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【Fine del Mondo】

 いつかの鳥籠。
 初めて会った時と同じように、捜し求めていた少女はそこにいた。
「久しぶり……というにはまだ早いかな?」
 余程、意外な訪問だったのだろう。
 神の何よりも大事な小鳥は一瞬だけ目を見開いたが、それもすぐに伏せられる。
「どうして来たの?」
 あの頃とは違って、少女は自ら進んで囚われていた。
 わざわざ来る必要もない。
「会いたかったから」
 彼らしくない、嘘偽りのない答え。
「……呪いのせい?」
「違うよ。そんなんじゃない……」
 手を伸ばせばすぐにでも届く距離。
 けれど、その手は決して届かない。
「一緒に帰ろう?」
 少女はようやく顔を上げる。
 少年の真意を探るように。
「ここに辿り着くまでの間、色々調べてみた。ほら、少し前に会った小父さんを覚えている? 葬式の時の……」
「あぁ、ロマンチストな小父さん? 確か、比良坂さんだっけ……」
「そう! その人のところに行こう? そこには、強い人たちが沢山集まってるんだ。そこなら大丈夫だから……」
「でも、私は外に出ちゃダメなんだ……」
 呪いは絶対である。
 これまで、幾人もの血が流れてきた。
 彼女のために。
 分かっていたはずなのに、分かったつもりになっていただけだった。
 それがどれほど恐ろしい事か。
「みんな死んじゃう……」
「俺たちだけは何があっても君に血を捧げない。君のために命も懸けない。約束する。君を一人にはしない……君を残して死んだりなんかしない」
「……本当?」
 涙に濡れた声。
「本当に。俺たちはあの人の物じゃない。君に忠誠を誓ったんだから」
 あぁ、また泣かせてしまった。
 どれほど望んでも、その涙を拭うことは出来ない。
 彼女に触れるには、血で穢れ過ぎている。
 けれど、こんな手でも護ることは出来る。
「君に血を捧げるような奴らは俺たちが近づかせない。何もかも全て護るから」
 それが敵であろうと味方であろうと、絶対に彼女の目の前で血は流さない。
 少女の手が、檻を越えて彼の頬に触れる。
「……コンタクト、外したのね。不自由はない?」
 いつもは度入りのカラーコンタクトで隠している父親譲りの焦茶に近い黒眼が、戸惑いがちに揺れる。
 逃れようにも抗えない、絶対的な人。
 彼は小さく苦笑して、その栄誉を受け入れる。
 彼女がこちらの思惑を易々と飛び越えていくのなど、もう慣れた。
「……ずっと誤魔化してただけだから。見えるのに、見えない気になって」
 ここまで来るのに、彼程度ではコンタクトで瞳を封じるほどの余裕などなかった。
 忌まわしい能力を解放せざるを得ない。
 そうなれば、視力をあえて悪化させる必要もない。
 自然、視力は異常なほど回復していた。
 檻の中へと血塗れた手を伸ばし、少女の頬に触れる。
 その腕に激痛が走るも、不思議と気にならない。
 痛みなど、気付かなければ痛くない――と最初に言ったのは誰だっただろうか。
「だからね、もしも外に出るのが怖いなら、俺のせいにして良いよ。そのために俺が来たんだ」
 ――君の罪も罰も全て引き受けよう。
 少女の顔の向きを固定し、真っ直ぐに目を合わせる。
 他者を強要出来る瞳。解放された今ならば、この少女を従わせることが出来るかもしれない。
「あの人から取り返せたら、すぐにでも戻すけどね」
 頬を包む温もりに浸りながら、少女は寂しげに微笑んだ。
「皆はどうしてるの?」
 予想通りで期待外れの解答。彼は小さくため息を吐く。
「皆はマサ姉とスズに任せてきた。ユキはその護衛。丈は俺より先に来て、あの扉の前でバカみたいに黙って座ってた」
「私がいなければ、貴方たちはあの人から解放されて幸せに暮らせる」
「あまり馬鹿にしないで欲しいな」
 子供を叱るように優しく囁く。
「そんなのは幸せなんかじゃない。俺らの幸せは、沙鳥の最期を看取る事だ」
 あり得ないような夢物語。
「もし、君がどうしてもと言うのなら、俺たちが殺してあげる」
 彼女の為ならば、そんな夢物語も現実に変えてみせよう。
「想像して……屋根のない教会で、一緒に仲良く眠るんだ。そして、鳥たちとともに天上へ向かう――サイコーでしょ?」
「みんなで?」
「そう。みんなで。あの人になんか俺らの欠片も残さない……皆で一緒に天国へ行くんだ」
 そんな結末ならば、どれほど幸せだろうか。