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『Bravata』


 初めて彼女を目にした時の印象は、単純に「妙なガキ」というだけだった。
 「喪失」、「視線」、「拒絶」に恐怖を感じる三兄弟に囲まれた少女。彼女の顔には皆に見られぬよう薄っすらと「好意」という文字が書かれていた。
 三兄弟の方は付き合いも短くないし、彼らの能力や習性、僅かばかりの過去も知っているせいか、彼らの顔に書かれた文字には納得出来る。

 丈乃助は喪失する事で他者を傷付ける事を怖れ、籐司朗は自らの忌まわしい能力のせいで他者を壊す事を怖れ、政宗は拒絶しか知らない自分がいつの日か同じように他者を拒んでしまうのではないかと怖れている。
 つまり、あの三兄弟は自分のせいで他者が傷付く事を自分の痛みとして感じている、天然記念物クラスのバカという事。
 けれど、彼女の恐怖は理解し難い。
 誰からも好かれそうなクセに、好意に恐怖を覚えるだなんて異質に感じても仕方がない。
 特殊な生い立ちの三兄弟を手懐け、優先的に愛されているクセに、何故そんなモノに怯えているのか――
 まだガキだった俺に、書いてある文字の意味を正しく理解出来るはずもなく……
 知的好奇心から、悪意を込めて彼女に好意を注ぎ続けていた。
 そんな俺すらも彼女は受け入れ、まるで取り込まれるように俺の中の庇護欲は増幅してゆく。
 今思えば、それを彼女は恐れていたのだろう。
 気付いた頃には悪意など微塵も存在せず、ただ彼女を愛しく思うようになっていた。
 それは恋愛感情云々などという下賎なモノであるはずがなく、ただ自らと血を分けた兄妹のように純粋にただただ愛しいと。

 そんな我らが若き女王陛下は今も独りで恐怖を抱え込んでいる――

 そっと沙鳥の前髪を上げ、目を凝らす。
 共に長く過ごした今ではそれほど苦労せずに浮かび上がってくる文字。
 未だ消えるはずもなく……
「けど、だいぶ薄れてきたな」
「うにゅ?」
 何の話かと訝しげに見上げてくる沙鳥の額を軽く叩いておく。
 今はまだ怖がっていても良い。
 少しずつで良いのだ。
 いつの日か、きちんと理解出来さえすれば。
 自分への好意は能力によって強制的に向けさせられている訳ではなく、本当に心から愛されているのだと。