その日、彼女は自ら道を踏み外していくこととなる。すなわち、馬鹿へと。
白亜 キャンディ(はくあ きゃんでぃ)は困惑していた。クールにドライに学園生活を送ろうと思っているのに目の前の二人組はそれとは程遠い馬鹿馬鹿しい喧騒を繰り広げていた。しかも都合の悪いことに道を塞ぐようにして、だ。
一方は踊るかのように、一方はふんぞり返るかのように話している。
「豆腐、とうふ、トウフー! いやー美味いにょん」
「頭でも沸いちまったか? いや元々だと思っていたがな」
「そんな連れないこと言わんくてもいいだに、さっき友達だって言っただにー」
「だからこその苦言だ、天下の往来で小躍りしながら豆腐を食うな」
近づきがたい雰囲気の中で馬鹿達の運命を揺るがす決定的な一言が放たれた。
「お前のような奴のためにある言葉を教えてやろう。『豆腐の角に頭打って死ね』、だ」
「にゃふち……。死ねとは酷いだに、大体ほんとにそんなこと可能なのかにょん?」
「ものの例えに決まってるだろう、憎くはない相手に呆れて苦言を呈す際の言葉だ」
「にゃわー、ほんとに出来るかにょん。試してみたい、試してみたいだに!」
「いや、聞けよ」
「豆腐好き故の豆腐de殺傷チャレンジ、これは哲学的だに。やるっきゃない」
そもそもキャンディが足止めを食っている原因である二人組は、今から一時間前に発生した「にわか馬鹿共」だった。一人ひとりであればさほどでもないが今は馬鹿の二乗といたところだ。
― 一時間前。
淮南 万珍(わいなん ばんちん)は小躍りしていた。美味い豆腐が市場にあるというので、早速買ってきたのだ。
これを食べながら歩く、考えただけでにゃふにゃふものである。いざ一口食べようとした矢先……
三ツ石 厳(みついし いつき)はふんぞり返っていた。市場を歩いていて偶然引ったくりを捕まえたのだ。
引ったくりを見逃せずに捕らえ、兎にも角にもぶん投げた。あとはふんじばるだけだと思ったのだが……
にゃわー! 人が空を飛んできt……にゃふち。
いたたたた、災難だったにょん。豆腐はどこかにょん?な。まさか、ぐちゃぐちゃに。三秒、三秒ルールだに!
誰がこんなことを……あ、あの人だに。
「ちょっと、どうしてくれるにょん。楽しみにしていた豆腐台無しだに、弁償しろだに」
よし、どうやってふんじばろうか。
む、いかん。誰か巻き添えになってしまった。大丈夫だろうか、まぁここの生徒だから大丈夫だろう。
あ。引ったくりが逃げる。申し訳ないが協力を。
「すまん、そこの巻き添えになった人。そこに吹っ飛ばした引ったくりを捕らえてくれ」
万珍と厳、二人は同時に叫んだ。
勢いそのままに万珍は食って掛かる。しかし、その隙に引ったくりは逃げてしまった。
「豆腐!弁償するだに」
「引ったくり!何ゆえ捕まえてくれなかった」
「「…………」」
沈黙しばし。互いに状況を飲み込むための数瞬の黙り合い。
「すまん」「ごめんだに」
そして、二人は同時に謝った。
幸いにして引ったくられたものは取り戻すことが出来ている。最悪の事態ではないため、とりあえず厳は万珍に豆腐を奢ることにした。
「これも何かの縁だろう。俺は三ツ石厳。巻き添えになった人よ、豆腐を3倍にして返してやろう」
「縁なんだに。ぼかぁ淮南万珍。何だか偉そうだけど、豆腐奢ってくれるなら神様仏様だに。友達になってほしいにょん」
「良かろう、友人はいいものだ。今後ともよろしく頼む」
……というわけで二人は豆腐屋への道々話しながら歩き、すっかり意気投合。豆腐を買った後もそのまま道を塞ぐかのように話し込み続けたのだった。
― そして今。
早く通り過ぎたい。キャンディはすでに耐えかねていた。
「ねぇ邪魔よ、通してくれないかしら。あるいはひれ伏せろ」
「まずは豆腐を作ることを極めネバダに。極めた豆腐を高速で打ち出せば殺傷可能だに」
「本当に豆腐で頭打って死んだ方がいいんじゃないか?」
