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【Consulta2(相談会2)】

 自室で仮眠中のところを幸成によって文字通り叩き起こされ、訳が分からないながらも手早く完璧に身支度を整える。
 そうして無言で促されるままに向かった客間には、ソファに行儀良く腰掛ける大福屋一茶の姿が。
 落ち着かない風にギュッと握り締めて膝に置いた手だけを睨みつける様を見て、何となく全てを察する。
「いつからうちは恋愛指南所になったんだろう……」
 傍らでお茶と茶菓子の用意をしていた政宗は、その呟きに微苦笑を浮かべる。
「頼りにされてるって事じゃない」
「光栄ですって答えるべき? そこまで恋愛上手って訳でもないんだけどな……」
 わざとらしい溜息を吐きつつ、口元では心底面白がりながら一茶の向かいに腰を下ろす。
「いらっしゃい。今日はどういったご用件で?」
「用件というほどでもないけど……うちの絵茶の所に来ていた遡羅さんから紹介されて……いや、私は別に良いって言ったんだけど、行くだけ行ってみろって……」
「北王との事でしょう?」
 しどろもどろで説明する一茶を制して、笑顔ですっぱりと言い切る。
「なななな、何でそれをっ!?」
「白犬特有の勘……を使わなくても、すぐに誰だって分かるだろうね。わざわざ俺なんかの所に来るくらい切羽詰ってた? 俺みたいなタイプ嫌いなのにねぇ……背に腹は変えられなくなっちゃったか。あ、顔真っ赤。可愛いなぁ」
 一茶の顔が一層朱に染まり、瞬間的に手を上げる。
「とんでけ……」
「お手w」
 藤司朗の碧色の瞳が妖しく光る。
 目を合わせたものを従わせる藤司朗の【ロマンゾローザ(強制擬似恋愛)】
 自らの能力を使うためには目を合わせなければならない一茶にとって、鬼門とも言える瞳。
 藤司朗に手を差し出され、反射的に一茶は自らの手を重ねてしまう。
「一回やってみたかったんだよね。ホントに大福屋さんは犬みたいで可愛いな」
 からかう素振りを一切隠さない笑みを浮かべながら、慣れた手つきでその手の甲に口付ける。
「なっ!」
 振り払おうにもしっかりと掴まれた手はビクともせず、飛ばしたくても自らの能力を使うことは出来ない。
 そもそも、能力の発動失敗による影響で普段の半分も力が出ない。
 座っているだけでもクラクラするほどなのだから。
 藤司朗に抗う事など出来るはずがない。
「さて、問題です……どうして俺と目を合わせると、従順になるんだと思う?」
「え……?」
 唐突なほど真面目な表情で、真っ直ぐに目を合わせる。
 その瞳に力を込めている訳ではないだろうに、心臓を鷲掴みされたように胸が痛んだ。
「……そういう能力だから、じゃないのか?」
「そんな単純な能力だったら、俺はとっくに死んでると思うけど?」
 確かに。
 一茶自身、中枢で生まれ育った身だ。この学園の厳しさはよく分かっている。
 他者を一時的に従わせる程度で、生き延びられるほど甘くない。
 ましてや、ランキングの二桁に上がるなど不可能だろう。
「強制擬似恋愛……恋愛小説の中のヒロインにでもなったかのように俺に恋をする。それが俺の能力の全てだよ。俺に恋をして、誰もが求愛行動を取る。ただそれだけ。だから、別に言うことを聞く必要は無い。俺の場合だったら、全裸でキスしてくれた方が効果あるだろうし」
「ぜ、ぜ、ぜ……お、お前は何て事を!!」
「別に大福屋さんにそうしろって言ってる訳じゃなく、ただの例えだよ。まぁ、そうしてもらえるなら大福屋さん相手でも喜んで落ちるけどね」
 現在進行形で藤司朗の能力への恐怖と戦っている身としては笑えない冗談にジタバタともがくも、弱っている少女がしっかりと休養を取ったばかりの男に敵う訳がない。
「放せ!」
「放したら飛ばされちゃうでしょ?」
「当たり前だ! お前なんか地下の最下層でも、不死たちの塒でも、比良坂さんの部屋でもどこでも飛んじゃえ!!」
「小父さん……いや、世都母さんの部屋は一般的危険区域と同列にされちゃうんだね……」
「うるさい!」
 一茶の日常が垣間見えた気がして、同情の笑みを零す。勿論、比良坂への。
「まぁ、とにかく。俺に恋して俺を落としたいなら、別の方法もあるって訳。なのに、誰もが俺の言う事を聞く。さて、何故でしょう。本当に分からない? 今現在恋をしているのに?」
「……そんな事、言われても……」
 出来の悪い弟子を持ったと嘆くように深い溜息をついてから、藤司朗は口を開く。
 何故、自分に恋をしたと錯覚した者たちが、言いなりになるのか。
「俺に喜ばれたいからだよ。俺の望みを叶えて、俺に喜んでもらいたいから。ただそれだけ」
 少しでも喜んでもらうため、望まれた通りに行動する。
「人を好きになるっていうのはそういう事なんだろうね。少しでも相手によく思われたい。自分の良い所を見せたい。相手に喜んでもらいたい。相手のためになりたい。ロマンゾローザはそういう恋の綺麗な部分だけを抜き出したような能力なんだよ」
 現実の恋はそれほど綺麗なモノばかりではない。
 だからこそ、藤司朗の瞳に溺れてしまう。
 恋愛小説のようなキラキラした世界の中に身を投じていたくて、ずっと浸っていたくて。
「まぁ、そうやって何度もかかってるとホントに恋したつもりになって、命まで差し出そうとする人も出て来ちゃうんだけどね。そんな命なんかいらないのに。……ねぇ、一茶? 君はどう?」
 耳元で注ぎ込まれる甘い猛毒。
「は、放せ!!!!!」
「ホントに大福屋さんは素直だなぁ」
 言われ慣れない言葉に、一茶の動きがピタリと止まる。
「……素直?」
「うん。真っ直ぐで素直」
 素直じゃない。もっと素直になれ。――そう言われ続けて来たのに。
「大福屋さんの恋はこんな偽物の想いよりずっと純粋で綺麗。誇って良いよ」
「で、でも……」
「うん。もう少し自信と余裕を持たないと、北王の身が危ないけどね……けど、そんな事で殺られるような王様じゃ、北の人たちもやってられないだろうから大丈夫。好きなだけ飛ばすと良いよ。ただし、謝罪は心の中で思ってるだけじゃ伝わらないよ。折角綺麗なんだから、独り占めしてないで出してあげないと」
 藤司朗の力が緩み、一茶の手がするりと抜ける。
 先ほどのダメージも少しずつだが回復してきて、それほど眩暈も感じなくなった。
 これならば一人でも帰れる。
 もしも話の途中で能力を使っていたら、しばらくは動けなくなっていただろう。
「……お前がタラシな理由が分かった気がする」
「タラシ込まれないように気を付けてね。これでも大福屋さんのことは結構気に入ってるんだから」
 本気とも冗談とも取れる、いつも通りの読めない笑み。
「だから、お前は嫌いだ」
 そう言いながらも口元には笑みが浮かぶ一茶の頭を軽く撫ぜ、「それは残念」と藤司朗はやんわりと微笑んだ。