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Fast contact 望月遡羅&篭森珠月
「妙な光景だ」
ぼそりと呟いた澪漂二重の言葉にきゃあきゃあ言いながらケーキを切り分けていた望月遡羅と篭森珠月は振り向いた。
「何がだい? 二重」
「包丁をこちらに向けるな。貴様に刃物を向けられると、殺意がなくとも緊張する」
「御希望なら、投げつけてやってもいいよ」
「止めろ、【無能】が」
言葉だけとらえると険悪だが、どちらも顔は笑っている。珠月は肩をすくめると、さらに切り分けたチョコレートケーキを乗せて二重に差し出した。
「で、何が妙だって?」
「人類3KYOのうち二人の身内が、仲良くケーキを切り分けている光景だ。写真を取りたがる記者が山のようにいるだろうな。まあ、そのような【無能】、生きて仕事場に帰れるとは思えないが」
「それくらいで殺しはしないよ。データ没収で厳重注意が関の山。ねえ?」
「そうですね。流石に自分の写真が知らないところで出回るのはちょっと……」
話を振られて、おっとりと遡羅は言った。
写真というのは案外と馬鹿にできない。面が割れれば様々な局面で動きにくくなるし、写真を見せて暗殺や妨害を頼むものもいる。どこでどう使われるか分からない。著名人ならなおのことだ。
「それに、兄がすごいからといって私がすごいわけじゃありませんよ」
「同感。人類3KYOはちょっと伝説化され過ぎてると思うよ」
ふうと珠月はため息を吐いた。伝説の身内としては色々と思うこともあるのだろう。ちなみに、3KYO残りの一角である時夜夜神と、学園の北区の支配者である時夜夜厳は同じ名字である。兄弟説が根強くささやかれているが、本人はそんな人間は知らないと否定している。ついでに、噂の噂では戦場や秘密クラブのパーティなどで夜厳そっくりの人間を見たという証言がいくつもあり、実は双子とか三つ子とかいう噂もあったりする。ここまでくるとすでに都市伝説に近い。
「そういえば、3KYO同士は面識あるのか?」
ふと気になって、二重は尋ねた。同列に並べられる三人だが、仲がいいという話は聞かない。珠月と遡羅は同時に小首を傾げた。
「ああ、たまに話題に出るね。確か、“人類最凶”時夜夜神のことは『可哀想な子ども』で、“人類最強”の遡羅ちゃんのお兄さんのことは『人類史上まれに見る本物の正義の味方』と称してた気がする」
「ちょっと待て。あちこちで死都を気付いている人類最凶の何が可哀想なんだ?」
“人類最凶”時夜夜神は噂が語るところによると、5つの大陸で25の死都を作り上げた凶悪犯だという。遡羅の兄である望月楚羅嗚との死闘はすでに百を超えるが、いまだに決着はついていない。
「さあ? 頭とかじゃない?」
さらりと怖いことを珠月は言った。出るところに出れば大問題になりかねない発言に、二重は渋い顔をする。
「お兄様はどうだったでしょうか。確か、夜神さんのことは『倒すべき悪の権化』とよく言ってますけど……壬無月さんは…………」
遡羅は言葉を濁した。だが、珠月が視線で促すと申し訳なさそうに口を開く。
「その……『稀にみる知識人で品性卑しからぬ。だが、自己中心的で親馬鹿だ。残念なことだ』って……すみません。本当にすみません」
「いや、うちの親が馬鹿なのは事実だし。その馬鹿親も『残念なシスコンだ』とか言ってたから」
「レベルの低い罵り合いだな……」
呆れたように二重は言った。世界最高峰とは思えない。珠月と遡羅は苦笑した。
「仕方ないよ。元仲間とどちらの娘が世界で一番素晴らしいかで殴り合い(双方とも大怪我。相手は入院寸前)になるような人だもの。その話を聞いた時、本当にそのまま死ねばよかったのに、って一瞬思ってしまった。おかしいよね。私、お父様のこと大好きなはずなのに」
