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終章 後日談

「なるほど。ランカーが七人も集まって取りものですか。へえ。まあ、それはいいんですよ。取りものでも鬼ごっこでも何でもしてください。ただし、自分の区画でね」
「それは申し訳なかったと思ってます」
「思ってます」
「はい」
 発言者以外の全員が視線を明後日の方向にそらした。いらだった様子で、発言者の少女は机の端を叩く。
「ハトさん、トモさん、東華さん、半月兄弟、藤司朗さん、秋人さんはメインヤード。桔梗さんはウエストヤード。篭森さん、ジョフ、桜夜楽、アルシアはイーストヤード。なのに、なぜこのノースヤードで喧嘩をしているんですか? 御蔭で地下の一部は倒壊、付近の建物にも甚大な被害が出ました。幸い、周囲の住人に死者が出なかったからよかったようなものの、ランカーならもっと周囲に気を使って戦いなさい!!」
「だから、弁償はするよ」
 開き直った口調で珠月は言った。
「それに最大責任は、そんな場所を戦場に選んだ犯人グループじゃん。薬がこれ以上蔓延する前に、制作者や売人ともども一網打尽にしたんだから、褒めてくれたっていいじゃん。こういうとき、真っ先に治安悪化するのは北と西だよ。違う? 霧戒ちゃん」
 まったく悪びれない。いっそのこと清々しいほどの開き直りだ。
「貴方は反省というものを覚えてください、篭森」
「反省してるから、関係者の事情聴取に付き合ってるんじゃん。してなかったら、スル―してるよ。そうそう、桜夜楽とアルシアはお仕事だから、二人の分の事情も私が話すね」
「もっと態度で反省をしめしてください。他の方も」
 びくりと全員が震える。別に霧戒自体が怖いというわけではないが、怒っている知人というものは誰にとっても怖いものだ。
「まあ、秋人さんと桔梗さんはいいとしましょう。被害者です。この場にいなかった桜夜楽とアルシアも良いでしょう。製造者を捕まえてくれた功績もありますしね」
「製造者を捕まえる指示を出したのは、私なのに」
 珠月は不満そうに呟いた。霧戒は無視する。
「ジョフは……」
「桔梗殿と秋人殿を逃がそうとしたのだが、人数が多すぎた。私のところで止められなかったこと、真に申し訳なく思う」
「……不可抗力ですね」
「ずるい」
 総合的に見て一番責任があるはずの珠月が、一番不満そうな声をあげる。この場合、一番不満を言いたいのは少ない北の財政をやりくりしている霧戒だろう。
「一番の問題は、地下を爆破したあなたですからね、篭森」
「一番頑張ったのも私なのに。ちょっと危なかったし。あ、そうだ、ジェフ。後で鍛錬に付き合ってよ」
「はあ……構いませんが、なんでまた」
「ちょっと鍛錬不足かなと思って。やっぱ能力使う戦闘ばっかりしてると腕が鈍るね。素手での格闘と、目隠しでの戦闘訓練に付き合ってよ。そっちは武器ありでもいいし」
「いや、ジョフは武器無が一番強いだろ。カンガルーのトランスジェニックだから、筋力が並みじゃねえし。というか、武器・能力使用禁止に限ったら、TOP50並みだろ」
「そうですよぉ」「そうそう」
「…………まずはこちらの話を聞いてください。綺麗に話題逸らしてるんじゃありません」
 目には見えないが感じる怒気に、さすがの珠月も口を閉ざした。
「ごめん」
「もう……あのままがれきの下敷きになってくださればよかったのに、と一瞬思ってしまいました」
「トーカ、トーカ、霧戒ちゃんが虐めるよ」
「いや、自業自得というんだよ。しかも台詞棒読み……」
「正当防衛というんだよ」
「過剰防衛と器物損壊です」
「ちっ」
「今、舌打ちしませんでしたか!? はあ、もう……」
 怒りすぎて怒りが持続しなくなったのか、霧戒は深いため息をついた。
「ともかく、金払ってもらいますからね! 賠償金と罰金! ですが、一応学園にはきちんと報告をしてありますので、ポイント加算はあると思います」
「はーい」「はーい」
「口座振り込みでいいの?」
「まあ、仕方ありませんわね」
「俺、金ないぞ!?」
「良心がとがめるから僕も少しは払うよ」「俺も出す。この前、地球の裏側で稼いできたから、今は金あるしな」
 説教が終わった瞬間、わいわいがやがやと騒ぎだす。真の意味では反省していない。
「まったく貴方がたときたら……」
「別に反省してないってわけじゃないと思うけどね」
 苦笑を浮かべながら、秋人がゆっくりと近づいてきた。
「篭森さんだって、周辺に関係者以外がいないことくらい分かっていたから爆破したんだと思うよ。あれだけ銃声が聞こえていれば、普通は逃げるからね。ハトさんもトモさんも、事態を鎮静化しようとしただけだし、他の連中だって同じようなものだよ」
「分かってますよ」
 ふいと霧戒はそっぽを向いた。
