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First contact
崇道院早良&冷泉神無
崇道院早良は迷っていた。そう、二つの意味で。
ここは西区バザールの近く。何か面白いことはないものかとほっつき歩き、自分が今どこにいるかをろくに考えもせず西区のバザールへと辿り着いた。そして、ぷいっと入った路地の奥でなにやら不思議な店を見つけた。
水紋に葉っぱが浮いた意匠の透かし彫りの看板の店、すなわち〈水葉庵〉。面白いかもしれない、それだけの理由で早良はそこへ足を踏み入れた。
目的地などなかったのだから道にはもとより迷ってなどいない。早良の迷いとは「視界のきかない店内でどう進んだものか」と「目の前に現れた可愛らしくも面妖なこの生き物は果たして何であろうか」という、二つの迷いであった。
店の奥より現れた不思議生物はすぐに更なる奥へと歩き出す。さながら、ついてこいと言わんばかりのその姿に逆らったところで無意味であり、早良はおとなしくついていく。
店の最深部、現れたのは不思議生物ではなく店主。これで迷いは一つ晴れた。
「ちょいと失敬」
「はい、いらっしゃい」
「この不思議生物はなんて言うんですかい?」
「ふ、不思議生物? あ、ピローピロのことかな?」
「ピローピロ……また名称も面妖ですねぃ。こりゃ犬でもなしカバでもなし、猪みたいなモンですかい?」
「……ん~。ピローピロはその子の名前。生物としてはカピバラって言って語源は草原の主。大型のげっ歯類で鼠とかの仲間、かな?」
「主、ね。鼠のわりに大仰な名前なんですねぃ。おかげさんで一つ賢くなりまして」
これで迷いは二つとも解消。危うく帰るところだったがもう一つ聞きたいことが浮かんだ早良はこう聞いた。
「あ~、ここは何の店なんですかい? 少なくともペットショップではないとして。とりあえず鼠売り、でもなさそうだ」
「へ? 見てわかんない? 本気で言ってんのかぁ……ぅぁあああ」
頓珍漢な話にここまで耐えた店主、【アルヴィース(賢きもの)】冷泉神無があまりの物言いに思わず旧世紀の漫画のようにうめきながら突っ伏したのも無理はない。
「ここはね、古物骨董の店だよ。鑑定や修復もやってる。あなたは何の店か知らずにここへ?」
「ふに、面白いこと探しが趣味でねぃ。面白センサーがににっと反応したもんでついふらっと」
このお客はもしかして勘がいいのかもしれない。ほんのつい2~3日前に仕入れた品のことを思い出しながら神無は思う。
「よし、ちょっと待ってね」
いいながらごそごそと品物を探し始める神無。センサーに狂いなしか、と期待を膨らませる早良。
「あったあった。ごく最近珍しいものを仕入れてね、もしかしてもしかしたらこの子に呼ばれたのかもしれないよ」
「ふに。これは……」
取り出されたのは錆色の扇子。綺麗とはお世辞にも言えず、むしろ小汚く見える。
「これはWIDERHALL、谺(こだま)の名を持つOOPARTS。前のユーザーが死んじゃったらしくて、って言ってもこれのせいで死んだんじゃないけど。ランクは低いけどちゃんとしたものだよ。ひょっとしてユーザーに選ばれるかもしれないよ」
「ほぉぉぉ、そいつぁ面白い。んで、どうすりゃいいんですかい?」
その言葉を受けて諸々の説明をテキパキと簡潔に、それでいてわかりやすく丁寧に行う神無。商売柄慣れているのだろう、流石だと感心している内に説明はあらかた終わった。
「さぁどうぞ、れっつらごー」
そして、早良は展開を試みた。
無限の色彩が舞い踊る。
色の洪水、渦、奔流。いや、これはもはや色とは呼べない。視神経に対するテロ、光の嵐だ。
そんな美醜を超えた刹那の輝きの後、店内は元の色彩に落ち着いた。早良の手に握られたもの以外は。
錆色の扇子は見違えるように紅に染まり、中心部には金色の日の丸が浮かび上がっている。そう、展開したのだ。
「なになになに? 嘘、冗談でしょ」
「ふにふに。どうやら選ばれちまったようですねぃ。面白い、面白いじゃぁないか」
まさかとは思っていても驚きを隠せない店主、呵呵と笑い続ける客。その足元にはぼてっと土くれのようなものが落ちていた。
少々落ち着いたところで神無は客に興味を持ったのか、軽い自己紹介をした。
「私は冷泉神無、本科生よ。古物骨董商で鑑定士で修復師なの。あなたは?」
「ぼかぁ崇道院早良、予科生ですねぃ。落語とか漫談みたいな話芸の道を進むんでさ」
「変なの。変わってるね、あなたは」
「ふに。よく言われますねぃ、慣れっこ慣れっこ。面白かったんでまた来ますよ」
「是非また。愉快なのは良いことだから」
「ユーザーだなんて生活が愉快になりそうで幸せですねぃ、今日は本当に来て良かった。んではでは、また面白いこと探しに行くとしますわ」
そう言って出口に向かい始めた早良の足元から声がする。
《れっつらごー》
一瞬の間をあけてからそれが何か理解し、顔を赤くして怒る神無。その神無から腹を抱えながら笑い転げ、走り転げて逃げる早良。
記念すべき初の音土、初の悪戯。そして喜ぶべき「【アルヴィース(賢きもの)】冷泉神無」と「OOPARTS・WIDERHALL」との、二つの出会いであった。
