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ファンキーレディオ放送局1

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tokiya

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奇抜な形の車、ファンキーレディオ号が高速で走り込んできて、建物とぶつかる寸前で超ドリフト。
途中で何人か跳ねた気がするが、気にしない。
『あーテステステイストー! マイク良し、スピーカー良し、被害者良し!』
『いやよくねぇよ!』
轢き逃げ、いや、轢き逃げずの現場を見た誰もがツッコむ。
しかしそこは学園トランキライザー生徒、まだ息はあるようだ。
『病院呼んだから大丈夫! ―――いや大丈夫じゃないよコレ! 逃げて! 病院逃げて!』
『何言ってんだアンタ!?』
脈絡と意味のない言葉に恐れおののく生徒たち。
『にゃーみゃーにゃー』
『本当に何言ってんだ!?』
何か電波を受信しているのではないかと恐れおののく生徒たち。
「おいおい、気にしちゃ駄目だぜ少年ども」
「もしかして予科1年か? だったら知らなくても仕方がねぇな」
「最近大人しかったですからね。ですがまぁ、生で見かけるとやはり嬉しいものです」
「今日はどのコーナーだろうなぁ」
驚愕する生徒に向けた声が所々から聞こえてくる。彼ら、一年以上学園に在籍している者ならば、そんなに取り乱すことはない。なぜなら,いつものことだから。
また、驚愕しているように見えた生徒達の中でも、本心から驚いていたのは少数だろう。大半は、わざと驚いたように見せていただけ。自発的なサクラといったところか。
『にゃっほー,皆久しぶり☆ 元気にしてたかな! 逢ちゃんはいつでもどこでも何度でも元気だよ!』
何度でもとはどういう事だろうか。実はそんな元気ではないのかもしれない。
『はてさて準備がオールレディー! 老若男女にロボも置物も何でもいいからステイチューン! お休み中の会長さんも遊び中の総代さんも演奏中の団長さんもストーキング中の盟主さんもお仕事中の探偵さんもおやつ中の女王さんも暗躍中の皇帝さんもその他の皆も纏めてレッツリスン! チャンネル電波はこのままで、もしも変えたら呪われちゃうよ!』
どうも彼女は東西南北の有名人を名指ししているような気がしているが、きっとそんな事はない。
東と北の会長が休んでいたり、南の総代が遊んでいたり、西の団長が演奏していたり、日系リンクの盟主が東の会長をストーキングしていたり、南の名探偵が事件を追っていたり、中央の女王がおやつを食べていたり、地下の溝鼠の皇帝が暗躍していたりするなど……全くもってその通りだった。
ただ、陰口や世間話でこういう事を言う生徒は多くとも。学内全土に響く電波放送でそれを言う事ができるのは、学園広しといえども彼女とTLNのキャスターくらいだろう。
『それでは、今日も貴方に強制試聴☆ ファンキーレディオ、はっじまっるよー!』
彼女、一二三逢が、高らかに番組開始を宣言した。


『じゃあ早速開始宣言! 今日はナニから行こうかな☆ 学内の恋バナとか皆興味あるよね! あるよね! 恋バナに興味ない女の子なんていませんもんね! 南の恋模様とか気にならないかな? いつ血の雨が降るかDOKIDOKIだもんね!』
南の恋模様といっているが、誰を指しているかは歴然だ。
驚異的なモテ度と凶悪的な鈍感さを有する事で恐れられている、あの男しかいない。
彼の周辺が複雑怪奇に絡まり合った糸の如くカオスを織り成しているのは周知の事実で、だからこそ関心も高い。車の周りに集まった面々も、スピーカーから聞いている面々も、フリーターのトップランカーや学園の女史、その他多くのリスナーが注意深く耳を済ましている。
『最初は皆のそんな気持ちに答えて! ”第32回、トップランカーに聞いてみよう!”から始めるね☆』
『おいぃ!?』
最初の盛り上げはなんだったのだろうか。期待した生徒の何人かが抗議の声を上げる。けれどそんな声は車内まで届かないようだ。
『今日は【ソードオブナイト】 クロエちゃんにアテンション! それじゃプレイヤーちゃんをポチッとね☆』
この時代のプレイヤーに雑音などは入らない。クリアな音声で、録音内容が吐き出される。



