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First Contact 三島広 光路 & 澪漂 二重

 ―――小さい時のホゥ アルオンについて、か?大人しい奴、だったかな。おやっさんのことは嫌いそうだったけど。んー、練兵場で何やら訓練していたのは知ってたけど、実はインチャオ時代はさ、彼奴と話したこと無いんだよな。え、意外だって?んなことねぇよ。当時の関係って言えば、憎まれてても雇い主の御曹司と、一少年兵だぜ?そう、おいそれと話せる身分かよ。

 指令を受けた光路はかったるげにメインストリートを歩く。当時の西区画といえば、ザンスキングダムの冥獄一派が支配していた頃。かの名高い澪漂管弦楽団と言えど、学園内では新興勢力であった。
 メインから工場地帯を抜けていくと、歪に聳える異形の建造物、九龍城砦に辿り着いた。
(まぁさか、こんな格好であのアルオンと再会するとは、思わなかったなぁ……)
 学園に来ていたのは知っていたし機会があれば話してみようかと思っていたが、まさか、このような形で再会することがあるとは。運命の数奇さを感じながら、城内へ入る。
「アルオンはいるか?」
 アポ無しで大丈夫だよなァ……とあまり緊張感のないことを考えながら、受付に尋ねると、中華風なワインレッドのタキシードを纏った長身の男とそれに付き添う女性(後で知ったが彼女が澪標一重)が出てきた。
 顔の険はきつくなったが、雰囲気と顔つきはそうそう変わらない。
「久しぶり、というか声を掛けるのは初めてかな?ホゥ アルオン」
「初対面な気はしないが、いきなり不躾な物言いをするな、無能なのか?それにアルオンの名前はもう捨てた。今の私は“澪漂二重”という」
「ああ、そうかい。こいつァ失礼した、二重さん。父越えを為し得なかった―――無能サン」
「……ッ!貴様、何用だ?わざわざ死にに来たわけではあるまい?」
じゃきん、と刃の擦れ合う特有の音が響く。二重の片手には愛刀“二重迷走”が握られている。迸る殺気も相まり、彼自体が一個の刀剣であるようだ。
「おお、恐。まぁ、ピリピリしなさんなって。紹介が遅れた。俺は三島広 光路。影爪行幣のものだ。」
「ほぉ、最近売り出し中の『双角の麒獣(ドイコーン)』か。名前くらいは知ってるぞ」
「俺もちっとは有名になったかな、まぁ迷惑な話だ。で、今回来たのはリィオンのおやっさんからの勅命でな。アルオンさん、お前がどんな力をつけて反逆するかを監視する役目を仰せつかった。監視てぇのは、めんどくさくて些か好ましくないが、こちとら雇われの身だからな、アンタ ―――勘当されたなら敬称は省くぜ、めんどくせぇ。には悪いが、大人しくしていてもらう」
「ふん、クソ親父が。殺せなかったのが忌々しい。それに、ふん、無能につきまとわれるのは些か鬱陶しい。そんなこと許すと思うのか?」
「イラッ。へぇ、言うねぇ。そんなら無能かどうか試s‥‥‥」
 二重の言葉を受けて、光路は二本の愛槍を構え……

「……すまでもないよ、二重!」

……ようとした時、側らの女性が突っ込んでくる。初速の踏み込みからは有り得ないくらいの速度で一瞬で距離を詰める一重。その台詞さえ置き去りにするほどの勢いそのままで、光路の顔面目掛けて膝蹴りを入れようとする。
「軽いんだよ……ッ!」
 光路はその蹴りを片手で受け止めた。気功を込めてないとは言え、不意打ちで、しかも全体重を乗せた一撃にも関わらず、である。そして二重目掛けて一重を投げ返した。
「一重っ!」
 二重は一重を受け止め、労る瞳を一瞥。
「すまない、一重。君を守れない私の無能を許してくれ」
「いいの、二重。私が少し先走っただけ」
「……。一重は、下がっていてくれ。君を傷つけた、あの無能は、私直々に片付ける」
 光路を睨み付け、しゃきん、と愛用の鋏を鳴らし、構える。
「……あー、その、あれだ。怒らせるつもりじゃなかったんだよ。信じて貰えないかもだけど、最初から」
「何処まで人をおちょくるんだ、無能!来い!直々に試してくれる!」

