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 ここは、とある飲み屋。学内リンクの一つ、四十物谷調査事務所が飲み屋を丸々一軒貸し切っての飲み会を行っているところである。リンク全体の六割ほどだというが集まっているメンバーの数は多く、人種からランキングまでの何もかもがバラバラで一見して何の集まりかわからないような、そんな集団であった。
 その上座付近には代表である【ホーンデットアックス(怪奇斧男)】四十物谷宗谷を始めとしたリンクのコアメンバーが集まっており、そこに包囲されるかのように南区画の王である【キングオブインサニティ(狂気の王)】経世逆襄が何故か座っていて、一桁や二桁をも含むトップランカーの塊という恐ろしいスペースが出来上がっていた。

 そんな飲み会の一角に【ジャック・ザ・リバー(闊歩する自由)】崇道院早良はいた。このうごうごと人のひしめく室内でどんな楽しいことが起きるのだろうか、そう考えるだけでわくわくものであった。
 早良はこのリンクのメンバーではない。しかしながら無所属である彼は顔を各地で売る必要があったし、仕事をもらえるようなツテを作る必要があった。
 嘘。
 本当はただ単純に面白いことを求めていただけであり、無所属ではこのような大きな飲み会と無縁であるから多少の無理をしたといったところであった。まぁ面白くなるのなら色々な知人友人をこさえても構わない、そう思っての行動ではあるが。
 そんなわけでメンバーでもないのに飲み会に潜入し、紛れ込んだのだった。
 かといって無関係なわけでもない。四十物谷調査事務所には自分が保証人である後輩、ランキング537位の里見伝狗郎がいるからである。

 「さわさんどうしたっスか? コップ、空っスよ~」
 「ん? あぁ伝ちゃん、失敬。少しぼぅっとしていてねぃ」
 「ナハハ、何はともあれ飲んで食べて楽しんで欲しいっス。ささ、お次はどうするっスか?」「ふに、じゃぁキューバリブレを」「ほんとそれ好きっスねー」「自由を求め、戦った末に生まれたカクテルだからねぃ。その後はどうあれ、ね」「なるなる。で、おいらは泡盛サンライズ飲むっス~♪」

 早良と伝狗郎は仲がいい。さわさん伝ちゃんと呼び合う仲で、今日も潜入というよりは伝狗郎が「だいじょぶっスよ~、さわさん紛れても絶対わかんないっス~。一緒に飲むっスよ」というので紛れた次第だ。何とも軽いノリである。
 早良が飲み会好きというのも一因としてある。この何やら良くわからない楽しそうな雰囲気、皆が仲良く和気あいあいと卓を囲っている様、そして大好きな酒。それに加えてのお誘いだ。紛れ込まないわけがなかった。

 早良はふと室内を見渡して面白いものを見つけた。【シャハラザート(物語を紡ぐ姫君)】ファヒマ・エルサムニーが柱の影で、恥らう乙女のようにもじもじと上座の様子をうかがっている。正直に言おう、可憐な美少女がそんなことをしている様は非常に可愛らしかった。あくまで“様子”が、であるが。
 そうこうして眺めている間に彼女は上座に呼ばれていった。かと思うと、いつものように罵倒を始めた。先ほどまでの様子はどこへやら、特殊な性癖の持ち主にはこちらの方がいいのだろうが一般的には全くの台無しである。
 罵られているのは逆襄。自分が罵られているわけではないが、実に聞くに堪えない。他の面々も順番に罵られていく。

 「あぁぁぁファヒマさん、またやってるっス。悪い人じゃないんスけどね」
 「いやいやいや伝ちゃん、悪い人でしょうに。口が限りなく悪い人。ありゃぁ罵倒で人殺せるんじゃぁなかろうか」
 「ん~、事務所のメンバーに対してのアレは照れ隠しというか親愛の情というか。ま、いつものことっスから。おいらもまだ死んでないっスし」「それならいいんですがねぃ……って逆さんはいいんですかい!?」「んんん~。えっと、あれも照れ隠しっス!!」「そんなもんですかねぃ」

