テーマは罪滅ぼし。
 といっても暗いというよりは明るく、後ろを向くよりは前を向こうとする話。

 物語の舞台は亜赦の世界。
 三つの大陸を六つの国家により分割し、統治している世界。国という概念が形骸化し、街という独自の統治機構が存在する世界。
 この世界において、科学技術というのはそれほどメジャーなものではなかった。大陸を横断する鉄道や車といった移動機関はそれなりに広まってはいるものの、その仕組みを理解し、同じものを作れるのはごく一部に限られていた。
 その科学技術がもっとも発達している、南の大陸はレイレナード共和国、首都アーリア。その研究機関では、飛行機械の開発が行われていた。
 ソフィア=イルフェルトとヨシュア=イルフェルトの兄弟はその開発に携わっていたのだが、試作機が出来上がり、ついにテストフライトとなる。
 フライトは成功。喜ぶヨシュアとソフィアだが、上層部はこれで兵器転用が可能になると別の喜びを見せる。ヨシュアは、この技術は兵器として使うべきではないと主張するが、当然上層部からの反感を買ってしまう。ヨシュアは撃墜されてしまい、事故として処理される。
 フィオナは哀しむも、事故という上層部の嘘を信じ、再び研究を開始する。
 そして半年。フィオナの元に、一通の手紙が届く。差出人不明、あて先はフィオナ=イルフェルト。そこには、ヨシュアの筆跡で「東の街にいる」と記されていた。
 兄が生きていることを知り、彼女はいてもたってもいられなくなり、兄と二人で映った写真と手紙を手に飛び出していく。
 正規のルートで街を出ようとするも、レイレナード側は首都を出ることを認めてくれない。止む無く、彼女は裏から街を出る。当然追いかけるレイレナード。
 首都からすぐのところの岬で、彼女は追い詰められる。大人しく戻れ、というレイレナード側に、絶対に戻らないと言って彼女は海へ飛び込んだ。
 嵐の夜。波は高く、彼女の姿は見つからない。

 そして本編スタート。
 首都から二日ほどのイクバの街。嵐の夜から一夜明けた朝。イクバの街は、三年前にこの街を襲った戦争を悼む、『災禍の日』を目前に控えていた。
 イクバの街に住むユミールは、海沿いに建てられた慰霊碑へ向う途中、海岸に打ち上げられた人を見つける。嵐で打ち上げられた水死体かと思えば、それはまだ息のある女の子だった。
 ユミールは彼女を家へつれて帰り、看病することに。
 程なく眼を覚ます少女。どこの誰かを訊ねるユミールだが、彼女は記憶を失っていた。何か持っているものはないかと探してみると、一枚の写真と手紙だけ。
 その手紙を見た途端取り乱す少女。彼女はなにがなんでも東のオーメルの街へ行きたいのだという。だが、衰弱しきったその体では無理だと言うユミール。しばらく休むようにいい、少女は再び眠りにつく。
 眠りの中で、彼女は実験中のことを夢に見る。自分の名を呼ぶ兄の声を聞いて飛び起きるが、そこに兄はいない。夢から覚めて、彼女は自分の名前――フィオナという名を思い出す。
 起きたフィオナだが、そこには誰もいなかった。ぼんやりと、誘われるようにして外に歩いていく彼女。街は、どこか浮き足立って活気付いていた。歩いていくフィオナは、途中街の人たちに声をかけられる。街の人たちは皆、彼女がユミールに助けられたということを知っていた。彼らにユミールの場所を訊ねると、海岸沿いの慰霊碑にいると教えられる。
 慰霊碑にやってきたフィオナは、ぼんやりと空を見上げるユミールを見つける。

 災禍の日を迎える街。祭りが催される中、レイレナードより、この街にかつて兵器を開発していた研究者が逃げ込んだ恐れがある、とのお触れと、写真が配られる。
 一人街を歩いていたフィオナを見かけた街の人たちはそのお触れを聞いて写真を見、彼女が災禍の原因を担っていたことを知り、出て行けとののしる。
 フィオナは怯え、ユミールの元へ逃げていく。それを追う街の人。
 ユミールは怯えた表情で家に飛び込んできたフィオナを見てだいぶ驚く。そして、街がどこかおかしなことになっていることに気付いた。彼はフィオナを隠し、大人しくしているように言いつけると外に出てなにがあったのかを聞こうとする。フィオナはどこへ行った、と血相を変えてユミールに食って掛かってくる街の人たちに、慰霊碑のほうじゃないかと嘘をついて、ユミールは慌てて家に戻る。
 震えるフィオナと共に、彼は街を脱出。行くアテもない二人は、フィオナの唯一持っていた手紙を頼りに、東のオーメルの街へ向うことへ。フィオナはパスを所持していないので交通機関を利用するわけにも行かず、徒歩の旅となる。
 道すがら、フィオナはユミールが両親を災禍により失ったこと、兵器を憎んでいることを知る。自分がその兵器を作っていたのかもしれないことに怯えるフィオナ。

