勢。 <賢者の石はどうでもいい。俺はリヒター・ペネトレイターと戦いたいだけだ>  レオンも、その丸太のように太い腕を構える。 「俺らじゃ、不服かい?」  男がニヒルに笑うと同時に駆け出した。手中の杖が巨大なバスターソードに変化する。  今、戦いの火蓋は、切って落とされた。  ♪  ♪  ♪ 「――――で、何じゃ?」 「はひ!?」  突然肩を叩かれて、リヒト達が駆けて行った出口の方角をぼんやり見ていた遥がびくんと身体を震わせた。 「なーにが『はひ』じゃ、呆けとるでない」 「あ、すみません」  踵を返すと、小さくなったなごみがそこにいた。 「で、さっき何か言いかけたじゃろ、ぬし。何と言おうとしたのか、もう一度言うてみぃ」  ちゃんと覚えていたのか、と遥は内心目を丸くする。てっきりあのまま流されたかと思っていた。 「えーっと、さっきの画像、あるじゃないですか。あれに写ってた機械人形、機械人形殺しにそっくりだったので……。ね? リヒター」 <イエス・マイマスター>  呼ばれたリヒターがふよふよと近寄ってきた。 「ほう、それは興味深……ん? そういえばリヒター・ペネトレイターよ。機械人形殺しはぬしに……」 <『お前は俺だ』と言われました>  「ふむ……」なごみが顎に手を当てて思考を始めた。 「もしかすると」  ややあって、なごみが開口する。 「何かわかったんですか!?」 「あ、あくまで憶測じゃからな、聞いても笑うでないぞ」  笑うもんですか! 遥がはっきり頷いた。 「もしかすると、リヒター・ペネトレイターと機械人形殺しは、元はひとつの機械人形だったのかもしれん」 「そうなの?」  傍らで淡い光を放っているリヒター・ペネトレイター本人に聞いてみる。 <言われてみたら、そんな気がします> 「じゃろ?」  えっへん! 胸を張るなごみ。そんな気がする、で大丈夫なんだろうか……。  時々炸裂すれリヒターの天然に、少なからず不安を覚える遥であった。 「まあ、確認のためには本人をとっ捕まえて聞き出すのが一番なんじゃがの」 <了解しました、次に遭遇した時にとっ捕まえます>  リヒターって、けっこう影響受け易いよね、とも思う。  そもそも前回戦った時はリヒトが助けてくれたから良かったものの、実質遥とリヒターの敗北だ。次に遭遇したとして、果たして退ける事ができるのかすら甚だ疑問である。  ん? そういえば。 「あの、なごみさん。師匠が機械人形と生身で互角の戦いができるのはなんでですか?」 「またえらく唐突じゃな」  怪訝顔のなごみに、遥はドッキリの時の出来事を話した。 「なるほどの、そういう事かや」  指を鳴らすと、今度は壁面に大型スクリーンが出現した。数拍遅れて外の様子が映し出される。 「あやつはの、特別なんじゃよ」  ♪  ♪  ♪  振り下ろしたバスターソードが、マナの防壁に干渉した。斥力で飛ばされそうになりつつも、思い切り踏ん張ってそれに耐え、じりじりと逆襲する。  レオーネタイプは継戦能力を犠牲にして、機動力、攻撃力、防御力、全てにおいて高水準を叩き出した強力な機体だ。特にマナの防壁と本体の装甲の相乗効果は、中量級でありながら重量級並の防御力を誇っている。  ――――やっぱり一撃じゃどうにもならんかね……!  一旦距離を離し、再びバスターソードを構え直す。マナで過剰なまでにブーストされた身体能力は、巨大なそれを振るう事をものともしない。 「次はハンマーだ。餅搗きしようぜウサギさん」 <イエス・マイマスター>  バスターソードが、一瞬液体のように弾け、巨大なハンマーに変貌する。 <ほう……おもしれぇ、おもしれぇなぁ!>  一直線にカッ跳ぶと、勢い良くハンマーを振りかぶる。そして、 「ハンマー……インパクトぉッ!」  ハンマーと防壁がぶつかり合ってスパークした。だがレオンは微動だにしない。二撃目を叩き込むために離脱しようと、斥力に身を任せ、そのまま後ろへ跳ぶ。  間髪入れずに地面を蹴る。