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First contact/狗刀宿彌&ネモー・ヌスクヮム」(2009/03/15 (日) 21:54:07) の最新版変更点

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学園都市トランキライザー。その東区画、イーストヤード。 都市内でも比較的、諍いや犯罪の少ない区画である。 その区画のおおよそ中心に位置をおく、中規模の公園。 『イリニスティス(平和主義者)』、そこは平和なイーストヤードを象徴づけるように、デートをするカップルや露天商を営む学生、ペットの散歩をする学生、スポーツやトレーニングに勤しむ学生で溢れていた。  その公園の噴水前、待ち合わせやデートの人々で賑わい、人の溢れるその場所に、彼女はいた。  彼女と言っては見たものの『今』の彼女の肉体は女性のそれではない。 かと言って元女性であるとか、心だけは乙女であるとか、そう言う意味ではない。  彼女は女性として生を受け、今現在も確かに女性なのだ。  だが今、その肉体は男性のものである。  それは彼女の能力に起因する。  『ノゥバディ(隣接する別人)』―――それは、彼女の知りうる誰かに成りすます能力。 彼女の持つ腕輪状のOOPARTS『SPIEGELBILD』、鏡像の名前を冠するそのOOPARTSは、ユーザーが直接見たことのある人物をイメージすることによって、その人物の肉体を遺伝子レベルまで完全にコピーしてしまう。  かくして彼女の肉体はとあるランカーのそれとなっていたのだ。  そのランカーの名は、『相模雷都』。 彼の持つエイリアス『雷光の射手』より、必殺技である『プラズモン』の方が有名な、特殊な人物である。  しかし、特殊と言っても、その特殊性は戦闘方法に限られる。 日常においては、気のいい人物であり、まず間違い無く旧時代の某キャラクターのジャンプすがたその瞬間のポーズのまま固まっているような変人ではない。  今にもコインのなる音が聞こえそうなその場面を見て、周囲の人間が「相模雷都は何かしらのミスティックあるいはサイキック攻撃を受けている」として受け取ってもしかたがない。  勿論、彼女はミスティック攻撃などは受けていない。  彼女の趣味、かつ職業はマイムであり、日課の『停止』のマイムを行っているだけだ。  彼女は『停止』を行ったまま、人間観察を行うことを趣味としている。公園が賑わう前に停止を始め、公園の賑わいがおさまるまで、休むことなく停止をし続け、人間観察をし続ける。  ただその間に彼女は他人になりすます。  悪意などなく。  趣味ですらない。  なんとなく、だ。  偶々今日は相模雷都だった、それだけ。  その偶々が彼女の人生を大きく変えることとなる。  「…っプラ!」  どこからか妙な声が聞こえた。  天ぷら好きの誰かが天ぷらでも発見したのだろうか?  「プラズモン! いや、相模雷都!」  少年が犬に乗ってやって来る、いや、せかさないであげてほしい、犬の顔が面白い事になっている。  少年の名前は狗刀宿彌、この東区画を支配する王であり、『龍騎槍』のエイリアスを持つ一桁ランカーだ。  今現在においてはそんな肩書きなんて問題ではない、問題なのは、彼がヒーローに憧れを持っており、同じランカーである相模雷都ことプラズモンのファンであると言う事実だ。  彼は犬の背中から高く飛び上がると彼女の前に軽やかに着地する。  「どうしたんだ? ミスティック攻撃か? サイキック攻撃か? 何にせよ早く治療出来る誰かに…」  「ちょ、ちょっと待ってくれ。 大丈夫、大丈夫だから」  宿彌の剣幕に、思わず彼女はマイムを中止する。  宿彌は胸をなで下ろし、続けて言った。  「そうか、良かった。 久しぶりだね雷都、今日こそサインを貰えるかな? 