 そんなこんなで到着するオーメルの街。ところが、そこで待っていたのはレイレナードの軍だった。
 ご苦労、とユミールに言う隊長らしき人物。ユミールとその男は何の関係もないのだが、ユミールに騙されたと思い込んでしまうフィオナ。ユミールは違うと弁解するのだが、聞き入れられない。
 結局、彼女は成すすべもなくさらわれてしまう。楯突こうとするユミールだが、それを一人の青年に止められる。それはフィオナの持っていた写真に写っていた青年だった。


 彼は彼女の兄、ヨシュアだと名乗った。ただ見ているだけだった彼に、ユミールは食って掛かる。彼はユミールをなだめ、ただ突っ込むだけでは何も解決できない、という。
 解っていてもやりきれないユミール。何も出来ない自分に絶望した彼は、一人街をあとにしようとする。
 目をそむけるのは簡単だ、と兄は言う。立ち向かうことは確かに辛い。逃げるも立ち向かうもお前の自由だと。そして、彼はこの街の宿にいると言い残し、去っていく。
 公園で人々を見ながら、ずっと悩み続けるユミール。平和な家族連れや、彼らが遊ぶ様子を眺め、やはり軍部を許せないとユミールは思う。
 ヨシュアの泊まっている宿を訪ねたユミールは、自分も立ち向かうことを彼に告げる。ヨシュアはそれに頷き、首都アーリアへ向う手はずを整える。
 以前はフィオナのパスがないために利用できなかった鉄道に乗り、一路アーリアを目指す二人。その中で、ヨシュアはユミールの出身を訊ねる。イクバの街と知った彼は複雑な表情で、ただ小さく頷いただけだった。
 そして、ヨシュアはまた、何故フィオナを助けようとするのか、とも訊ねる。ユミールは、よくわからないけれど、途中まで乗りかかった船だから、といっていた。
 その頃。
 国立研究所に連れ戻されたフィオナは、自分の部屋――だというところに軟禁されていた。
 そこにやってくる、フィオナを連れ去った男。怯えるフィオナに、男は冷ややかな視線を向ける。
 何も覚えていない、という彼女に対して、けれど男は冷酷に言い放った。
 覚えていない、などといって逃げられることではない。すでに、彼女は何千という人々を手にかけているのだ、と。
 意味が解らない、というような彼女に、男はついて来い、といって、彼女をある部屋へと案内した。
 再びユミールとヨシュアのほう。
 アーリアまで到着した二人。けれど、アーリアに正面から進入するのは危険すぎる、と、ヨシュアは不正規なルートを使い進入することに。
 進入後、二人は国立研究所へと潜り込むため、裏口を爆破する。潜入に成功する二人だが、ヨシュアは見せたいものがあるといい、ユミールをある部屋へと連れて行った。
 そこは、大きな資料室だった。いぶかしむユミールに、ヨシュアはその中から一冊のファイルを差し出した。
 それは、イクバの街における戦闘で、彼らの開発した兵器の威力、効果、それによって死亡した人数などのデータだった。
 開発者は、フィオナ=イルフェルト、ならびにヨシュア=イルフェルト。
 言葉を失ったユミールに、お前の両親を殺したのは、自分たちだとヨシュアは言う。それでもお前はフィオナを助けるのか、と。
 沈黙の後、彼は助ける、と頷いた。
 ヨシュアは満足したように、なら行こうと踵を返す。フィオナは恐らく自分の研究室にいるはずだ、と、ヨシュアの先導にしたがってユミールは研究所の中を進んでいく。
 フィオナの部屋の前は、やはり警戒が敷かれていた。
 ヨシュアは自分が引き受けるといい、ユミールを強行突入させる。ドアを蹴破って入っていった先では、フィオナが驚いた様子で入ってきた彼を見つめていた。
 助けに来た、逃げよう、と差し出される手を、彼女は拒絶する。自分ではない自分が何人もの人を殺していたと彼女は言う。そしてまた、ユミールの両親をも殺していたとも。
 ユミールは沈黙するが、その後ではっきりといった。
 たとえそうだとしても。そこで逃げ出してしまってはいけないんじゃないか、と。生きて、戦う義務があるんじゃないか、と。
 それでもなおも迷う彼女に、ユミールは、自分の両親の分も生きてくれ、と言う。彼女は迷いながらも、ユミールの手を取った。
 部屋の外にいたヨシュアと合流し、脱出しようとする一向。ヨシュアの先導で研究所上部へと向う彼らだが、階段を駆け上がる途中で階下から迫る追っ手に追いつかれてしまう。
 ヨシュアは追っ手は自分が引き受ける、といい、ユミールに一通の手紙を渡した。そして、上の格納庫に脱出するための乗り物がある、と告げて背を向けた。
 立ち止まるユミールとフィオナだが、ヨシュアに一喝され、後ろ髪引かれる思いで上へと向う。
 ヨシュアの元には、以前オーメルの街でフィオナを連れて行った男がやってきた。
 そして、銃声。

