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 大衆食堂らしい活気が漂ってくる。お昼時ということもあって、店内は非常に賑わっている。
「僕はエビチリが食べたい気分だな」
「俺は健康野菜のランチセットで」
給仕が注文を聞いて下がると、桔梗は宗谷に向き直った。
「お前さ、何が分かったんだよ」
「色々、とね。いや、でもそこで殺人鬼コンビに会わなかったら気づかなかったかも。やっぱり、人との出会いは宝物だね」
 そういいながら、宗谷は肩にかけていた鞄を下ろして中からモバイルパソコンを引き出すと、カタカタとキーボードを叩き始めた。
「お前な、変人好きもいい加減にしないと、そのうち死ぬよ」
「人間はどんな人でも、全員死ぬよ」
 桔梗は深々とため息をついた。そのため息も、雑踏にかききえる。
「で、あれはどういう意味なんだよ」
「桔梗。君は、人間が人間を解体する場合、どういう意味があると思う? それが問題だったんだよ」
「え、そうだな」
 腕組みをして、桔梗は考える。
「まずは、ばらばらにして楽しむ猟奇趣味の殺人鬼。後は、死体を隠したいとき持ち運びに便利なようにばらす。身元を分からなくするためって可能性もあるが……昔ならともかく、今なら肉片からでも身元分かるから、それはどうかな。あー、でも発覚を遅れさせるこはできるかもな」
「それだけ?」
「後は、北王のとこの料理人――マリアみたいにばらして食べる」
「まあ、そんなところだね。じゃあ、生物をばらばらにすることに慣れているっていうのはどういうひとだと思う?」
「知らねえよ」
 怪訝そうに桔梗は眉を顰めた。
「お前、何が言いたいんだ?」
「重要なんだよ。それが分かると、大体分かってくる」
 モバイルパソコンの画面から視線をそらさず、宗谷は答えた。
「一つは殺人鬼と食人鬼。分かりやすいね。後は、医者。解剖や摘出をするから」
「そういえばそうだな。外科医とか」
「そして、食肉業者。この辺は生物に詳しいから、暗闇でも正確な解体ができる。ここで重ねて質問。この三者の解体方法は同じだと思う?」
「……いいや」
 桔梗は首を横に振った。
「殺人鬼は楽しむためにばらすし、医者は臓器を傷つけないように切る。食肉関係なら、医者よりは雑だが、殺人鬼みたいにぐちゃぐちゃにしたら商品にならない」
「正解。そこから考えて容疑者を絞ってる」
「んー、医者、医者はいっぱいいるよな。フェラリス畜産か。有名どころでは」
 ファラリス畜産協会は校内最大の牧場リンクである。
「でも食うなら持ち帰るだろ。マリアは持って帰ってるぜ」
「いや、食べるのが目的ではないと思うよ。桔梗、マリアを基準にしちゃいけない」
 マリアことマリア・レティシアは、序列290位【デビルシェフ(悪魔的料理人)】のエイリアスを持つ天才料理人で、同時に人間すら食材とみなす異常者である。
「この前も生徒が追われてたから、見てられなくて介入したが」
「君が食われないようにね」
「私は煮込み料理に適していると言われたぞ。だが、刺青が多いから皮は食えないとか何とか言ってたな」
「うーん、全然使えないといわれるよりはいいんじゃないかな」
 どちらでもあまり有難くない。
「それはともかく、この犯人だけど、行動範囲が西と北の間あたりに限られていること、解体手段と手際のよさ、残っていた肉や臓器の状態から判断してかなり絞れる」
 すうと宗谷の顔に笑みが浮ぶ。何かを見つけた子どものような好奇心と、同じ量の残虐な愉悦に歪む目だ。
「楽しいね。今夜くらい会いに行こうかな。臓器を切り出してる人に」
 丁度その時、エビチリが運ばれてきた。赤いタレの中に食材が鎮座している。料理の形式上、かなりどろどろした外見だ。そして、赤い。
「…………」
「桔梗、食べないのか?」
「俺、やっぱ帰るわ。お前の猟奇趣味、許容できねえ。というか、許容したらなにかが終わる気がする」
「酷いな」
 宗谷は笑いながら、血のように真っ赤なエビチリに躊躇うことなく箸をつけた。