「…………おかしくないと思います。私も、『滅ぼさねばならぬ悪がある!』とか言って、私の周囲の男性を威嚇するのはやめてほしいと思いますから。最近は帰ってきていないので、そういうこともありませんが……」
離れたところで漫画を読んでいた人物の肩がびくりと震えた。三人は見なかったことにしてあげた。
「つまりはどれだけすごかろうと所詮は人間。ただの身内」
「だけど中々そうは思ってくれない方が多いんですよ。予科時代はそれで絡まれたり、逆に倦厭されたり。だから、同じ3KYOの身内に会った時は驚きました」
「あー……あの時も確か、刺客出たよね」
珠月は苦笑した。そして、かれこれ数年前にさかのぼる昔話を始めた。
学園都市トランキライザー、イーストヤード(東区)。
歴代日本びいきの支配層が多かったためか、旧日本の首都であった東京都の位置に作られたトランキライザーの中でもっとも日本っぽさを残す区画である。特に元東王の狗刀宿彌は日系イギリス人でありながら日本通とされ、和風建築の町並みを推進した。
結果、東区は中央に高層ビル街、その外周に雑多としたアジア的空気を残す電気街、その外側にかつての京都を連想させる日本街が広がるという独特の形で発展することになる。特に郊外に当たる日本街は、市内では貴重な汚染されていない河川を残していることもあり、高級住宅地あるいは観光地としても発展することになる。
「…………すごい」
望月遡羅は街並みを見渡して、思わず声をあげた。
石畳の街が広がっている。左右に広がるのは数寄屋造りや書院造など、日本の伝統芸としか言いようのない和風建築。石積みの塀や漆喰の蔵が美しい。かと思えば、いったいどうやって作ったのか寝殿造りの豪邸があり、さらに明治期に見られた和洋折衷の何とも奇妙な建物や純洋風のどっしりた洋館が景色に彩りを加えている。どれもこれも、半生かな金で作れるものではない。
競い合うように並ぶ家々の中には、道を挟んで渡り廊下を展開しているものもある。渡り廊下の透かし彫りや硝子のはめ込み窓がまた芸術的だ。さすがに個人が単独で所有しているものは少数派らしく、良く見ると店だったり、事務所だったり、複数の人間がシェアして暮らしているようだったりするし、長屋も多い。けれど、それでもやはり外見に気を取られてしまう。
「こんなに時代も地域もめちゃくちゃなのに、街並み全体でみると統一感があるのがすごいですね」
絵描きとして素直に感心してしまう。だが、かつての日本という国も案外こんなものだったと聞く。割といい加減に見えて、なんだかんだで和が取れる。このあっけらかんとした適当さとあいまいさが日本らしさなのかもしれない。
振り仰ぐと遠くに摩天楼が見える。背が低い建物が多いため、随分離れたところあるはずのビル群がはっきり見えてしまう。まるで、合成写真でも見ているようだ。今通り過ぎた門は、お寺だろうか。この学園に宗教家というものはあまりいないが、それでも教会やら神社やら寺やらはあることはあるらしい。門の細工が細やかだ。
「なるほど。高級住宅地にすれば収入の多い住人が増えますし、そうなれば財政の安定化と治安の向上を狙えます。すごい都市計画ですね」
三味線の音がした。遡羅が視線を巡らすと、川の上を流れていく屋形舟が目に入った。そこで女性が演奏をしている。澄んだ水の流れが珍しくて、それは思わず川に近付いた。川は崩れないように石垣で補強され、ところどころ階段状になっていて下へ降りられるようになっている。川の両脇は遊歩道になっているらしい。遡羅は躊躇わずに降りた。下に降りると葦が茂っているのが見えた。
「…………観光産業も、と言ったところでしょうか。本当に、どれだけお金をかけているんでしょうね。かけられるのが羨ましいことです」
こんな強引な都市開発と地域の品質向上を目指せるのは、東区が元々土壌や河川の汚染度が少なく、住人の生活水準も他地域に比べてましで復興させやすかったからだ。これが西や北ではこううまくはいかなかっただろう。