「でも、それならそうと言えばいいのに……本当に、可愛げのない方たち」
「異牙さんもね。立場上そうはいかないだろうけど、本当は優しいいい子なんだから怒ってばかりは……まあ、周りがこれじゃ仕方ないか」




「なんとイウか、単純ですネ。カゴモがこの案件を調べてイルことを知っていたノは、桜夜楽たちと北王と地下の皇帝。そして、桜夜楽タチがそのことを話したアナタだけ」
「もっと情報がオープンだと思ってたんですよ。抜かりましたね」
 両手両足を拘束されて床に転がってもなお、千佳は慈悲深くほほ笑んでいる。一瞬だけ軽蔑の視線を向けて、北王・夜時夜厳はすぐに視線をそらす。
「メインヤードの研究者ガ……厄介なモノを作ってくれましたネ。製造者と売人は捕まえタから良いとシテ、これから薬が切れた中毒者が暴レル危険がある。本当に、困ったひとデス」
「光栄ですわ」
 扉が開いた。二人とひとつが足早に入室してくる。二人は少女で、その二人に引きずられている一つは拘束されている人間に見えた。だが、千佳の笑みは揺らがない。そこに狂気を感じて、夜厳はつまらなさそうに目を細めた。
「た、助け」「うるさいよ」
 引きずられてきた少年の懇願は、彼自身が床に崩れ落ちる音にかき消された。
「もー、往生際が悪いな。ねえ、夜様」
「仕方がないわ……ゴミだもの」
 少年の左右に仁王立ちになった、黒と白が言った。
 黒い少女は、夜厳配下〈ニュクス〉の下組織〈フィフィスエレメンツ〉、その中でもひときわ夜厳に対する忠誠心が強く盲目的とすら言われる序列61位【ブラックナイト(忠実なる黒騎士)】クロエ・騎士守。若干12歳でトップ100に入る優秀な生徒である。一般的に入学年度が最近の生徒のほうが予科にかかる年数が少ない傾向があるが――後から入ってきた生徒はすでに先輩という手本があるため、ゼロから伝統を作ってきた高学年の生徒に比べて楽と言われる。まあ、何事も道を作るより整備するほうが簡単なのだから、後発組が有利なのは当たり前だ――それを差し引いても、彼女ほど優秀な生徒は少ない。
 白い少女は同じく〈フィフィスエレメンツ〉の序列92位【ホワイトアイス(冷厳なる氷華)】白銀氷華。唯我独尊のサディストだが、夜厳にはそれなりに忠実な部下である。
 夜厳の側近中の側近ともいえる人物がふたりもいるということは、今後の処分は決まったようなものだ。だが、それでも千佳は笑みを崩さない。恐れ慄いているのは、少年だけだ。
「景山。何をそんなにおびえているんですか? 恰好が悪いですよ」
「おおおお神足! ななんでお前はあああああ」
「ほらほら、聞き苦しいわよ。まあ、こうなることくらい初めから分かっていたではありませんか。なぜ怯えるんですか」
 対照的な二人を見て、夜は不機嫌そうな顔をした。
「そちらの……景山でシタか。彼が全部話シテくれましたヨ。これが売人役ダッタみたいデスね」
「売人ではありません。使者です。私たちのような星になれない屑が、一瞬だけ輝くための切り札を配ってもらっていました。お金は最低限しか受け取っていません」
「屑、デスか。身の程を知ルのは良いコトですガ、屑なら屑らしク、ゴミ箱に収まってイレバいいものを……」
「ほんと。あのね、ゴミ屑っていうのは不快なだけじゃなくて、あっちこっちに蔓延するとアレルギーの原因にもなるんだよ。屑はその辺にいるだけで迷惑なの! もっと身の程をしって申し訳なさそうに生きたら?」
「クロエ」
 たしなめられてクロエは黙った。千佳は笑みを浮かべたままだ。まるでそれ以外の表情を知らないかのように。
「……流星だって屑ですわ。ただの宇宙のゴミでも燃える時は光る。みんなが見る。立派な自分の使いつぶし方です」
「ハテ、使用者はそう思ッテいたんでショウかね。どうもワタシには、強くなれルと信じて踊らされてイタようにしか見えないんデスガ」
 押収した薬の入ったビニール袋を夜厳は片手でもてあそんだ。
「ゴミはゴミ。屑は屑。人は人デスよ。天使の粉なんて馬鹿馬鹿シイ。こんなものに頼ル程度の人間の頭上には、とても王冠は輝キません」
「認識の違いですね。偽物でも、気のせいでも、一生その他大勢でいるしかない人間にとって、その一瞬の輝きは王座よりも価値があるんですよ」
 夜厳は答える代りに鼻で笑った。
「もうイイです。連れて行け」
「はーい」
「重いのに……」
 夜厳の声にこたえて、黒と白が動く。
 叫び声をあげて暴れる景山に対し、千佳は最後までほほ笑んでいた。それを見送って、夜厳はため息をついた。
「今回モ、つまらない事件デシタね。まったく何デ、ランカーの連中は北でバカリ騒ぎを起こすのヤラ……まあ、修復費名目で臨時収入を得ラレそうですかラ、いいとシテおきましょうカ。収入はありがタク、北のインフラ整備につかわせていただきマスよ」