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『Contentolino』


 部屋の隅で震える少年に、少女は無遠慮に近付いていく。
「何をしているの?」
 少年は怯えるように目を泳がせ、少しでも少女の視線から逃れるようにと自らの身体を隠す。
 真っ暗な部屋では何も見えないはずなのに、少女には何故だか見透かされているような気がして怖かった。
「怖い事でもあったの?」
 怖い。全てが怖い。
 この部屋を包む闇も、少女の存在も。
「大丈夫よ。外には皆がいるもの。だから守ってくれる。私だってちゃんと頑張るから平気!」
 少女が朗らかに笑っているような気がして、ようやく少年は顔を上げた。
 この暗闇では何も見えないのに、少女の表情が本当に笑みなのか確かめたくて。
 すると、思っていたよりも近くで少女の気配を感じた。
 頬に何かが触れたように感じる。柔らかくて温かい何か。
 それが少女の手だと気付き、少年は怯えるように身を竦ませた。
 それ以上逃げ場はない。それでも、逃げ出してしまいたかった。
「……傷痕……怪我をしているの? 痛い?」
 少年は震えるだけで、答えようとはしなかった。否、答えられなかった。
 少女の手が少年の身体を滑るようにして進む。
 気付かれてしまった。
 気付かれてはならないのに。
「傷痕がいっぱい……髪にまで血が付いちゃってる……手当てをしなくちゃ。ちょっと待っててね! 今、手当てが出来る人を呼んでくるから!」
 少女が立ち上がり、少年は咄嗟にその腕を掴んで制止する。
「……?」
「ま……て。ひと……よば……で……」
 何年も言葉を発していないのだろう。酷く掠れた声。
「誰も呼んで欲しくないの?」
 少年の頬に手を添えて問い掛けると、ほんの僅かだが頷く感覚があった。
「見られたくないのね……その傷痕」
 怯えるように身動ぎながらも、少年は頷いた。
 すると、少女は徐に自らの服を脱いだ。
「ちょっと大きめだったからあげる」
 自らが着ていた長いコートを強引に少年の上から被せる。
 そして、少年の手を自らの腕に触れさせた。
「私もね、怪我をしちゃったの。小さいんだけど、いっぱい。ここではちゃんと治せないんだって」
 確かに、少年よりは軽症だが少女の肌にも無数の傷痕が走っていた。
「じゃあ……」
「気にしないで良いよ! 私は別に良いのに、女の子なんだからちゃんと隠しておきなさいって無理やり着せられただけだから。あっついのにねぇ」
 本心なのだろう。少女の声は楽しそうに弾んでいた。
「だから、それで隠すと良いよ。隠したら人前に出ても良いんだって!」
「でも……」
 言いよどむ少年の髪を、水を含ませた布で丁寧に拭う。
「大丈夫だよ。私の仲間は強いの! もう怪我する心配ないよ! 外はもう怖くないの」
 少女は少年の手を引いて立ち上がらせると、有無を言わさず扉を開く。
 外の明かりで呆然と立ち竦む少年が浮かび上がった。
 この人種ではあり得ないはずの銀色の髪、服の隙間から見える醜い傷痕。
 見られたと気付いて慌ててしゃがみ込む少年の髪を、少女は優しく撫ぜる。
「綺麗な髪ね。隠しちゃうのが勿体無いくらい。髪の毛を見られるのも嫌い?」 頷く少年の髪を問答無用で短く切り揃える。
「本当は私より藤司朗や政宗の方が上手なんだけどね。よし、完成!」
 フードを被せると、僅かに覗き見る事も出来ないほどだった。
「私ね、沙鳥って言うの。小さい鳥っていう意味なんだって。貴方の名前は?」
「幸成……幸せに成ると書いて……」
「それじゃあ、幸せに成らなくちゃいけない人なのね!」
 少年は躊躇いがちに顔を上げる。
「幸成は幸せになる方法を知ってるんでしょう? それならまず、人より先に自分を幸せにしなくちゃ」
 もう一度少年を立たせ、ちゃんとコートを着せ直す。
「私はね、小さくても自由に飛び回る鳥になるために鳥篭を出たの。だから幸成も幸せに成るために、酷い事した人たちに報復しなくちゃダメなの。絶対。勝手につけられた名前に負けてるだなんて言われたらムカつくでしょ?」
 きちんと銀髪と傷痕が隠れたのを満足そうに確認し、少女は少年の手を引いて外へと連れ出す。
「さあ、悪い人たちをやっつけに行きましょ! こんな綺麗な子を閉じ込めて独り占めするだなんて、それだけで大罪だもん! さっさとこんなとこ消してしまいましょ!」
 少女の言葉に、扉の奥で待機していた少年たちが苦笑しながら承諾する。
 彼らが少女の言う強い仲間なのかとぼんやり眺めていると、少女は少年の背を押した。
「幸成も一緒に行こ? 空ってね、とっても大きいんだよ! 初めて外で見た時、ビックリしちゃった! それだけでも幸せに成れるんだよ!」
 その時の光景を思い出しているのか、心底幸せそうな笑みを見て、少年は小さく頷いた。
 僅かだが、笑みを浮かべて