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それがなにか?と問われるならば舞踊だった。 一人の少女は町外れの小さな劇場の舞台で踊る。 少女の衣服は赤を基調にした軽いもので肩から腰まで伸びる羽衣が特徴的だった。 少女の舞踊がみるも無様なものだったのか?と問うならばそれは否定される。 いや、もし形容するならばそれは天女を思わせるような美しさがあった。 暗い舞台に一つのスポットライトという演出がまたそれに妖艶な…とでもいうべき美しさを与えていた。 見るものの心を掴む美しさ、これこそがまさに天から彼女に与えられた才能だったのだろう。 その最中、彼女は宙に浮く。 飛び跳ねたような様子もなく、本当に宙に浮き、留まった。 少女は宙に浮いてそのまま舞踊を続ける。 これこそが彼女の一族が代々口伝してきた技術であり、秘術だった。 人はそれを天女舞と呼ぶ。 もし、何も知らぬ人が見るならば劇場は驚きに声にならない声を上げて感動し拍手がおこるのだろう。 だが、それは起こらない。 劇場は100人分用意した席のうち5席しか埋まっていないのだ。 その内2人は少女の身内だ。 そして起こるのは罵声。 たった、三人の客は全てまだ、年が12もいっていないような少女に歓声でも拍手でもなく、ただ耳を壊すような罵声を送る。 舞踊が酷かったからではない。 それはしいて言うならば、彼女の一族が受け続ける受難であり咎。 一族がかつて犯したという大罪、そしてその一族であるが故に彼女もその咎を受け続けている。 だが、少女は泣く事は無かった。 既に罵られ続けることには慣れていた。 だから涙は既に枯れている。 何故、そこまで言われてやめないのか? 少女は信じていたのだ…いつか報われる日がくるという母の言葉を…。  シャドウミラージュ 第三話「変幻する糸」 そこはくたびれたというべき印象を持つ会議室。  色々な機器がその部屋中に置かれてはいるが、あまりにそのくたびれた風景と似合わないような光を放っていた為、 誰が見てもそれは最初からこの部屋にあったものでは無く、つい最近この部屋に持ち込まれたものだという事が理解出来ただろう。 言うなればそこは廃墟だった。 別にその会議室のある建築物だけが廃墟だったというわけではない。 街に数多とある建造物は半壊しているモノも多く、まともな形をしている建造物は数えるほどしか無い。 そう、この街イアナーラは言うなればゴーストタウンとでも呼ばれるような、誰も住んでいない街だった。 正確には誰も住めなくなった街というべきか。 そんな街に人がいるようになったのはほんの三週間ほど前ほどである。 当然ながらそれはこの街に住みこみ始めた一般人というわけではなく、わけありの数十名のメンバーであった。 そんな街の中にある領主の館の会議室の中に三人の人間がいた。 一人は黒髪黒眼で白衣と手に持っている煙草が特徴的な女性、もう一人は銀髪黒眼で焦茶色のジャケットを着た男、そして最期の一人は黒髪蒼眼でツナギのような服を着た男だ。 「とりあえず聞いておこうか、君はこのイアナーラという町をどれほど理解しているのかな?」 黒髪の女が手に持った煙草を吸いながらそう銀髪の男にそう聞く。 「ここが妖魔に五年ぐらい前に滅ぼされた街だという事は知っているかな、三大貿易都市の一つが妖魔の襲撃で滅びたという話は当時は大ニュースだったからね。」 ふむ、と黒髪の女は頷く。 「ならば、何故、我々がこの地区にやってきたのか?それはわかるかな?」 「貿易の拠点を取り戻す為といった所か?」 黒髪の女の問いに銀髪の男は答えた。 「いいや、クーガ、それは違う。」 横から入ってくるように黒髪の男は言った。 「違う?この地域に他の価値があるという事なのか、セイム?」 銀髪の男、クーガは不思議そうに黒髪の男、セイムに聞いた。 「ああ、そもそも今、王国は自分を守るので一杯一杯だ。例のオロチの襲撃事件以降な。  だから、今更領土を無理に広げても、それを守る程の力は無い。  