やらせまいとレオーネタイプも拳で迎撃する。対するリヒトは足元にマナの壁を作り、拳を乗り越え鉄槌を下す。機械人形殺しがやって見せたのと同じ戦法だ。 <くっくっく……。おい、なかなかだな、お前。何者だ?>  心の底から嬉しそうな、楽しそうな声を上げるレオーネタイプ。 「どこにでもいる“小さな存在を愛する者”だ。覚えとけ、テストに出る……ぞっ!」  防壁に亀裂が走ったのを確認して跳び退る。そして、 「ブチ抜け、サリサッ!」 <はいっ!>  真後ろでマナをチャージし、タイミングを見計らっていたサリサが長槍を構え、ブーストを全開にして突撃する。  機体の軽さに加えて大出力のブースタによる爆発的な加速力が特徴の、サリッサタイプの必殺技とも言うべき攻撃だ。直撃すれば致命傷は避けられない。  実際に、その一撃は重厚な防壁を――――亀裂が走っていたとはいえ――――いとも容易く突き破った。だが、 <そこまで長い事手ェ出されないとよォ……>  防壁の貫通で速度が落ちた所を見切られた。最低限に抑えた動作で攻撃をひらりと回避し、長槍を掴む。火花を上げながら、サリサと長槍が空中で失速、停止した。 <見え見えで、当たらねぇだろうよォッ!> 「ところがどっこい三段攻撃なんだよなぁ! パラベラム!」  リヒトがハンマーを地面に突き立て、レオーネタイプの真上に、白いウサギを召喚した。  あらかじめ準備していたのだろう、右足の踵が過剰に集められたマナで輝いている。  通常、ヘーシェンタイプの大腿部には多目的収納スペースがあるのだが、ヴァイス・ヘーシェンはその部分に大容量コンデンサを装備している。そのおかげでリヒターのとっつきに迫る程の蹴撃を――――二発だけだが――――放つ事ができるのだ。  そして今、それが踵落としという形で炸裂する。 <ヴァイス・パニッシャー>  白い閃光が、視界を覆い尽くした。  くるりと一回転して、シロとサリサが着地する。 「やったか……!?」 <それやってないと同義ですよね> <そうなんですか?> 「ああ、お約束だよな」  光が収縮する。そして、その中で関節からピシピシと音を立てつつも、未だ健在のレオーネタイプがいた。致命傷には至らなかったが、それなりにダメージは与えられたようだ。しばらくは行動不能だろう。 「ほら、だろ?」 <わあ……本当だ> <そんな事より、とっとととどめを……あら?>  突然ヘーシェンが膝をついた。 <ヴァイス様、どうしましたか!?> <負傷完治していない状態で大技を使ったので、身体がボロボロになってしまったようですね。こちらも行動不能になってしまいましたね、てへっ>  棒読みである。  あちゃー、とこめかみを押さえるリヒト。 「やっぱ駄目だったか……」 <ですね> <わかってやったんですか!?>  シロの身体をやおよろずのガレージに送り返す。 「誠に遺憾だが、分の悪い賭けには失敗したようだ、はっはっは」 <そんな、どうするんですか! もうすぐ動き出しますよ、あの人!>  言ったそばから立ち上がり、歩き出すレオーネタイプ。 <やるじゃねぇか……咄嗟にバリア張ってなきゃ即死だったぜ。ゾクゾクするなぁ、オイ。お前、なんて名前だ> <サリサ・サリッサです> <ヴァイス・ヘーシェンでヤンス> 「フンガー」  危機感も何もあったものではない。 <おい、一番名前を聞きたい奴が答えないのはどう了見だ>  全身の関節の具合を確かめながら、レオーネタイプ。 「まずは自分から名乗るのが筋ってモンだろうよ」  それを聞いたレオーネタイプは、思いのほか素直に答えた。 <フォルツァ・レオーネだ。親しい奴にはレオンと呼ばれているがな> <へぇ、友達いるんですね> <ほら、ヘーシェン様、ライオンって群れる動物ですから> <外野うるせぇぞ。で、お前の名前は?>  静かに、だが確かに怒りを浮かべながら一喝した。 「リヒト・エンフィールド、“小さな存在を愛する者”だ、よーく覚えとけ」 <それはさっき聞いたぞ>  どうやらこのレオンというオートマタは意外と律義な性格のようだ。 <さあ、早く続きをやろうぜ、リヒト……!> 「おう、付き合ってやるよ。……今度は、全力でな!」  ハンマーが再び液状になり、リヒトの身体の周囲を回りだす。 「変……身!」  足、腕、胴、そして顔。リヒトの身体を順番にプロテクターが覆っていく。そして数秒で変身は完了し、リヒトは白い仮面の戦士になった。 <さあ、やろうぜライオンさんよぉ!>  ♪  ♪  ♪  その光景は、遥達が見ているスクリーンにも確かに映っていた。  バイザーと胸元の宝玉が赤く光り、うさぎの耳にも見える二本のアンテナが揺れる。まるでヘーシェンをスケールダウンしたかのような姿に、遥は驚きを隠せない。 「変わった……!?」 「言ったじゃろ、あやつは特別じゃと。特別なんじゃ、リヒト・エンフィールドという男はの」 <どういう事なんですか、なご なごみ> 「突然変異種とでも言うべきかの。あやつは生れつきマナを操る事に関しては天才的なんじゃよ」  当時の事を思い出しているのか、なごみがしみじみと語る。 「だからあやつがまだ子供の頃、試しに機械人形用の装備を渡したんじゃ。そしたらあやつ、それを見事に使いこなしおった」  そう語るなごみは、なんだかとても嬉しそうで。 「だけど、ちょっとこれは危ないかもしれないね」  神妙そうな面持ちで、ルガー。 「どういう事なんですか? ルガーさん」 「かなり久々に変身したから、たぶんあまり長く持たないと思うんだ。それと」 「シロちゃんの修理費ですね!」  リタが付け足す。なるほど、それは確かに深刻な問題だ。 <私が戦えさえすればいいのですが……> 「ふむ、つまるところが、転送ができればよいのじゃろう?」  突然なごみがニヤリと笑った。 <はい、そういう事になります> 「くふふ。ならばわちに任せるがよい」  ♪  ♪  ♪ <さらに面白いじゃねぇか……えぇ!?>  レオンが髦を振るわせながら接近し、剛拳を見舞うが、リヒトはそれを軽くいなしてみせた。 <こういうのを、柔よく剛を制すって言うんだよな>  跳び上がって、ヴァイス・パニッシャーが命中した部分にストンピングをかます、レオンが怯む。 <やっぱりダメージはそれなり以上に喰らってるみてーだな!> <ああ、なかなか刺激的だった……ぜッ!>  レオンがリヒトを振り払い、軌道エレベータの壁面に叩きつけた。砂塵が一時的にリヒトの姿を隠す。 <ハッ、やったか……!> <だからそれは定番の流れだってんだろぉ!>  白い煙を突き破ってレオンに肉薄したリヒトが“空中”で連続して蹴撃を繰り出した。次第にレオンの巨体が押され始める。 <すごい……>  サリサが呆然としながら呟いた。人の身でありながら、オートマタ――――しかもレオーネタイプを圧倒している。  だが、異変は突然起こった。 <オラオラオラオラ! ……ってワオ!?>  足元に形成させていた力場が消え、落下したのだ。ついでに変身も解けた。 <時間切れみてぇだな、リヒト!> 「チッ……タイミング最悪だな!」  次第に距離を詰めていくレオンとリヒト。 <リヒト様!>  全力のブーストから、防壁を張って体当たり。レオンを跳ね飛ばす、とまではいかないが、怯ませる事には成功した。 「サンキュー、サリ、サ……!?」  その隙に離れようとするが、身体が思うように動かない。変身の反動だ。 <絶体絶命ですね> 「万事休すだな……!」  這いずりながら、少しでも離れようとする。ふと前を見ると、こちらに駆け寄ってくる三つ編み。手には見慣れない、黒い槍を持っている。 「師匠、大丈夫ですか!?」 「遥、なんで来たんだお前!?」 「助けに来たんです! なごみさんが、この杖でリヒターの身体を呼び出せって……」  ああ、それ杖だったのか。どう見てもデザイン槍だろ、というなごみに対する苦言を喉の奥に引っ込める。  どうやらなごみが遥に、強引にアクセス権を与えたようだ。 