「でも……やっぱり綺麗」
自然と顔が笑顔になる。その時、遡羅の目に奇妙なものが写った。
「………………」
川べりの倒れた葦の枝。そこに白い塊がしがみついている。良く見ると動いていて、それが生き物だと分かった。さらに目を凝らすとそれが、葦にしがみつく白いネズミだと気付く。足に細い足話がはまっていて、野生ではなく誰かのペットらしいと予想ができた。
「……可哀想に。川に落ちたのかな」
遡羅はかがみこんで手を伸ばした。野性なら手を出すのは危険だが、ペットならば噛みつかれても伝染病などにかかる可能性は低い。遡羅が手を出すと、ネズミはおとなしくその手に跳び移った。そのままゆっくりと持ち上げて、ポケットから出したハンカチでふく。白い毛皮は濡れて、随分と貧相な姿になってしまっている。
「さて、貴方はどこの子でしょうか」
ネズミはおとなしく拭かれている。随分と人慣れしたネズミだ。普通は飼い主でも抵抗するものだというのに。その時、
「ガラハド」
およそ感情の起伏というものが感じられない声がした。振り返ると、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる少女の姿が目に入った。印象的なのは、一目で東洋系と分かる黒い髪とそれを裏切るような血のように赤い瞳。変わった瞳の色など学園ではめずらしくもないが、こういうどろりとした赤色はあまり見ない。ゴシックロリータというのだろうか。時代錯誤な少女趣味のドレスで、足元は厚底靴だ。
「……ごめんなさい」
遡羅の前で立ち止まると、少女は小さく頭を下げた。遡羅はあっけにとられる。
「えーと……」
「その子、うちの子なの。なにかご迷惑をおかけしたようで」
その子、と言った少女の視線がネズミに向いていることに気づいて、遡羅は合点した。どうやら、ネズミの飼い主が登場したらしい。
「ちょっと……散歩中に振り落としてしまったらしくて、探していたの。ごめんなさい。ハンカチを汚してしまったようだね。今度、別のものを贈らせてもらうよ」
「いえ、こんなの安物ですよ。飼い主さん見つかって良かったです」
遡羅は手を差し出した。握手をするかのように少女も手を差し出す。すると、ネズミはするりと少女の掌に乗り移り、そのまま腕を駆け上がって肩に載った。遡羅は小さく笑う。
「慣れてますね」
「いや。案外と、言うことを聞いてくれなかったりするよ」
少女が苦笑した瞬間、風が吹いて肩に載ったネズミはぶるりと震えた。まだ毛皮は湿っている。次の瞬間、ネズミは胸元から少女の服の中に滑り込んだ。
「っ、こら、ガラハド! 主の体温で暖を取るな! 冷たいじゃないか。こら、出てきなさい!」
慌てて少女は自分のドレスの胸元から手を入れるが、すばしっこいネズミは捕まらない。小さくため息をついて、少女はすぐに諦めた。そして、遡羅に向き直る。
「ごめんね。ありがとう。迷惑じゃなければ、今度なにかお礼をさせてほしい」
「いいですよ。そういうつもりで助けたわけじゃありませんし。それより、もう落さないであげてくださいね」
「平気だよ。服の内側の隠しポケットの中に入りこんだみたいだから。ああ、冷たい」
嫌そうに少女はつぶいた。声は淡々としているが表情が困っていて、遡羅は思わず口元をほころばせる。
「あ、そうだ。なら、お礼の代わりに自己紹介しませんか。私」
遡羅の台詞は途中で途切れた。代わりに飛んできたンナイフを手ではたき落とす。慌てて少女の方を振り返ると、少女もまたナイフを素手で掴んで止めていた。学園の戦闘系生徒では持つ者の少なくないスキルだ。
「―――――申し訳ありません。私のお客様のようです」
人類最強をうたわれる兄を持つ遡羅にとって、兄の敵から狙われたり、人質にしようともくろむ相手に誘拐されかかることなど珍しいことではない。だが、今はまずい。無関係な人物がそばにいるのだから。