だからな、例えここの地方にいる妖魔を殲滅したところで今更貿易都市としてこの街を機能させたりすることは出来ないって事さ。」 クーガは納得したように頷いたような素振りを見せる。 「なるほど、ならば今更なんでここに名うての騎士を集めて総力で妖魔の殲滅に当たらないといけないんだ?都市に近いところでももっと危なそうな所はあるだろうに・・・。」 クーガの問いは当然の疑問だった。 かつてこの国を存亡の危機まで追いやった十魔獄の一にして戦神の異名を持つ上位妖魔オロチの襲撃事件。 その事件以降、国は自分を護る為にその力の全てを費やすようになった。 だが、その守りを国の重要都市に集中させたが故にその防衛を受けられない小さな街が出てくる事になってしまうという問題も起してしまう。 国は重要都市の拡大し収容できる人数を増やしたが、その人間達の全てを収容できたわけではなかった。 言うなれば溢れて追い出され路頭に迷う人間も出てしまったという事だ。 そんな状況の国が今、わざわざかつての貿易拠点のひとつであったとはいえその地区を人間の手に取り返すという事の意味はどれほどあるのだろうか? そもそも、そんな力すらあるのだろうか?という事だ。 シャドウミラージュは護る事に精一杯な国が唯一妖魔達を能動的に倒す為の術として編成された特殊部隊だ。 だが、クーガにはその力をこの作戦が有効に活用しているという風には思えなかった。 「おう、そこが重要なんだぜ、それはな・・・。」 セイムの発言を遮ってコホンと黒髪の女は咳払いをした。 「ああ、わるい、わるい、これの説明はあんたの役目だったな、カタリナ。」 黒髪の女カタリナはやっと気づいたかという顔をし、説明を始める。 「さて、我々シャドウミラージュが今回のこのイアナーラ奪還に乗り出したのかそれには大きな理由が一つある。」  「それは?」 カタリナは手に持っていた煙草を灰皿に置き、また新しい煙草を白衣のポケットから取り出し火を付け、少し考えるような素振りを見せた後、 「単に答えを言うだけでは面白くないな、君が当ててみろ。ヒントは私だ。」 そう言ってカタリナは火を付けた煙草を吸いはじめた。 「面白くないって…。」 クーガは呆れたように言った。 「まあ、こいつは昔からこういう奴だからなぁー、答えてやらんと話すら進まないぞ。テキトーな答えを出すと怒るから気をつけた方が良い。」 セイムが憐れむような瞳で、クーガを見つめる。 「本当かよ…。」 はぁーっとクーガはため息を吐いた後、仕方が無いので考える事にした。 せっかく頂いたヒントだ、まずはそれから活用しよう。 まず目の前にいる女が何なのかだ? 知っている情報を全て並べてみる。 名前はカタリナ。 シャドウミラージュの鋼機全般の技術主任であり、王国でも随一の鋼機の技術者。 伝説の鋼技師、サンズ・ハルバート唯一の弟子。 今、世で現役を張っているD型の大体は彼女の作品であるといわれている。 つまりは彼女こそが今の鋼機技術の第一人者とでもいえるような人物だ。 それが彼女という人間の持つ肩書きである。 ―――ならばそこから答えを導き出せるという事だろうか? 流石に女性であるというのは安直だよなぁ…となると、もう一つの線で見るのが妥当だ。 「つまりは鋼機に関する事か?」 そのクーガの解答にカタリナは煙草の煙が混じった溜息吐き、 「あのなぁ、いくらなんでもそんな範囲の広すぎる解答はOKとは言えないだろ。」 と呆れたように言った。 そういわれて、クーガもそれはそうだよなぁー納得する。 確かにそれではあまりに問題にならない。 「俺様からもヒントだ、目の付け所はいい線だと思うぜ」 「セイム!!」 セイムの一言にカタリナは怒鳴りつけた。 「べ、別にいいだろ?このぐらいは・・・。」 「いいや、お前のやったのはヒントなんてレベルじゃない、問題なんてのは疑いを持っているから問題になりうるんだ。  『たぶんそうだろう…でも、これで本当に正しいのか?』という疑心暗鬼が問題の難しさになる、つまりは確信を与えてしまったら、 それは問題としての難易度がガタ落ちだよ。 次、私のゲームをつまらなくするような真似をするならばお前の機体の調整は二度としてやらんからな。」 