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Rainy Blue

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tranquilizer

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【Rainy Blue】

 しっかりと防水加工されているゴーグルでさえ、前が見えないほどの雨の中、少年は懸命に駆けていた。
 お気に入りのローラースケートも、さっき足を滑らせたせいで修理が必要となっている。
 スニーカーであっても問題ないくらい普通に走るのも得意だが、この雨では体力の消耗が激し過ぎる。必然的に、こまめな休憩を余儀なくされていた。
 すでに閉店しているお店の軒先で雨宿りさせてもらう。
 普段であれば終わっているはずの届け物が、肩に重く圧し掛かっている気がする。重みなどないはずなのに。
 速度を上げるにはローラースケートを直さなければならず、そのためにはお金が必要で、お金を稼ぐには急いで配達しなければならず、急ぐにはローラースケートが必要……
 嫌になる無限ループに、アルマは頬を膨らませて天を仰いだ。
 レインコートを羽織っているとはいえ全身ずぶ濡れで、明日にはきっと風邪で寝込んでいるだろう。
 中に着ていた服を絞ると外の雨にも負けない勢いで水滴が落ちる。やっぱり、ケチらずにもう少し高いレインコートを買うべきだった。
 この状態では寮に帰る事も難しい。もしも、いつものように野宿する羽目になったとしたら、確実に死ぬ。断言しても良い。
 周りには頑丈な家が幾つもあるが、入学したばかりで、その上外部から来た身では泊めてくれるような知り合いもまだいるはずがない。
 そもそも、まだ今日中に届けなければならない荷物が残っているのだ。のうのうと帰る訳にも、店仕舞いする訳にもいかない。
「どうしようかな……」
 雨はまだ止みそうにない。
 さっき聞こえてきたファンキーレディオを信じるならば、明日もこんな調子らしい。
 腹が鳴り、夕食がまだだった事を思い出す。寮に帰れさえすれば、ちゃんと食事だって用意されているのに。
 唯一の肉親でもあった亡き祖父の意志を勝手に継いだ結果がこれだ。やっぱり幼い身では早すぎたのかもしれない。
 アルマは無性に泣きたくなった。身の丈通り、泣きじゃくりたかった。
 大声を上げて、わき目も振らずに。
「……男なら泣くな! 強くあれ!」
 祖父から幾度も言われてきた言葉。
 自らを鼓舞するように叫ぶと、アルマは再び駆け出した。
 誇り高き野兎のように――
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