宛名は宿彌君、で、頼むよ」  書けるわけがない、彼女の能力はあくまでも肉体の完全コピーであり、その本人がもつ能力までをコピーするわけではない。 彼女がそのサインを見たことがあれば、その限りでは無かったのだが、あいにく彼女はプラズモンのサインなど見たことは無かった。  「どうした? また断るのか…『俺はヒーローには憧れているが、まだまだヒーロー未満だ。 よってサインなどは出来ない』かい? そんなことはないよ、君は間違いなく僕らのヒーローで、サインを貰うに足る人物だよ」  「あの…あ…」  「それとも『俺よりランクも上で名声もあるお前にサインを求められてもな』かい? 何度も言うように僕は君を尊敬している。 尊敬している相手にサインを求めて、宝物にしようと言う思考は普通の人間もすることだろう?」  「いや、違う、違うんだ」  「何がだい?」  「俺はーーー私は相模雷都では無いの」  相模雷都の姿をした彼女のもつ腕輪が淡く光り出す。 宿彌にはそれがOOPARTSの放つ光であることがわかった。 発光と共に彼女の肉体が変質する。 相模雷都の肉体から彼女のもとの体、ネモー・ヌスクヮムその人の体へ。  「ごめんなさい、私は相模雷都ではないの。 このOOPARTS、『SPIEGELBILD』の力で変身していただけなの…」  「な…え…は?」  「私は、ネモー。 ネモー・ヌスクヮム。 クラスはワーカー。 職業はマイマーで趣味は人間観察と、『停止』のマイム。 私は人間観察した後にその誰かに変身する…癖のようなものがあって…ごめんなさい」  「そ…そうか。 僕は宿彌。 狗刀宿彌。 東の統括を…知っているか。 僕は…まぁ、プラズモンのファンでね……」  「………」  「………」  固まる二人。  ネモーの本来の姿は年相応の背丈をした、小柄な女の子だった。 やや華奢過ぎる印象をうけるが、不健康といった程ではないくらいの小さな体だ。 薄い色をしたワンピースに、細く優しげな目と背中ほどまで伸びた栗色の髪がよく似合っている。 腕にはめた少しゴツい意匠の腕輪ーOOPARTSーが全体の印象からやや浮いている。    「変身能力…か」  「はい、この目で直接見た人の体なら、遺伝子レベルで同一なものになれます。 それがSPIEGELBILDの能力です」  「僕にもなれるのか?」  「この目でみた以上は」  淡く腕輪が光るとネモーの体が変質を始める。 その体が宿彌と同じ姿に変わる。  「自分がもう一人…て感じだね…顔だけじゃない、指紋とかも、一致してる気がする」  「身体レベルでは完全に合致しています。 ただ気のコントロールとかまではコピーできないので、この体で下手に力を込めたら、きっと自滅しちゃいますね…はは」  「なるほどなるほど…キミ、さ。 ネモー。 まだ予科生なんだっけ、保証人はもう決まってる? もしまだならー」  宿彌はにこりと人の良さそうな笑いをする。  「僕が保証人になるからさ、うちの会社に入らない? 僕のーー影武者として。 安全は保証するから。 今も会社から抜け出して来たんだけどさ、こういう時だけ入れ替わってくれればいい」  「保証人の話はー有り難いのですが、私はーーあまり会社勤めとかはーー」  「基本的に幽霊社員で構わない、生活は保証するよ。 ごく偶に、入れ替わって貰えれば、それでいいのさ。 後は自由に過ごしてくれれば構わないよ、要求があるなら言ってくれても構わない」  「え…いえ…そんな、よろしいのですか?」  「構わない、というか、頼んでいるのはこちらのほうなんだ。 是非ともうちに来てほしい」  「……それなら」  かくして彼女は、ダイナソアオーガンの一員となる。 とは言え、それを知るのは、宿彌とネモー…そして牡丹。 ゆくゆくは篭森にも知らされるだろうか。  「ところでネモー」  「はい?」  宿彌はにこりと笑う。  「雷都の姿で一緒に写真とってく「ワン」」  牡丹に睨まれた。  牡丹は考える。  いつの間に主人はこんなにも緩くなったのだろう…と。でも、少しは心に温もりが加わったのかな…と。それなら、それは良いことかも知れない、と。  おしまい