「はいはい、わかったよ。ようわからん所に相変わらず拘りがあるようでして…。」 「お前がそういった拘りが無さ過ぎるんだ!」 「しらねーよ、俺様はそういう学が無いからなー。」 「そんなんだからお前はいつまでも格下の騎士までに――」 なんかこの漫才を見ていたくもなったのだが、それはひとまず置いておいて、クーガは真剣に問題を考える事にした。 セイムは言った、「着眼点はそこでいい」と・・・せっかくのヒントだ、活用させてもらうとしよう。 俺が着眼した事、つまりは彼女が女であること等ではなく、鋼機に関することだという事だ。 だが、わざわざこのような辺境まで来て、鋼機に必要な事というのはなんだろうかとクーガは考える。 素材――だろうか・・・? だが鉱山の類は別に不足はしていない筈だ。 ならば、なんだろうか。 鋼機に使われる希少な素材・・・。 つまり、それが解答になるのではないだろうか? 「ああ、そうか。」 クーガは理解した。 何故こんな所までこのシャドウミラージュが派遣されたのかという事を・・・。 「ほう、解答を出したようなだな。」 口から煙草の煙を吐き出し、カタリナは言う。 「では聞こうか、お前の解答を・・・。」 一つだけある。 そこまでしてこの国が欲しがるようなモノが…。 それは―― 「ディールダインだろう?」  そのクーガの解答にカタリナはニヤリと笑って言った。 「正解だ。」  妖魔、それはこの世界のもう一つの支配者。 そして人間の天敵である。 人ならざる生命体であり、様々な個体が存在する。 一城ほどの巨躯を誇るモノも存在すれば、魚のような大きさの個体も確認されており、上位の妖魔になれば人間の知能を大きく上回るものもいるとされる。 何時からそれが存在していたのか?というとそれは不明である。 かつてそれの生態の全てを明記してあった書物があったらしいが、今ではそれに関する事を書かれたといわれる書物は全て行方知れずになっており、妖魔が一体どのような存在なのかはわからない。 一説によるとイングラ王国にその一部が王宝として存在しているらしいが、その真否は不明である。 唯一わかっているのは妖魔にとって人間はあらゆる傷や病魔を癒す特効薬であるという事だ。 ゆえに妖魔は人間を喰らう。 そんな妖魔と人間達は闘うために様々な術を編み出した、それがイングラ王国の鋼機であり、スーサウ共和国の鋼獣である。 だが、妖魔の力を利用した鋼獣と比べ、イングラ王国の鋼機はそれ自体では妖魔の抑止力としてはどうしても弱い点もあり、下級妖魔ですら2桁を越える量の鋼機で立ち向かわなければ戦いにすらならないようなものだった。 今から80年程前、イングラとスーサウの二国間の戦争が終わった際、世に言うリヴァイアサン事件で受けた災害の復興に協力するという条件の下に一つの鉱物を安価で貿易する品として扱う事を要求した。 それが鋼機開発に変革をもたらしたといわれる特殊エネルギー増幅源である鉱石、ディールダインである。 その鉱石を用いたエネルギーパイプは機体全体に流すエネルギーの伝達効率化を図るどころかそのエネルギーを増幅するという特別な作用があり、それを利用して鋼機に搭載される動力機関の縮小化、軽量化、効率化に成功した。 これはまさに鋼機におこった革命だったといっても過言では無い。 だが、このディールダインは希少なモノであった。 復興が終わったスーサウ共和国は貿易においてディールダインを出す事を渋るようになる。 元々このディールダインはスーサウにおける鋼獣においても重要な素材であったため、国防も兼ねていた事もありこれは当然ともいえた。 問題は、ディールダインの供給が容易でなくなったという点である。 現在のイングラ王国はその優れた機械技術を提供する事で少々高値であるがディールダインを買っている状態になっている。 つまりは、もしイングラよりも遅れているといわれるスーサウの技術レベルがイングラのレベルまで追いついてしまったら、スーサウ共和国にとって、イングラは本当に用済みになってしまう。 ゆえにイングラ王国にとって独自のディールダインの供給源を見つける事は急務であった。 