崇道院早良は迷っていた。そう、二つの意味で。
ここは西区バザールの近く。何か面白いことはないものかとほっつき歩き、自分が今どこにいるかをろくに考えもせず西区のバザールへと辿り着いた。そして、ぷいっと入った路地の奥でなにやら不思議な店を見つけた。
水紋に葉っぱが浮いた意匠の透かし彫りの看板の店、すなわち〈水葉庵〉。面白いかもしれない、それだけの理由で早良はそこへ足を踏み入れた。
目的地などなかったのだから道にはもとより迷ってなどいない。早良の迷いとは「視界のきかない店内でどう進んだものか」と「目の前に現れた可愛らしくも面妖なこの生き物は果たして何であろうか」という、二つの迷いであった。
店の奥より現れた不思議生物はすぐに更なる奥へと歩き出す。さながら、ついてこいと言わんばかりのその姿に逆らったところで無意味であり、早良はおとなしくついていく。
店の最深部、現れたのは不思議生物ではなく店主。これで迷いは一つ晴れた。
「ちょいと失敬」
「はい、いらっしゃい」
「この不思議生物はなんて言うんですかい?」
「ふ、不思議生物? あ、ピローピロのことかな?」
「ピローピロ……また名称も面妖ですねぃ。こりゃ犬でもなしカバでもなし、猪みたいなモンですかい?」
「……ん~。ピローピロはその子の名前。生物としてはカピバラって言って語源は草原の主。大型のげっ歯類で鼠とかの仲間、かな?」
「主、ね。鼠のわりに大仰な名前なんですねぃ。おかげさんで一つ賢くなりまして」
これで迷いは二つとも解消。危うく帰るところだったがもう一つ聞きたいことが浮かんだ早良はこう聞いた。
「あ~、ここは何の店なんですかい? 少なくともペットショップではないとして。とりあえず鼠売り、でもなさそうだ」
「へ? 見てわかんない? 本気で言ってんのかぁ……ぅぁあああ」
頓珍漢な話にここまで耐えた店主、【アルヴィース(賢きもの)】冷泉神無があまりの物言いに思わず旧世紀の漫画のようにうめきながら突っ伏したのも無理はない。
「ここはね、古物骨董の店だよ。鑑定や修復もやってる。あなたは何の店か知らずにここへ?」
「ふに、面白いこと探しが趣味でねぃ。面白センサーがににっと反応したもんでついふらっと」
このお客はもしかして勘がいいのかもしれない。ほんのつい2~3日前に仕入れた品のことを思い出しながら神無は思う。
「よし、ちょっと待ってね」
いいながらごそごそと品物を探し始める神無。センサーに狂いなしか、と期待を膨らませる早良。
「あったあった。ごく最近珍しいものを仕入れてね、もしかしてもしかしたらこの子に呼ばれたのかもしれないよ」
「ふに。これは……」
取り出されたのは錆色の扇子。綺麗とはお世辞にも言えず、むしろ小汚く見える。
「これはWIDERHALL、谺(こだま)の名を持つOOPARTS。前のユーザーが死んじゃったらしくて、って言ってもこれのせいで死んだんじゃないけど。ランクは低いけどちゃんとしたものだよ。ひょっとしてユーザーに選ばれるかもしれないよ」
「ほぉぉぉ、そいつぁ面白い。んで、どうすりゃいいんですかい?」
その言葉を受けて諸々の説明をテキパキと簡潔に、それでいてわかりやすく丁寧に行う神無。商売柄慣れているのだろう、流石だと感心している内に説明はあらかた終わった。
「さぁどうぞ、れっつらごー」
そして、早良は展開を試みた。
無限の色彩が舞い踊る。
色の洪水、渦、奔流。いや、これはもはや色とは呼べない。視神経に対するテロ、光の嵐だ。
そんな美醜を超えた刹那の輝きの後、店内は元の色彩に落ち着いた。早良の手に握られたもの以外は。
錆色の扇子は見違えるように紅に染まり、中心部には金色の日の丸が浮かび上がっている。そう、展開したのだ。
「なになになに? 嘘、冗談でしょ」
「ふにふに。どうやら選ばれちまったようですねぃ。面白い、面白いじゃぁないか」
まさかとは思っていても驚きを隠せない店主、呵呵と笑い続ける客。その足元にはぼてっと土くれのようなものが落ちていた。
少々落ち着いたところで神無は客に興味を持ったのか、軽い自己紹介をした。
「私は冷泉神無、本科生よ。古物骨董商で鑑定士で修復師なの。あなたは?」
「ぼかぁ崇道院早良、予科生ですねぃ。落語とか漫談みたいな話芸の道を進むんでさ」
「変なの。変わってるね、あなたは」
「ふに。よく言われますねぃ、慣れっこ慣れっこ。面白かったんでまた来ますよ」
「是非また。愉快なのは良いことだから」
「ユーザーだなんて生活が愉快になりそうで幸せですねぃ、今日は本当に来て良かった。んではでは、また面白いこと探しに行くとしますわ」
そう言って出口に向かい始めた早良の足元から声がする。
《れっつらごー》
一瞬の間をあけてからそれが何か理解し、顔を赤くして怒る神無。その神無から腹を抱えながら笑い転げ、走り転げて逃げる早良。
記念すべき初の音土、初の悪戯。そして喜ぶべき「【アルヴィース(賢きもの)】冷泉神無」と「OOPARTS・WIDERHALL」との、二つの出会いであった。
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