 格納庫へと辿り着いた二人だが、そこにあったのはよくわからないものだった。ユミールは見たこともない様子で首を傾げるが、フィオナだけはすぐにそれが何かわかったようで、逃げ出すためにユミールに指示を出す。
 格納庫の壁が開いていき、青い空が覗く中、動かせるのか、と訊ねるユミールに、フィオナは自信たっぷりに笑って、これを作ったのはわたしだから、と言ってその機械――飛行機を大空へと舞わせた。

 アーリアの制空域から離脱して程なく。空を飛ぶ飛行機の中で、ユミールはヨシュアから預かった手紙を開いた。
 その手紙には、これを読んでいるということはヨシュアはもうこの世にいないであろうこと、そして、フィオナへのメッセージが書かれていた。
 自分たちが作ってしまった兵器は消えない。それで何人もの人を殺めてしまった事実も消えない。だからこそ、そこから逃げず、自分の力を使って、それを償う方法を探してほしい。
 ヨシュアはこの空を飛んで、そう思った。
 フィオナはこの空を、兄が見た景色を見ながら、そうやって生きようと決めた。

 ユミールをイクバの街まで送った後、フィオナはアーリアへ戻ると言い出した。
 何のために戻るのかと訊ねるユミールに、フィオナは自分でけじめをつけるためだと答えた。
 記憶が戻ったのか、という問いに首を振って、記憶は戻らないけれど、自分がしてきたことはきちんと決着をつけないと前に進めない、と彼女は言う。
 心配そうなユミールにフィオナは笑って、無事にまた、会いにくるからと告げる。
 もう一度、空を飛ばせてあげる、と約束を交わして、フィオナは飛行機で飛んでいった。

 (再会のエピソードは入れるかどうか微妙なところですが)
 それから一年。
 災禍の日を間近に控えたある日――ユミールとフィオナが出会った日。イクバの街の上空を、大空を舞う機械が飛んでいた。


補足説明

 流れとしては、本編中、フィオナの見ている夢として過去の出来事を少しずつ描写していく構成を想定しています
 ヨシュアが行方不明になった事故をメインに、かつて自分が携わっていた研究について、そして空を飛ぶ機械についてというところまで触れられるようにしたいところです



<キャラ資料>
 主人公 1
 名前: ソフィア=イルフェルト
 年 : 14~16?
 備考: 記憶喪失になっていた女の子。正体は天才科学者であり、また、レイレナード共和国第二研究室に籍を置く、兵器開発者でもある。レイレナードの技術力、戦力が発展した背景には彼女の存在がある。
 兄共々飛行機械の開発に携わっていたが、テストフライト時、兄が謎の言葉を残し消息を断ったことを気にしている。そして半年後、兄から届いた手紙により、彼が東の国境付近の街にて生きているということを知ると、いてもたってもいられなくなり飛び出してしまう。意外と激情家

 主人公 2
 名前: ユミール=グスタフ
 年 : 17
 備考: ソフィアを拾った?男の子。レイレナード共和国の首都に程近い、イクバの街出身。好きなことは空を見上げること。
 イクバの街を襲った戦火により両親を失っている。両親は空にいる、なんて子供だましを信じているわけではないが、空に憧れがある。
 戦争を憎み、兵器を憎んでいる。

 兄
 名前: ヨシュア=イルフェルト
 年 : 20
 備考: レイレナード共和国第二研究室に籍を置く、兵器開発者。妹共々優れた頭脳を持つとして兵器の開発に携わっていた。
 科学の持つ可能性と、そしてまたその力の強大さを知り、世界の広さに触れてそれを軍事力以外に活かすべきだと考える。
 その思想を危険としてテストフライト中に撃墜され、死亡したことになっているが生存。フィオナに連絡を取り、彼女に居場所を知らせるが、それが裏目に出たのか今回の事態を引き起こしてしまうこととなる

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最終更新:2010年04月11日 21:43