「まったく、ヒントを与えるからゲームが台無しだ。」 カタリナはボヤくように言う。 「だが、別に自力で鋼機までは辿りついたじゃないか、俺様は後押ししただけだ。」 「あのなぁーそれが、まず・・・あーあーあーあー、もういい、それが本筋では無いしな、クーガ、君の回答した通りだ。このイアナーラ地方にディールダインがある事が判明した。」 カタリナは新しい煙草に火を付ける。 「あんた一体、一日に何本吸うんだ?」 ふと、クーガは純粋な疑問を質問する。 この部屋に三人で集まって既に30分ほど経過したぐらいだが、灰皿には既に5本もの吸殻が置かれていた。 「数えた事など無い、暇があれば吸っているからな。」 当たり前のようにカタリナは答える。 セイムはそれを快活に笑って言った。 「こいつの部屋は凄いぜ、文字通り煙草の山だからな、それに――」 「――セイム、何時、私の部屋に入った?」 空気が凍る。 カタリナの声に静かな怒気が含まれていたからだ。 「ま、まあ、そんな事は置いておいて本題の話をしようぜ、な、な?」 触らぬ神にタタリ無し。 そうとでも言わんばかりにセイムはクーガに指を刺して話の矛先をなんとか反らそうとする。 だが、触らぬどころかもはや突っ込んでるの領域に突入しているようで、なんかもう色々手遅れのようにクーガには見えた。 とはいえ、セイムの一言にも一応の効果はあったらしくカタリナはクーガを見てぐっと息を呑んで、6本目の煙草に火をつけた。 それを見て少し残念そうな顔をしてクーガは言う。 「別に俺のことは気にしなくていいよ、なんというかさ、見てて楽しいというか――」 そのクーガの発言に対してセイムとカタリナは大声をあげて・・・。 「俺様は!」 「私は!」 「「全然楽しく無い!!!」」 その二人の怒鳴り声のシンクロ具合にクーガはただひたすら凄いなと関心していた。  【3-2】に続く
それがなにか?と問われるならば舞踊だった。 一人の少女は町外れの小さな劇場の舞台で踊る。 少女の衣服は赤を基調にした軽いもので肩から腰まで伸びる羽衣が特徴的だった。 少女の舞踊がみるも無様なものだったのか?と問うならばそれは否定される。 いや、もし形容するならばそれは天女を思わせるような美しさがあった。 暗い舞台に一つのスポットライトという演出がまたそれに妖艶な…とでもいうべき美しさを与えていた。 見るものの心を掴む美しさ、これこそがまさに天から彼女に与えられた才能だったのだろう。 その最中、彼女は宙に浮く。 飛び跳ねたような様子もなく、本当に宙に浮き、留まった。 少女は宙に浮いてそのまま舞踊を続ける。 これこそが彼女の一族が代々口伝してきた技術であり、秘術だった。 人はそれを天女舞と呼ぶ。 もし、何も知らぬ人が見るならば劇場は驚きに声にならない声を上げて感動し拍手がおこるのだろう。 だが、それは起こらない。 劇場は100人分用意した席のうち5席しか埋まっていないのだ。 その内2人は少女の身内だ。 そして起こるのは罵声。 たった、三人の客は全てまだ、年が12もいっていないような少女に歓声でも拍手でもなく、ただ耳を壊すような罵声を送る。 舞踊が酷かったからではない。 それはしいて言うならば、彼女の一族が受け続ける受難であり咎。 一族がかつて犯したという大罪、そしてその一族であるが故に彼女もその咎を受け続けている。 だが、少女は泣く事は無かった。 既に罵られ続けることには慣れていた。 だから涙は既に枯れている。 何故、そこまで言われてやめないのか? 少女は信じていたのだ…いつか報われる日がくるという母の言葉を…。  シャドウミラージュ 第三話「変幻する糸」 そこはくたびれたというべき印象を持つ会議室。  色々な機器がその部屋中に置かれてはいるが、あまりにそのくたびれた風景と似合わないような光を放っていた為、 誰が見てもそれは最初からこの部屋にあったものでは無く、つい最近この部屋に持ち込まれたものだという事が理解出来ただろう。 言うなればそこは廃墟だった。 別にその会議室のある建築物だけが廃墟だったというわけではない。 