「……無視かよ」
「高速射出のためには将来的にサイボーグになる必要があるにょん。異能はないし、それが一番だに。にゃわー、自分の好きな物を極めるとなると俄然テンション上がるにょん」
「お、お前は……。お前は本物の馬鹿者だな、しかし共に夢見てみたくもある」
思ったより毒吐きであったキャンディだがしかし、馬鹿共には届かない。負けるな、キャンディ。もう一発だ。
「馬鹿共、聞けよ。通りたいって言ってんのよ、通してくれないかしら。さもなくば地中にめり込め」
「な、なんて言い草だに。いっきーも何か言ってやるにょん」
「まぁ、バンよ。そう言ってくれるな。これは姫だよ、天啓、運命、ビビビビビッだ!!」
「何?なんなのよ、あんた馬鹿なの?」
「いっきー壊れたにょん」
キャンディは嫌な汗をかく。これは関わってはいけないモノであった、と。
「姫よ、俺はあなたに出会えて幸せです。端的に言おう、俺と付き合うがいい」
「滅べ。だ、誰があんたみたいな馬鹿と」
「告白! ひと目あったその日から、恋の花咲くこともある。いっきー、ストレートで漢らしいにょん。偉そうだけど」
「咲かねぇよ、豆腐馬鹿。そこの色ボケにも何とか言ってくれないかしら」
「付き合わぬのなら茶でも飲まないか? 俺の奢りだ。あ、バンは来ても来なくても構わん」
「ひどっ! 行くだに。ささ、君も一緒にお茶しようにょん」
「わ、あたしは別にまだ行くなんて……。あ、行かないとも言ってないでしょ! 一緒に行ってやるから感謝しなさいよ」
― 三十分後。
三人はお茶を飲みながら話し込んでいた。そう、キャンディは陥落したのだ。見事に馬鹿へと転がり落ちていくとも知らずに、馬鹿のペースにハマリ、親交を深めている。
「だから、高硬度の豆腐を高速で射出すれば殺傷可能だと思うんだに。だから豆腐も極めるし、ゆくゆくはサイボーグにもなるんだにょん」
「むぅ、バンがそこまで言うのなら俺は止めん」
「あんた達は馬鹿なのね、それは決定事項だわ。大体乙女に告白して、お茶に誘って、今回は玉砕したからお友達から始めようとほざいて、本当に単純にただの友達のように馬鹿話しかしないなんてクソ野郎にも程があるわね。ま、面白いから今後もこういう関係でいてあげてもいいけどね」
「姫、俺を愛してくれてありがとう。今後ともヨロシク」
「姫、今後とも仲良くして欲しいだに」
「愛してねぇよ、滅べって。てかバンまで姫とか呼びやがって。いや、別に照れてはいないわ」
「さて、バンよ。お前は本当にその険しい道を歩むのだな」
「もう決まったことだにょん。姫もいっきーも見守って欲しいだに」
「ふむ。ならば俺は『うどんで首吊って死ね』を実践しよう」
「それはなんだに?」
「意味は同じだ。ということは、豆腐で殺傷が可能になるとすればうどんでも可能になるのではないだろうか」
「おお。真理だに」
「阿呆じゃないのか、お前ら。いや、見てみたくはあるけどね」
「バン、二人で道を極めよう」
「いっきー、もちろんだに」
「置いてけぼりかよ。あたしも混ぜてったら」
「じゃぁ何の道を極めるのかにょん?」
「豆腐もうどんももうダメだからな」
「う~ん……そんなもので殺傷できるならわたあめとかでもいけるんじゃないかしら」
「おぉ! では姫はわたあめを極めてくれ」
「へ? やるなんてまだ一言も」
「姫、かっこいいにょん」
「うるせぇよ、馬鹿共。『わたあめに包まれて死ね』」
「「おぉぉ。かっこいい」」
「はぁ……わかったわ。やってやるわよ、馬鹿共には負けねぇからね」
なんてことなの。さよなら、クール。さよなら、ドライ。
馬鹿共の相手もまぁ楽しいけどね。それにいっきーもそれなりに……
馬鹿共のクソ騒ぎはこうして幕を開けた。一人の少女の理想を瓦解させて。
この三人が馬鹿特有の猪突猛進力でメキメキと実力もランキングも上げていくのはそう遠い未来ではない。
支えあう馬鹿共、止まることを知らず。怖いもの恐れるものなぞ一切なし。
