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6、甘い毒


「――――というわけで、本当にそんな薬物があるのかを調べているのよ」
 ハーベストストリートでの売人との会話から数時間。桜夜楽とアルシアの姿はメインヤードにあった。
 文化施設や研究機関が多いメインストリートの中でも、特に学術関係の施設が密集する通りに、総合薬物研究所はある。ここでは複数の薬剤師や製薬関係者が新薬の開発に取り組んでいる。
 その一室、白衣をはおった女性と二人は向かい合っている。女性のネームプレートには、『神足千佳 OSITARI TIKA』と書かれている。
「理論的には十分可能ですよ」
 研究所所属の研究員で学園の生徒だという千佳は、愛想よく答えた。
「そもそもサイキッカーなんかは、人間の体の普段使用しない部分を、薬品や条件付けによって開発し、利用してますからね。でも、普通はあまりやらないでしょうね」
「そりゃあね。この時代、体が資本なんだから、それをぶち壊すなんてアホとしか思えない」
「でも、それでも力が欲しいひとはいると思いますよ。だって、無力ってとてもみじめじゃないですか」
 おっとりとした口調で、千佳は言う。桜夜楽はうーんと首をひねった。
「そんなもんかな? でも私なら、それやるくらいならサイキッカーとして開発うけるか、思い切ってサイボークになるけどなぁ」
「誰でもサイキッカーとして強い力が得られるとはかぎりませんし、サイボークは手術代やメンテナンスが大変ですからね」
「うーん、言い訳っぽいなぁ」
 桜夜楽は、上位ランカーである。
 ランカーの中では比較的目立たない立場にあるが、それでもランカーであることには変わりない。彼女がこの地位にいることができるのは、たまたま特徴的な能力をもっていたからという理由もないわけではないが、大部分は努力によるものだ。
 ミスティックは複雑怪奇な異能を操るが、その分リスクや発動条件が多い。だからこそ、強いミスティックとは、滅多にないタイプの能力や巨大な破壊力を持つ能力とイコールではない。本当に強いミスティックとは、己の力の特性を知り尽くし、能力を手足のように使える人間のことだ。たとえ巨大な力を持っていても――あるいはもっているからこそ――それを扱いきれなければ、自滅する。
 そうならないためには、やはり努力の積み重ねが必要だ。職人や普通の格闘技だって同じだ。そしてそれと同じくらい、鍛錬しても限界があることもまた、仕方ないことだ。
 問題は、個々人の限界が見えた後。その限界すら利用して己の一部にできる人間だけが、ランカと呼ばれるエリートになれる。
「どうしようもないことはある。そこから這い上がろうとするのは立派だよ。でも、自分を使いつぶして、一瞬だけ花を咲かせるなんて――間違ってる」
「誰にも見られないまま消えていくよりはまし。そう思う人だっているわ。あなたはちゃんと努力が実ったから、そうは思えないかもしれないけど」
 千佳はふんわりと笑った。
「…………克服できない弱さはある」
 黙っていたアルシアがぽつりとつぶやく。
「それは罪でも、努力が足りないからでも、日ごろの行いが悪いわけでも、才能がないわけでもない。ただ、弱い。そして、だからこそ強い。その弱さは弱さゆえに、周囲すべてを巻き込んで自滅していく。だから強者は弱者を排除するし、その権利がある。弱さに巻き込まれないために。それがまた弱さを助ける。無限のスパイラル。抜け出せない迷宮。どちらが悪いわけでも、良いわけでもない。甘美な毒と分かっていても、飲みほしてしまう」
「あ、アルシアがまともなこと喋ってる!?」
 桜夜楽は違うところに驚愕した。
 問題はそこではない。
「………………」
「ごめん、怒った? アルシア」
「……えーと、あれ? すみませんです。ぼけっとしてましたです」
「今のセリフしゃべったの誰よ!?」
 桜夜楽は本日二度目の絶叫をした。
「まさかアンドロメダの宇宙意思が!?」
「なんだか知りませんけど、用事すんだなら、帰ってもらえません? こっちも忙しいんですよ」
 淡々と千佳は言った。確かにそのとおりなので、桜夜楽は黙る。
「……そういえば、なんでダイナソアオーガンが麻薬なんて調べているんです?」
「なんか篭森社長が調べろって。個人的な興味も混ざってるよね、あれ」
「桜夜楽。決めつけるのよくないですよ」
「そう」
 千佳はあいまいにうなづいた。