街に数多とある建造物は半壊しているモノも多く、まともな形をしている建造物は数えるほどしか無い。 そう、この街イアナーラは言うなればゴーストタウンとでも呼ばれるような、誰も住んでいない街だった。 正確には誰も住めなくなった街というべきか。 そんな街に人がいるようになったのはほんの三週間ほど前ほどである。 当然ながらそれはこの街に住みこみ始めた一般人というわけではなく、わけありの数十名のメンバーであった。 そんな街の中にある領主の館の会議室の中に三人の人間がいた。 一人は黒髪黒眼で白衣と手に持っている煙草が特徴的な女性、もう一人は銀髪黒眼で焦茶色のジャケットを着た男、そして最期の一人は黒髪蒼眼でツナギのような服を着た男だ。 「とりあえず聞いておこうか、君はこのイアナーラという町をどれほど理解しているのかな?」 黒髪の女が手に持った煙草を吸いながらそう銀髪の男にそう聞く。 「ここが妖魔に五年ぐらい前に滅ぼされた街だという事は知っているかな、三大貿易都市の一つが妖魔の襲撃で滅びたという話は当時は大ニュースだったからね。」 ふむ、と黒髪の女は頷く。 「ならば、何故、我々がこの地区にやってきたのか?それはわかるかな?」 「貿易の拠点を取り戻す為といった所か?」 黒髪の女の問いに銀髪の男は答えた。 「いいや、クーガ、それは違う。」 横から入ってくるように黒髪の男は言った。 「違う?この地域に他の価値があるという事なのか、セイム?」 銀髪の男、クーガは不思議そうに黒髪の男、セイムに聞いた。 「ああ、そもそも今、王国は自分を守るので一杯一杯だ。例のオロチの襲撃事件以降な。  だから、今更領土を無理に広げても、それを守る程の力は無い。  だからな、例えここの地方にいる妖魔を殲滅したところで今更貿易都市としてこの街を機能させたりすることは出来ないって事さ。」 クーガは納得したように頷いたような素振りを見せる。 「なるほど、ならば今更なんでここに名うての騎士を集めて総力で妖魔の殲滅に当たらないといけないんだ?都市に近いところでももっと危なそうな所はあるだろうに・・・。」 クーガの問いは当然の疑問だった。 かつてこの国を存亡の危機まで追いやった十魔獄の一にして戦神の異名を持つ上位妖魔オロチの襲撃事件。 その事件以降、国は自分を護る為にその力の全てを費やすようになった。 だが、その守りを国の重要都市に集中させたが故にその防衛を受けられない小さな街が出てくる事になってしまうという問題も起してしまう。 国は重要都市の拡大し収容できる人数を増やしたが、その人間達の全てを収容できたわけではなかった。 言うなれば溢れて追い出され路頭に迷う人間も出てしまったという事だ。 そんな状況の国が今、わざわざかつての貿易拠点のひとつであったとはいえその地区を人間の手に取り返すという事の意味はどれほどあるのだろうか? そもそも、そんな力すらあるのだろうか?という事だ。 シャドウミラージュは護る事に精一杯な国が唯一妖魔達を能動的に倒す為の術として編成された特殊部隊だ。 だが、クーガにはその力をこの作戦が有効に活用しているという風には思えなかった。 「おう、そこが重要なんだぜ、それはな・・・。」 セイムの発言を遮ってコホンと黒髪の女は咳払いをした。 「ああ、わるい、わるい、これの説明はあんたの役目だったな、カタリナ。」 黒髪の女カタリナはやっと気づいたかという顔をし、説明を始める。 「さて、我々シャドウミラージュが今回のこのイアナーラ奪還に乗り出したのかそれには大きな理由が一つある。」  「それは?」 カタリナは手に持っていた煙草を灰皿に置き、また新しい煙草を白衣のポケットから取り出し火を付け、少し考えるような素振りを見せた後、 「単に答えを言うだけでは面白くないな、君が当ててみろ。ヒントは私だ。」 そう言ってカタリナは火を付けた煙草を吸いはじめた。 「面白くないって…。」 クーガは呆れたように言った。 「まあ、こいつは昔からこういう奴だからなぁー、答えてやらんと話すら進まないぞ。テキトーな答えを出すと怒るから気をつけた方が良い。」 