「できるのか、遥」 「師匠に教えてもらえ、と」  なるほど、師匠なんだから師匠らしくしろ、という事か。 「よし、じゃあ遥、そこにしゃがんでくれ」 「こうですか?」  言われた通り、遥がしゃがむ。ふむふむ、ちらりとしか見えないがやはり綿100%か。しかも一日履き替えていない……素晴らしい。 「よし、肩を貸してくれ」 「今の何だったんですか」 「まあ気にするな。……よし、まずはこいつを地面に突き刺せ」 「はい!」  ♪  ♪  ♪  言われた通り、地面に杖を突き刺す。 「よし、そしたら意識を集中させろ、マナを絞り出す時みたいにだ」 「はい!」  集中、集中、集中。自分の中にある力の塊にアクセスし、そこからマナを分けてもらう。 「道案内は俺がする。遥、お前は道程をしっかり記憶する事に集中しろ」 「はい!」  直後、独特の浮遊感が遥に襲い掛かった。水中で何かに引っ張られる、そんな感覚。意識が飛んでしまいそうになるのに耐えながら、この感覚を必死に記憶する。  ややあって、引っ張られる感覚は消えた。代わりに感じるのは、僅かな温もり。 「こいつがリヒターの身体だ。これを持ってきゃいいわけだが、こいつを持ってくには、とある呪文が必要だ。それは――――」  リヒトが遥に耳打ちする。遥は大きく頷くと、大きく口を開けて、大きな声で、こう叫んだ。 「パラベラム!」  その瞬間、少女の眼前に土煙が上がる。  荒々しく着地したそれは、平淡な口調でこう言った。 Episode 13:Si Vis Pacem, Para Bellum――――汝、平和を欲さば、戦への備えをせよ。 「できた……できた! やったぁ! できたよ、師匠、リヒター!」 <おめでとうございます、マスター> 「よくやった、それでこそ俺の弟子だ!」  えへへ、と照れ笑いをする遥。 「だが喜ぶのは後だな。あいつを追っ払え! 帰ったらお赤飯炊いてやる!」 「はいっ!」 <システム、省エネルギーモードから戦闘モードへ移行。マスター、指示を>  猛禽類のような頭部に、赤く光るツイン・アイ。鋭角的なその装甲が黒く、鋭く輝く。 「徹底的にのしてやろう、リヒター!」 <イエス・マイマスター!> 「GO Ahead!」  遥が叫ぶと同時にリヒターが大きく一歩を踏み込みブースタを点火。放出されたマナが光の尾を引いた。  ♪  ♪  ♪ <来たか、リヒター・ペネトレイター!>  土煙を上げながら、猛然と突進してくる黒騎士を見、レオンが興奮のあまり咆哮した。 <フォルツァ・レオーネ……!>  リヒターの右腕が光を帯びる。ダガーを形成したのだ。濃密なマナによって形成されたそれは、レオンの防壁を易々と切り裂き、装甲を横一文字に焼き切った。 <へぇ、名前知ってるって事は、ずっと見てたのか! 嬉しいなァ、あァ!?>  だが、浅い。致命傷とはなり得なかったようだ。  スラスターを使い、相手のレンジ外まで横滑りに後退。だが、レオンは髦を振りかざして肉薄し、掴み掛かる。巨人と巨人の取っ組み合いだ。 <力比べといこうじゃねェか、リヒター・ペネトレイターよォ!> <いいだろう……!>  力は互角……いや、レオンが若干優性だ。だが、次第にリヒターが押し始めた。遥がマナをブーストしているのだ。 <ぐッ……やるな、リヒター・ペネトレイター!> <はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!>  黒い騎士が雄叫びを上げた。刹那、彼の身体に変化が起こる。 <なっ……こいつも“変わる”のか!?>  全身――――特に両腕は太く、逞しくなり、肩部の装甲も厚みを増す。両肩の端にはスタビライザーと思われるパーツが追加され、所々に金色の装飾が施された。  さらにマントを身に纏い、騎士らしくなったそのフォルムは、厳かな雰囲気すら漂わせていた。  オレンジ色になったツイン・アイと全身の発光体が輝きを増し、強化されたパワーはレオンをさらに圧倒していく。 <チッ!>  舌を打つと、レオンは力を抜いてレオンをいなし、取っ組み合いの体勢を解いた。 <やるじゃねぇか、だが、勝負はまだこれから……>  ゴウン!  ブラウニング・バビロンに、突如として轟音響く。そして二機の足元に伸びる巨大な影。 <あ゙?> <これは……>  その正体は、全高二○メートルという超弩級の四脚型オートマタだった。普段は穏やかだが、怒らせると途端に凶暴になる。恐らく縄張り内で散々ドンパチやられたのでお怒りなのだろう。 <どうやらこいつはこの辺りの主のようだな……>  勝負を邪魔された、と不機嫌そうに言うレオン。 <興が削がれた、やめだ、やめ>  踵を返す。 <逃げるのか> <命あっての物種、だろう? じゃあな、次は全力で殺し合おうぜ> <あ……>  逃げられた。追い掛ける事は可能だが、遥達を放っておく事はできない。しかし――――  目の前の怒り狂うデカブツを見上げて思う。  どうすればいいのだ、これは――――  考えている間にも、デカブツは迫ってくる。こうなれば腹を括るか、と腕部にマナを集中。一点突破を狙ったその時、デカブツの足音よりも、さらに大きな炸裂音が響いた。  しばらく間を空けて、また一発。  戦うのは危険と判断したか、デカブツがゆっくりと方向を変え、去っていく。 <今のは、一体――――> 「ああ……ありゃジジィの列車砲だな」  ライの肩を借りて歩いてきたリヒトが言った。隣でライが驚愕する。 「クルップさんの……列車砲!?」  列車砲とは、通常は運用が困難な大口径砲を列車に搭載したもので、絶大な攻撃力を誇る兵器だ。 「ジジィんとこの鉄道会社が所有してるブツだ。二人で運用できるもんじゃないが、まあたまが協力したんだろ」 「なるほど、入れなかった車両の正体は列車砲だったんですね。遥さん、リヒターさん、おめでとうございます」  他のやおよろず一同となごみも駆け寄ってきた。 「やりましたね!」 「遥ちゃんも、リヒターも、見事だったよ。おめでとう」  そんな和気藹々のお祝いムードをぶった切って、ライが言った。 「ところでさ、なんかリヒター変わったよね」 「言われてみればそうですね!」 「あ、ほんとだ。どうしたの? リヒター」 <私にも理解できないのですが、マスターのマナを吸収する内に、身体に変化が> 「ふむ……賢者の石が生み出すマナには、進化を促す効果があるのかもしれんの」  リヒターの身体をべたべた触りながら、なごみが分析をする。 「もしかすると、機体を構成するナノマシンが、リヒトの変身を学習したのかもしれませんよ」  リタ、まさかの本気と書いてマジモード発動。 「まあ、何にせよきちんと分析しない事には――――あ」 <あ>  が、マジモード発動から数秒で、リヒターの身体は元に戻ってしまった。 「時間制限まで学習してしまったのかもしれないね」 「ですね!」  同時にマジモード終了のお知らせ。 「で、ぬしらはこれからどうするのじゃ」 「ああ、もう帰ろうと思う」  「そうかや……」と、なごみが少しだけ寂しそうな顔を覗かせる。だが、すぐにいつもの顔に戻って、 「当然、また来るんじゃろうな?」  リヒトが柔和な表情で返す。 「――――当然だ」  ♪  ♪  ♪  かくしてやおよろずの小旅行は、多大な犠牲(お金)を払い、大きな収穫(遥神子認定、リヒターフォームチェンジ、敵組織の名前)を得る事によって終了した。  この一件によってやおよろずの家計は火の車になり、一行は資金繰りに奔走する事になるのだが、それはまた、別のお話。  次回に続きますよ! #back(left,text=一つ前に戻る)  ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) #region #pcomment(reply) #endregion

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