Q.夜識夜巖との出会いについて、教えてください
A.ボクとご主人の出会い? そうだね、言うなれば”成るべくして成った”かな? 
場所は孤独のボルムセ島、ここがボクの眠っていた所。人が眠っているところを起こしたのがご主人さ。

あの時は傑作だったよ。寝起きのボクが、ご主人に剣を突きつけたんだよね。いや、あれはちょっと刺さってたかな?
でもご主人は相変わらず。全然驚いた様子を見せない。どころか、ボクをあしらってみせてさ。ボクは気づいたら引っ張り出されてたよ。その時に気づいたのかな。この人は間違いなくご主人だ、って。

後はボクを逃すまいとする変態から逃げきって,今に至るというわけだね。


Q.なぜ、”ご主人”なのですか?
A.何でって言われてもね。ご主人はご主人だから。
身体能力は決して高い訳じゃない、人間の極地にはいるけれども人間を超えていない。それでも自分に出来ないことは何一つないと確信する自信屋で皮肉屋の変な奴。
けれど、ご主人はいつだって、何とかしてみせてきた。決して人では届かないと言われた所に、人の身で辿り着く。人では勝てないと言われる相手に、人の身で勝って魅せる。どこまでも真黒だけど、どこまでもお人好し。
それがボクの最初のご主人で、今のご主人。
ボクはご主人をずっと待っていた。今までに使い手は何人も来たけどね。ボクがご主人と認めたのは後にも先にも一人。いや、この場合は二人かな?
まぁ、1億と2万年経ってもっと恋しくなる相手がいる事だしね。ボクがご主人をご主人と定めたのは当然っちゃあ当然だよ。
若い身空で一人に決めるのは,多大な決断力が要ったけどね。


Q.指示に対して受け身すぎるのではと言われていますが。
A.剣が自分で勝手に動くのは、不穏ってもんだよ。
ボクは良くも悪くもご主人の使い方で変わる。ご主人がうまく振るえば無双の剣、下手に使えば無用の剣って具合にね。だからボクが受け身ってことは,ご主人がそれだけうまく使ってる証拠さ。
やっぱりボクのご主人はあの人しかいないね。例え二億の時間を経ても、やっぱりご主人を選ぶかな。


Q.それにしては、夜識夜巖へ普段の扱いが酷いのでは?
A.ご主人の意図があればその通りに動くけど、手荒く使ったり乱雑にすると思わぬ事故で傷つけちゃうでしょ? 意図がない時にボクが動くってのはそういう事なんだよ。
それにご主人の困り顔とか焦った顔を見たことある? 面白いよーアレ。あの顔が見たくてやっているって言っても過言じゃないね。ひとえに愛の鞭って奴かな。