 「あ。所長がファヒマさん連行するっス、おいらのグナードゥシに様子見てもらうっス」

 店の裏手。宗谷はファヒマを引っ張ってきて溜め息をつく。
 その様子を眺めるプレーリードックが一匹。伝狗郎がグナードゥシ、小さな友達と呼んだ伝狗郎の相棒たちの内の一匹である。
 『ケッキャッキャッキャッキャッキャッキャン』
 がらりと様子を変えて落ち込んでいるファヒマ、慰めているんだかいないんだか微妙な宗谷。二人の言動をあますところなくプレーリードッグAは伝える。大きく鳴けばバレてしまうため小さな声で別の仲間に。
 今伝言を頼まれたプレーリードッグBが伝狗郎の元へ走る間に、また別の者(?)Cが伝言を聞き、それが言付けている間にDが、というように四匹一組で実況を続ける。

 一方、店内。
 早良と伝狗郎は逆襄の周りに移動して酒を飲んでいた。
 「どうも、事務所の皆さん。伝ちゃんがいつもお世話になってます」
 「あれ? 伝狗郎さんの友達で浴衣の酒飲み? もしかして【ジャック・ザ・リバー(闊歩する自由)】じゃないですか!?」
 先ほどから当然のように飲んでいる部外者に、下位ランカーの一人がついに気がついた。
 「いやぁ大した者じゃぁございませんよ、ただの飲兵衛ですからねぃ。しかし、今日はほんと楽しませてもらってましてね、ぼかぁお礼がしたい」
 言うが早いか早良はOOPARTS『WIDERHALL』を解放した。刹那、光が轟く。
 「こいつで余興でもしましょうかい?」「おーぱーつ、か。余興なんかにつこうてもええんか?」
 突っ込む逆襄、人がいい。
 「おっとそんなことより逆さん、またまた杯が空んなってるようで」「そないに飲んだつもりは……」「まぁまぁまぁ。おいら、注ぐっスよ」
 やいのやいのという間もプレーリードッグがちょこまかと走り回る。
 「流石は流石の区画王、まったく飲みっぷりが違いますねぃ」「さすがっスよね~」
 「流石ですよね」「うんうん」「南王、漢ですねぇ」
 「なんや知らんけど急にモテモテやな、俺」「ささ、この酒も飲んでみませんかい?」
 酒を勧める早良の手元で紅の扇子がくるりと閃いた。
 とすっ。
 現れた土くれ。そして再び扇子が舞う。

 『モテモテやな、俺』

 さらに扇子がくるくると。土くれはパパパと出たり消えたり。

 『モテモテやな、俺』『モテモテやな、俺』『モテモテやな、俺』『モテモテやな、俺』

 「な……」
 「これで余興とさせてくだせぇ。逆さん、いや南王。余興ですのでなにとぞご勘弁をば」
 「おぅぁ、なんという命知らず」「さわさん、やったっスね」「あははははは」
 「……ずかしい、めっちゃ恥ずかしいぃぃぃいいい!!!」
 叫びながら立ち上がる逆襄。そして、ふと気付く。
 「あれ? あいつらまだ戻ってないんか?」
 「あ、所長達だったらまだ店の裏にいるっスよ、でももうちょい待った方が……」
 「いや、立ち上がったついでに見てくるわ」
 「あわわわわ。ファヒマさんが心配っス」「罵倒される逆さんが、ではないんですかい!?」「んー今度説明するっス」

 結局、逆襄はそのまま帰ってしまったが、その後も早良は存分に飲み会を満喫したという。

 翌日、伝狗郎は退勤の際に「やっぱり来なかったっス。ファヒマさん、可哀想っス……」と誰に言うでもなく呟くのであった。


 -おわり-