学園都市トランキライザー。その東区画、イーストヤード。 都市内でも比較的、諍いや犯罪の少ない区画である。  その区画のおおよそ中心に位置をおく、中規模の公園。 『イリニスティス(平和主義者)』、そこは平和なイーストヤードを象徴づけるように、デートをするカップルや露天商を営む学生、ペットの散歩をする学生、スポーツやトレーニングに勤しむ学生で溢れていた。  その公園の噴水前、待ち合わせやデートの人々で賑わい、人の溢れるその場所に、彼女はいた。  彼女と言っては見たものの『今』の彼女の肉体は女性のそれではない。 かと言って元女性であるとか、心だけは乙女であるとか、そう言う意味ではない。  彼女は女性として生を受け、今現在も確かに女性なのだ。  だが今、その肉体は男性のものである。  それは彼女の能力に起因する。  『ノゥバディ(隣接する別人)』―――それは、彼女の知りうる誰かに成りすます能力。 彼女の持つ腕輪状のOOPARTS『SPIEGELBILD』、鏡像の名前を冠するそのOOPARTSは、ユーザーが直接見たことのある人物をイメージすることによって、その人物の肉体を遺伝子レベルまで完全にコピーしてしまう。  かくして彼女の肉体はとあるランカーのそれとなっていたのだ。  そのランカーの名は、『相模雷都』。 彼の持つエイリアス『雷光の射手』より、必殺技である『プラズモン』の方が有名な、特殊な人物である。  しかし、特殊と言っても、その特殊性は戦闘方法に限られる。 日常においては、気のいい人物であり、まず間違い無く旧時代の某キャラクターのジャンプすがたその瞬間のポーズのまま固まっているような変人ではない。  今にもコインのなる音が聞こえそうなその場面を見て、周囲の人間が「相模雷都は何かしらのミスティックあるいはサイキック攻撃を受けている」として受け取ってもしかたがない。  勿論、彼女はミスティック攻撃などは受けていない。  彼女の趣味、かつ職業はマイムであり、日課の『停止』のマイムを行っているだけだ。  彼女は『停止』を行ったまま、人間観察を行うことを趣味としている。公園が賑わう前に停止を始め、公園の賑わいがおさまるまで、休むことなく停止をし続け、人間観察をし続ける。  ただその間に彼女は他人になりすます。  悪意などなく。  趣味ですらない。  なんとなく、だ。  偶々今日は相模雷都だった、それだけ。  その偶々が彼女の人生を大きく変えることとなる。  「…っプラ!」  どこからか妙な声が聞こえた。  天ぷら好きの誰かが天ぷらでも発見したのだろうか?  「プラズモン! いや、相模雷都!」  少年が犬に乗ってやって来る、いや、せかさないであげてほしい、犬の顔が面白い事になっている。  少年の名前は狗刀宿彌、この東区画を支配する王であり、『龍騎槍』のエイリアスを持つ一桁ランカーだ。  今現在においてはそんな肩書きなんて問題ではない、問題なのは、彼がヒーローに憧れを持っており、同じランカーである相模雷都ことプラズモンのファンであると言う事実だ。  彼は犬の背中から高く飛び上がると彼女の前に軽やかに着地する。  「どうしたんだ? ミスティック攻撃か? サイキック攻撃か? 何にせよ早く治療出来る誰かに…」  「ちょ、ちょっと待ってくれ。 大丈夫、大丈夫だから」  宿彌の剣幕に、思わず彼女はマイムを中止する。  宿彌は胸をなで下ろし、続けて言った。  「そうか、良かった。 久しぶりだね雷都、今日こそサインを貰えるかな? 宛名は宿彌君、で、頼むよ」  書けるわけがない、彼女の能力はあくまでも肉体の完全コピーであり、その本人がもつ能力までをコピーするわけではない。 彼女がそのサインを見たことがあれば、その限りでは無かったのだが、あいにく彼女はプラズモンのサインなど見たことは無かった。  