Q.最後に一言、メッセージをお願いします。
A.メロンパンより、焼きそばパンの方が強いよねぇ。ご主人は分かってないよその辺。

―――ありがとうございました。



『っと、KO☆KO☆MA☆DEだ! する気はないけど続きはウェブで!』
だったら何故言うのか。理解に悩む所だ。
『インタビューしてて気づいたけれど、クロエちゃんって夜巖さんの前とそうじゃない所では印象が変わるんだよね。猫を被ってるって事じゃないんだけど、どっちも自然なんだけど、夜巖さんがいない場所だと大人っぽいというかミステリアスと言うか。前ではかなり元気系なのにね?』
心当たりがあるのか、ファンキーレディオ号の周りで同意の声が聞こえる。
『でも不思議な事に、どっちのクロエちゃんも違和感がないんだよね。普通、どっちかが変になると思うんだけど。―――はっ、そうだ! 猫をかぶるって結構エグイよね!?』
「何の話だよ!?」
「あ、さては戻りやがったな!?」
「どういう順路で飛べばその話題に戻れるんだ!?」
『うにー。では五分間、『グレイトフル内藤』の新譜『ちょwおまwwww』をお楽しみくださいー。あ、この人はロックンロールロックスターのAKIBA一号店MOEハウスでライブするらしいから、曲を聞いて気に入った人と殴りたくなった人はどっちもチケットを買うといいよ☆』
流れてくるミュージックは、曲としては一流だが歌詞がひどい。なるほど、これは確かに殴りたくなる曲だった。しかもファンキーレディオは強制試聴がデフォルトで、聞きたくない歌も聞かなければならない。一種拷問ではないだろうか。
『はい、って事でグレイトフル内藤でしたー。うん、いい曲だよね! 逢ちゃん耳栓してたから聞いてなかったけど。グッジョブ内藤!』
「なんて清々しい興味の無さだ!」
「いや、じゃあ何であえてこれを流した……」
嫌がらせと言う事で意見は一致した。概ね間違ってはいまい。
『さてさてそれでは次のコーナー、おなじみ《タレコミッ!》だよー。このコーナーでは主に友情を破壊する程度のタレコミを募集中! 『実は俺のダチ、某トップランカーの親友って嘘ついてナンパしてんだぜ』とか『強面の先輩、実は隠れ冥獄ファンなんだ……』などの秘密暴露をやっちゃうZE☆ 一人の秘密は皆の事実をモットーに、今日も元気にレッツ告発!』
「来たか……キラーコーナー……!」
「関係ねぇけど、一二三って声真似うますぎじゃねぇか?」
「え? 知らないの? 逢ちゃんの変声術、旧型のシステムなら声紋認証騙すのよ?」
「マジで!?」
「ああ、マジだ」
「マジすぎて泣ける」
「だからこれがキラーコーナーなんだよなぁ」
「どういう事っすか、先輩?」
「投稿者が逢に一度でも声聞かれてたら、メールの内容がそいつの声で読み上げられる」
《タレコミッ》は、告発された側と、告発した側の両者を傷つける恐れがある、まさにキラーコーナーだった。別名を友情破壊コーナーというだけはあるのだ。
「でも投稿は多いんだよな、不思議な事に……」
「まぁ、大抵は笑い話だからな。たまにクレイモアが来るのがスリルだ」
『じゃあ今日の一発目をスピーキーング! 『ランキング30万521位の坂上歳三、彼女がいるのに他の女を部屋に連れ込んでた』……キタね! 地雷キタね! 心当たりの彼女さん、今すぐに坂上歳三くんを捕まえるんだ! ゴーゴー! 皆も見かけたら捕まえるの手伝ってあげてね!』
同時にどこか遠くで悲鳴が聞こえた。どうやら捕まったらしい。
『正義は勝つ……それがジャスティスじゃーなりずむ! 坂上さんの経過報告も続いてYOROSIKU! さてさてそれでは二通目ー……って、あれ? あーっ! みーちゃんとの待ち合わせ今日だった!』
慌てた声と同時、ファンキーレディオ号のエンジン音が高らかに響き渡る。周囲のリスナーは、嫌な予感を敏感に感じ取って我先にと逃げ出して行く。
『あわわわわ遅れたら怒られる……後輩にマジ説教される……! と、と言う事でファンキーレディオ本日の放送はここまで! またのゲリラ放送をお楽しみにと言う事でシーユーアゲン! 待ち合わせ場所はどこだったっけ……、そうそう、明星リバーだ! ってもうこんな時間!? はわわ、着替えてご飯食べて……こういう時は自律走行モードだね!』
自律走行。この時代、それ程に珍しい技術でもない筈だ。しかし、何故かそれを聞いた全生徒は冷や汗が止まらなくなる。
『別名“障害物を物ともせずに貴方の所へ一直線”モード! これで遅刻の心配はナッシンだ!』
『俺達の心配は!?』
ファンキーレディオ号の自律走行は、”跳ねても気にしない”がモットーだ。危険すぎる。
確かに障害物(人間含む)に配慮せずに道を突っ走れば、遅刻する事はないだろう。
更にマシンの最高時速は時速300㎞。運が悪ければ死人が出るかもしれない。
『それじゃあ放送モード解除! 目的地まで全速前進DA☆』
プツッ、と電源が切れる音と、タイヤが地面を焼ききらんばかりに回転する音に、進路上から全力で離脱する生徒達。
今日も学園は平和だった。
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