セイムが憐れむような瞳で、クーガを見つめる。 「本当かよ…。」 はぁーっとクーガはため息を吐いた後、仕方が無いので考える事にした。 せっかく頂いたヒントだ、まずはそれから活用しよう。 まず目の前にいる女が何なのかだ? 知っている情報を全て並べてみる。 名前はカタリナ。 シャドウミラージュの鋼機全般の技術主任であり、王国でも随一の鋼機の技術者。 伝説の鋼技師、サンズ・ハルバート唯一の弟子。 今、世で現役を張っているD型の大体は彼女の作品であるといわれている。 つまりは彼女こそが今の鋼機技術の第一人者とでもいえるような人物だ。 それが彼女という人間の持つ肩書きである。 ―――ならばそこから答えを導き出せるという事だろうか? 流石に女性であるというのは安直だよなぁ…となると、もう一つの線で見るのが妥当だ。 「つまりは鋼機に関する事か?」 そのクーガの解答にカタリナは煙草の煙が混じった溜息吐き、 「あのなぁ、いくらなんでもそんな範囲の広すぎる解答はOKとは言えないだろ。」 と呆れたように言った。 そういわれて、クーガもそれはそうだよなぁー納得する。 確かにそれではあまりに問題にならない。 「俺様からもヒントだ、目の付け所はいい線だと思うぜ」 「セイム!!」 セイムの一言にカタリナは怒鳴りつけた。 「べ、別にいいだろ?このぐらいは・・・。」 「いいや、お前のやったのはヒントなんてレベルじゃない、問題なんてのは疑いを持っているから問題になりうるんだ。  『たぶんそうだろう…でも、これで本当に正しいのか?』という疑心暗鬼が問題の難しさになる、つまりは確信を与えてしまったら、 それは問題としての難易度がガタ落ちだよ。 次、私のゲームをつまらなくするような真似をするならばお前の機体の調整は二度としてやらんからな。」 「はいはい、わかったよ。ようわからん所に相変わらず拘りがあるようでして…。」 「お前がそういった拘りが無さ過ぎるんだ!」 「しらねーよ、俺様はそういう学が無いからなー。」 「そんなんだからお前はいつまでも格下の騎士までに――」 なんかこの漫才を見ていたくもなったのだが、それはひとまず置いておいて、クーガは真剣に問題を考える事にした。 セイムは言った、「着眼点はそこでいい」と・・・せっかくのヒントだ、活用させてもらうとしよう。 俺が着眼した事、つまりは彼女が女であること等ではなく、鋼機に関することだという事だ。 だが、わざわざこのような辺境まで来て、鋼機に必要な事というのはなんだろうかとクーガは考える。 素材――だろうか・・・? だが鉱山の類は別に不足はしていない筈だ。 ならば、なんだろうか。 鋼機に使われる希少な素材・・・。 つまり、それが解答になるのではないだろうか? 「ああ、そうか。」 クーガは理解した。 何故こんな所までこのシャドウミラージュが派遣されたのかという事を・・・。 「ほう、解答を出したようなだな。」 口から煙草の煙を吐き出し、カタリナは言う。 「では聞こうか、お前の解答を・・・。」 一つだけある。 そこまでしてこの国が欲しがるようなモノが…。 それは―― 「ディールダインだろう?」  そのクーガの解答にカタリナはニヤリと笑って言った。 「正解だ。」  妖魔、それはこの世界のもう一つの支配者。 そして人間の天敵である。 人ならざる生命体であり、様々な個体が存在する。 一城ほどの巨躯を誇るモノも存在すれば、魚のような大きさの個体も確認されており、上位の妖魔になれば人間の知能を大きく上回るものもいるとされる。 何時からそれが存在していたのか?というとそれは不明である。 かつてそれの生態の全てを明記してあった書物があったらしいが、今ではそれに関する事を書かれたといわれる書物は全て行方知れずになっており、妖魔が一体どのような存在なのかはわからない。 一説によるとイングラ王国にその一部が王宝として存在しているらしいが、その真否は不明である。 唯一わかっているのは妖魔にとって人間はあらゆる傷や病魔を癒す特効薬であるという事だ。 ゆえに妖魔は人間を喰らう。 