 先手を取ったのは光路であった。右手に持つ、直径十センチの剛槍『破城槍(クラッキーインパクト)』で二重を横薙ぎに払う。しかし、それを避けるでなく同じく右手の鋏を開き、逆手で受け止める二重。
「うそン!?」
骨を砕き、鉄を裂く一撃を押さえ込み、受けた鋏をスライドさせながら一気に距離を詰める二重。光路は大振りのスキを突かれる格好となる。
「ひしゃげろ、無能」
 勢いに乗ったまま二重の左ストレートが光路の顔面を貫こうとする。慌ててバックステップをしようとするものの、距離が足らない。上半身だけでも、と無理に身体を反らすと左足の重心を欠いて、さらに体勢を崩すこととなった。
「なら、せめて……っ!」
 全体重を乗せたとは言え、二重の細腕からは想像もつかないほどの衝撃が光路の鼻っ面を突く。と同時にもう一双『黄天衝』を支えに浮いた右足が二重の細い躰にぶち当たる。格好もつかない蹴りだが、その不意打ちは二人の間合いをさらに広げた。
 ゴミクズの様に転がる光路。眼鏡のレンズにはヒビが入り、不様に鼻血を垂らしている。しかし、あれだけの衝撃を受けたにもかかわらず、それだけの、言うなれば軽傷。
一方で二重も違和感を覚えていた。
(……おかしい。あれだけまともに食らえば頭の中身をブチ撒くはずの一撃だぞ)
「ふ、ふへへへ。さてはお前ェ、クラス登録の時に嘘吐いたな?」
「フン、ソルジャーが気功を使えないと誰が決めた。……貴様こそ、そうではないか」
「ふへ。違ぇねえ」

両者は再び立ち上がり、交錯する。両者の力は拮抗していた。
(フン、あの二槍が疎ましい。彼方、此方と休む間もない……)
二重が気功使いと分かった以上、光路は槍の間合いを巧みに操り、二重をリーチの中へ入れさせない。槍というのは獲物の長さ故に、大概の武器に対してイニシアティブを取れる。
しかし、槍は一度懐に入られた相手に対して脆い弱点を有する。一応、両手がふさがるという条件の中での対策として蹴り技を鍛えているが、両手、両足使える近接戦闘となればグラップラー並に気功を操れる二重は圧倒的に有利である。
(あンの忌々しい鋏め……あっちゃこっちゃ動き回ってかわすのが、めんどくせェ……ッ)
鋏という特異な武器は、刺突に加えて、刃部の開閉により当たり判定が変化し、ハンドル部分を持ち換える、廻すなど攻勢の変化に富む。二重は更に外気功による目眩ましも織り交ぜることにより、光路を翻弄した。

 結果、攻守交ざりながらも二人の凌ぎ合いは、二重を間合いに入れないこと、光路の間合いに潜り込むこと。この二点に集約されていた。

「チィ、少しは、喰らえッてぇ……のッ!」
「さっきからちまちまとせせこましい。最初の一撃の方が見所があったぞ」
「……あー!そうかいッ!」
 焦りからか、挑発からか、光路は“左手”の槍を大きく振るう。破城槍とは異なる、速さを突き詰めた、神速の一閃。
 ―――が、展開は初撃と変わらない。
「同じ事を繰り返すとは、無能の露呈だな!光路!!」
 接近戦では光路は足技しか使えないことに、二重は気付いていた。前回のように逃げられないようにするため、槍をホールドしようとすっ、と鋏を開く。
(避けるようなら、この槍、いただこう……!)
 二重迷走が黄天衝を銜えようとした、その刹那。
「――――崑崙ッ!」
 受け止めるはずだった槍の感触は急速に膨らむ。不意を打たれ、その変化に耐えられなくなった鋏は二重の手から弾かれ、こぼれ落ちる。
「何ィッ!?」
―――気功槍、黄天衝。気功の科学的解明を手がけている九龍公司が誇る新型汎用兵器の試作品。それは持ち主の気功を燃料に「気功鎌 蚩尤」「気功壁 崑崙」「気功砲 哪吒」の三つの能力を発揮する。強力で多機能な反面、莫大な生産コストや許容過積載な機能、燃費の悪さなどが原因して、現在は三島広 光路が所有しているのみとなる逸品である。