「どうした? また断るのか…『俺はヒーローには憧れているが、まだまだヒーロー未満だ。 よってサインなどは出来ない』かい? そんなことはないよ、君は間違いなく僕らのヒーローで、サインを貰うに足る人物だよ」  「あの…あ…」  「それとも『俺よりランクも上で名声もあるお前にサインを求められてもな』かい? 何度も言うように僕は君を尊敬している。 尊敬している相手にサインを求めて、宝物にしようと言う思考は普通の人間もすることだろう?」  「いや、違う、違うんだ」  「何がだい?」  「俺はーーー私は相模雷都では無いの」  相模雷都の姿をした彼女のもつ腕輪が淡く光り出す。 宿彌にはそれがOOPARTSの放つ光であることがわかった。 発光と共に彼女の肉体が変質する。 相模雷都の肉体から彼女のもとの体、ネモー・ヌスクヮムその人の体へ。  「ごめんなさい、私は相模雷都ではないの。 このOOPARTS、『SPIEGELBILD』の力で変身していただけなの…」  「な…え…は?」  「私は、ネモー。 ネモー・ヌスクヮム。 クラスはワーカー。 職業はマイマーで趣味は人間観察と、『停止』のマイム。 私は人間観察した後にその誰かに変身する…癖のようなものがあって…ごめんなさい」  「そ…そうか。 僕は宿彌。 狗刀宿彌。 東の統括を…知っているか。 僕は…まぁ、プラズモンのファンでね……」  「………」  「………」  固まる二人。  ネモーの本来の姿は年相応の背丈をした、小柄な女の子だった。 やや華奢過ぎる印象をうけるが、不健康といった程ではないくらいの小さな体だ。 薄い色をしたワンピースに、細く優しげな目と背中ほどまで伸びた栗色の髪がよく似合っている。 腕にはめた少しゴツい意匠の腕輪ーOOPARTSーが全体の印象からやや浮いている。    「変身能力…か」  「はい、この目で直接見た人の体なら、遺伝子レベルで同一なものになれます。 それがSPIEGELBILDの能力です」  「僕にもなれるのか?」  「この目でみた以上は」  淡く腕輪が光るとネモーの体が変質を始める。 その体が宿彌と同じ姿に変わる。  「自分がもう一人…て感じだね…顔だけじゃない、指紋とかも、一致してる気がする」  「身体レベルでは完全に合致しています。 ただ気のコントロールとかまではコピーできないので、この体で下手に力を込めたら、きっと自滅しちゃいますね…はは」  「なるほどなるほど…キミ、さ。 ネモー。 まだ予科生なんだっけ、保証人はもう決まってる? もしまだならー」  宿彌はにこりと人の良さそうな笑いをする。  「僕が保証人になるからさ、うちの会社に入らない? 僕のーー影武者として。 安全は保証するから。 今も会社から抜け出して来たんだけどさ、こういう時だけ入れ替わってくれればいい」  「保証人の話はー有り難いのですが、私はーーあまり会社勤めとかはーー」  「基本的に幽霊社員で構わない、生活は保証するよ。 ごく偶に、入れ替わって貰えれば、それでいいのさ。 後は自由に過ごしてくれれば構わないよ、要求があるなら言ってくれても構わない」  「え…いえ…そんな、よろしいのですか?」  「構わない、というか、頼んでいるのはこちらのほうなんだ。 是非ともうちに来てほしい」  「……それなら」  かくして彼女は、ダイナソアオーガンの一員となる。 とは言え、それを知るのは、宿彌とネモー…そして牡丹。 ゆくゆくは篭森にも知らされるだろうか。  「ところでネモー」  「はい?」  宿彌はにこりと笑う。  「雷都の姿で一緒に写真とってく「ワン」」  牡丹に睨まれた。  牡丹は考える。  いつの間に主人はこんなにも緩くなったのだろう…と。でも、少しは心に温もりが加わったのかな…と。それなら、それは良いことかも知れない、と。  おしまい

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