‐終‐
白亜 キャンディ(はくあ きゃんでぃ)は困惑していた。クールにドライに学園生活を送ろうと思っているのに目の前の二人組はそれとは程遠い馬鹿馬鹿しい喧騒を繰り広げていた。しかも都合の悪いことに道を塞ぐようにして、だ。
一方は踊るかのように、一方はふんぞり返るかのように話している。
「豆腐、とうふ、トウフー! いやー美味いにょん」
「頭でも沸いちまったか? いや元々だと思っていたがな」
「そんな連れないこと言わんくてもいいだに、さっき友達だって言っただにー」
「だからこその苦言だ、天下の往来で小躍りしながら豆腐を食うな」
近づきがたい雰囲気の中で馬鹿達の運命を揺るがす決定的な一言が放たれた。
「お前のような奴のためにある言葉を教えてやろう。『豆腐の角に頭打って死ね』、だ」
「にゃふち……。死ねとは酷いだに、大体ほんとにそんなこと可能なのかにょん?」
「ものの例えに決まってるだろう、憎くはない相手に呆れて苦言を呈す際の言葉だ」
「にゃわー、ほんとに出来るかにょん。試してみたい、試してみたいだに!」
「いや、聞けよ」
「豆腐好き故の豆腐de殺傷チャレンジ、これは哲学的だに。やるっきゃない」
そもそもキャンディが足止めを食っている原因である二人組は、今から一時間前に発生した「にわか馬鹿共」だった。一人ひとりであればさほどでもないが今は馬鹿の二乗といたところだ。
― 一時間前。
淮南 万珍(わいなん ばんちん)は小躍りしていた。美味い豆腐が市場にあるというので、早速買ってきたのだ。
これを食べながら歩く、考えただけでにゃふにゃふものである。いざ一口食べようとした矢先……
三ツ石 厳(みついし いつき)はふんぞり返っていた。市場を歩いていて偶然引ったくりを捕まえたのだ。
引ったくりを見逃せずに捕らえ、兎にも角にもぶん投げた。あとはふんじばるだけだと思ったのだが……
にゃわー! 人が空を飛んできt……にゃふち。
いたたたた、災難だったにょん。豆腐はどこかにょん?な。まさか、ぐちゃぐちゃに。三秒、三秒ルールだに!
誰がこんなことを……あ、あの人だに。
「ちょっと、どうしてくれるにょん。楽しみにしていた豆腐台無しだに、弁償しろだに」
よし、どうやってふんじばろうか。
む、いかん。誰か巻き添えになってしまった。大丈夫だろうか、まぁここの生徒だから大丈夫だろう。
あ。引ったくりが逃げる。申し訳ないが協力を。
「すまん、そこの巻き添えになった人。そこに吹っ飛ばした引ったくりを捕らえてくれ」
万珍と厳、二人は同時に叫んだ。
勢いそのままに万珍は食って掛かる。しかし、その隙に引ったくりは逃げてしまった。
「豆腐!弁償するだに」
「引ったくり!何ゆえ捕まえてくれなかった」
「「…………」」
沈黙しばし。互いに状況を飲み込むための数瞬の黙り合い。
「すまん」「ごめんだに」
そして、二人は同時に謝った。
幸いにして引ったくられたものは取り戻すことが出来ている。最悪の事態ではないため、とりあえず厳は万珍に豆腐を奢ることにした。
「これも何かの縁だろう。俺は三ツ石厳。巻き添えになった人よ、豆腐を3倍にして返してやろう」
「縁なんだに。ぼかぁ淮南万珍。何だか偉そうだけど、豆腐奢ってくれるなら神様仏様だに。友達になってほしいにょん」
「良かろう、友人はいいものだ。今後ともよろしく頼む」
……というわけで二人は豆腐屋への道々話しながら歩き、すっかり意気投合。豆腐を買った後もそのまま道を塞ぐかのように話し込み続けたのだった。
― そして今。
早く通り過ぎたい。キャンディはすでに耐えかねていた。
「ねぇ邪魔よ、通してくれないかしら。あるいはひれ伏せろ」
「まずは豆腐を作ることを極めネバダに。極めた豆腐を高速で打ち出せば殺傷可能だに」
「本当に豆腐で頭打って死んだ方がいいんじゃないか?」
「……無視かよ」
