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Amicizia

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tranquilizer

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【Amicizia】

「おーじーさん!」
 端から見れば然して変わらぬ年頃の相手に掛けるには相応しくない呼び方だが、男は気にした風でもなく振り返った。
 案の定、そこには少し膨れ面の少女が待ち受けていた。
「随分とご無沙汰ね。相変わらずお忙しいの?」
「まあ……それなりに、な」
「もう結構な年なんだから、いつまでも若いつもりで無理しちゃダメよ? 大変なのは他の若い人たちに任せて、踏ん反り返ってれば良いのよ」
 絶対にそうしないと分かっているのだろう。
 少女は揶揄るように笑った。
「お前も相変わらずみたいだな。噂を耳にしない日はなかった」
「元気にしてるってすぐに分かって安心でしょ?」
「あぁ、そうだな」
 二人の間に心地よい沈黙が流れる。
「……ここでの暮らしはどうだ?」
 久しぶりに会う度、必ず掛けられる問い。
 少女は小さく笑んで、いつものように答える。
「幸せよ。……ここの皆は強いから」
 大人びた表情。
 初めて会った時から随分と経ち、話すのに背伸びや身を屈める事もなくなった。
「皆強いから、簡単には死なない。だから、私は大丈夫。心配要らないわ」
 少女の事情を知る男は、ただ「そうか」とだけ呟いた。
 少女が心から安らげるには、まだ至らない。
 まだ誰の心からも闇が消えていない。
 勿論、彼にも少女を癒す事は出来ないだろう。
 時間が少な過ぎる。
「……相変わらず、私は皆から護られてばかり。小父さんの心労も中々なくならないね」
 男の考えている事を感じ取ったのだろう。
 少女は小さくため息を吐いた。
「もっと強くならないと。私が皆を護ってあげられるくらい強く……」
 男は少女に軽く手を乗せる。
「そうなったら、この学園を乗っ取られてしまうかもしれないな」
 下手くそな慰めに、少女はクスリと笑みを零す。
「素敵なアイデアね。そうしたら、さっちゃん帝国に改名しなくっちゃ」
 闇は消せずとも、薄める事は出来る。
 彼女が心から笑っている姿を見たい。出来れば、生きている内に。
 叶わぬ願いと知りながらも、そう願わずには要られなかった。
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