「すみません。私が狙いなんです。私が引きつけますから」「いや」
うっすらと少女は笑った。唐突に少女の纏う空気が変わった。気だるそうだが落ち着いた空気が消え、無表情な顔には酷薄そうな笑みが浮かぶ。
「多分、私のお客さんだと思うよ。最近、また増えたんだ」
「え?」
どういうことかと遡羅は聞き返そうとしたが、その前にわらわらと湧きでてきた防護スーツの男たちに二人は包囲される。かなりの人数がいるようだが、奇妙なことに防護スーツは三種類ほどあるようだった。種類の違うスーツを来た男たちは互いに牽制し合うような仕草を見せる。
「何だ、貴様ら。邪魔立てする気か?」
「そちらこそ、こちらの獲物を横取りするつもりだろう!? そうはいくか」
険悪な空気が漂う。それを観察して、遡羅は少女と顔を見合わせた。
「…………ひょっとして」「互いに苦労してるみたいだね」
少女は髪の毛をかきあげた。きらりと髪ではない何かが光る。それが極細のワイヤーだと気付いて、遡羅は目を見張った。そして笑う。
「私、貴女が誰か分かりました。むしろ、見た瞬間に分からなかったことに、自分で驚きです」
「そう? 私はまだ、貴女が誰か分からないんだけど。まあ、いいや。私が向かって右側。貴女が反対。倒せる方が倒せるだけ倒す。全部倒したたらクリアってことで、OK?」
「勿論です」
初対面の二人は頷くと、逆の方向に向かって踏み出した。遡羅は踏み出す仕草に合わせて、袖の中に滑り込ませた手を引き抜く。そこにはトランプサイズのカードが握られていた。手に握りこまれているため誰にも見えないが、そこにはデスサイズと呼ばれる大振りの戦闘用鎌の絵が描かれている。
ミスティック能力【ウルティアニマ(究極魂)】
自身が書いた絵を具現化する遡羅の異能である。具現化されたデスサイズは武器として遡羅の手に収まる。唐突に現れた武器に対応しきれず、数名がデスサイズの直撃を受けた。ただし、刃と逆の部分でなぎ倒されたため死んだものはいない。
少女はそれを見て、小さく手を叩いた。
「デスサイズ! 光路に聞いたことがあるよ。私も貴女が誰だか分かった」
楽しげに笑う少女は一歩もその場を動かない。代わりに風の流れが少女を包み込むようにして生まれている。風使い――というわけではない。高速で操るワイヤーとスローデングナイフが生み出す衝撃波が風となって周囲を舞っているのだ。勿論、生身で操れるスピードではなく、そもそも少女は対象に触れてすらいない。操作系の異能者にありがちな戦闘スタイルだ。
「初めまして。【イノセントカルバニア(純白髑髏)】篭森珠月さん」
「こちらこそ。【ファンタズマゴリアバディ(幻想具現化)】の望月遡羅さんとの共闘なんて願ってもいない」
背中合わせに向かって、二人は微笑んだ。驚愕したのは襲撃者たちのほうだ。よりにもよって、学園600万人以上の生徒の中からピンポイントでやばいと分かる相手が居合わせたところに襲撃してしまったのだから、当たり前だ。焦ったような視線がぶつかり合う。だが、少女たちの笑みにそれは塗りつぶされた。
「退くなんて許しません」
「安心していいよ。今日は機嫌がいい。いたぶるような真似はしない」
事実上の死刑宣告に、襲撃者側のほうが泣きそうな顔になった。
「篭森……貴様は他人との出会いすらまともにできないのか」
「え? 何その失礼発言」
紅茶の蒸し時間を告げる砂時計を真剣に見つめながら、珠月は嫌そうな顔をした。二重のほうは眉間にしわを寄せている。
「聞く限り、貴様は他人とろくな出会いをしていない」
「ろくな出会いだったら、わざわざ語るまでもないでしょ。それに多少はインパクトがあったほうが関係性は根強くなるものだよ。よし、丁度」
ポットを両手で持ち上げて、珠月はお茶を入れ始めた。遡羅のほうは使い終わったケーキナイフを片づけている。