「高速射出のためには将来的にサイボーグになる必要があるにょん。異能はないし、それが一番だに。にゃわー、自分の好きな物を極めるとなると俄然テンション上がるにょん」
「お、お前は……。お前は本物の馬鹿者だな、しかし共に夢見てみたくもある」
思ったより毒吐きであったキャンディだがしかし、馬鹿共には届かない。負けるな、キャンディ。もう一発だ。
「馬鹿共、聞けよ。通りたいって言ってんのよ、通してくれないかしら。さもなくば地中にめり込め」
「な、なんて言い草だに。いっきーも何か言ってやるにょん」
「まぁ、バンよ。そう言ってくれるな。これは姫だよ、天啓、運命、ビビビビビッだ!!」
「何?なんなのよ、あんた馬鹿なの?」
「いっきー壊れたにょん」
キャンディは嫌な汗をかく。これは関わってはいけないモノであった、と。
「姫よ、俺はあなたに出会えて幸せです。端的に言おう、俺と付き合うがいい」
「滅べ。だ、誰があんたみたいな馬鹿と」
「告白! ひと目あったその日から、恋の花咲くこともある。いっきー、ストレートで漢らしいにょん。偉そうだけど」
「咲かねぇよ、豆腐馬鹿。そこの色ボケにも何とか言ってくれないかしら」
「付き合わぬのなら茶でも飲まないか? 俺の奢りだ。あ、バンは来ても来なくても構わん」
「ひどっ! 行くだに。ささ、君も一緒にお茶しようにょん」
「わ、あたしは別にまだ行くなんて……。あ、行かないとも言ってないでしょ! 一緒に行ってやるから感謝しなさいよ」
― 三十分後。
三人はお茶を飲みながら話し込んでいた。そう、キャンディは陥落したのだ。見事に馬鹿へと転がり落ちていくとも知らずに、馬鹿のペースにハマリ、親交を深めている。
「だから、高硬度の豆腐を高速で射出すれば殺傷可能だと思うんだに。だから豆腐も極めるし、ゆくゆくはサイボーグにもなるんだにょん」
「むぅ、バンがそこまで言うのなら俺は止めん」
「あんた達は馬鹿なのね、それは決定事項だわ。大体乙女に告白して、お茶に誘って、今回は玉砕したからお友達から始めようとほざいて、本当に単純にただの友達のように馬鹿話しかしないなんてクソ野郎にも程があるわね。ま、面白いから今後もこういう関係でいてあげてもいいけどね」
「姫、俺を愛してくれてありがとう。今後ともヨロシク」
「姫、今後とも仲良くして欲しいだに」
「愛してねぇよ、滅べって。てかバンまで姫とか呼びやがって。いや、別に照れてはいないわ」
「さて、バンよ。お前は本当にその険しい道を歩むのだな」
「もう決まったことだにょん。姫もいっきーも見守って欲しいだに」
「ふむ。ならば俺は『うどんで首吊って死ね』を実践しよう」
「それはなんだに?」
「意味は同じだ。ということは、豆腐で殺傷が可能になるとすればうどんでも可能になるのではないだろうか」
「おお。真理だに」
「阿呆じゃないのか、お前ら。いや、見てみたくはあるけどね」
「バン、二人で道を極めよう」
「いっきー、もちろんだに」
「置いてけぼりかよ。あたしも混ぜてったら」
「じゃぁ何の道を極めるのかにょん?」
「豆腐もうどんももうダメだからな」
「う~ん……そんなもので殺傷できるならわたあめとかでもいけるんじゃないかしら」
「おぉ! では姫はわたあめを極めてくれ」
「へ? やるなんてまだ一言も」
「姫、かっこいいにょん」
「うるせぇよ、馬鹿共。『わたあめに包まれて死ね』」
「「おぉぉ。かっこいい」」
「はぁ……わかったわ。やってやるわよ、馬鹿共には負けねぇからね」
なんてことなの。さよなら、クール。さよなら、ドライ。
馬鹿共の相手もまぁ楽しいけどね。それにいっきーもそれなりに……
馬鹿共のクソ騒ぎはこうして幕を開けた。一人の少女の理想を瓦解させて。
この三人が馬鹿特有の猪突猛進力でメキメキと実力もランキングも上げていくのはそう遠い未来ではない。
支えあう馬鹿共、止まることを知らず。怖いもの恐れるものなぞ一切なし。
‐終‐