そんな妖魔と人間達は闘うために様々な術を編み出した、それがイングラ王国の鋼機であり、スーサウ共和国の鋼獣である。 だが、妖魔の力を利用した鋼獣と比べ、イングラ王国の鋼機はそれ自体では妖魔の抑止力としてはどうしても弱い点もあり、下級妖魔ですら2桁を越える量の鋼機で立ち向かわなければ戦いにすらならないようなものだった。 今から80年程前、イングラとスーサウの二国間の戦争が終わった際、世に言うリヴァイアサン事件で受けた災害の復興に協力するという条件の下に一つの鉱物を安価で貿易する品として扱う事を要求した。 それが鋼機開発に変革をもたらしたといわれる特殊エネルギー増幅源である鉱石、ディールダインである。 その鉱石を用いたエネルギーパイプは機体全体に流すエネルギーの伝達効率化を図るどころかそのエネルギーを増幅するという特別な作用があり、それを利用して鋼機に搭載される動力機関の縮小化、軽量化、効率化に成功した。 これはまさに鋼機におこった革命だったといっても過言では無い。 だが、このディールダインは希少なモノであった。 復興が終わったスーサウ共和国は貿易においてディールダインを出す事を渋るようになる。 元々このディールダインはスーサウにおける鋼獣においても重要な素材であったため、国防も兼ねていた事もありこれは当然ともいえた。 問題は、ディールダインの供給が容易でなくなったという点である。 現在のイングラ王国はその優れた機械技術を提供する事で少々高値であるがディールダインを買っている状態になっている。 つまりは、もしイングラよりも遅れているといわれるスーサウの技術レベルがイングラのレベルまで追いついてしまったら、スーサウ共和国にとって、イングラは本当に用済みになってしまう。 ゆえにイングラ王国にとって独自のディールダインの供給源を見つける事は急務であった。 「まったく、ヒントを与えるからゲームが台無しだ。」 カタリナはボヤくように言う。 「だが、別に自力で鋼機までは辿りついたじゃないか、俺様は後押ししただけだ。」 「あのなぁーそれが、まず・・・あーあーあーあー、もういい、それが本筋では無いしな、クーガ、君の回答した通りだ。このイアナーラ地方にディールダインがある事が判明した。」 カタリナは新しい煙草に火を付ける。 「あんた一体、一日に何本吸うんだ?」 ふと、クーガは純粋な疑問を質問する。 この部屋に三人で集まって既に30分ほど経過したぐらいだが、灰皿には既に5本もの吸殻が置かれていた。 「数えた事など無い、暇があれば吸っているからな。」 当たり前のようにカタリナは答える。 セイムはそれを快活に笑って言った。 「こいつの部屋は凄いぜ、文字通り煙草の山だからな、それに――」 「――セイム、何時、私の部屋に入った?」 空気が凍る。 カタリナの声に静かな怒気が含まれていたからだ。 「ま、まあ、そんな事は置いておいて本題の話をしようぜ、な、な?」 触らぬ神にタタリ無し。 そうとでも言わんばかりにセイムはクーガに指を刺して話の矛先をなんとか反らそうとする。 だが、触らぬどころかもはや突っ込んでるの領域に突入しているようで、なんかもう色々手遅れのようにクーガには見えた。 とはいえ、セイムの一言にも一応の効果はあったらしくカタリナはクーガを見てぐっと息を呑んで、6本目の煙草に火をつけた。 それを見て少し残念そうな顔をしてクーガは言う。 「別に俺のことは気にしなくていいよ、なんというかさ、見てて楽しいというか――」 そのクーガの発言に対してセイムとカタリナは大声をあげて・・・。 「俺様は!」 「私は!」 「「全然楽しく無い!!!」」 その二人の怒鳴り声のシンクロ具合にクーガはただひたすら凄いなと関心していた。  【3-2】に続く #back(left,text=一つ前に戻る)  ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) #region #pcomment(reply) #endregion

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