「…………一応聞いておくが、その後どうなったんだ?」
「えーと、50人くらいいた連中の足をそれぞれワイヤーで繋いで50人50脚状態にして川に放り込んだ」
東の川は汚染度は低いが、急な流れや深みが多い場所が多く油断できない。
「…………新手の処刑法か?」
「互いに協力し合う美しい心を忘れていなければ、生き残れてるはずだよ。まあ、その後姿を見ていないから詳しいことは分からないけどね」
さらりと怖いことを言って、珠月は紅茶の注がれたカップを配る。そのなにかがずれた思考は確かに、『狂』の文字が相応しい。
飄々としている珠月に対して、遡羅は困ったような顔をしている。
「一応お止めしたんですが……まあ、そういうこともありますよね。自業自得といえばそれまでですが、かといって無傷でお返しするわけにもいきませんから」
「それでその後、甘味を食べに行ってアドレス交換して別れて、後日再会して」「もういい」
二重はあきらめたように頭を左右に振った。珠月は頬を膨らませる。
「そんな絶望的な顔しなくてもいいじゃん。それに二重と初めて会った時だって」
「それ以上言ったら殺す。【無能】め」
ドスの聞いた声が響いた。一瞬で氷点下まで下がった空気に、少し離れた場所でのんびりしていた澪漂管弦楽団の団員が凍りつく。
「……二重、威嚇することないじゃん」
「貴様が余計なことを言うからだ」
「余計じゃないよ。二重のイケメンな台詞を遡羅ちゃんに教えてあげようか」「聞きたいです」「言ったら記憶が飛ぶまで殴る。篭森を」「女の子に暴力をふるうなんて、紳士として最低だと思うよ。あと、殴ったら後で殴り返す」「それが女の子の台詞か」
一通りの応酬を経て、二重と珠月はにらみ合った。遡羅は苦笑する。
「仲よしですね」
「まあね」「どこに目をつければそうなる」
嬉しそうな珠月に対して、二重のテンションは低い。それがおかしくて、遡羅は笑みを深くした。二重の眉間にしわが寄る。
「そんな顔しないの。二重も遡羅ちゃんも大事な友達なんだから」
「そうですね。今はともかく、昔は人間関係大変でしたから」
「あー、分かる。狙われるからさぁ、近くに非戦闘員の友人とかいると確実に巻き込んじゃうんだよね。予科時代大変だった」
「迂闊に遊びにもいけないんですよ」
うんうんと二人は顔を見合わせて頷いた。中半端な実力かつ有名人の身内というのは、一番狙われやすい。弱過ぎれば保護されるし、強すぎれば手を出す人間も減るが、ちょっと強いくらいだと守りは油断し、敵はいけると思ってしまうため、一番危険度が高くなるのだ。
「一重や二重くらい強いと遊びに出かけても平気だったんだけど」
「ああ、よく巻き込んでくれたな」
嫌そうに二重は言った。珠月はにやりと笑う。
「何言ってるの。初めて会った時、『私と居ると巻き込まれるよ? 友人になるとリスクが増す』って言った私に対して、『平気だ。俺も一重も強いから、巻き込まれても自力で対処できる。だから、安心して俺たちを友達にすればいいだろう』って」「うああああああああああ!!」
謎の叫び声をあげて、二重は鋏をぶん投げた。間一髪のところで珠月はそれを避ける。下手をすれば本当に当たっていた。
「あ、あぶねえ」
「そんな怒らなくても……団長、すごく格好いいじゃないですか」
「当時の自分を殺したい……【無能】すぎる……」
二重はずるずると机にうつ伏した。けらけらと珠月は笑う。
「…でも、私は嬉しかったよ? 3KYOの身内ってこと気にしない人は当時は貴重だったから」
「ですね。家のこと関係なく付き合える関係っていいですよね?」
黒歴史に落ち込む二重をしり目に、少女たちは楽しげに声を弾ませる。ごく普通の少女と同じように。
おわり
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