Skip to: Site menu | Main content


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

【Perche(疑問)】

「相変わらずですねぇ、二人とも」
「飽きないですねぇ、二人とも」
 ハトとトモの視線の先には、丈之助をからかう藤司朗の姿が。
 そのまま命懸けの兄弟喧嘩へと発展する。いつも通りの展開。
「そういえば」
 ハトがポンと手を打ち、二人は顔を見合わせて同時に首を傾げる。
「どうして二人は対等に戦えているのでしょう」
 丈之助はグラップラーとソルジャークラスである。
 頭とか頭とか頭とかのせいで一向にランクは上がらないが、どちらも個人戦ならトップクラスだろう。
 つまり、白兵戦だろうと銃撃戦だろうと問題なく強い。
 戦闘に特化したランカーであれば、どちらも出来て当たり前だろう。
 しかし、どうしても得手不得手は出てくる。
 そのため、どんな状況下であっても甲乙なく戦えるタイプは珍しい。
 対して、藤司朗はスカラーとサイキッカーである。
 確かに【ロマンゾローザ(強制擬似恋愛)】を破る事は、余程の精神力を持つものでない限り難しい。
 隙を突いて視線を合わせ、「死ね」と命じれば一発なのだから。
 体調不良の時や、藤司朗の言葉に僅かでも惑わされたら間違いなく逃げられない。
 近距離でなければ効果は薄れるが、それでも重ねがけすれば良い。
 「止まれ」「来い」「死ね」――たった三回で終わり。
 けれど、それらは「隙を突けば」の話。
 忠実で融通の利かない殺人兵器の隙を突くなど、常人には不可能なはず。
「どうしてでしょう?」
 二人に視線を戻す。相変わらず、力は均衡している。
「簡単だよ」
 楽しげな声に振り返ると、いつの間にか霞と東華まで観戦していた。
「丈之助が“さあ様の忠犬”で、藤司朗が“根っからのお兄ちゃん”だからだね」
「丈之助さんが忠犬で」
「藤司朗さんがお兄ちゃん……だからですか」
 要領が得たような得ないような回答。
 またしても顔を見合わせて悩み始めた二人をしばし堪能してから、霞はもう一つヒントを与える。
「丈之助はね、沙姉第一だから、自分への攻撃にはどうしても後手になるんだ」
 自己防衛本能すらも沙鳥に捧げてしまっているため、自分を護る事は出来ない。
 攻撃をされてからじゃないと動けない。
 それでも天性の戦闘能力で成り立たせているが、本来の力は半分も出せないだろう。
 だから、丈之助だけを狙っている藤司朗の攻撃にも、全力で対抗する事が出来ない。
「それと、藤司朗は女王騎士団の中で一番好戦的なんだよ。学者や超能力者ってよりは、チンピラの方が合ってそうなくらい」
 基本的に女王騎士団は、沙鳥への害意にしか反応しない。
 無関心な者だけでなく、好意を持っている者であっても完全に無視する。
 そんな中、藤司朗だけは違う。
 彼だけはこの世に存在する全てのモノを愛し、敵対する。
 自らの力を軽々と凌駕するモノであろうと、ちっぽけで脆弱なモノだろうと、等しく味方であり、敵である。
 それゆえに愛を囁き、挑発する。
「なのに、戦闘系のクラスは避けた……というか、丈之助に譲ったんだよね」
「譲った?」
「何故?」
「バランスが悪いから」
 本科に上がる際、申請しなければならないクラス。
 沙鳥は自らの特性を考えてソルジャーとサイキッカーを選んだ。
 同時に本科へと進んだ丈之助と藤司朗。
「丈之助は沙姉の忠犬だからどんな時でも護衛したがったけど、サイキッカークラスは無理でしょう?」
 ハトとトモは力一杯同意する。
 丈之助に特殊な能力はない。完全に力押しタイプだ。
「それで、藤司朗はサイキッカークラスを選択した。ロマンゾローザを高めるつもりは一切なかったらしいけど、女王騎士団の中でサイキッカーに入れるのは藤司朗と鈴臣と幸成の三人だけだって考えたら諦めもついたってさ。それと、僕たちを含めて全体を見渡した結果、戦闘力よりも頭を鍛えた方が良さそうだって思ったんだって。失礼な話だよね」
「その意見には同意しましょう」
 珍しく店内に現れた鈴臣が不遜に肯定する。
「ただ、シロの忌々しくも狡猾な点が抜けてます。シロは傲慢にも、四つのクラスを受けるつもりで選択したんですよ」
「四つのクラス?」
 一言一句ずれることなく同じトーンで尚も問うハトとトモに対し、鈴臣は素っ気無く丈之助と藤司朗を指差した。
 後は自分で考えろ、と――
「あぁ、それで喧嘩を……」
「シロもそうですが、我々は目的のためなら手段を選ばず、何があろうと容赦しないタイプの人間ばかりですから」
 ある意味、勤勉なほど頻繁に行われている兄弟喧嘩。
 戦闘のスペシャリストと命懸けの手合わせをすれば、学ばずとも自然と鍛えられるだろう。
「何ていうか……」
「素直じゃないですねぇ……」
 未だ続いている兄弟喧嘩は、同レベル過ぎて終わりが見えない。
「そろそろ止める? とはいえ、政宗は外出中で、さあ様はお昼寝中か……」
 あの二人が素直に言う事を聞くのは、政宗と沙鳥だけ。
「放って置けば良いんです。その内、マサが帰って来て勝手に何とかするでしょう」
「今日は遅くなるって言ってたから、それより先に沙姉が起きちゃいそうだね」
 霞の言葉を聞いて、鈴臣の眉間に一層深々と皺が出来る。
 このままでは沙鳥が起きてしまうし、静かに落ち着いて仕事をする事も不可能で、不快にも程がある。
 それに、このままでは沙鳥が起きてしまうし、その原因がこんな下らない事では可哀想過ぎる。
 なのに、マサの帰りは遅い。
 ユキは興味を示しもしない。
 沙鳥がゆっくり眠っているのは問題ない。
 それほど疲れさせても気付かず、こんな騒ぎまで起こしている丈やシロが全面的に悪い。
 このままでは沙鳥が起きてしまうではないか。
「……どいつもこいつも迷惑な」
 鈴臣は面倒がる様子を隠しもせず、傍らに立っていたペンギンの頭を鷲掴みにする。
「どちらも勝手に死ねば良い」
 そのまま二人へと投擲。
 自らに向かってくるペンギンに向かって、丈之助は迷わず銃を抜く。
「ちょっ……ごめん、俺の負け!」
 藤司朗は丈之助を制すべく、慌てて降参してペンギンを抱き止める。
 ペンギンは余りの恐怖に震えたまま動けなくなっていた。
「邪魔だし、沙鳥じゃないから良いかなと思って」
「だからって撃とうするなよ。可哀想だろ……」
 藤司朗の甘い囁きに感動の涙を浮かべたペンギンの希望は、惚れ惚れするほど完璧な笑みによって粉々に砕かれる。
「この子がいないと、うちの収入が激減するんだから、少しでも長く生きてもらわないとね」
「なるほど。ごめん」
 丈之助に撫でられているペンギンの顔は、人間であれば白と言って良いほど色をなくしていただろう。
 そんな一匹の精神的被害者を出しただけで、万具堂はようやく落ち着きを取り戻す。
「止まりましたね。それでは、後の事はお任せします」
 平然と沙鳥の元へ向かう鈴臣の背を見て、観客達は同時に思った。


 ――目的のためなら手段を選ばず、何があろうと容赦しないってガチ過ぎて笑えない。