予想外の動きに、一瞬、思考が止まる二重。光路はその隙を見逃さない。
(槍での一撃より……ッ!)
鋏を失った今、鋏を再び取れる隙を与えるよりも、手数で槍に勝る白打で圧した方が五分以上に渡り合えると判断した。光路は手に持つ二槍を放棄し、二重との距離を詰める。
重いボディが二重に一撃入る。
が、二重は落ちない。咄嗟に硬気功で対応するとともに、気功の乗った右手で光路の頬を張る。視界が一瞬霞み、ごき、という音がして顎が外れる。光路はそれでも怯まない。両手にありったけの気功を乗せてラッシュを入れる。二重もそれに応じた。
バカの一つ覚えのように渾身の硬気功で両腕、両足を固めた光路の攻勢は、ごつん、ごつん、と白打の音とは思えない、大味な一撃。一方、天賦の才に恵まれた二重は硬気功と内気功を十分に生かしたものであり、外傷と同時に内臓系にまでダメージを加えていく。
いずれにしても、どちらも必殺の一撃。

「らああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
「おおおぉぉぉぉぉっ!」

 先に膝をついたのは二重だった。衝撃が、確実に足に来ていたのだ。受け続けるには光路の一撃は重すぎた。好機、と光路は最後の一撃を二重の脳天に目掛けて打ち下ろす。

「……ぐっ!」
 紅に染まる眼前。

 ――――が。二重に衝撃はいつまでも訪れない。
光路も、とうに限界は来ていたのだ。紅の正体は光路の喀血。元々、気功は不慣れなのだ。外的なガードは出来ても、内臓系へのダメージはほぼガードできていなかった。

 ふりあげた一撃は二重に届かず。両者は申し合わせたように、床に崩れた。
 頬に触れた、床の冷たさが、心地よかった。

「おい、無能……喋れるか?」
 一重に支えられて、二重は光路を見下ろしながら、声を掛ける。
「がっ、ごぷ……はぁ、はぁ。喉にモノが詰まってることを除けば、な。意識はあるぜ」
「それなら、問題はない。お前の言っていた、監視の件だがな、許可してやろう」
「ちょ、ふ、二重!?」
「ふ、ふへ。観念しやがッたな?これで、親父さんへの面目も立つぜ」
 ―――光路が気を抜いた瞬間
「……ただし、我が管弦楽団に入れ」
「……はいは、なんだと!?」
「どうせ側にいなくてはいけないのだ、なら、せめて私の役にも立て。それが、ギブアンドテイク、てやつだろう?」
(インチャオと澪漂……両立しても問題ないッちゃあ、問題ないけど。いいんかなぁ……)
「ちなみにNoなら、首だけ九龍に置いてってもらうからね」
「これだけやる相手に礼を尽くせないのは忍びないが、まぁ、生かしておいたら害になるなら、止むを得ないな」
「どのみち、選択肢ないじゃん!」
叫ぶと同時に喀血。
「敵地に一人で来る方が悪いんだよ」
「……お嬢さん、もしかして、怒ってる?」
「アハハハハハハ」

 ――――居酒屋『酒所 穏』。西区画の工場地帯の外れにある、生徒も滅多に来ないような穴場。ちょっと煤けた雰囲気が却って味を出している、知る人ぞ知る居酒屋。
 光路の前には麦酒のジョッキ、二重の前にはロックグラスが並ぶ。今は名も知らないような熱燗を飲み交わしている。
「ふへへへ」
「ん、どうした無能。もう酔ったのか?腕っ節どころか酒まで弱いとは嘆かわしい」
「うーるせぇ。二重。オレは嬉しいんだぜ?」
「何が、だ」
「あーやってケンカから始まったオレ等がよゥ、こうやって仲良く二人で杯を交わしている仲にまでなったてのが、さ」
「お前は、二人で呑むたびに同じ事を言うな、気持ちは分かるが、老人と一緒だぞ?」
呆れたように二重は銚子を光路に向ける。
「いいじゃねえかよ。命を取ったり取られたり。こんな仕事をしてるから、ここまで長く付き合える奴なんて、そういねぇんじゃねぇか、そうだろ」
「フン、違いないな。まぁ、そんなことお前は心配する必要がない。オレはそう易々と死ぬことはないからな」
「……あ、それ、オレも言おうと思ってた」
 期せずして二重の頬が緩む。最近ではあまり見なくなった表情。光路は嬉しくなって、つられて笑い出す。
「クク……」
「ひへへへ……」
 こつん、と御猪口を交わす音が、笑い声に交じった。